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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百六十三話 ちぐはぐな戦線


 俺たちはシルディア城を目指して進んでいた。


 王国の奥へ向かうのをやめてから、しばらく経っている。相変わらず馬の上で過ごす時間が長いが、これまでのように焼き払う畑を探す必要がなくなっただけでも、随分と気楽なものだ。


 もっとも、何も考えずに進めばいいというわけでもない。


 目指しているのはシルディア城だが、実のところ、マバール城へ向かった方がいいような気もしている。


 問題は、父上がどちらにいるのか分からないことだ。


 戦争が続いている以上、おそらく前線司令部であるシルディア城にいるとは思う。だが、俺たちが王国後方を荒らし回っている間にも、戦況は変わっているはずだ。


 もしかすると、とっくにマバール城へ移動しているかもしれない。


 そうなれば、わざわざシルディア城まで行くのは遠回りになる。


 うーん、面倒くさいな。


 こういう時は本当に無線とかが欲しくなる。


 ちょっと連絡して、父上はどちらにいますか、と尋ねられれば済む話なんだがなぁ。


 まぁ、ないものを欲しがっても仕方ない。


 この世界では、遠く離れた相手が今どこにいるのか知るだけでも一苦労だ。俺の感知魔法だって、こんな距離にいる特定の人物を都合よく探し出せるわけじゃないしな。


 俺は隣を進むセバスチャンへ顔を向けた。


「なぁ、どっちに父上は居ると思う?」


 セバスチャンは少し考えるように前方へ視線を向け、それから口を開いた。


「さて、シルディア城だとは思いやすが、戦場の成り行きによってはマバール城に居られるでしょうな」


「だよなぁ」


 結局、俺と同じ考えらしい。


 まぁ、こいつが分からないなら仕方ないか。


 セバスチャンは経験豊富だし、こういうことに関しては俺よりずっと詳しい。だが、どれだけ経験があったところで、離れた場所の事情まで何でも分かるわけじゃない。


 それに、俺たちは随分と長い間、王国軍の後方で好き勝手に動き回っていた。


 その間、父上が何をしていたのか、こちらではほとんど分からない。


 まったく、情報がないというのは不便なものだ。


 俺は馬の首筋へ目を落とし、手綱を少し緩めた。馬は歩調を変えることなく進み、周囲では騎士たちの馬が一定の距離を保っている。


 そういえば、グレゴリオはどうなんだろう。


 俺は少し後ろを進んでいた大男へ振り向いた。


「グレゴリオ、お前はこの辺りには来た事あるか?」


 声をかけると、グレゴリオがこちらへ顔を向けた。


「いえ」


 ……それだけか。


 相変わらず必要なことしか喋らない男だな。


 もっとも、来たことがないなら、それ以上答えようもないか。


 ふむ。


 ここいらの地理については、あまり当てにできそうにない。


 とはいえ、せっかく話しかけたんだし、もう少し何か聞いてみるか。


「どうだ?」


 ……いや、我ながら随分と大雑把な聞き方だな。


 どうだ、と言われても困るだろう。


 何について聞いているのか、俺自身もはっきり決めていないんだから。


 だが、グレゴリオはすぐに聞き返してくることはなかった。


 少し前方へ視線を戻し、何か考えているようだったが、やがて低い声で答えた。


「王国側は混乱しておるように感じます」


「ふむ、どのあたりがだ?」


 ほう。


 なかなか面白いことを言うじゃないか。


 俺が尋ねると、グレゴリオはすぐには答えなかった。


 濃い眉を寄せ、しばらく黙り込んでいる。何か言葉を探しているようにも見えるが、こちらを困った顔で見たりはしない。


 俺は急かさずに待った。


 こいつは口数こそ少ないが、聞かれたことにはちゃんと答えようとする。考えがまとまるまで待ってやった方が、こちらとしても面白い話を聞けるかもしれない。


 馬の蹄が地面を叩く音が続く中、やがてグレゴリオが口を開いた。


「進むべきか、留まるべきか、戻るべきか……ちぐはぐになっておるように感じました」


「……なるほどな」


 俺は思わず頷いた。


 進むべきか、留まるべきか、戻るべきか。


 うん、なかなか的確な表現じゃないか。


 俺たちレダリエ騎士団は王国軍との正面戦闘を避けながら後方を荒らしてきたわけだが、その間にも王国側の動きを全く見ていなかったわけじゃない。


 こちらが進んでも積極的に追ってこないことがあるかと思えば、別の場所では警戒が厳しくなっているように見えることもあった。


 もちろん、個々の部隊が何を命じられていたのかなんて分からない。


 こちらから見えているのは、その時々の動きだけだ。


 だが、それらをまとめて考えると、グレゴリオの言葉も分かる気がする。


 相手が何をしたいのか、どうにもはっきりしないんだよな。


 俺は前方を見ながら少し考えた。


 ……ああ、そうか。


 王国側には、軍全体を統率する最高司令官がいないのかもしれないな。


 いや、誰も指揮していないということはないだろう。


 それぞれの貴族が軍を率いているんだから、個々の部隊には当然指揮官がいるはずだ。


 問題は、その上だ。


 俺たち帝国側には父上がいる。


 ガルシア・マバールという最高司令官がいて、それぞれの軍は父上の指揮の下で動いている。


 もちろん、現場では色々と判断する必要があるだろうし、全てが父上の思いどおりになるわけでもない。


 それでも、最終的に誰の命令へ従うのかがはっきりしているのは大きい。


 一方、王国側はどうだ?


 ……そういえば、国王がいないんだったな。


 いや、考えてみれば当然の話なんだが。


 その国王を王城から攫ってきたのは、俺なんだから。


 善良王は今、王国軍に命令できるような立場にはいない。


 そうなると、残された貴族たちはどうするんだ?


 それぞれが自分の軍を持っている以上、勝手に動こうと思えば動ける。


 だが、だからといって、全員が同じことを考えるとは限らない。


 ある貴族は前進したいかもしれないし、別の貴族は守りを固めたいかもしれない。これ以上戦っても意味がないと考え、撤退したがる者だっているだろう。


 そうなれば、誰が最終的な判断を下す?


 ……うーん。


 面倒くさそうだな。


 つくづく、国家軍がないこの世界の戦争の難しさが分かる。


 貴族たちがそれぞれの軍を率いて戦っているんだから、全体をまとめる人物がいなければ、どうしても足並みが乱れるだろう。


 もちろん、王国側にも誰かが代わりに指揮を執っている可能性はある。


 俺が知らないだけかもしれん。


 だが、グレゴリオの言うように行動がちぐはぐになっているなら、少なくとも上手く統率できていないんじゃないだろうか。


 あるいは、命令そのものが各軍へ十分に伝わっていないのかもしれない。


 いやぁ、本当に面倒だな。


 俺だったら御免だ。


 そもそも、他の貴族が率いる軍に対して、こちらの命令を聞けと説得するだけでも苦労しそうじゃないか。


 相手だって貴族なんだから、立場や面子があるだろうし、それぞれの関係性もあるだろう。


 そう考えると、父上がいて良かった。


 実に良かった。


 俺は心の中で何度か頷いた。


 父上なら、少なくとも各軍をどう動かすかについて、きちんと判断してくれる。


 それに、俺自身も父上の命令なら素直に従えばいい。


 まぁ、内容によっては少しくらい文句を言うかもしれないが。


 それでも、誰に従えばいいのか分からないという状況にはならない。


 うん。


 実にありがたい話だ。


「なかなか良く見ているな、グレゴリオ」


 俺がそう言うと、グレゴリオは僅かに頭を下げた。


「恐れ入ります」


 それだけ答えると、また前を向いてしまった。


 ……本当に無口だな、こいつ。


 だが、悪くない。


 何でもかんでも喋る奴より、必要な時に自分の考えを言える奴の方が、騎士としては役に立つだろう。


 さっきの話だって、俺が曖昧に尋ねただけなのに、ちゃんと自分なりの見方を答えてくれた。


 うん。


 いい拾い物をしたな。


 俺は少し満足して、再び前を向いた。


 それにしても、王国側が本当に混乱しているなら、こちらとしてはありがたい。


 前線で足並みが乱れ、後方でも食糧を巡る問題が起きているとすれば、随分と厄介なことになっているだろう。


 何しろ、俺たちは王国後方の畑を散々焼き払ってきたんだからな。


 しかも、全部を焼いたわけじゃない。


 わざと食糧を残した場所もある。


 あれだけまだらに焼き払えば、食い物がなくなった場所と、まだ残っている場所ができる。


 当然、残っている食糧を巡って揉めることもあるだろう。


 実際、そんな噂も聞こえてきていた。


 どこまで本当かは分からないが、少なくとも俺たちが何もしていなかった頃と同じ状況ではないはずだ。


 そこへ前線の混乱まで加わっているなら、王国にとってはたまったものじゃないだろうな。


 まぁ、いい感じではある。


 前線でも後方でも混乱しているなら、だいぶ帝国に有利と考えていいんじゃないだろうか。


 俺たちの活動も、多少は影響しているだろうしな。


 もっとも、戦争全体がどうなっているのかまでは、今の俺には分からない。


 だからこそ、早く父上に会って話を聞きたいところだ。


 そんなことを考えながら、俺たちはシルディア城へ向かって進み続けた。


 城へ近づくにつれて、俺は時折周囲へ感知魔法を拡げ、魔力反応を確かめていた。


 道はそれなりに選んでいる。


 王国側の軍にわざわざ見つかりに行く必要もないし、帰る途中で余計な戦闘をするのも面倒だからな。


 だが、妙なことに、王国軍の姿をほとんど見かけない。


 感知魔法に引っかからない平民まで分かるわけではないが、少なくとも目に見える範囲で、まとまった王国軍がこちらを妨害しようとする様子はなかった。


 もちろん、警戒を解くつもりはない。


 これだけ敵の後方を荒らし回ったんだから、最後の最後で待ち伏せでもされたら馬鹿みたいだろう。


 俺は周囲を確かめながら馬を進めたが、結局、大きな妨害を受けることもなくシルディア城まで辿り着いてしまった。


 ……ふむ。


 やっぱり、何か変わっているのかもしれないな。


 グレゴリオの言っていた混乱と関係があるのか、それとも俺たちが知らない間に戦線そのものが動いたのか。


 いずれにせよ、城に戻れば何か分かるだろう。


 見慣れたシルディア城が近づいてくると、俺はようやく少し肩の力を抜いた。


 随分と遠くまで行ったものだ。


 畑を焼き、街を焼き、王国の後方をあちこち動き回った。


 その間にグレゴリオまで拾ったんだから、なかなか収穫の多い遠征だったな。


 まぁ、相手にとってはたまったもんじゃなかっただろうが。


 俺たちはそのまま城へ入った。


 さて、まずは父上に報告するか。


 そう考えていたところへ、一人の文官が近づいてきた。


「ギルバート様、ザイン様がお呼びです。お疲れのところ申し訳ありませんが、至急お願いします」


「分かった」


 俺は頷いたが、少しだけ考えた。


 ……ザイン殿か。


 父上ではなく?


 もしかすると、父上はシルディア城にいないのかもしれないな。


 そうなると、やっぱりマバール城か?


 せっかく戻ってきたというのに、まだ移動しなければならないかもしれん。


 俺は文官の顔を見ながら、そんなことを考えていた。

本日のこちらの更新は、5時、12時、20時の予定です。

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