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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第九十二話 見つかった知恵者


 夜の寝室は、ひどく静かだった。


 厚い窓布の向こうで風が石壁を撫でている。遠くの廊下では夜番の兵が歩いたのか、革靴の底が石を踏む鈍い音が一度だけ小さく響き、すぐに消えた。灯火は小さく絞られ、寝台の周りだけを薄く照らしている。昼間の城が書類と足音と声で満ちている分、夜の沈黙はいつも少し深く感じられた。


 隣では、ダリアが眠っていた。


 横向きに身を丸め、肩まで掛け布を引き上げている。帝国から来た頃には、眠っている時でさえどこか力の抜けない女だったが、今は少し違う。完全に警戒が消えたわけではないだろう。ダリアはそういう女ではない。だが、少なくとも隣で目を閉じることを怖がってはいなかった。


 ギルはそっと息を吐いた。


 平和だな。


 そして、こういう夜に限って、頭は余計なことを考える。


 手にダリアの胸の温もりを感じながら、ギルはくだらないことを考えていた。レティシアにはレティシアの良さがある。ダリアにはダリアの良さがある。リエリエールにはリエリエールの良さがある。三人ともまったく違い、だからこそ全員素晴らしい。


 胸に貴賎はない。


 大きいものには大きいものの、小さいものには小さいものの良さがある。


 みんな違って、みんなそれぞれ素晴らしい。


 我ながら、本当に馬鹿だな。


 ギルは声を出さずに笑った。こんなことを真顔で語れば、レティシアには静かに微笑まれ、ダリアには呆れられ、リエリエールには頬を赤くしながら目を伏せられるだろう。セバスチャンに聞かれたら、腹を抱えて笑われるかもしれない。いや、あのクソじじいなら妙に真面目な顔で同意してくる可能性もあるな。それはそれで嫌だけど。


 馬鹿な思考は、そこで途切れた。


 木枠の遊戯。


 城下で流行っているという、新しい遊び。


 あれが、どうにも頭から離れない。


 相手が無秩序に渡してくる形の違う木片を、枠の中へ素早く組み合わせ、隙間なく埋める。もちろん落ちてはこないし列も消えない。だが、形を見て配置を決め、空間を埋めていくという考え方は、妙に近かった。


 ただの偶然かもしれない。


 木片と木枠があれば、誰かが自然に思いついてもおかしくない。単純と言えば単純な遊びだ。まぁ、単純だからこそ広がったとも考えられるが。


 それでも、引っかかる。


 転移者。


 その可能性は低い気がした。


 少なくとも、見知らぬ異邦人がいきなりマバール領に現れれば、騒ぎになる。顔立ちや言葉、習慣の違いは隠しにくい。城下でも村でも、身元のはっきりしない者が妙な行動を取れば、どこかで噂になるだろう。ましてここは辺境だ。帝国との国境を抱える土地で、正体不明の者を簡単に見逃すほど、マバール家の目は甘くない。


 ならば、転生者か。


 その方が納得しやすい。


 この世界の身体で生まれ、この世界の言葉を覚え、この世界の家族や立場に埋もれて生きている。そうであれば、外見だけで目立つことはない。魔力を持たない平民なら、なおさらだ。


 魔力持ちの可能性は低いと思う。


 魔力持ちはどうしても目立つ。貴族ほどではなくても、騎士家や市井育ちの魔力持ちなら、どこかで拾われるか、騒ぎになる。前世の知識を持つ魔力持ちがいれば、変な魔力の使い方を試したくなるはずだ。少なくとも俺なら試す。実際に試している。


 貴族である可能性は、さらに低い。


 マバール領にいる貴族を、マバール家が把握していないなどあり得ない。貴族は家であり、血統であり、力であり、戦略兵器だ。そこに妙な者が混じれば、必ず誰かが気づく。父上や上層部が見逃すとも思えない。


 やはり、平民か。


 魔力を持たない平民なら、社会へ与える影響は限定される。前世知識があっても、材料も権限も金もなければ、出来ることは限られる。せいぜい、身近な遊びや道具、料理の工夫くらいだろう。


 だから、今まで噂にもならなかった。


 そう考えると、一応筋は通る。


 だが、筋が通ることと正しいことは別だ。


 ギルは天井を見たまま、眉を寄せた。


 問題は、転生者かどうかではない。


 敵か味方かだ。


 その時、隣でダリアがかすかに身じろぎした。掛け布が柔らかく擦れる。ギルが視線を向けると、ダリアは薄く目を開いていた。眠りの残った瞳がこちらを見上げ、すぐに穏やかな色を帯びる。


「すまん。起こしたか?」


「いえ」


 ダリアは小さく首を振った。


「何か、お悩みですか?」


 声は柔らかい。


 夜の薄暗さの中で聞くと、昼間より少し近く聞こえた。


「少しな」


「お仕事のことでしょうか」


「まあ、そんなところだ」


 ダリアはそれ以上聞かなかった。聞きたければ聞けるのに、踏み込まない。帝国の街道を案内していた頃から、彼女はそういう距離の取り方が上手かった。だからこそ、今も傍に置いていて楽なのだろう。


 ギルは笑って、ダリアの髪へ軽く触れた。


「ダリアは良い女だな」


「急にどうなさいました?」


「いや、そう思っただけだ」


 ダリアは少しだけ照れたように目を伏せた。


「眠りましょう、ギル様」


「ああ」


 ギルも目を閉じた。


 木枠の遊戯。


 まだ見ぬ考案者。


 転移か、転生か、偶然か。


 答えは出ない。


 ただ最後に残ったのは、やはり同じ考えだった。


 敵か。


 味方か。


 その境目だけは、見誤れない。


 数日後、訓練場の土は乾いていた。


 朝からよく晴れている。雲は高く、日差しは強すぎない。兵たちが走る足音、木剣がぶつかる乾いた音、掛け声、息遣い。マバール城の訓練場は、平和な日でも戦場の匂いを忘れない。


 ギルは木剣を握り直した。


 正面に立つセバスチャンは、いつもの傷だらけの顔で笑っている。構えは軽い。軽いが、隙はない。以前なら、その隙のなさに圧されるだけだった。今は違う。見えるものが増えた。呼吸の間、足裏の重心、肩のわずかな動き。全部は分からないが、以前より拾える。


「行くぞ、クソじじい」


「どうぞ、若様」


 ギルは踏み込んだ。


 肉体強化は薄く、広く。


 足から腰、肩、手首へ力を流す。木剣が空気を裂き、セバスチャンの胴へ向かう。受けられる。だが、その受けは読んでいた。木剣が触れる直前に角度を変え、押し込むのではなく滑らせる。


 セバスチャンの木剣が軌道をずらされた。


 ほんの少し。


 その少しで十分だった。


 ギルは一歩内へ入る。


 肩で押し、足を送る。


 セバスチャンの体勢が崩れた。


 周囲で見ていた騎士たちが、わずかに息を呑む。


 いける。


 ギルはそこで攻めを止めなかった。止めれば戻される。相手はセバスチャンだ。崩れたように見えても、次の瞬間にはこちらが転がされる。だからさらに木剣を振る。首筋ではなく肩口。逃げ道を塞ぎ、横へ動かす。


 セバスチャンが下がった。


 一歩。


 二歩。


 土が靴底に削られる。


 初めてではない。最近はこういう場面が増えてきた。セバスチャンを完全に押し切れるわけではないが、以前のように子ども扱いだけで終わることは減った。


 胸の奥に、少しだけ得意さが湧く。


「最近はよく下がるな」


 口が勝手に動いた。


 セバスチャンの眉がぴくりと上がる。


「老いぼれたと思いますか?」


「少しはな」


 その瞬間、セバスチャンの重心が消えた。


 見えた、と思った時には遅かった。


 踏み込んだ足の外側を払われる。木剣で受けに行こうとした腕は、逆に絡められた。身体の芯が浮く。視界が青空へ跳ね、次に土が迫る。


 ギルは反射的に防御魔法を薄く巡らせ、肩から転がった。


 土埃が口元に入る。


「ぐっ」


 すぐに膝を立てようとしたが、その前に木剣の先が喉元へ置かれていた。


 セバスチャンが見下ろしている。


 顔は笑っていた。


「油断すると死にますぜ」


「今のは卑怯だろ」


「戦場で卑怯などと言っている暇があるなら、相手の足でも折っておきなさい」


 周囲から笑いが漏れた。


 オルドが肩を揺らし、ジノは口元だけで笑っている。クレインは真面目な顔のまま目を逸らした。トールは完全に笑っていた。


 ギルは喉元の木剣を払いのけ、土を払って立ち上がった。


「老いぼれてはいないらしいな」


「まだ若様を転がすくらいはできますな」


「くそ、腹立つな」


「その腹立ちを次に活かせばよろしい」


 セバスチャンは木剣を肩に担いだ。


 その姿に、少しだけ安心する。


 強くなった。


 それは確かだ。


 だが、まだ転がされる。


 それも悪くない。越える相手がいる方が、訓練は面白い。


 ただ、次は転がされん。


 そう思った瞬間、セバスチャンが目を細めた。


「今、次は転がされんと思いましたな」


「うるさい」


「顔に出ております」


 やはり腹立つ。


 だが、笑ってしまった。


 午後には、生産拠点から保存容器の試作品が届いた。


 ギルの自室ではなく、城内の作業確認に使う一室へ木箱が運び込まれていた。蓋を開けると、藁に包まれた金属容器と瓶が並んでいる。どちらも小ぶりだが、手に取れば職人たちが何度も試したことが分かった。金属容器の縁はまだ少し不格好で、瓶の口にも厚みにばらつきがある。だが、形になっている。


 ギルは金属容器を持ち上げた。


 重い。


 だが頑丈だ。


 指で叩くと、鈍い音が返った。蓋の噛み合わせを確かめる。完全ではない。だが、以前よりずっと良い。


「保存性は金属容器の方が上、か」


 報告書には、職人の癖のある字で検証結果が書かれていた。水気、匂い、虫、衝撃。試した項目は思ったより多い。職人たちがただ言われた物を作っただけではなく、自分たちで考えている証拠だった。


 瓶の方も悪くない。


 透明ではないが、中身の状態はある程度見える。金属より重いが、同じ形は揃えやすいらしい。生産数を増やすなら瓶が有利。だが輸送中に割れる危険がある。


 面白い。


 ギルは瓶を光にかざした。


 前世の完全な缶詰や瓶詰めにはまだ遠い。だが、ここまで来た。ここから先は職人たちが詰めてくれる。俺が口を出しすぎると、逆に邪魔になるかもしれない。


「金属容器の生産性を高める努力を継続中、か」


 報告書の最後の一文に、ギルは笑った。


「頑張ってるな」


 言葉にすると、部屋にいた文官が少しだけ表情を緩めた。


「そのように伝えます」


「ああ。焦らせすぎるな。だが、面白い方向に進んでいるとも伝えてくれ」


「承知しました」


 文官が頭を下げる。


 ギルはもう一度金属容器を手に取った。重みが掌に残る。保存容器。豆調味料。南部諸国との商人。木枠の遊戯。


 この一ヶ月、いくつものものが少しずつ動いている。


 その中の一つに、妙なものが混じっている気がしてならなかった。


 夕方の会議室は、昼の訓練場とは別の熱を持っていた。


 石壁に囲まれた部屋には、上層部が集まっている。机の上には帝国方面からの報告書が重ねられ、文官が一つずつ読み上げていた。火皿の灯りが紙の端を照らし、武官たちは腕を組んで黙っている。


「新皇帝は、アバルディア家より選ばれる見込みです」


 文官の声が部屋に落ちた。


 ギルは背もたれに身体を預けず、机の上で指を組んで聞いていた。


 順当だ。


 エレオノーラの顔が一瞬だけ浮かぶ。彼女がどこまで関わっているのかは分からない。ギルが知っているのは、あくまでマバール家に届いた報告だけだ。だが、アバルディア家が新皇帝を出すなら、帝国は一応の形を取り戻す。


 文官は続けた。


「ただし、メガレア家も次男を中心に急速にまとまりつつあるとのことです。現時点では新皇帝側へ表立って逆らう構えは見せておりませんが、独自の勢力は維持しているようです」


 老武官が低く笑った。


「長男が消えても、家は残したか」


「四帝家ですからな」


 老文官が紙面から目を上げずに答える。


 ギルは黙っていた。


 狙い通りだ。


 長男を亡命者として抱え込むのではなく、火種とならぬよう始末した。結果として、メガレア家は完全崩壊せず、次男を中心にまとまっている。アバルディア家が皇帝を出しても、メガレア家が力を残すなら、帝国はしばらく内部を見なければならない。


 こちらへ全力を向ける余裕はない。


 国境への圧は、少なくともすぐには増えない。


 それを口に出すと、少し嫌味になる。だからギルは黙って報告書の端を見ていた。


「どう見ますかな、ギルバート様」


 老文官が尋ねる。


 ギルは少し考えてから答えた。


「帝国が一枚岩になるには時間がかかる。新皇帝が立つだけでは足りない。メガレア家が残るなら、アバルディア家も気を抜けんだろう」


「同意見です」


 老文官が頷く。


 老武官は腕を組み直した。


「こちらへ来る余裕は少ない、と」


「少なくとも、今すぐ大軍を動かすのは難しいと思う」


 文官たちの空気が少しだけ緩む。


 だが、完全には緩まない。


 マバール家の上層部は、安心という言葉を簡単には信じない。帝国が不安定なら不安定で、流民や小競り合いや密偵の動きが増える可能性もある。落ち着くなら落ち着くで、いずれこちらを見る可能性がある。


 どちらにせよ、国境は気を抜けない。


 会議はさらに続いた。


 帝国との商人の動き。


 国境砦の備蓄。


 周辺小領主から届いた報告。


 王都からの書状。


 ひとつひとつは地味だ。だが、この地味な積み重ねがマバール家を支えている。ギルは途中で何度か質問し、老文官や武官がそれに答えた。知らないことを知ったふりはしない。分からない部分は聞く。父上がいない間に少しは慣れたとはいえ、上層部の知識量にはまだ届かない。


 最後に、文官が別の書状を手に取った。


「お館様ですが、帰還は順調とのことです。おそらく数日中には城へお戻りになられるかと」


 会議室の空気が、はっきり変わった。


 老武官の肩がわずかに落ち、老文官も目元を緩めた。誰も大げさには喜ばない。だが、ガルシアが戻るというだけで、部屋の軸が戻るような感覚があった。


 ギルも同じだった。


 父上が帰ってくる。


 それは素直に安心できる。


 その一方で、胸の奥に小さな引っかかりもある。


 リエリエールのことだ。


 父上はどこまで知っているのか。知っていて何も書いていないのか。帰ってきたら何を言うのか。怒るとは思わない。だが、まったく何も言わないとも限らない。


 まあ、その時はその時だ。


 今さらどうにもならない。


 ギルは内心でそう決めた。


 会議が終わる頃には、外の光は夕方の色が色濃くなっていた。


 自室へ戻ると、レティシアが茶を淹れてくれた。部屋に入った瞬間、茶葉の香りと灯火の温かさが身体へ染み込む。会議室の硬い空気を吸った後だと、なおさらこの部屋の柔らかさがありがたい。


 椅子へ腰を下ろし、杯を受け取る。


 湯気が上がる。


 一口飲む。


 いつもの味だった。


 こつ。


 足先に衝撃。


 ギルは杯を持ったまま足元を見た。


 レアがいた。


 白い綿毛は以前より少しだけ鳥らしくなり、目つきも生意気さを増している。小さな嘴で靴の先をつつき、こちらを見上げる。


「お前な」


 こつ。


 もう一度。


「やめろ」


 こつ。


 三度目。


 レティシアが背後で小さく息を漏らした。笑ったな。絶対に笑った。


「レティシア、こいつを甘やかしすぎじゃないか」


「レアは若様に構ってほしいのではないでしょうか」


「つつく必要はないだろう」


「そうですね」


 返事は優しい。


 だが止める気配はない。


 ダリアならもう少し笑う。リエリエールなら困ったように微笑む。ノエルならどう反応するだろうか。そんなことを考えたところで、ギルは自分がかなり平和な悩みを抱えていることに気づいた。


 平和だ。


 だが、その平和の端に、木枠の遊戯がまだ引っかかっている。


 レアが足先をつつく。


 茶が冷める。


 窓の外では夕暮れが城下を赤く染めている。


 その時、扉が叩かれた。


「入れ」


 兵が入ってきた。


 若い兵だった。慌ててはいない。だが、普段の伝言より少しだけ緊張しているように見えた。ギルは杯を机へ置く。


「若様、クレイン殿の姉君ご夫妻より連絡がございます」


 胸の奥が、かすかに鳴った。


「例の件か?」


「はい」


 兵は頭を下げたまま続ける。


「城下で流行している遊戯について、考案者を見つけたとのことです」


 部屋の空気が、静かに沈んだように感じた。


 レティシアが茶器を置く音がやけに小さく聞こえた。レアが足元で首を傾げている。ギルはしばらく何も言わなかった。


 見つかった。


 本当に見つかった。


 偶然かもしれない。


 ただの知恵者かもしれない。


 面白い遊戯を考えただけの平民かもしれない。


 それでも、胸の奥にある違和感は消えない。むしろ、その名も顔も知らない考案者が現実にいると分かったことで、形を持ち始めていた。


 転移者の可能性は低い。


 転生者かもしれない。


 ただの偶然かもしれない。


 だが、どちらでもいい。


 問題は、敵か味方か。


 ギルはゆっくりと立ち上がった。


「詳しく聞く。夫婦を呼べるか」


「すでに城下で待機しているとのことです。こちらへお通ししますか」


「いや」


 ギルは一度考えた。


 今ここへ呼んで、勢いで話を聞くべきか。


 それとも、場を整えるべきか。


 相手が本当にただの平民なら、いきなり若様の自室へ呼ぶのは重すぎる。クレインの姉夫婦も緊張する。必要な情報を聞き漏らす可能性もある。商談室の方がいい。


「商談室を使う。茶も用意しろ。レティシア」


「はい」


「同席してくれ」


「かしこまりました」


 レティシアの返事はいつも通りだった。


 だが、その目は少しだけ鋭い。俺がこの件を気にしている事を察している。


 ギルは兵へ向き直った。


「クレインの姉夫婦を商談室へ案内しろ。急がせるな。ただし、待たせすぎるな」


「はっ」


 兵が下がる。


 扉が閉まる。


 静けさが戻る。


 ギルは机に手を置いたまま、少しだけ目を閉じた。


 見つかった。


 知恵者。


 遊戯の考案者。


 どんな人間だ。


 平民か。


 子どもか。


 職人か。


 商人か。


 何を知っている。


 何を知らない。


 まさか。


 本当に。


 俺以外にも存在するのか。


 足先に、こつ、と小さな衝撃があった。


 レアだった。


 ギルは足元を見下ろす。


 白い鳥は、何も知らない顔でこちらを見上げていた。


「今は本当にやめろ」


 レアは首を傾げた。


 まるで、こちらの緊張など知ったことではないと言うように。


 ギルは少しだけ笑った。


 その笑いで、硬くなりかけていた胸がわずかに緩む。


「行くか」


 レティシアが静かに頷く。


 ギルは扉へ向かった。


 廊下の向こうには、夕暮れの光が細く伸びている。


 その先で待っているものが、ただの珍しい遊戯なのか。


 それとも、自分の存在を揺らす何かなのか。


 まだ分からない。


 だが、もう近くまで来ている。


 ギルはそれだけを感じながら、商談室へ向かった。

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