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処方箋のない恋〜たった一夜の過ちから始まる、大人の恋の処方箋〜  作者: 優涼


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第19話「二人で選ぶ未来」

第19話 二人で選ぶ未来


約束の週末、涼子と蒼は、二人でよく散歩をした、あの公園のベンチに座っていた。忘年会の夜から始まった二人の関係が、様々な試練を経て、今、大きな岐路に立たされていた。


「まず、白石先生のこと、改めて、ちゃんと伝えておきたい」


蒼が、静かに切り出した。


「彼女には、はっきりと、気持ちに応えられないと伝えました。あれから、業務連絡以外の接触は、一切ありません。今後も、担当医師としての関係だけ、きちんと保っていくつもりです」


「わかってる。信じてる」


涼子は、静かに頷いた。以前のような疑念は、もう、涼子の中にはなかった。蒼の誠実さを、涼子は、これまでの積み重ねの中で、しっかりと感じ取っていた。


「桐谷さんのことも」


涼子も、続けて口を開いた。


「今回の推薦は、個人的な感情とは、切り離した、純粋な評価だったって、桐谷さん自身が、はっきり認めてくれた。個人的な気持ちについても、私が選んだ答えを、ちゃんと尊重してくれてる」


蒼は、静かに頷いた。互いに、これまでの不安の種を、一つ一つ、丁寧に解消していく作業だった。


「問題は、新しいポジションのこと、ですよね」


蒼が、本題に触れた。


「東日本エリア統括のポジション、涼子さんは、どうしたいんですか」


涼子は、しばらく、言葉を選びながら、答えた。


「正直、すごく魅力的な話。これまで積み上げてきたものが、認められた証だと思う。所長という立場から、もう一段階、大きな仕事に挑戦できる機会。仕事人としては、絶対に、受けたい話」


「でも」


蒼が、涼子の言葉を、静かに引き取った。


「僕との関係が、その決断に、影響してるんですよね」


涼子は、正直に頷いた。


「そのポジションを受ければ、本社勤務になる。あなたとは、物理的な距離が、大きく開いてしまう。それが、怖い」


蒼は、しばらく、考え込んだ。やがて、静かに、しかし、はっきりとした声で言った。


「涼子さん、僕は、あなたに、キャリアを諦めてほしくないです」


「でも」


「最後まで、聞いてください」


蒼は、まっすぐに、涼子を見つめた。


「実は、僕も、考えてたことがあります。もし涼子さんが、そのポジションを受けるなら、僕も、本社エリア、あるいは、涼子さんの新しい管轄エリアへの異動を、希望しようと思ってます」


その言葉に、涼子は、驚いたように、蒼を見た。


「あなたが、異動を?」


「もちろん、涼子さんの部下として、というわけではなく、別のエリアの担当として、です。それなら、上司と部下という関係でもなくなるし、業務上の問題も、生まれません」


蒼の提案には、これまでの障害を、根本から解消する視点があった。


「僕、涼子さんと離れる未来より、涼子さんと一緒に、新しい環境に飛び込む未来の方が、ずっといいと思ってます」


「でも、それは、あなたのキャリアにとって、大きな決断になる。これまで築いてきた、担当エリアの関係も、一から作り直すことになるのよ」


涼子の言葉には、蒼を気遣う気持ちが、滲んでいた。


「わかってます。でも、僕は、涼子さんと一緒に、新しい挑戦をしたいんです。これまでの僕たちの関係と、同じです。どちらかが犠牲になるんじゃなくて、二人で、一緒に前に進む道を、選びたい」


その言葉は、以前、涼子が桐谷との推薦の話を蒼に伝えたときとは、また違う、成熟した決意を含んでいた。二人は、これまでの試練を通じて、互いに、犠牲ではなく、協力によって困難を乗り越える術を、学んでいた。


「……ありがとう」


涼子は、静かに、目を潤ませながら、そう言った。


「あなたのその言葉だけで、私、このポジションを、前向きに考えられる」


***


翌週、涼子は、本社の人事担当役員に、正式に、新しいポジションへの就任を承諾する意向を伝えた。同時に、蒼も、涼子とは別のエリアでの担当として、異動を希望する旨を、正式に申し出た。


「早坂所長、それに、神谷くんも、大きな決断をしたね」


桐谷は、二人の決断を聞き、静かに、そう言った。


「早坂さんが、新しいポジションで、活躍する姿を、俺も、楽しみにしてる。神谷くんとの関係も、ちゃんと、応援するよ」


桐谷の言葉には、もう、以前のような、個人的な感情の色は見られなかった。純粋に、涼子と蒼の未来を、応援する先輩としての姿勢だった。


「ありがとうございます、桐谷さん」


涼子は、心からの感謝を込めて、そう答えた。


***


その夜、涼子と蒼は、二人で、これからの新しい生活について、様々な計画を立てていた。異動先での新しい生活、離れて暮らすことになる部分もあるが、二人で乗り越えていく覚悟が、これまで以上に、固まっていた。


「涼子さん」


蒼が、改まった声で、涼子を呼んだ。


「はい」


「これから、色々な試練が、また、あるかもしれません。でも、僕は、もう、迷いません。涼子さんと、一緒に、これからの人生を、歩いていきたいです」


蒼の言葉には、これまでのどの告白よりも、確かな決意が込められていた。


涼子は、その言葉に、静かに、しかし、深く頷いた。


「私も、同じ気持ち。これから先、どんな試練があっても、あなたと一緒になら、乗り越えられる気がする」


窓の外、七月に入ったばかりの、澄んだ夏の夜空が、静かに、二人を見守っていた。


長く曲がりくねった、様々な試練を経て、涼子と蒼は、ようやく、確かな未来へと、共に歩み出す覚悟を、固めていた。


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