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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百二十七話 予想以上の効果


「予想以上の効果だ」


 父上の陣幕に足を踏み入れるなり、そんな言葉をかけられた。


 おお、いきなりお褒めの言葉とは珍しい。いや、父上は別に褒めない人ではないのだが、こうして他の貴族たちがいる前で言われると、やはり少しばかり気分がいい。


「ありがとうございます」


 軽く頭を下げながら、陣幕の中を見渡す。


 父上の周囲には何人もの貴族が集まっていた。ザイン殿の姿もあるし、帝国から派遣されている軍官もいる。皆、それぞれにこちらへ視線を向けていた。


 外では兵士たちの声が聞こえていたが、厚い布を隔てた陣幕の中は比較的静かだった。踏み固められた地面には人の出入りした跡が残り、わずかに土埃の匂いが漂っている。


 何とも落ち着かないな。


 こちらは敵の後方を荒らして帰ってきただけなのだが、どうやら思っていた以上に注目されているらしい。


「ギルバート殿、実に見事な働きですな」


 声をかけてきたのはザイン殿だった。


「襲撃の知らせが届いた貴族たちの多くは、次々と領地へ戻って行っています」


「ほう、それは何よりです」


 なるほど、ちゃんと効いているわけか。


 今回の襲撃は、単に敵の領地を荒らすことだけが目的ではなかった。むしろ、荒らされた領地をどうするのか、その知らせを受け取った貴族たちがどんな行動を取るのかが重要だった。


 自分の領地が襲われたと聞けば、そりゃ気になるだろう。


 家も財産も、そこで働く人間も、全部放り出して戦争を続けられるほど割り切った奴ばかりではないはずだ。


 うむ、予定通りみたいだな。


 内心で頷いていると、帝国の軍官がこちらへ身体を向けた。


「しかし、予想より噂の広がり方が早いですな。何かなされたのですか?」


 その声には、少なからず興味が混じっているように聞こえた。


 周囲の貴族たちも黙ったままこちらを見ている。わざわざ質問するほどではないが、答えは聞いておきたいといったところだろうか。


 別に隠すようなことでもない。


「抵抗する騎士たちは殺しましたが、平民はほぼ殺していません。おそらく彼らが噂を広げてくれたのでしょう」


 そう答えると、陣幕の中で何人かが低く唸った。


 軍官も少し考えるような顔をしている。


 まあ、襲撃した領地で人を殺さなかったわけではない。こちらへ抵抗してきた騎士たちは容赦なく殺したし、建物や財産にも相応の被害を与えている。それに巻き込まれ死んだ者たちもいるだろう。


 だが、平民たちを手当たり次第に殺す必要はない。


 そもそも俺たちが欲しいのは、敵対する貴族たちの恐怖と混乱だ。


 それを広めてくれる人間まで皆殺しにしてしまっては、誰が自分たちの領地で起きたことを周囲へ伝えるというのか。


「……わざとですか?」


 軍官が尋ねてきた。


「はい。恐怖を広めることも目的ですから」


 俺がそう答えると、軍官はゆっくりと頷いた。


 他の貴族たちも、何やら考え込んでいる様子だ。


 そんなに大したことをしたつもりはないんだがなぁ。


 実際のところ、前世で聞きかじった話を少し真似しただけなのだ。


 モンゴル軍だったか。


 前世では近代まで最強と謳われた軍勢の一つだったはずだ。詳しい歴史なんぞ覚えていないし、戦い方を正確に知っているわけでもない。


 ただ、恐怖を広めることで相手の抵抗する気力を削ぐ、そんな話をどこかで見聞きした覚えがある。


 恐ろしい相手だと知れ渡れば、戦う前から相手が怯える。


 下手に逆らえば酷い目に遭うと思わせれば、余計な抵抗も減る。


 確か、そんな感じだったと思う。


 まあ、うろ覚えの知識を適当に真似しただけなのだから、歴史に詳しい人間が見れば笑われるかもしれん。


 しかし、どうやら今回は思ったより効果があったらしい。


 それならそれで構わない。


 俺は別に前世の軍勢を再現したいわけではないしな。


 そんなことを考えている間にも、陣幕の中では何人かの貴族が小声で言葉を交わしていた。


 父上は特に口を挟まず、こちらを見ている。


 さて、気になるのは実際の成果だ。


 思いのほか多くの貴族が撤退しているらしいが、具体的にはどうなっているのだろう。


「どの程度の貴族が撤退したのですか?」


 俺が尋ねると、ザイン殿が答えてくれた。


「領地を荒らされた報告を受けた貴族のほとんどが撤退しました」


「ほとんど?」


 思わず聞き返してしまった。


 つまり、全員じゃないってことだよな。


 あれだけ荒らしたのに、まだ残っている奴がいるのか。


 うーむ、荒らし方が足りなかったか?


 結構頑張ったつもりだったんだけどなぁ。


 俺がそんなことを考えていると、ザイン殿が続けた。


「はい。ジキタリヌ家、カリウス家、マグニア家などが残りましたが、いずれも王家の血を引く貴族家です。そのことが影響したのでしょう」


 ふーん。


 なるほど、王家の血を引く貴族たちか。


 それなら、ほかの貴族とは少しばかり事情が違うかもしれない。


 自分の領地が荒らされたからといって、簡単には引き下がれない理由があるのだろう。


 いや、引き下がれないというより、引き下がりたくないのか?


 王家の血を引いているからといって、誰もが次の国王になれるわけではない。むしろ、そんな可能性はほとんどない奴の方が多いだろう。


 だが、次期国王になれないとしても、今回の戦争で頑張れば発言力を増すことくらいはできるかもしれない。


 王家に近い立場なら、なおさらだ。


 戦争というのは面倒なもので、勝った負けただけでは終わらない。誰がどれだけ働いたか、どこまで最後に残ったか、そういうものが後々まで影響することもある。


 少なくとも、俺ならそう考える。


 なるほどなぁ。


 俺は少しばかり反省した。


 今回の襲撃では、領地を荒らせば貴族たちは帰っていくだろうと考えていた。実際、それなり以上の成果もあった。


 しかし、相手によっては領地を荒らされる損害より、戦場に残ることで得られる利益の方を大きく見ている可能性もあるわけだ。


 そこまで考えていなかったな。


 まあ、仕方がない。


 俺は別に貴族連中の事情を全部知っているわけではないし、連中が何を考えているのかも分からない。


 だが、今回の報告で一つ勉強になった。


 相手が何を失いたくないのか、何を得たいと思っているのか。それによって、同じように領地を荒らしても効果が違ってくるらしい。


 だったら、次からはそこらへんも考慮して荒らそう。


 王家との繋がりがあるからといって、特別扱いしてやる理由もないしな。


 むしろ、簡単には撤退しないというのなら、それ相応に考えてやればいい。


 俺は内心でそう反省しながら、もう一度、父上と周囲の貴族たちへ視線を向けた。

本日は、5時、12時、20時の更新となります。

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