三十七話
首が落ちたが、止まらぬ鍔迫り合いの音。どうやら、人ではない様だ。というか、チラ見したら父上以下エルカミス家居ないんですが。まぁ、手下人が一人である可能性はゼロに等しいから、カバーに回ったんだろうけど。
問題は、広間で幾つかに固まって自己防衛をしている貴族共か。
さぁて、背後から気配が消えた所で問い詰めに入ろう。情報を吐かせてから始末した方が後の為だ。白昼に、場違いな黒霧。いや、どちらかというと赤黒いか。
「さてさて、真昼間にバンパイアが一体なんの用かな?残念ながら、私に君の来訪を祝う準備はないのだが」
首が落ちたと思われる場所に目をやれば、既にそこにはなく、残滓であろう黒霧が上空に引かれるだけだった。ほぼほぼビンゴ。悪魔の仕業かとも思ったけど、あれらが大神殿に入り込むのは無駄でしかない。
「フフフ。命を狙われておきながら、そのような事も分からない様では、期待ハズレですね」
頭上の声。ヒト型でありながら、その血を啜り、嘲るモノ。ソレが蝙蝠の羽を晴天の下、何事も無く浮遊している。
鋭利に伸びた爪を持つ指先を口元に、静かに笑っている。確かに、私の退場ぐらいは目に透けてわかることだが……
「いえいえ、帝都外に侍らせているモノ達の事ですよ。どう見ても、私一人を殺すのであれば過剰というほか無い」
そこまで鈍感ではない。この場は明らかに陽動と人質の確保、聖者の一時退場の三つが目的であろう。恐らく本命は人質。私が指し手なら確実に取りに行く面子が揃っている。魔力なんかの、生贄としての才を有する者も居るしね。
最悪、帝都を道連れにする位の魔力を調達できる。
簡単な推理。しかし、彼の気に召した様で、口が三日月が如く開かれる。魔物らしく、サッサとそうすれば良いのに。
「フハハハハ!及第点ですかね。ですが、私が直々に相手をするに相応しい」
「私とダンスを踊る時間があると良いですね?生憎、私は暇じゃない」
まだ、聖者としての仕事のしの字にさえ、手がかかってないのだ。仕事を片付けないと、実けっ……ゲフンゲフン術式の調整が出来ない。
「シャア!!」「シッ!」
従者二人も居るしね。今、この場には居ないようであるがサーラも外を掃除次第コチラに来る筈。
「フフフ。ワタシも一人デハ無いのデスよ」
閃光の域に達した【飛斬】と結界を足場にし、跳躍からのランスの叩きつけを再び霧に変じることで躱した吸血鬼はそう言って指を打ち鳴らした。
しかし、私の周囲に異変は無く、毒などの状態異常はない。ブラフか……?と思ったが、耳を澄ませばよく分かった。
「ッ…………助けてくれ」
小さく、小さく、息を飲む声が無数に。予想通り、狙いは人質か。まぁ、主要貴族家次期当主が無事ならイスタール帝国は瓦解しないから最悪良いけど。大体此処に居るの、現当主だからね。ゴタゴタになるのは、避けて通れない。ナイフを突きつけているのは唯の人間……魅了か支配を受けているだけか。問題はバンパイアが人間のリミッターを気にしない所か。
「ネェ?ゲームをシマせんカ?」
「ゲームですか……報酬は?」
ゲームねぇ。下手を打てば、全員死ぬかな。というか、この状況下じゃ、ガレアとブォルフレ君も止まったか。先ず、霧化を封じない事には、話には成らないし。いいじゃないか、話に乗ってやろう。
「ソーですネー、コノ中で五人五体満足のママ帰らせてあげマスよ」
「ふーん、案外気前が良いですね。もっと少ないかと思っていましたが」
気を紛らわせつつ、バンパイアに近づこうと再び神像に向かおうと歩を進めようとした、その時だった。
足元に血で出来たと思われる赤黒く流動した赤槍が突き刺さった
丁度、私から一メートル程、あえて外したのだろう。日の下を堂々と居座るだけはある。
「オット、動かナイで下サイ。ゲームに必要ナノで、もし動けバ一動作で一人コロします」
仰々しい警告。十中十、対抗出来る私を含めた戦闘職を殺し、他の貴族の守備を剥ぐつもりだろう。
なので、私は足を前に動かす。
「クハッ!!バカが」
命令を即座に実行し、刃を喉元へと振り下ろす男。しかし、ガキィと結界が刃先が届こうとするのを防いだ。ブォルフレ君である。
私が乗ったのはブォルフレ君の騙し討ちの策であり、バンパイアのゲームではない。そもそも、魔物と同じくテーブルに着くつもりは無い。……使い魔なら話は別だが。
バンパイアが目を見張り、動きを止める一拍。それさえあれば、転移術式を組むのには十分だ。
「よくやった」
「クソ!こんな卑怯な手でッ!!」
賞賛をぽつりと送りつつ、余程悔しいのか首根っこを掴まれているバンパイアは鋭い爪を私の神官服に突き立てる。これが唯の神官服だったら、上手くいったのだろうが、残念ながら宙で阻まれたまま動くことは無い。
「だから、言っただろう?ダンスを踊っている暇は無いと」
行くは帝都郊外の山中であり、人気が無いことは確認済み。魔物も、恐らくバンパイアが引き連れていったからいないだろう。流石の私も、あの場で暴れたら怒られるからな
明日もあるのよー。次回も戦闘シーンだよー。




