↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処方箋のない恋〜たった一夜の過ちから始まる、大人の恋の処方箋〜  作者: 優涼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/31

第22話「蒼の実家にて」

第22話 蒼の実家にて


 涼子の両親との顔合わせから二週間後、今度は涼子が蒼の実家を訪れる番だった。蒼の実家は、地方都市にある古い一軒家だった。


新幹線を乗り継ぎ、二時間ほどかけて向かった先で、涼子を迎えたのは、蒼の母と、やや硬い表情の父だった。


「はじめまして、早坂涼子と申します」


涼子は深く頭を下げた。蒼の母は柔らかい笑顔で涼子を迎え入れたが、父の方は、挨拶を返しながらも、どこか探るような視線を涼子に向けていた。


「まあ、上がってください」


食卓には、母が用意した料理が並んでいた。会話は当たり障りのないものから始まったが、蒼の父は、涼子の経歴について聞くうちに、次第に表情を硬くしていった。


「涼子さんは、蒼の会社の、統括所長をされているとか」


「はい。今は東日本エリアを担当しています」


「蒼より、随分、立場が上なんですね」


父の言葉には、単なる事実確認以上の、微妙な棘があった。涼子は、その空気を敏感に感じ取った。


「以前は、私が蒼さんの直属の上司でした。今は、部署も離れていて、業務上の上下関係はありません」


涼子は、丁寧に、しかしはっきりと説明した。だが、父の表情は、あまり和らがなかった。


「年齢も、蒼より、七つ上だと聞きました」


「はい、そうです」


「正直に言わせてもらうと、私は、あまり歓迎できません」


食卓に、重い沈黙が落ちた。蒼が、慌てて口を挟んだ。


「父さん、それは」


「蒼、お前は黙ってなさい」


父は、静かに、しかしはっきりとした口調で続けた。


「立場が上の女性と、年下の男が結婚する。世間では、そういう関係を、色々と言う人もいる。蒼のキャリアにとって、良くない噂が立つんじゃないかと、心配してるんだ」


その言葉は、涼子にとって、決して初めて聞くものではなかった。社内でも、似たような視線を、何度も感じてきた。だが、家族という、最も近しい立場の人から、改めてその不安をぶつけられることに、涼子は、胸の奥が締め付けられるような痛みを感じた。


「父さん、涼子さんは、そんな理由で僕を選んだわけじゃない。僕たちは、色々な障害を、二人で乗り越えてきたんだ」


蒼が、強い口調で反論した。だが、父は、首を横に振った。


「お前がそう思っていても、周りは、そう見てくれるとは限らない」


その場の空気は、重いまま、食事が終わった。


***


夜、蒼の実家の客間で、涼子は一人、静かに考え込んでいた。そこへ、蒼の母が、お茶を持って訪れた。


「涼子さん、主人が失礼なことを言って、ごめんなさいね」


「いえ、正直な気持ちを、聞かせていただけて、よかったです」


涼子は、静かに答えた。


「主人には、事情があるの」


蒼の母は、少し声を落として続けた。


「主人の妹、つまり蒼の叔母にあたる人が、昔、年下の男性と結婚したことがあったの。でも、周りの目に耐えられなくて、結局、離婚してしまった。それ以来、主人は、そういう組み合わせの結婚に、随分、神経質になってしまってね」


その話を聞いて、涼子は、父の態度の背景に、単なる偏見ではない、切実な経験があったことを知った。


「教えてくださって、ありがとうございます」


「涼子さん、時間はかかるかもしれないけど、主人も、きっと、わかってくれると思う。蒼が、あなたのことを話すときの顔、本当に幸せそうだから」


母の言葉に、涼子は静かに頷いた。


***


その夜、蒼と涼子は、実家近くの静かな川沿いを、二人で歩いていた。


「父のこと、ごめんなさい」


「謝らないで。お父さんの気持ちも、少しわかる気がする」


涼子は、蒼の母から聞いた話を、そのまま蒼に伝えた。蒼は、初めて聞く叔母の話に、驚いた様子を見せた。


「そんなことが、あったんですね。知りませんでした」


「お父さんが心配してるのは、私たちを否定したいからじゃなくて、大切な家族だからこそ、傷ついてほしくないっていう気持ちからなんだと思う」


涼子の言葉に、蒼は深く頷いた。


「もう少し、時間をかけて、ちゃんと向き合っていきましょう」


「そうね。焦らず、でも、諦めずに」


夜の川面に映る月明かりを見つめながら、二人は、これから乗り越えるべき、新しい試練に、静かに、心を引き締めていた。


(第23話へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。