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三十六話

 一人で一国の情勢を傾けるとも言われる七大神の聖者、その中でも女神シスムの聖者の数は一際少ない。最も、最高神アルバルの聖者の席は一つだけなのだが。


 女神シスムの聖者に課せられた任は全ての死の供養を主とし、果てには魔王種に侵蝕された土地の浄化、人類活動可能領域境界の維持さえ担当する。その所以は女神シスムの祝福が飛びぬけて浄化に秀でるためだ。他の神々にも浄化に才を持つ者が居ない訳では無いが、同列に並べる事はできない。


 布都御魂の能力を浄化に特化して強化すれば、私でも一時的に上回る事はできるだろうが。あくまで一時的、持続的に浄化の能力を行使できる存在は帝国内外で貴重なのだ。基本的に、神話の時代に侵されたとされる土地の瘴気を、この時代の人間が一度に払える訳がないのだ。


 晴れた青空に、湧き上がる気分に悩ませていれば、周囲を取り囲む神官たちが杖の石突をガンガンと石床に打ち付けた。『静粛に』という事なのだろう。僅かに知った魔力探知技術から、背の方に親しみある魔力の鼓動を感じた。


 私が座っているのが最後方であるのもあるが、口々に騒ぎ立てていた貴族たちが鳴りをひそめて居た。


 カツカツと靴底が音を立てながら、傍を通り抜けていった。視界に映った黒交じりの白髪が徐々に変じるのが詳しく見えた。


 聖者はその任に就くと共に体が変化し、救済に適する体へと変わるのだ。風の噂に聞いていたが身近な人物が当事者となると感慨深い様な、縁遠さを感じる様な、複雑な思いが胸の内に現れた。


 彼が足を進める毎に、感じる圧が神聖さを帯び、病的に白い肌に青白い文様が浮かんでは消え、何よりわずかに覗く双角が白黒の輝きを放っていた。交わり灰となる訳でもなく、二つの光が中庭を満たしていた。


 つい先日私の膝元で起きた事と同じ、種族変化(シードミュテイション)。その二つの閃光が彼を完全に包んでしまったのは、組まれた結界の目前に足が架った時だった。


 途中からは後方に続く従者と思われるメイドと全身鎧の背に阻まれ、正確には目に見えなかったが、その瞬間ははっきりと捕らえた。


 一度だけ見た、少しだけ()が戻って来た時の純白の翼とはまた違った、純白と漆黒の二つ羽根を持つ翼を持った背中を。異なる色の翼を一ずつ、龍人族(私達)とは異なる一対の翼。


 叔父上……皇太弟殿は光属性を持つために白竜であったが、あれ程の白さは無く、闇属性を持つ伯母上、皇太姉殿もあれ程黒くは無い。


 いけないな。先ほど皇族に切り替えたというのに、既に剥がれかかっている。私が苦手とするのもあるが、ポーカーフェイスも万能では無い。雨が止むまでに、メイド達のハンカチがずぶ濡れにならないと良いけど……


 私は少し、晴れ空が好きなった。


――――――――――――――――――――――――


 ふと気づけば、目を開くのが面倒くさい。白いのと黒いのが頭上で混在している。もしかして、また種族が変わるのだろうか。


 短期間で種族が変わりすぎだ。この世界では種族によって扱いが違うことがしばしばあるので、また慣れない生活が続くことになる。


 もとより聖者になる事で扱いが変わると分かっていたが、これは予想外。しかし、聖者の扱いの時点で相当なので、相殺で予定通りかもしれない。


 さて、神呼びをするわけだが。実はシスム様に話は通してあり、祝詞を上げるだけで呼び出せたりするのだが。


 僕は世間一般で召喚魔術師であるが、神を呼び出した経験は当然無いわけで、どうしたものかと頭を悩ましていた。そこで、先輩御三方に助言を願ったのだ。先輩なら、一回呼び出したことが有る筈!と思っていたのだが、詳しく聞いてみれば賄賂だった。


 どの業界でも、楽をする部分は極限まで楽をするようで。大体、儀式などで幻影神を呼び出すときは事前には話を出して、貢物を供えてお願いするのだとか。


 『別に話せるの私たちだけなんだから、良くない?』というのが、お歴々が引き継いできた言い訳だとか。


 まぁ、邪な事をして呼び出す分のペナルティはあるらしく、正当な手順で希うよりも対価が多いらしい。この対価は人それぞれだそうで、基本的には生命力や魔力、眠り、金品、生贄と並ぶのだが、珍しいところでは記憶などがあるらしい。僕の場合は魔力だったが。


 その量何と五十万。融通できない訳ではないが、いきなりの出費には困る。コアたちが自家生産と徴収でため込んでいるので、馬鹿みたいに有るのには違いないが、大体の使い道がきまっているのだ。


 …………一日で千万貯まるのは頭が可笑しいと思うの。それの扱いが直ぐに決まるぐらいにはエネルギー不足なんですけどね……


 という訳で、僕に必要のなのは祝福を受け入れてわが物にすることぐらい。僕の予定では、もう少しあとになってからだったので、明日には急いだ代償が降りかかってくるだろう。


 さっさと終わらせて、ロザリオを貰って退場しよう。目立つのは嫌いなんだ。役割的に。


――――――――――――――――――――――――


 無事に終わる既での所、今はロザリオを受け取ろうと、頭を下げた盤面。そこで、把握空間圏内に不穏な反応が一つ。これを隠形と呼んでいい物か。


「ありがたく」


 さり気な〜く、ガレアに目配せをして立ち上がり、見なかった事にしてやって来た道を辿る。多分、死体ごと吹き飛ばしてくれるだろう。


 どうにかなるかな。と、放置していのだが、現実にご都合主義は通らぬ様で、ゴトリという音と、刃が重なる音がした。

明日もあるよー。戦闘シーンだよー。辛いよー。

2022.1.8設定との矛盾により、一部改変

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