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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百六十二話 帰る理由


 グレゴリオが馬に乗れるようになったのは、それから少し後のことだった。


 もちろん、本人が急に馬を手に入れたわけじゃない。セバスチャンがどこからか探してきたのだ。


 軍馬というわけにはいかなかったが、なかなか立派な馬だった。


 俺は連れてこられた馬を眺め、それから隣に立つグレゴリオを見上げた。


 ……でかいな、やっぱり。


 いや、馬ではなくグレゴリオの方だ。


 こうして並んでみると、こいつの身体の大きさがよく分かる。あの太い腕と厚い胸、さらに重そうな武器まで持っているんだから、馬も大変だろう。


「大丈夫なのか?」


 俺が尋ねると、セバスチャンは馬の背を軽く叩いた。


「まぁ、何とかなるでしょう。それなりに良い馬ですぜ」


「ふーん」


 セバスチャンがそう言うなら大丈夫か。


 俺は馬よりも、むしろグレゴリオの方が心配だった。


 何しろ、こんな大男が器用に馬を扱えるのか、少々疑問だったからな。


 だが、その心配は無用だった。


 グレゴリオは手綱を受け取ると、特に戸惑う様子もなく馬に跨がった。大きな身体が鞍へ沈み、馬が一度だけ首を動かしたが、それだけだった。


 グレゴリオが軽く手綱を動かすと、馬は素直に歩き始める。


 ほう。


 なかなか様になっているじゃないか。


「乗れるんだな」


「はっ」


「いや、乗れないとは思ってなかったが」


 そう言ってから、俺は少し考えた。


 ……いや、正直に言えば、ちょっと心配していたな。


 あれだけ大きな身体で馬に跨がっていると、何だか馬が小さく見えるんだよ。


 とはいえ、問題なく乗りこなせているなら、それでいい。


 これで新入りだけを歩かせるという、何とも格好の悪い状況からも解放されたわけだ。


「よし、行くか」


 俺が馬を進めると、セバスチャンが隣へ並び、グレゴリオも少し後ろからついてきた。


 こうして、俺たちは再び王国領内を進み始めた。


 もちろん、やることは変わらない。


 畑を焼く。


 ひたすら焼く。


 ただし、全部焼くわけではない。


 そこが重要なんだよな。


 最初にグレゴリオがその様子を見た時、少し不思議そうな顔をした。


 俺たちが見下ろしている先には、畑が広がっていた。


 まだ焼かれていない場所と、既に黒くなっている場所がある。焦げた土の向こうには青々とした作物が残り、風が吹くたびに葉が揺れていた。


 どう見ても中途半端だ。


 焼くなら全部焼けばいいのに、と思うのも無理はない。


「グレゴリオ、どうした?」


 俺が声をかけると、大男は少し考えてから口を開いた。


「なぜ、残すのでしょうか」


「ああ、畑か?」


「はっ」


 なるほど。


 まぁ、普通はそう思うよな。


 敵の食糧を奪うのが目的なら、残さず焼いた方がいいように見える。


 だが、俺が欲しいのは単に食糧を減らすことだけじゃない。


「全部焼いたら、みんな等しく食い物がなくなるだろ?」


「はっ」


「だが、残っている場所があったらどうする?」


 グレゴリオは焼け残った畑へ視線を向けた。


 俺はその横顔を眺めながら続けた。


「食い物がなくなった奴は、残っているところから手に入れようとする。持っている奴は当然、渡したくない。そうなればどうなる?」


 グレゴリオの濃い眉が僅かに動いた。


「……争いになりますな」


「そういうことだ」


 うん。


 ちゃんと分かるじゃないか。


「俺たちが全部焼かなくても、食い物を巡って勝手に争ってくれるなら、その方が楽だろう?」


「はっ」


 グレゴリオは短く返事をすると、もう一度畑を見た。


 何となくだが、納得したように見える。


 力が強いだけの男かと思っていたが、頭もそれなりに回るらしい。


 いいことだ。


 騎士なんだから戦えるのは当然として、こちらが何をしたいのか理解してくれるなら、余計な説明を何度もしなくて済む。


 それに俺だって、いちいち全員へ細かく命令するのは面倒だ。


 やりたいことが分かっているなら、自分たちで考えて動いてくれればいい。


 そういう意味では、グレゴリオはなかなか良い拾い物だった。


 まぁ、見た目は少々恐ろしいがな。


 いや、むしろそこがいいのかもしれない。


 実際、こいつは随分と役に立った。


 何しろ、見た目が怖い。


 禿頭に髭モジャ、分厚い胸板に太い腕。その大きな身体で馬に跨がり、長く重そうな武器を持っているんだから、相手からすれば相当な迫力だろう。


 しかも、あまり喋らない。


 ただ黙って相手を見ているだけなのに、それがかえって恐ろしいらしい。


 俺たちが畑へ向かって進んでいると、こちらに気づいた者たちが慌てて逃げ出すことがあった。


 グレゴリオが何かしたわけじゃない。


 ただ馬に乗って、他の騎士たちと一緒に進んでいただけだ。


 それなのに、相手は勝手に逃げていく。


 実に便利だ。


「お前、なかなか役に立つな」


 俺がそう言うと、グレゴリオは少し首を傾けた。


「はっ」


「いや、褒めてるんだぞ?」


「ありがたき幸せ」


 ……相変わらず短いな。


 だが、悪い気はしていないようだった。


 そもそも、あまり表情が豊かな男ではない。


 嬉しいのか、困っているのか、何を考えているのか、顔を見ただけではなかなか分からん。


 まぁ、セバスチャンや他の騎士たちとは普通にやれているようだし、そこまで心配する必要もなさそうだ。


 最初は随分と戸惑っていたが、今では周囲の動きに合わせて馬を進め、必要な時には自分から動いている。


 あの夜の説明も、少しは役に立ったのかもしれない。


 何より、俺が見ていないところでも騎士たちと問題を起こしている様子はない。


 よし、よし。


 新入りがちゃんと馴染んでくれるのは、主人としてもありがたいことだ。


 そんなわけで、俺たちは王国の畑をまだらに焼き払いながら進撃を続けた。


 ある場所では広い畑の一部だけを焼き、別の場所では逆に大半を焼いて僅かに残す。


 遠くから眺めれば、焼けた畑と焼け残った畑が入り交じり、何とも奇妙な光景になっていた。


 黒く焦げた土からはまだ煙が上がり、その向こうで無事な作物が風に揺れている。


 同じ畑なのに、こちら側は真っ黒で、少し離れれば何事もなかったように緑が残っている。


 我ながら嫌らしいやり方だな。


 だが、戦争なんだから仕方ない。


 別に畑を綺麗に焼くことが目的じゃないし、相手に公平な被害を与えてやる必要もない。


 王国が困ればそれでいい。


 俺たちが進む先では、騎士たちが手分けして畑へ火を放っていた。


 乾いた葉が燃え始めると、炎は作物の間を這うように広がり、黒い煙が空へ伸びていく。


 火を放った場所を確かめ、残すと決めた畑には手を出さず、次へ進む。


 セバスチャンもグレゴリオも、他の騎士たちも、今では俺が何をしたいのか理解している。


 だから、細かいことまでいちいち指示する必要がなくなった。


 楽でいいなぁ。


 それに、どうやら効果も出ているらしい。


 この頃になると、王国各地で領民同士の争いが頻繁に起きているという噂を耳にするようになった。


 食い物を巡って揉めているとか、領主が対応に苦慮しているとか、そんな話だ。


 もちろん、俺が直接見たわけじゃない。


 噂なんてものは大袈裟になることもあるし、どこまで本当なのかは分からん。


 だが、まったく何も起きていないなら、そんな話があちこちから聞こえてくるとも思えない。


 多少なりとも、こちらの狙いどおりになっているのかもしれないな。


 俺は馬上で遠くの煙を眺めながら、そんなことを考えていた。


 そして、少々面倒な場所にも差しかかった。


 ルディア領だ。


 ……うーん。


 どうするかな。


 別に、ここは見逃してもいいんだよなぁ。


 オルフィアのこともあるし、わざわざ畑を焼く必要もないような気がする。


 だが、逆に問題がある。


 俺たちはこれまで王国の畑をあちこち焼き払ってきた。


 それなのに、ルディア領だけ綺麗に残っていたらどうなる?


 ……目立つよなぁ。


 何であそこだけ焼かれていないんだ、という話になりかねない。


 もちろん、必ずそうなるとは限らない。


 だが、余計な疑いを招くようなことはしたくない。


 かといって、他と同じように派手に焼き払うのも気が進まん。


 俺はしばらく畑を眺め、それからセバスチャンへ顔を向けた。


「ここは少しだけ焼くぞ」


「少しだけ、ですかい?」


「ああ。全部残すのも不自然だろ」


 セバスチャンは俺の顔を見て、それから畑へ視線を戻した。


「なるほど」


 それ以上は何も言わなかった。


 グレゴリオも黙っている。


 まぁ、事情を全部知っているわけじゃないだろうし、俺が何を考えているかまでは分からんだろう。


 別に説明する必要もない。


 結果として、ルディア領の畑も少しだけ焼き払うことになった。


 作物の一部が燃え、細い煙が空へ立ち上っていく。


 俺はその様子を馬上から眺めた。


 ……すまんな、オルフィア。


 まぁ、全部焼いたわけじゃないし、勘弁してくれ。


 いや、怒られるかもしれんが。


 だが、ここだけ見逃したせいで妙なことになるよりは、多少焼いておいた方がいいと思うんだよな。


 何とも面倒な話だ。


 そうして俺たちは、さらに王国領内を進んでいった。


 振り返れば、随分と多くの畑を焼き払ったものだ。


 最初の頃は、一つ一つの畑を見て、どこまで焼くか考えていた。


 だが、今では似たような景色を何度も見ている。


 黒くなった畑、焼け残った作物、遠くへ逃げていく人影。


 煙の匂いにも、すっかり慣れてしまった。


 別に好きな匂いではないんだけどな。


 そういえば、もう随分と王都に近づいてきた。


 俺は馬の歩みを緩め、前方へ目を向けた。


 さて。


 進むか、戻るか。


 正直、これ以上進む意味がどれほどあるのか、少々疑問なんだよなぁ。


 王都の周辺ともなれば、当然守りも固くなる。


 これまでのように、騎士団で移動しながら好き勝手に畑を焼くというわけにはいかなくなるだろう。


 それに、畑も少なくなってきた。


 ここから先へ進めば、畑ではなく街を焼き払うことの方が多くなるかもしれない。


 もちろん、それにも意味はある。


 街を焼けば、王国の人的資源に損害を与えられるからな。


 だが、そこが少々厄介だ。


 基本的に、この世界の軍事力の主力は騎士などの魔力持ちだ。


 平民が何人いようが、強い魔力持ちが相手では簡単にひっくり返される。


 だから、人的資源を削るという意味では、平民を多少減らすより、魔力持ちを倒した方が直接的な効果は大きい。


 もちろん、平民がいなくなれば畑を耕す者も、物を運ぶ者もいなくなる。


 そういう意味では無駄じゃない。


 だが、王都の近くまで行って街を焼くとなれば、当然、守っている魔力持ちを相手にしなくてはいけなくなるだろう。


 しかも、王都に近いということは、相手にとっても守る意味が大きい場所だ。


 これまでより抵抗が激しくなる可能性は高い。


 ……出来なくはない。


 実際、俺ならそれなりの相手が出てきても戦える自信はある。


 セバスチャンもいるし、グレゴリオも加わった。


 騎士団の連中だって弱くない。


 だが、だからといって、わざわざ強い相手と戦わなくてはいけない理由もない。


 俺たちは十分に畑を焼いた。


 王国各地で争いが起きているという噂もある。


 ここから先へ進んで、さらに何を得る?


 王都の周りを焼き払ったところで、こちらが失うものの方が大きくなったら馬鹿みたいじゃないか。


 俺は少し考え、馬の首筋へ目を落とした。


 ……戻るか。


 そろそろ善良王が処刑される頃だしな。


 もちろん、正確にいつ処刑されるのかまでは分からない。


 だが、いつまでも生かしておくとも思えない。


 どうせなら、見ておきたい。


 別に処刑を見るのが趣味というわけじゃないぞ。


 そんなものを喜んで見物するほど、俺だって暇じゃない。


 ただ、あいつを王城から攫ってきたのは俺だからな。


 そこから先のことは、俺一人で決めたわけじゃない。


 だが、少なくとも俺が攫ってこなければ、あいつは今も王城にいたかもしれない。


 そう考えれば、最期を見届ける責任くらいはあるだろう。


 まぁ、何を考えて死ぬのかまでは知らんし、別に聞きたいとも思わないが。


 自分が連れてきた男がどうなるのか、それくらいは見ておきたい。


 俺は手綱を軽く引き、隣にいるセバスチャンへ顔を向けた。


「よし、戻るぞ」


 セバスチャンは俺を見た。


「戻りやすか?」


「ああ、もう十分だろう。これ以上進んでも、面倒なだけだ」


「分かりやした」


 セバスチャンが頷き、後ろにいる騎士たちへ声をかけた。


 それを聞いた騎士たちが動き始める。


 グレゴリオも周囲の動きに合わせ、馬の向きを変えていた。


 うん。


 こいつもすっかり馴染んだな。


 最初は馬すら持っていなかったのに、今では他の連中と一緒に動いている。


 なかなか良い拾い物だった。


 もっとも、これ以上禿頭髭モジャの大男ばかり増えても困るが。


 次に拾うなら、できれば美人がいいなぁ。


 ……いや、今はそんなことを考えている場合じゃないか。


 俺は前方へ目を向けた。


 帰るとなれば、それなりに距離がある。


 来る時にも随分とあちこち動き回ったし、すぐに帰れるわけじゃない。


 まぁ、急ぐ必要があるなら急げばいい。


 馬もいるし、騎士団の連中もまだ十分に動ける。


 それに、これ以上王国の畑を焼いて回る必要がないと思えば、気分も少し楽になる。


 俺は鞍の上で軽く身体を伸ばした。


 善良王の処刑を見届ける。


 それが、今のところ帰る理由だ。


 だが、それだけじゃない。


 正直なところ、そろそろレティシアたちにも会いたいんだよなぁ。


 戦争だの焦土作戦だの、そんなことばかりしていると、どうにも女が恋しくなる。


 いや、別に毎日女を抱かなければ死ぬわけじゃないぞ。


 そんなことはない。


 ……ないと思う。


 だが、会いたいものは会いたいんだから仕方ない。


 レティシアたちはどうしているかな。


 俺がいない間も、いつもどおり過ごしているだろうか。


 まぁ、帰れば分かることだ。


 何にせよ、そろそろ戻ってもいい頃だろう。


 俺は少しだけ馬を進め、騎士たちの動きを確かめた。


 セバスチャンも、グレゴリオも、他の連中もちゃんとついてきている。


 よし。


 もう十分に王国には嫌がらせをした。


 後は帰って、善良王の最期を見届ける。


 それが済んだら、ようやく少しはゆっくりできるかな。


 ……まぁ、そう簡単にいくかどうかは分からんが。


 俺は手綱を握り直し、馬を進めた。


 それに、正直なところ。


 レティシアたちの方が気になるしな。

【11月1日からの更新について】


いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。


11月1日より、本作を「カクヨム」にも投稿することにしました。


小説家になろうでの連載は、これまでどおり継続します。


更新時間は以下のとおりです。


小説家になろう

午前5時・12時・20時


カクヨム

午前4時・11時・19時


カクヨムについては、まだ私自身が操作に慣れていないため、念のため、なろうより1時間早い更新とさせてください。


今回、複数のサイトに投稿することにしたのは、最近の緊急メンテナンスなどを受け、万一どちらかのサイトで更新や閲覧ができなくなった場合でも、もう一方で連載を継続できるようにするためです。


なお、小説の本文は両サイトで同じ内容となります。


カクヨムでは11月1日以降の話から掲載する予定です。


また、感想やコメントへの返信はそれぞれのサイトで個別に行いますので、内容が異なる場合があります。


そのため、ちょっとした小ネタや裏話、今後の展開を匂わせるような話が、片方の感想欄だけに登場することもあるかもしれません。


もちろん、これまでどおり小説家になろうで読んでいただいても、まったく問題ありません。


今後とも本作をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
カクヨムのほうでもよむか
セバスチャンもあまり主人公のブレーキ役になっていないが、グレゴリオもあまりブレーキになりそうもない。 思慮深くはありそうだが寡黙すぎて。 カクヨムの方もフォローしましたが、途中から書き始めるのですか…
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