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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百三十二話 二度目の襲撃


 休暇というのは、過ぎてしまえばあっという間だな。


 マバール軍の本陣という、何とも落ち着かない場所ではあったが、それでも数日間はそれなりにゆっくり過ごすことができた。


 何しろ、朝から晩まで馬に乗っている必要がない。


 敵の魔力反応を探して、進路を考えて、襲撃する相手を決めて、戦って、また移動する。そんな毎日から解放されるだけでも随分と違うものだ。


 もちろん、本陣の中が静かだったわけではない。


 昼間になれば騎士や兵が行き交い、遠くでは馬の嘶きが聞こえる。文官たちも忙しそうに動き回っていて、ここも戦場であることを嫌でも思い知らされる。


 それでも、自分がその真ん中で働かなくていいというのは素晴らしい。


 うん、休暇って大事だな。


 父上にも少しは休んでいただきたいところだが、あの忙しさでは難しいだろう。


 ……そういえば。


 父上と話した夜のことが、ふと頭をよぎった。


 大陸統一。


 時が足りん。


 そして、ダル兄さんなら、と口にした俺に向けられた小さな笑み。


 ……うーむ。


 いや、やめておこう。


 あの晩は随分と色々なことを考えてしまったが、結局、父上が何を考えているのかは分からなかった。


 分からないものは仕方がない。


 考え始めると、また妙な方向へ想像が膨らんでしまいそうだしな。


 そんなわけで、休暇を終える頃には、俺も普段どおりに過ごしていた。


 そして、再び行動を共にする騎士たちと集まった。


 顔を合わせると、休暇の間はそれぞれ身体を休められたらしく、張りのある表情の騎士たちが揃っている。


 セバスチャンもいる。


 こいつは、相変わらずの顔だ。


 ……いや、当たり前なんだが。


 数日会わなかったくらいで別人になっていたら、それはそれで怖い。


 ともあれ、これでまた戦えるな。


 父上との会話については、誰にも話さなかった。


 当然だろう。


 大陸統一なんて、俺が勝手に想像を膨らませただけの話だ。


 いや、想像というより妄想に近いかもしれん。


 父上が否定しなかったことは事実だが、それ以上のことは何も分かっていない。


 そんな話を騎士たちに聞かせたところで、どうしろというのだ。


 万が一、変な形で広まったら困る。


 ……うん。


 余計なことは言わないに限るな。


 そもそも、今の俺にはもっと考えるべきことがある。


 戦争はまだ終わっていない。


 王国貴族たちは今も軍を出し、マバール家と戦っているのだ。


 俺たちが休暇を取っていた間も、戦争そのものが休みになっていたわけじゃない。


 ならば、そろそろこちらも仕事を再開しなくてはならん。


 ……まぁ、仕事と言っても、また敵の領地を荒らし回るわけなんだが。


 翌朝。


 俺たちはマバール軍の本陣を出発した。


 まだ夜の気配がうっすらと残る中、馬を進めて本陣から離れていく。背後では兵たちが動き回っているが、少し距離を取るだけで、周囲の音は随分と変わった。


 耳に残るのは馬の蹄の音と、騎士たちが身につけた装備の小さな音くらいだ。


 ……さて。


 また戦争だな。


 久しぶりの馬上というほどではないが、数日休んだだけでも身体の感覚が少し違う。


 もっとも、それほど長い間休んでいたわけではない。


 馬の動きに合わせて姿勢を整えているうちに、いつもの感覚が戻ってきた。


 隣にはセバスチャンがいる。


 その周囲にも騎士たちが続いており、皆、普段どおりの様子だった。


 しかし、今回は本陣から出発している。


 前回のように敵後方で行動していたところから、そのまま次の襲撃先へ向かうわけではない。


 だから、少し大回りする必要があった。


 何しろ、正面ではマバール軍と王国軍が戦っているのだ。


 敵後方を狙っている俺たちが、わざわざその戦場へ近づく理由はない。


 巻き込まれたら面倒だしな。


 いや、戦うこと自体が嫌なわけではない。


 そもそも、これから戦いに行くのだから。


 ただ、正面で戦うのと、敵の後方を襲うのとでは目的が違う。


 俺たちの仕事は、敵の主力と正面からぶつかることではない。


 敵が戦場へ送り出している騎士たちを、後方の領地へ引き戻させることだ。


 そのためには、敵後方まで入り込まなければならない。


 ……ふむ。


 そう考えると、大回りするのも悪くない。


 むしろ、その方が都合がいいかもしれないな。


 戦場を避けて進めば、余計な戦闘をせずに済む可能性が高いし、敵の後方へ回り込むという目的にも合っている。


 まぁ、移動距離が長くなるのは仕方ないだろう。


 馬たちにはもう少し頑張ってもらうことにしよう。


 しばらく周囲を眺めながら進んでいると、ふと気になったことがあった。


「セバス」


「へい」


「今回の目標に、王家の血統を受け継ぐ貴族家はいるか?」


 俺の問いに、セバスチャンは少しこちらへ顔を向けた。


「ウリシス家とデール家ぐらいですな」


「ふむ」


 二つだけか。


 ……まぁ、いいけど。


 それにしても、ウリシス家とデール家か。


 俺は教えられた二つの家名を頭の中に置き、少し考えた。


 王家の血統ねぇ。


 王国には色々な貴族家があるが、王家と血のつながりを持つ家となれば、また意味が違ってくるんだろうな。


 もっとも、今はそれについて詳しく考えている場合でもない。


 俺たちは、これから敵後方へ向かうのだ。


 それよりも、どこを襲撃するか決めておきたい。


 前回は随分と多くの領地を荒らして回った。


 畑を焼き、生産施設を壊し、敵貴族たちが戦争を続けるための力を削ってきたわけだ。


 もちろん、全部の貴族がそれで軍を引いたわけではない。


 領地を襲われれば、戦場から騎士たちを戻さなければならない。


 普通なら、そう考えると思うんだが。


 ……まぁ、貴族にも色々いるからなぁ。


 領地を守るより、戦場で敵を倒すことを優先する者もいるだろう。


 多少の損害なら我慢できると考える者だっているはずだ。


 それに、俺たちが立ち去った後で防衛を強化したのなら、それで十分だと判断しているのかもしれない。


 うーむ。


 そう考えているうちに、一つ思いついた。


「なぁ、セバス」


「何ですかい?」


「こないだのジキタリヌ家、カリウス家、マグニア家の三家だが、もう一度襲撃しないか?」


 セバスチャンがこちらを見た。


 俺は馬の速度を保ちながら、以前の襲撃を思い返す。


 ジキタリヌ家。


 カリウス家。


 マグニア家。


 この三家は、王家の血統を引き継ぎ前回俺たちが領地を襲撃したにもかかわらず、軍を引かなかった貴族家だ。


 畑や生産施設を荒らされたのに、それでも戦場から軍を引かなかった。


 ……なかなか頑固だよなぁ。


 いや、領地を守るために騎士を戻していた可能性はある。


 全部の騎士を戦場に残しているとは限らないからな。


 実際、俺たちに襲撃された後で、多少は防衛用の騎士を戻しているかもしれん。


 だが、そこまで大きな数ではないんじゃないだろうか。


 もし大勢を戻しているなら、それこそ俺たちの目的がある程度達成されていることになる。


 少なくとも、前回の襲撃では三家とも軍を引かなかった。


 ならば、もう一度襲撃する間隙はあると思うのだ。


「ふむ」


 セバスチャンも考え込んだ。


 その顔を横目で眺めながら、俺は続けて考える。


 何より、同じ相手を二度襲うというのが面白い。


 いや、別に相手が驚くところを見たいというだけではないぞ。


 ……少しは見たいな。


 一度襲撃された領地の貴族は、その後どう考えるだろうか。


 被害を調べ、残された施設を確認し、防衛を整え、そして戦争を続ける。


 俺たちがもう別の領地へ向かったと思っているなら、なおさらだ。


 そのところへ、また俺たちが現れる。


 ……うん。


 嫌だろうなぁ。


 俺が領主だったら、かなり嫌だ。


 一度襲われるだけでも面倒なのに、同じ相手がまたやって来るのだ。


 最初の襲撃を何とかやり過ごしたとしても、二度目があるなら話は違う。


 そして、二度目があるということは、三度目だってあるかもしれない。


 四度目は?


 五度目は?


 そんなことを考え始めたら、落ち着いて戦争なんかしていられないんじゃないだろうか。


 少なくとも、領地を守る騎士たちを減らすことには慎重になるはずだ。


 ……たぶん。


「再度襲撃されるとは考えていないだろう。そこを襲撃すれば、精神的にも大きく動揺するんじゃないか?」


 セバスチャンは黙ったまま俺の話を聞いている。


「一度ではないかもしれん、と考えるはずだ。そうなれば、領地の防衛を根本から考え直さなくてはならんだろう」


 うん。


 悪くないんじゃないか?


 相手が俺たちを警戒して騎士を領地へ戻せば、その分だけ戦場の敵が減る。


 俺たちが戦場で倒さなくても、敵の数を減らすことができるわけだ。


 実に効率がいい。


 もっとも、俺が期待したとおりに動いてくれるとは限らないが。


 それは前回の襲撃でも分かったことだ。


 同じように領地を荒らされても、貴族によって対応が違う。


 だからこそ、気になるんだよなぁ。


 いったい、どこまでやれば軍を引くのか。


 畑を焼かれても引かない。


 生産施設を壊されても引かない。


 ならば、もう一度同じことをされたらどうだ?


 それでも引かないのか?


 ……うーむ。


 どうせなら、今度は少し違うところも狙ってみたい。


 前回は畑や生産施設などを中心に襲撃した。


 領地の生産力を削り、戦争を続けるための負担を増やすためだ。


 だが、今回は砦や城も狙ってみたい。


 畑が焼かれるのと、砦が攻撃されるのでは、貴族の受け取り方も違うんじゃないだろうか。


 城まで攻撃されたとなれば、なおさらだ。


 自分たちが守るべき場所へ直接攻撃を受けても、それでも戦場の軍を引かないのか?


 それとも、さすがに騎士たちを戻すのか?


 俺は考えながら、手綱を持つ手の位置を少し直した。


 ……ふむ。


 これ、結構大事なことだよな。


 今後も敵後方を襲撃するなら、どの程度の攻撃で敵が軍を引くのか知っておきたい。


 畑や生産施設を荒らすだけで軍を戻す貴族もいる。


 だが、そうでない相手には、さらに強い攻撃を加えなければならないのかもしれない。


 もちろん、砦や城を狙えば、それだけ守っている騎士と戦う可能性も高くなる。


 前回の襲撃を受けて防衛を強化しているなら、なおさらだ。


 だが、その程度で俺たちが襲撃を諦める必要もないだろう。


 相手がどれほど騎士を戻しているかは分からんが、むしろ確かめる価値がある。


 ……まぁ、油断は禁物だけどな。


 一度勝てたからといって、二度目も簡単に勝てるとは限らない。


 特に、こちらの襲撃を経験している相手なのだ。


 何か対策を考えている可能性だってある。


 それでも、今回の再襲撃には十分な意味があると思う。


「それに、再度襲撃したら軍を戻すのかも確認したいんだよな」


 俺がそう言うと、セバスチャンがこちらへ顔を向けた。


「前回は畑や生産施設なんかを狙っただろう? 今回は砦や城も狙いたい。そこまでやっても軍を引かないのか、それとも引くのか、確かめてみたい」


 セバスチャンはすぐには答えなかった。


 馬の蹄が地面を叩く音が、しばらく俺たちの間を埋める。


 俺はその横顔を見ながら返事を待った。


 セバスチャンは実戦経験が豊富だ。


 俺には思いつかない問題が見えているかもしれないし、そもそも再襲撃なんて無駄だと考える可能性もある。


 そういう意見なら、それはそれで聞いておきたい。


 何しろ、こちらは戦争をしているのだ。


 俺が思いついたからというだけで、何でも実行すればいいわけではない。


 ……まぁ、最終的に決めるのは俺なんだが。


 しばらくして、セバスチャンが口を開いた。


「やる価値はありますな」


 おお。


 賛成か。


「そう思うか?」


「へい。一度襲撃されても軍を引かなかった連中ですからな。もう一度やってみるというのは、悪くありませんぜ」


 なるほど。


 セバスチャンも同じように考えたらしい。


 それなら話は早い。


 もちろん、再襲撃すれば必ず敵が軍を引くというわけではない。


 だが、何もしなければ何も変わらない。


 前回の襲撃で軍を引かなかった三家が、二度目ではどんな判断をするのか。


 それを確かめるだけでも、今後の襲撃先を考える参考になるはずだ。


 ……よし。


 決まりだな。


 俺は周囲の騎士たちへ顔を向けた。


「ジキタリヌ家、カリウス家、マグニア家を再度襲撃するぞ!」


 声を張ると、騎士たちの視線がこちらへ集まった。


「前回の襲撃を受けて、領地防衛のために騎士が戻っている可能性が高い。油断するなよ!」


 以前と同じ相手だからといって、以前と同じように攻撃できるとは限らない。


 少なくとも、相手はすでに一度俺たちの襲撃を受けている。


 何の備えもしていないと思い込むのは危険だ。


 こちらが少人数だからこそ、敵の守備状況には十分に気をつけなければならない。


 騎士たちも、俺の言葉を聞いて姿勢を正した。


 うん。


 これでいい。


 相手が警戒しているなら、その警戒を上回るように動けばいいだけだ。


 もっとも、実際にどう攻撃するかは現地の様子を確認してから考えよう。


 砦や城を狙うと言っても、場所によって守備の厚さは違うだろうし、無理に攻撃する必要もない。


 俺たちの目的は、敵後方を荒らして、戦場にいる敵の軍を引き戻させることなのだ。


 相手の領地へ深入りして、無駄に損害を出すことではない。


 ……まぁ、せっかく行くんだから、できるだけ派手にやりたいけどな。


 俺は前方へ視線を戻した。


 本陣を離れた俺たちは、再び王国軍の後方を目指して進んでいる。


 休暇の間に身体を休め、騎士たちも揃った。


 襲撃先も決まった。


 あとは敵の領地まで行って、実際に何ができるか確かめるだけだ。


 ……ふむ。


 やっぱり、こういう仕事の方が俺には向いている気がする。


 父上のように大量の書類と向き合っているより、ずっと気が楽だ。


 もちろん、戦争だから危険はある。


 騎士たちを率いる以上、俺にも責任がある。


 だが、それは今までも同じことだ。


 敵がいるなら探し、戦う必要があるなら戦う。


 そして、相手がどう動くかを見ながら、次に何をするか考えればいい。


 父上が大陸統一を目指しているのかどうかなんて、今の俺には分からない。


 だが、王国軍の後方を襲撃するという仕事なら、何をするべきかは分かっている。


 まずはジキタリヌ家、カリウス家、マグニア家だ。


 前回の襲撃でも軍を引かなかった三家が、今度はどう動くのか。


 ……うん。


 少し楽しみだな。


 俺は馬の歩調に合わせて身体を揺らしながら、前方へ目を向けた。


 休暇は終わり。


 さぁ、戦争の時間だ。

本日はここまでとなります。

次回は、明日5時となります。

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― 新着の感想 ―
いやほんとギルバートはイレギュラーな存在なんだろうなぁ… 帝国としてはなんとしてでもエレオノーラを嫁がせておかないとこれヤバいわってなるのでは? ギルバートが綺麗な人好きってのもどこかで伝わるかもだし…
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