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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第八話 村を焼く


 帝国の小村へ向かう道は、拍子抜けするほど普通だった。


 森を抜けて、少し開けた土の道へ出る。昨日まで歩いてきた王国側の街道よりは荒れているが、別に踏み固められていないわけでもない。荷車の轍が薄く残り、脇には背の低い草が生え、ところどころに小石が転がっている。少し先には畑らしい平地が見え、そのさらに奥に屋根がいくつか並んでいるのが分かった。


 風はぬるかった。


 湿り気を含んだ土と、乾きかけた草と、どこかで燃やされた薪の煙の匂いが混ざって、鼻の奥にひっそりと残る。敵国へ入ったと言われても、この空気だけを吸っていればそんな気はまるでしない。むしろ、領内の外れの村へ歩いている時と何も変わらない。


 セバスチャンは、特に気負いも見せず、ただ普通に歩いていた。


 肩の力を抜き、鎧の軋みを気にするでもなく、一定の歩幅で前へ進んでいく。こちらへ振り返って何かを確認することもない。かといって警戒を解いているようにも見えない。あの傷だらけの横顔は、相変わらず何を考えているのか分かりにくいままだった。


 俺も、その隣を歩く。


 気負わないようにしようと思っていた。


 思ってはいるのだが、胸の奥では別のものがじわじわと溜まっていた。緊張、というには少し違う。怖さが無いわけではない。だが、恐怖一色という感じでもない。落ち着かない、という方が近いのかもしれない。目の前の景色があまりにも普通で、その普通さが逆に気持ちをざわつかせる。


 普通の村へ、普通に歩いて近づいている。


 それだけなのに、この先で自分が何をするかは分かっている。


 だから、景色の何もかもが妙に目に入った。


 道の脇に立つ低い木。乾ききっていない土の色。刈り入れの遅れた畑の端。小さな鳥が枝から飛び立つタイミング。風に揺れる草の向き。そんなものまで、必要以上に意識へ引っかかってくる。


 村へ着いたのは、昼頃だった。


 太陽はほぼ真上に近く、影が短い。家々の輪郭がはっきりと土の上へ落ち、煙突から上がる薄い煙が、まっすぐではなく少しだけ横へ流れている。


 村人の姿はある。


 だが、騒ぎになるほど多くはない。


 こちらを見ている者はいる。井戸のそばで桶を持って立ち止まった女。軒先で何かを削っていた男。家と家の間を走っていた子供が足を止め、口を半開きにしたままこっちを向いている。だが、どれも数にすれば大したことはない。最初に視界へ入ったのは、それくらいだった。


 少ない。


 そう思いかけて、すぐに違うと気づく。


 村の規模に対して少ないのではなく、あくまで目につく人数がその程度というだけだ。家の中にいる者もいるだろうし、裏手へ回っている者もいるだろう。畑や森へ出ていた者も、この時間ならかなり戻ってきているはずだ。


 昼飯時だ。


 日が高くなり、仕事の手を止めて一度村へ戻るにはちょうどいい時間。


 俺は軽くセバスチャンを睨んだ。


 狙ってやったな。


 言葉にしなくても、たぶん通じている。


 畑仕事をしていた者。


 森へ薪でも拾いに行っていた者。


 少し離れた水場や、近くの畜舎へ回っていた者。


 遠くまで出ていた者はともかく、近場にいた者の多くは村へ戻っている頃合いだ。つまり、こいつは最も効率よく村人を巻き込める時間を選んだのだ。


 セバスチャンは、俺の視線に気づいていた。


 気づいていて、にやにやと笑っている。


 その顔を見た瞬間、少し前に聞かされた言葉が頭の中で蘇った。


 いい騎士とは、敵をたくさん殺して、敵からたくさん奪って、味方にたくさん与えるものだ。


 あの時は、ヤクザより酷い、ほとんど山賊の理屈だと思った。


 今でも思っている。


 だが、こうして村の前へ立たされると、その言葉はただの下卑た冗談ではなかったのだと嫌でも分かる。


 分かったよ。


 俺は心の中で呟いた。


 どうあっても、このクソじじいは俺の中にある甘さを消し去りたいらしい。


 甘さ。


 その言葉が何を指しているのか、俺には何となく分かっていた。


 前世の記憶だ。


 もちろん、このことは絶対に秘密だ。セバスチャンはもちろん、愛するレティシアにも、尊敬する父にも兄たちにも、一言たりとも漏らしてはいけない。転生したことも、別の世界を知っていることも、全部まとめて墓まで持っていくしかない。


 だが、記憶そのものは消えない。


 前世の俺は、この世界の貴族とは違う価値観で生きていた。人を焼き払う力など持たず、国境を越えて村を襲うこともなく、女を側に置くことが権利であるような世界でもなかった。普通の会社員として、普通の街で、普通に疲れながら生きていた。


 その記憶が、今の俺の中に微かに残っている。


 たぶん、その残滓みたいなものを、この妙に勘のいいクソじじいは嗅ぎ取ったのだろう。


 理屈より先に、躊躇のようなものがある。


 目の前の村人をただの目標や敵として切り離しきれない何かが、俺の中にまだ残っている。


 だったら。


 そんなくだらないものは、とっとと捨てろ。


 セバスチャンは、言葉ではなく、この状況そのものでそう言っている気がした。


 俺は小さく息を吐いた。


 そして、ゆっくりと感知魔法を使った。


 胸の奥で灯っている魔力へ意識を向ける。


 深く、静かに。


 表面では抑えていた魔力の流れを、今度は別の方向へ薄く伸ばす。視界の延長ではない。耳とも違う。もっと広く、もっと曖昧なものとして周囲へ滲ませる感覚だ。


 感知の範囲が、じわじわと広がっていく。


 最初は村の輪郭だけ。


 目の前の家々の下に残る魔力の痕跡。村人ではなく、自分とセバスチャンの位置が、明確な光点みたいに浮かぶ。


 そこから少しずつ範囲を押し広げる。


 一気にはやらない。


 やれないわけではない。魔力量そのものは十分すぎる。だが、この辺りの地理を俺は知らない。近くに騎士や貴族がいたらまずい。こちらが不用意に大きく感知を広げれば、向こうに位置を教えるようなものだ。


 だから慎重に。


 広げる。


 押し広げる。


 森の向こうへ、畑の先へ、さらに外へ。


 反応を探る。


 平民は映らない。


 感知魔法は、魔力を持つ者を探る魔法だ。平民は魔力を持たない。だから、この広がる感覚の中では、本来そこに大勢いるはずの村人たちはほとんど無として扱われる。見えているのに映らない。それが少しだけ妙な感じだった。


 十キロ程度。


 そこまで確かめて、俺は感知を止めた。


 騎士も貴族もいない。


 少なくとも、魔力を持つ強い者は近くにいない。


 その判断を終えた時、横でセバスチャンが妙に満足そうに頷いていることに気づいた。


 ああ、そういうことか。


 俺がビビって一気に感知魔法の範囲を広げなかったのを見て、満足したんだな。


 不用意に全開にしない。


 自分の知らない土地で、まず周囲の危険を切り分ける。


 そういう慎重さがあるかどうかを、こいつは見ていたのだ。


 セバスチャンは何も言わないまま、軽く顎をしゃくった。


 おいおい。


 一応、俺は三男坊でも主家の人間だぞ。


 顎で使おうとするなよ。


 そう思う。


 そう思うが、文句を言う気にはなれなかった。


 セバスチャンはじっとこちらを見ている。


 その目は、命令しているのではなく、理解しているかを確かめているようだった。


 ああ。


 分かっている。


 分かっているんだ。


 俺は俺のために、いい騎士に、いい貴族にならなくてはいけない。


 いい騎士、いい貴族。


 この世界で生きるなら、その形はこの世界の中で決めるしかない。前世のぬるい価値観を握りしめて、綺麗事を言い続けていたって、結局は自分の立場も、守りたいものも守れない。


 そして、いい騎士、いい貴族とは。


 こうするんだよな。


 俺は、攻撃魔法を放った。


 一気に。


 躊躇いを挟まず、伸ばしもせず、ためらいの余地を作らずに。


 周囲を焼き払うように、魔力を解き放つ。


 胸の奥に沈めていた熱が、解放された瞬間に世界の色が変わった気がした。意識を通った魔力は、攻撃の形へ変換されながら一瞬で膨れ上がり、空気そのものを灼くような奔流になる。


 先程まで俺たちを見ていた村人。


 ボロいがきちんと手入れされた家。


 土壁を補修した跡のある家畜小屋。


 乾きかけた薪の束。


 屋根の端に干された布。


 それら全部が、一瞬で炎に包まれた。


 包まれた、という表現ですら間に合っていないかもしれない。


 燃え移るのではない。


 そこに在ったものが、炎という結果に置き換わる。


 そのくらいの速さだった。


 俺の魔力量と魔力強度で放たれた攻撃魔法は、人間など一瞬で消し去る。火傷を負わせるとか、建物を燃やすとか、そういう段階ではない。肉も骨も、悲鳴すら残さずに灼き切る。立っていた人影は、炎の中に一瞬だけ黒く輪郭を見せ、それから何もなくなった。


 それどころか、石造りの家の基礎すら持たない。


 家の土台に使われていた石が、熱に耐えきれずに溶け、崩れ、赤黒い塊となって流れた。土壁は爆ぜ、梁は一瞬で炭になり、その炭すらさらに砕けて散る。家畜小屋の柱など、まるで最初から無かったみたいに消えていった。


 これまで、俺はここまで高威力の攻撃魔法を使ったことがない。


 危険すぎると思っていたからだ。


 そして、その考えは正しかった。


 それほど大きな村ではなかったとはいえ、俺とセバスチャンが立っているところ以外は、ほとんど一瞬で消し飛んだ。


 俺は自分の周囲にだけ、防御魔法を展開していた。


 自分だけではない。セバスチャンも、その中へ含めた。流石にこんな距離で自分の魔法に巻き込んで死なれたら笑えない。


 それでも、熱気は防ぎきれない。


 防御壁の向こうで暴れる高熱が、空気を震わせ、顔の皮膚へ圧みたいに伝わってくる。まるで巨大な炉の口を至近距離で開いた時みたいだ。髪の先が焦げそうなほどの熱が、防御壁越しでも分かる。


 我ながら凄まじい破壊力だ、と俺は思った。


 本当に、貴族の魔法って戦略兵器だよな。


 前世の兵器と比べるのは変かもしれない。だが、都市を焼き、村を消し、地形すら変え得る力が一人の人間に宿っているというのは、どう考えてもまともではない。


 これは絶対に、善良王が望むような平和な世界にはならないだろう。


 無理だ。


 どう考えても無理だ。


 皆で武器を捨てましょう、話し合いましょう、争いをやめましょう。


 そんな理想が成立するには、この力があまりにも直接的すぎる。


 むしろ、より強い力で相手を押さえ込む方がずっと現実的だ。善良王の言ういくさの無い世というのも、もし成立するとしたら、全員が善良になるからではなく、一番強い何かが他を徹底的に押さえつけた結果としてしかありえないのではないか。


 攻撃魔法の熱気が、ようやく少しずつ落ち着いてくる。


 防御魔法の内側にこもった熱と息苦しさが薄れ、空気の震えも収まっていく。


 俺は防御魔法をゆっくりと解除した。


 目の前の光景を見て、一瞬だけ言葉を失う。


 先程まであった普通の村は、ほぼ完全に消えていた。


 いっそさっぱりしていて綺麗なほどだった。


 残骸というには残りすぎていない。むしろ残っているものが少なすぎて、村を焼いた跡というより、そこだけ不自然に地面を剥ぎ取ったようにすら見える。黒く焼けた土、溶けた石、崩れた基礎、炭の欠片。そこに家や小屋や人があったという記憶がなければ、誰も村の跡だと気づかないかもしれない。


 セバスチャンは、そんな光景を軽く見渡していた。


 驚きも恐怖もない。


 確認する目だ。


 それが逆に俺には引っかかった。


「……なんだよ」


 沈黙に耐えられず、こちらから声をかける。


 何か言えよ。


 うまくやったとか、やりすぎたとか、少しは何かあるだろう。


 セバスチャンはようやく口を開いた。


「まあ、童貞の坊やにしちゃ上出来ですな」


 第一声がそれだった。


 俺は思わず顔をしかめた。


「その言い方どうにかなんねぇのか」


「無理でしょうな」


 あっさりしている。


 そのままセバスチャンは歩き出した。先程までこの村で一番大きかったであろう家の方へ向かう。


 いや、元村の、元家だな。


 今はもう家としての形をかなり失っている。壁は半ば崩れ、屋根は無くなり、床だった場所も焼けてひび割れている。それでも他の建物より僅かに残り方がましなのは、土台がしっかりしていたからだろう。


 セバスチャンは中へ入る。


 俺もその後を追った。


 熱がまだ残っている。足元の土はところどころ赤黒く変色し、靴越しにもじんわりとした熱気が伝わる。焼けた木と土の匂いが濃く、鼻の奥にこびりつく。


 セバスチャンは、何かを探すように周囲を見ていた。


「生き残りは無し」


 淡々と呟く。


「まあ、生き残っていても、すぐにくたばるでしょうな」


 床が焼け落ちて浅く窪んだ場所を覗き込み、崩れた壁の断面を靴先で軽く崩す。そこに悲鳴も、呻きも、動くものもないことを確かめているらしい。


 だが、それだけではない。


 家の中を見渡す視線が、妙に細かい。


「何を確認してんだ」


 俺は率直に聞いた。


 正直なところ、俺の攻撃魔法に普通の家が耐えられるはずはない。中を見て回る意味があまり分からない。


 セバスチャンは、壁の根元をしゃがんで指先で触れた。焼けた土を指で砕き、その下に残った締まり具合を確かめるような仕草をする。


「ふむ」


 それから立ち上がる。


「この感じだと、出来てざっと二十年ってとこですな」


「そうなのか?」


「ええ」


 セバスチャンは頷く。


「家の土台や土の締まり方で、大体は分かります」


 なんか妙な特技だな、と俺は思った。


 いや、特技というより、戦場で散々人の村や町を見てきた結果なのだろう。そう考えると、少し嫌な気分になる。


「二十年でこの規模ってことは」


 セバスチャンは崩れた壁の向こうを見る。


「近くにもうちょいデカい村がありますよ」


 そこから家畜小屋だった場所へ向かう。


 家畜小屋は、家以上に原型を留めていなかった。柱も屋根もほぼ消し飛び、焼けた柵の断片が地面に黒く残っているだけだ。周囲には、元が家畜だったらしいものの痕跡すらほとんど見当たらない。


 セバスチャンはそこを見回し、少しだけ口を曲げた。


「若様、次はもう少し攻撃魔法の威力を抑えてください」


「……これでも抑えたつもりなんだが」


 本音だった。


 さっきのは、俺にとって全力ではない。


 そのことを、今まさに自分で一番気にしていた。


 セバスチャンは肩を竦める。


「これじゃ奪う物が何も残ってないですからね」


 俺は顔をしかめた。


「次って、まだやるのか?」


 セバスチャンは本気で不思議そうな顔をした。


「もちろんです」


 何を言ってるんだと言わんばかりだ。


「そうですな」


 焼け跡を見渡しながら、軽い調子で言う。


「とりあえず十個ほど村を焼きましょうや」


 どうやら、かなり機嫌がいいらしい。


 村が一つ消えた直後に、次は十個と言ってのけるあたり、本当にこの男の感覚はどこか壊れている。だが、不思議なことに、俺はその言葉を聞いても、それほど大きな嫌悪を覚えなかった。


 むしろ。


 ああ、そういうものなのか、と半ば納得している自分がいた。


 それが少しだけ薄気味悪かった。


 前世の記憶がある俺が、だ。


 つい先程、自分の手で村を焼き払った。人を消し、家を溶かし、生活の痕跡を跡形もなく奪った。それなのに、心の中は想像していたほどには荒れていない。


 もっとこう、吐き気がするとか、手が震えるとか、罪悪感で立っていられないとか、何かあるのではないかと、どこかで思っていた。


 だが、実際には違う。


 驚きはあった。


 自分の魔法の威力に対する実感もあった。


 しかし、心理的なダメージという意味では、拍子抜けするほど薄い。


 気づかないうちに、どうやらこの世界にずいぶん染まっているらしい。


 貴族として育ち、魔力の強い者が守る側であるという価値観を当然のものとして教えられ、平民との絶対的な差を前提にしてきた。その中で、少しずつ、自分の中の前世の常識は削られていたのかもしれない。


 そして、自分が焼き払った村のことよりも。


 俺には、もっと気になることがあった。


 さっきの攻撃魔法。


 全然、全力じゃなかったんだよな。


 その事実が、じわじわと腹の底に沈んでくる。


 村が消えた。


 石が溶けた。


 人が一瞬で焼き払われた。


 それだけの結果を出しておきながら、体の奥にある魔力はまだ潤沢に残っている。呼吸も乱れていない。頭も痛くない。無理やり絞り出した感覚も無かった。


 つまり。


 これが全力ではない。


 もし本気で放ったらどうなる。


 村一つどころの話では済まないのではないか。


 そう思った瞬間、背筋を冷たいものが走った。


 怖い。


 自分の力が、少しだけ怖い。


 前世の俺が見たら、たぶん完全に引いていただろう。


 だが同時に、その力を持っているのが自分だという事実に、妙な高揚もあった。


「若様」


 セバスチャンが振り向く。


「何をぼさっとしてるんです」


「……いや」


 俺は視線を村の外へ向けた。


 畑の向こう、緩やかな起伏の先に、道が続いている。そこをさらに辿れば、別の村があるのかもしれない。もっと大きい村が。もっと人の多い場所が。


「ちょっと考えてた」


「考えるのは結構ですが、歩きながらにしてください」


 容赦がない。


「今のうちに動いておかないと、煙を見た奴が周囲へ知らせに走るかもしれん」


「煙って」


 俺は思わず、今やほとんど煙も残っていない焼け跡を見た。


 確かに熱はまだあるし、ところどころから細い煙は上がっている。だが、もはや村全体を覆うような炎や煙柱は無い。


 それでも、近くを通れば何が起きたかは分かるだろう。


「ったく……」


 俺はナタを拾い上げ、腰へ差し直した。短めの両刃剣はまだほとんど使っていない。ただ、持っているという感覚だけがある。


「次の村、どっちだ」


 セバスチャンはそこで、初めて少しだけ満足そうに笑った。


「そっちです」


 顎で方向を示す。


「やっぱ顎で使うなよ」


「口で言いましたが?」


「半分は顎だったろ」


「細かいことを気にすると禿げますよ」


「お前を見てると説得力無ぇな」


 言い返しながら、俺は歩き始めた。


 焼け跡の熱気が背後へ遠ざかる。


 それでも、鼻の奥に残る焦げ臭さは消えない。靴裏に伝わる地面の感触も、さっきまでそこが村だったことを忘れさせてはくれない。


 そして、その現実感とは別に。


 俺の頭の中では、さっき放った攻撃魔法の感触が何度も反芻されていた。


 熱の集め方。


 解放の速さ。


 破壊の広がり。


 そして、まだ余っている力。


 自分がどこまで出来るのか、ちゃんと知らない。


 そこが一番、恐ろしく、同時に魅力的だった。

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