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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百四十八話 戦果と小麦の値段


 父上の天幕に入り、俺は帰還後の詳しい報告を始めた。


 昨日は顔を見せただけで休ませてもらったからな。今日は今回の後方襲撃について、きちんと説明しておかなければならない。


 もっとも、別に失敗したわけではないんだから、気楽なものだ。


 いやぁ、こういう時は仕事が上手くいっているとありがたいよな。


 父上は俺の方へ顔を向け、話を聞く姿勢を取っていた。昨日より少し疲れているようにも見えるが、それも無理はないだろう。


 何しろ、こちらの本隊を率いているのは父上なんだからな。


 俺が後方で好き勝手に襲撃している間も、父上は軍全体のことを考えなければならない。


 大変なお仕事である。


 ……まぁ、俺もその軍の一部なんだが。


「今回の後方襲撃では、王家の血を継ぐ貴族家の領地を中心に、砦や街、穀物の貯蔵庫や畑などを重点的に狙いました。また、その過程で多数の騎士と、少数ですが貴族を倒しております」


「ふむ」


 父上は短く頷いた。


 俺はその様子を見ながら、今回の襲撃を思い返した。


 敵の後方を荒らすというのは、なかなか面倒な仕事だ。


 単に目についたものを片っ端から壊せばいいというわけではない。


 もちろん、敵の施設を破壊すること自体にも意味はある。だが、それだけでは兵力や時間を無駄に使うことにもなりかねない。


 特に今回は、王家の血を継ぐ貴族家の領地を中心に攻撃してきた。


 王国側の戦争を支えている連中に、できるだけ大きな負担をかけるためだ。


 砦を破壊すれば、その場所を守ることが難しくなる。街を襲えば、そこを拠点としている連中にも影響が出るだろう。


 そして、穀物の貯蔵庫や畑だ。


 こちらは、壊されたからといって簡単に元へ戻せるものではない。


 何しろ、食い物というのは必要だからといって、いきなり増やせるわけではないからな。


 俺たちが襲撃している間にも、敵は飯を食っている。兵士も騎士も、食わなければ戦えないのは同じだ。


 その食い物を減らしてやれば、当然ながらどこかで困ることになるだろう。


 まぁ、俺たちだって同じことをされたら困るんだが。


 だからこそ、敵の後方を狙う意味がある。


 もっとも、どれだけの効果があったのか、俺にはまだ分からない。


 攻撃した場所については報告できるが、その後に敵がどう動いたかまでは、全部見てきたわけではないからな。


 俺は少し考えてから、もう一つ気になっていたことを伝えることにした。


「また、途中からですが、やや騎士の数が補充されたようにも感じました。ただ、明確ではありません」


 これは少々判断に困るところだ。


 襲撃を続けているうちに、敵の騎士の数が増えたように感じる場面があった。


 だが、実際にどこかから補充されたのか、それとも俺たちが襲撃した場所の違いによるものなのか、そこまでは分からない。


 何しろ、敵の騎士を一人ずつ記録していたわけではないんだからな。


 感覚だけで断定するのはよろしくない。


 だから、あくまでそう感じたという程度の報告にとどめておく。


「うむ」


 父上は頷くと、少し間を置いてから口を開いた。


「ジキタリヌ家、カリウス家、マグニア家の三家は、徐々にだが軍を退きつつある。どうやら耐えられなくなったらしい」


 ほう。


 それはなかなかいい話じゃないか。


 三家が軍を退きつつあるということは、少なくとも王国側にとって喜ばしい状況ではないだろう。


 俺たちが後方を襲撃していたことも、ある程度は影響しているのかもしれない。


 もちろん、三家が軍を退く理由がそれだけとは限らないが。


 俺が知らないところでも色々と戦況は動いているだろうし、父上もその辺りを考えながら軍を動かしているはずだ。


 それでも、わざわざ敵の後方まで行って散々暴れてきた身としては、こういう話を聞くと嬉しいものだ。


 うん。


 ちゃんと働いた甲斐があったな。


「今後も継続して後方を混乱させよ」


 父上から新たな命令が下った。


 おお、続けていいのか。


 それはありがたい。


 実際、まだまだやれることはあるだろうし、俺としても途中でやめてしまうのは少々もったいないと思っていたところだ。


 敵が困り始めているのなら、なおさら続ける意味がある。


「はい、お任せください」


 俺は頷き、父上の表情を窺った。


 ふむ。


 疲れているようには見えるが、機嫌は悪くなさそうだな。


 少なくとも、今の報告で不満を感じているようには見えない。


 それなら、もう一つ聞いておきたいことがある。


 実は帰り道から少々気になっていたんだよな。


 父上がどう考えているのか、できれば確かめておきたい。


「それと何ですが」


「うん? どうした? 言ってみよ」


 父上がこちらへ目を向けた。


 よし。


「はい、小麦の価格が気になります」


「うむ」


 父上は短く答えたが、特に驚いた様子はない。


 俺はそのまま話を続けた。


「我らの襲撃で敵の食糧備蓄、食料生産力は落ちると思うのですが、その不足分を帝国側から購入しようとするのではないでしょうか?」


 そう。


 これが気になっていたんだ。


 俺たちは王国側の穀物貯蔵庫や畑を重点的に襲撃してきた。


 当然、敵の食糧は減るだろうし、今後の生産にも影響があるはずだ。


 だが、だからといって王国全体から食い物がなくなるわけではない。


 不足するのなら、どこかから買ってくればいいという考え方もできる。


 そして、王国が食糧を買おうとする相手には、帝国側の貴族や商人も含まれるかもしれない。


 別に、戦争をしているからといって、すべての帝国貴族が王国への商売をやめるとは限らないからな。


 何しろ、金になるなら売りたいと考える者はいるだろう。


 そこまでは仕方がない。


 問題は、いくらで売るかだ。


「ふむ、もしそうならどうする?」


 父上が少し笑いながら尋ねてきた。


 ん?


 ああ、なるほど。


 これは父上、既に気づいてくれているな。


 少なくとも、俺が何を気にしているのかは分かっているようだ。


 それにしても、こういう聞き方をするということは、俺がどう答えるのか確かめたいのかもしれない。


 まぁ、せっかく聞かれたんだから、きちんと答えよう。


「はい、高値で売却するのであれば問題はありません。王国から財を奪うことになりますので」


 父上は黙って続きを待っている。


「ですが、安値で売る帝国貴族がいるのであれば、注意喚起をお願いしたいのですが。我らの襲撃の効果にも影響しますので」


 これが俺の考えだ。


 別に食糧を売ること自体が悪いとは思わない。


 高く売れるのなら、むしろ結構なことだ。


 王国は不足する食糧を手に入れられるかもしれないが、その分だけより多くの財を支払うことになる。


 戦争というのは、兵士や騎士を揃えれば終わりというものではない。


 装備も必要だし、食糧だっている。


 それらを手に入れるためには、当然ながら金がかかる。


 ならば、敵に余計な金を使わせることにも意味があるだろう。


 こちらが穀物を破壊し、その不足分を高値で買わせる。


 それなら、敵に与える負担は小さくないはずだ。


 だが、安値で大量に売られてしまったら話は違う。


 せっかく俺たちが食糧を減らしても、王国が簡単に補充できてしまうのなら、効果が薄れてしまう。


 まして、そのために支払う金まで少なくて済むのなら、敵にとってはありがたい話だろう。


 そんなことになったら、俺たちは一体何のために頑張って襲撃しているのか分からなくなる。


 いや、砦や騎士にも損害を与えているんだから、まったく無意味というわけではないんだが。


 それでも、せっかくならできる限り効果を高めたいものだ。


 そう考えていたところ、父上が笑い出した。


「うむ、良く気付いたな。安心せよ、既に通常より高値で売れると噂を流している」


 おおっ。


 さすが父上だ。


 既に手を打っていたのか。


 しかも、直接売買を制限するのではなく、噂を流しているときた。


 うーむ。


 なるほどなぁ。


 それはなかなか上手いやり方じゃないか。


 俺は思わず感心してしまった。


 確かに、通常より高値で売れるという噂が広がっていれば、わざわざ安値で売ろうとする者は減るだろう。


 例えば、同じ小麦を売るにしても、いつもより高い値段で買ってもらえると聞けば、そちらの値段を期待するのが普通だ。


 何しろ、売る側からすれば高い方が儲かるんだからな。


 別に王国を苦しめるつもりなどなくても、利益を求めて値段を上げることは充分に考えられる。


 そして、噂というのがまたいい。


 父上が帝国貴族たちへ直接命令したわけではない。


 あくまで高値で売れるという話が広がっているだけなら、仮に何か言われても、マバール家が売却価格を強制したことにはならないだろう。


 いやぁ、実に上手い。


 それに、噂というものは貴族だけが耳にするわけではないからな。


 商人たちにも広がっている可能性は高い。


 もし商人が高値で売れるという噂を知っていたら、安く買い叩くことにも慎重になるだろう。


 売り手がもっと高く売れると知っているのに、わざわざ安い値段を提示するんだからな。


 当然、相手だって簡単には納得しないはずだ。


 そうなれば、売買の値段は自然と高い方へ引っ張られていくかもしれない。


 何しろ、誰だって儲けたいからな。


 もちろん、噂だけで全員が同じ値段で売るようになるとは限らない。


 それでも、帝国貴族や商人たちが自分から高値を求めるようになれば、わざわざ細かく指示する必要もない。


 しかも、こちらは噂を流しただけだ。


 うーむ。


 さすが父上。


 やり方が悪どい。


 いや、もちろん褒めているんだぞ。


 俺としては、実にありがたい方法だと思っている。


 何しろ、こちらは敵の食糧を減らすことに集中すればいいんだからな。


 王国が不足分を帝国側から買おうとすれば、その時は高い金を支払うことになるかもしれない。


 食糧を失うか、財を失うか。


 どちらに転んでも、王国側の負担は増えるだろう。


 もちろん、実際の売買がどうなるかまでは分からないが、少なくとも何も対策していないよりはずっといい。


 しかも、俺たちが後方を襲撃し続ければ、食糧不足はさらに深刻になる可能性がある。


 そうなれば、今後はますます高値でも買わなければならなくなるかもしれない。


 いやぁ、これは面白い。


 俺たちが頑張れば頑張るほど、敵は食糧のことで困る。


 そして、困った敵が金を使えば、それはそれで負担になる。


 うん。


 実にいいじゃないか。


「ありがとうございます。これで我らも襲撃に集中出来ます」


 俺が礼を言うと、父上は満足そうに頷いた。


「無理のない程度に頑張るのだぞ」


「はい」


 おお、ありがたいお言葉だ。


 何しろ、無理のない程度でいいというのが素晴らしい。


 いや、もちろん仕事はきちんとするつもりだぞ。


 ただ、無理をしてまで頑張る必要がないと言ってもらえるのは、俺としては実にありがたい。


 せっかくの三男坊人生なんだから、できるだけ楽しく過ごしたいものだ。


 さて、これで後方襲撃の報告はひとまず済んだな。


 父上の方針も確認できたし、今後も続けていいという命令も受けた。


 なかなか有意義な話だった。


 ……おっと。


 そうだ。


 もう一つ、忘れてはいけないことがあった。


「ああ、それで、帰り道で一人面白い平民の子供を拾ったのですが、マバール城に送っても構いませんか? 世話はこちらでやりますので」


 俺がそう言うと、父上は少し意外そうな顔をした。


 まぁ、そうだろうな。


 後方襲撃の報告をしていた息子が、いきなり子供を拾ってきたと言い出したんだから。


 俺だって、立場が逆だったら少し驚くかもしれない。


 だが、別に大した話ではない。


 面白い才能を持った子供を見つけたので、ちょっと保護してきただけだ。


 今後の世話についても、俺の方で手配するつもりでいる。


 父上に余計な負担をかける必要はない。


 ただ、マバール城へ送る以上、さすがに許可くらいはもらっておいた方がいいだろう。


 父上は俺の顔を見てから、短く答えた。


「ふむ、まぁ、その程度なら問題あるまい。好きにして構わん」


 おおっ。


 やった。


「はい、ありがとうございます」


 俺は素直に礼を言った。


 いやぁ、よかったよかった。


 これでベルをマバール城へ送ることについても、父上から正式に許可をもらえたわけだ。


 あとはベルが落ち着くのを待って、実際に送り出すだけだな。


 それまでの世話は俺が考えればいい。


 何しろ、拾ってきたのは俺なんだから。


 しかし、父上も随分とあっさり許可してくれたな。


 まぁ、平民の子供を一人城へ送るくらいなら、そんなに大きな問題でもないんだろう。


 それに、俺が世話をするつもりだと言っているんだから、父上としても特に反対する理由はないのかもしれない。


 ありがたいことだ。


 さて、これで聞いておきたいことは全部済んだかな。


 後方襲撃の件も問題ない。


 小麦価格についても父上が手を打ってくれている。


 ベルのことも許可をもらえた。


 うん。


 万々歳だな。


「では、数日身体を休めたら、また後方襲撃に出陣します」


「うむ、頼んだぞ」


「はい。それでは失礼します」


 俺は父上に礼をして、天幕を後にした。


 外へ出ると、夕方の空気が少しひんやりと感じられた。


 天幕の間にはまだ人の行き来があり、遠くから騎士たちの声が聞こえてくる。


 さっきまで父上と戦争の話をしていたせいか、そんな光景も少し違って見えた。


 もっとも、俺としてはひとまず仕事が片付いたところなんだが。


 いやぁ、よかったな。


 後方襲撃は続けられる。


 しかも、すぐに出陣する必要はなく、少しだが休養も取れる。


 そしてベルの件についても、父上から正式に許可をもらえた。


 うーむ。


 今日はなかなかいい日じゃないか。


 さて、これからどうするかな。


 まずは手紙を送っておこう。


 レティシアたちへの手紙は、今日の午前中に書き終えている。


 リエリエールにもベルのことを頼む手紙を書いたし、あとは発送するだけだ。


 そうすれば、ベルがマバール城へ着く前に、向こうでも事情を知ってもらえるかもしれない。


 もちろん、手紙がいつ届くかまでは分からないんだが。


 まぁ、その辺りは上手く考えればいいだろう。


 何しろ、今すぐベルを送り出すつもりはない。


 まずは何日か、ここでゆっくりさせてやりたいからな。


 まだ村を離れたばかりだし、今日だって知らない場所に慣れている途中なんだろう。


 本人がどう感じているかは分からないが、少なくとも急いで送り出す理由はない。


 俺もしばらく休めることになったんだから、その間くらい一緒に過ごしてやればいい。


 それに、数字の問題もまだまだ出してみたい。


 今朝は手紙を書きながら適当に問題を渡しただけだったが、あれだけ楽しそうに考えているのを見ると、こちらまで色々と思いついてしまう。


 どんな問題なら解けるんだろうな。


 いや、解けるかどうかは別にどうでもいいんだ。


 むしろ、難しい問題に出会った時、どうやって考えるのかを見る方が面白い。


 馬の蹄の数を計算した時もそうだった。


 俺が思いついたやり方を教えるまでもなく、ベルは自分なりに数字を分けて考えていた。


 ああいうところをもっと見てみたいんだよな。


 まぁ、だからといって無理に勉強させるつもりはないが。


 暇な時に一緒に遊んで、腹が減ったら飯を食わせて、眠くなったら寝かせてやる。


 しばらくはそれでいいだろう。


 そして、ベルが少し落ち着いたらマバール城へ送り出す。


 さて、どうやって送ろうかな。


 ……ああ、そうだ。


 本陣からマバール城へは補給部隊が行き来しているんだったな。


 それを利用すればいいじゃないか。


 わざわざベルのためだけに人を動かす必要もないし、帰る部隊に頼めば済む話だ。


 もちろん、実際に送り出す時にはきちんと話をつける必要があるが、今から難しく考えることでもない。


 うん。


 それで決まりだな。


 マバール城にはレティシアもダリアもいるし、リエリエールだっている。


 知らない場所に一人で行くことになるベルは寂しがるかもしれないが、あいつらならきっと上手く相手をしてくれるだろう。


 特にリエリエールには、数字が好きな子供だということをちゃんと書いておいたからな。


 まぁ、どんな遊び方をするのかは本人に任せよう。


 俺がいちいち口を出す必要もない。


 それに、あいつらにとっても面白い娘かもしれないしな。


 ……ただ、あの魔法オタクとあまり混ぜないようにだけはしておきたいが。


 うーん。


 そこは少し心配だな。


 まぁ、何かあればその時に考えるか。


 とにかく、まずは手紙だ。


 それからベルと遊んで、ちゃんと飯を食わせて、もう少しここでの生活に慣れてもらおう。


 そうして落ち着いたら、マバール城へ送り出す。


 よしよし。


 なかなかいい予定じゃないか。


 そして、ベルを送り出した後は、俺たちも再び仕事だ。


 父上からは後方襲撃を続けるよう命じられている。


 敵の三家が軍を退きつつあるという話も聞けたし、まだまだ頑張る意味はありそうだ。


 しかも、食糧不足については父上が既に手を打っている。


 こちらとしては、余計なことを心配せずに敵の後方を荒らして回ればいい。


 いやぁ、実にありがたい。


 もちろん、無理をするつもりはない。


 父上からもそう言われたばかりだからな。


 休める時にはしっかり休む。


 働く時にはちゃんと働く。


 そして、できれば面白いことも見つける。


 うん。


 これくらいが俺にはちょうどいい。


 俺はすっかり暗くなり始めた本陣を眺めながら、満足して頷いた。


 さて、まずは天幕へ戻ろう。


 ベルも大人しく待っているはずだし、今度は何を考えていたのか聞いてみるか。


 あいつが数字を前にしてどんな顔をするのか、少し楽しみになってきた。


 何しろ、しばらくは遊ぶ時間もあるんだからな。


 よーし。


 まずは手紙を送って、しばらくベルと遊んで、それからマバール城へ送り出す。


 そして俺たちは、楽しく後方襲撃を再開するとしよう。

本日の更新は、5時、12時、20時の予定です。

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レダリエべ騎士団になりそう
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