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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百三十六話 肉も敵もじっくり


 俺たちはそれからも襲撃を続けた。


 もちろん、ジキタリヌ家だけではない。カリウス家もマグニア家も、きちんと襲わせてもらっている。差別は良くないからな。流石に三家を完全に平等に襲うことはできなかったが、ある程度は公平に被害を与えられたんじゃないだろうか。


 いや、だからどうしたと言われれば、それまでなんだが。


 そもそも、敵の領地を公平に襲撃する必要なんてあるのか? などという疑問は、この際考えないことにしよう。俺たちにとって都合のいい場所を襲っているだけだし、どうせ向こうからすれば、どこを襲われようが迷惑な話だろうからな。


 その日も、俺たちはカリウス家の領内にある街を襲っていた。


 少し離れた場所から感知魔法を広く展開してみると、街の内外にいくつもの魔力反応がある。ただし、まとまっているというほどではなく、いくつかの場所に散らばっていた。


 ふむ。


 騎士たちがあちこちに配置されているらしい。


 以前より警戒が厳しくなっているのかもしれないが、だからといってこの程度では襲撃を諦める理由にはならない。


「若様、どうします?」


 隣で馬を進めていたセバスチャンが尋ねてきた。


「いつも通りだ。さっさと襲って、さっさと逃げるぞ」


「へい」


 俺の返事に、セバスチャンは口元を緩めた。


 まったく、頼もしい奴だよな。


 普通、他領の街を襲うと聞けば、多少は緊張したり慎重になったりするものだと思うんだが、最近のこいつらときたら、これからいつもの仕事でも始めるような顔をしている。


 まぁ、実際にいつもの仕事になってしまっているんだけどな。


 俺が先頭に出て馬を走らせると、騎士たちも速度を上げた。


 街へ近づくにつれて、こちらに気づいたらしい騎士たちの魔力反応が動き始める。まだ距離があるというのに、いくつかの反応が街の外へ向かってきた。


 おお、今回は対応が早いな。


 これだけ何度も襲っていれば、少しは慣れてくるか。


 だが、早く動けることと、俺たちを止められることは別問題だ。


 前方に騎士たちの姿が見えたところで、俺は右手を向けて攻撃魔法を放った。


 轟音とともに地面が弾け、土煙が勢いよく巻き上がる。


 まともに巻き込まれた騎士の魔力反応が消え、近くにいた別の騎士たちの反応も大きく乱れた。


 そのまま速度を落とさずに進む。


「残った奴らは任せるぞ!」


「へい!」


 セバスチャンが応じ、騎士たちが左右へ広がった。


 俺は先へ進みながら、街の中に残っている騎士たちの魔力反応を確かめる。


 まだいるな。


 こちらの襲撃に気づいて動き始めているようだが、集まるより先に叩いてしまえばいい。


 再び攻撃魔法を放つと、街の建物の一角が崩れ落ちた。


 衝撃で土埃が広がり、悲鳴が上がる。道を走って逃げる平民たちの姿が見えたが、俺はそちらへ攻撃を向けず、魔力反応のある場所を狙った。


 平民を攻撃魔法まで使って殺すつもりはない。


 とはいえ、街の中でこれだけ派手に暴れていれば、巻き込まれる奴もいるだろう。


 それは仕方がない。


 俺たちは敵地を襲撃しているのであって、街の住民を安全な場所へ避難させに来たわけではないからな。


 もっとも、平民の立場からすれば、そんな理屈は知ったことじゃないだろうが。


 背後ではセバスチャンたちが敵騎士を追い詰めていた。


 馬を返してこちらへ近づいてくる敵騎士がいたので、俺は軽く攻撃魔法を放って牽制する。相手が体勢を崩したところへ、味方の騎士が斬りかかった。


 すぐにその魔力反応も消える。


 うむ。


 手際がいい。


 俺がいちいち指示しなくても、それぞれが自分の役割を理解して動いている。


 こういう連中を率いていると、実に楽でいい。


 しばらくして、街のあちこちから煙が上がり始めた。


 建物の間を炎がちらつき、風に乗って焦げ臭い空気が流れてくる。逃げ惑う人々の声に混じって、建物が崩れる音も聞こえた。


 まだ抵抗する騎士はいたが、こちらがわざわざ長居する必要もない。


「引くぞ!」


 俺が声を上げると、騎士たちは手際よく集まり始めた。


 敵の増援らしい魔力反応も近づいてきている。


 せっかく来てくれたところ申し訳ないが、相手をする義理はない。


 俺たちは燃え始めた街を背に、馬を走らせた。


 しばらく進んで振り返ると、遠くに黒い煙が立ち上っているのが見えた。


 なかなか派手に燃えているな。


 まぁ、あの街だけが特別というわけでもない。


 ジキタリヌ家でも、カリウス家でも、マグニア家でも、俺たちは似たようなことを繰り返していた。


 街を襲い、砦を破壊し、抵抗してくる騎士たちを殺す。貴族の屋敷を襲ったこともあるし、実際に何人かの貴族も殺している。


 特に騎士たちは、相当な数を殺したと思う。


 正確な人数なんて数えていないが、これだけ続けていれば、それなりの数になっているはずだ。


 平民についても同じだ。


 わざわざ狙って殺しているわけではないものの、建物が崩れたり火災が広がったりしている以上、巻き込まれて死んだ奴はそれなりに多いだろう。


 残念な話ではある。


 だが、俺たちが何もしなければ、こいつらは戦争を続けるつもりなんだろうし、こちらだけが遠慮してやる必要もないからな。


 俺の敵になったお前らが悪い。


 うん。


 実に分かりやすい話だ。


 もっとも、こんなことを言われても、向こうは納得しないだろうけど。


 そんなふうに襲撃を繰り返していたのだが、最近になって少し気になることが出てきた。


 騎士が増えているような気がするのだ。


 もちろん、感知魔法で把握できる範囲にも限りがあるし、そもそも敵が抱えている騎士の総数なんて知らない。


 だから断言できるほどの話ではない。


 だが、以前ならほとんど魔力反応がなかった場所に騎士がいたり、襲撃すると以前より早く別の騎士たちが近づいてきたりすることがある。


 最初は偶然かとも思った。


 しかし、何度か似たようなことが続くと、流石に気になる。


 ふむ。


 何か変わったのかな?


 そんなことを考えながら、俺たちはその日も夜営の準備を始めた。


 馬を休ませ、騎士たちはそれぞれ食事の支度に取りかかっている。


 俺も火の前に腰を下ろし、肉を炙っていた。


 じりじりと焼ける音が聞こえ、脂が熱せられていい匂いが漂ってくる。


 うむ。


 美味そうだ。


 肉の表面が少しずつ茶色くなっていくのを眺めながら、昼間までの襲撃を思い返す。


 敵の騎士が増えている。


 仮に俺の勘違いでないとすれば、どこから増えたんだろうな。


 まさか、いくらでも騎士が湧いてくるわけじゃないだろうし。


「ふむ、ひょっとして軍を退いたか?」


 何気なく呟くと、隣で肉を炙っていたセバスチャンがこちらへ顔を向けた。


「いや、それはありやせんな」


「そうか?」


「へい。軍を退いたんなら、もっと増えとるはずです。おそらくですが、少しずつ戻しとるんでしょう」


「ふむ……」


 なるほどな。


 軍を完全に撤退させたのなら、もっと多くの騎士が戻ってくるはずだということか。


 確かに、今の増え方はそこまで急激じゃない。


 いや、そもそも俺が敵の総数を把握しているわけじゃないんだから、増え方が急か緩やかかなんて判断も怪しいんだが。


 それでも、セバスチャンの言うことには納得できる。


 こいつの見立てだしな。


 すると、戦力の逐次投入ということか?


 うーん。


 軍事にはほとんど素人の俺でも、それは悪手だと思うんだが。


 せっかくまとまっている戦力を少しずつ戻しても、そのたびに各個撃破されるだけじゃないのか?


 というか、たぶん俺たちが各個撃破してるんじゃないかな?


 街を襲うと、近くの騎士たちが駆けつけてくる。そいつらを倒して別の場所へ移動すれば、また別の騎士たちが出てくる。


 こちらは好きな場所を選んで襲えるが、向こうはどこを襲われるか分からない。


 しかも、俺たちは戦う相手を選べる。


 敵が多すぎると思えば、別の場所へ行けばいいだけだからな。


 なのに騎士を少しずつ増やしたところで、どうなんだろう?


 まとめて対処できるだけの数が集まれば話は違うのかもしれないが、今のところ、そんな様子もない。


 まぁ、向こうにも事情はあるんだろう。


 前線の軍をすべて戻すわけにはいかないのかもしれないし、だからといって領地をこのまま荒らされるのも困る。


 そのあたりは俺には分からない。


 ただ、結果として俺たちが騎士を殺し続けているのは確かだ。


 なんだかなぁ。


 あちらさんも大変だ。


 そんなことを考えながら肉へ視線を戻すと、表面がいい具合に色づいていた。


 おお。


 だいぶ焼けたんじゃないか?


 脂も滴りそうになっているし、なんとも食欲をそそる匂いがする。


 うーん、美味そうだ。


「そろそろいいかな?」


「まだ焼けとりませんぜ」


 すぐ隣から返事があった。


 俺は思わずセバスチャンを見る。


「だが、だいぶ焼けてるぞ」


 肉を少し持ち上げて見せる。


 どう見ても茶色くなっているし、表面には脂が浮いている。


 これ以上焼いたら焦げるんじゃないか?


 セバスチャンは俺の持っている肉を一瞥すると、苦笑した。


「火に近づけすぎなんですよ」


「むう」


 そう言われて、自分の肉とセバスチャンが炙っている肉を見比べる。


 なるほど。


 確かに、俺の方が火に近い。


 というか、セバスチャンの肉は俺のものよりずいぶん離れたところで炙られている。


 そんなに離して焼けるのか?


 火に近づけた方が早く焼けると思うんだが。


 まぁ、ここは経験者の言うことを聞くべきだろう。


 俺は少しだけ肉を火から離した。


 するとセバスチャンが、また笑う。


「ゆっくりじっくり、それがコツですぜ」


「なるほどな」


 ゆっくりじっくり、か。


 確かに、焦って火に近づけすぎれば、表面ばかり焼けて中まで熱が通らないのかもしれない。


 そう考えると、何事も急げばいいというわけじゃないらしい。


 ふむ。


 そういえば、今の襲撃も似たようなものか。


 敵を一度に全部叩き潰そうとするより、少しずつ、確実に被害を積み重ねていく。


 相手が対応しようとした頃には、また別の場所を襲う。


 急ぐ必要なんてない。


 俺たちが有利な間は、相手をゆっくり追い詰めてやればいいのだ。


 なかなかいい考えじゃないか。


 俺は肉を火から少し離したまま、隣のセバスチャンへ顔を向けた。


「なるほどな、肉も敵もゆっくりじっくり焼く事にしよう」


 そう言って笑うと、セバスチャンも口を大きく開けた。


「違いねぇ」


 二人で笑いながら、俺は再び肉へ視線を戻した。


 ゆっくりじっくり。


 うむ。


 悪くない言葉だな。

本日の更新は、5時、12時、20時の予定です。

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