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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百二十四話 日和見貴族と追手


 俺たちは父上のいるマバール軍の本陣へ向かっていた。


 敵対する貴族たちの領地を散々荒らしてきた後だ。帰り道は相当面倒なことになるだろうと覚悟していたのだが、実際には思っていたほど苦労していない。


 というのも、貴族連合軍に参加していない貴族が、案外多かったからだ。


 もちろん、そいつらが俺たちの味方をしているわけではない。マバール家に積極的に協力するつもりはないが、だからといって貴族連合軍に加わってまで敵対する気もない。そんな連中が結構いるらしい。


 要するに、どっちつかずということだな。


 貴族連合軍に参加していないからといって、父上に味方するつもりがあるとは限らない。単に様子を見ているだけかもしれないし、どちらが勝つか分かるまで余計なことをしたくないのかもしれない。


 まぁ、その辺りの事情は本人たちに聞いてみなければ分からんが、少なくとも俺たちにとっては都合がよかった。


 そういう貴族たちの領地を選んで通れば、わざわざ敵の真ん中へ飛び込まずに済む。


 何より、俺たちが通ったからといって、いちいち軍勢を差し向けてくるような連中ではなさそうなのがありがたい。


 自分たちの領地を戦場にしたくないのか、それとも本当に関わり合いになりたくないのか。理由はともかく、こちらとしては静かに通らせてもらえればそれで十分だ。


 馬の背で身体を揺らしながら、俺は周囲へ目を向けた。


 街道から外れた道には、何頭もの馬が通った跡が残っている。乾いた土は蹄に踏まれて崩れ、ところどころで草が倒れていた。


 こんなところを通っていても、今のところ邪魔は入っていない。


 いやぁ、世の中、何が役に立つか分からんもんだな。


「日和見貴族も案外役に立つな」


 思わずそんなことを呟くと、隣から笑い声が聞こえた。


「ははっ、日和見貴族とは良い呼び方ですな」


 セバスチャンが愉快そうに笑っている。


「そうか?」


「ええ、なかなか言い得て妙ですぜ」


「まぁ、どっちにも付かずに様子を見てるんだから、日和見以外に言いようがないだろ」


「そいつは違いありませんな」


 セバスチャンは笑いながら頷いた。


 俺としては、そこまで面白いことを言ったつもりはないんだがなぁ。


 とはいえ、こういう時に無理に敵を増やさないという判断は、案外まともなのかもしれない。勝ち馬に乗るつもりなのか、単に戦いたくないだけなのかは知らんが、少なくとも自分から余計な争いに飛び込むよりは利口だろう。


 俺だって、別に好き好んで戦争をしているわけじゃない。


 できることなら面倒事は避けて、さっさと父上のところへ帰りたいところだ。


 そんなことを考えながら馬を進めていた時だった。


 薄く広く展開していた感知魔法に、小さな反応が触れた。


 ん?


 意識をそちらへ向ける。


 移動中も警戒は続けている。魔力を無駄に使わない程度に感知魔法を拡げ、周囲の魔力反応を拾えるようにしていたのだが、どうやら何者かが近づいてきているらしい。


 反応はまだ遠い。


 ただ、こちらへ向かって動いているように感じる。


「なんか来たみたいだぞ」


 俺がそう言うと、セバスチャンの視線が動いた。


 俺も反応のある方角へ目を凝らす。


 しばらく眺めていると、遠くに小さく動く影が見えてきた。目を凝らさなければ見落としそうな距離だが、馬に乗った連中なのは分かる。


 騎馬の集団だな。


 もっとも、軍勢というほどの規模じゃない。ざっと見たところ、せいぜい俺たちと同じくらいの人数だろう。


 あんなところを、わざわざまとまって走ってくるとはねぇ。


「追われましたかな?」


 セバスチャンが遠くの騎馬集団を眺めながら言った。


「ご苦労な事だな」


 俺はそう返してから、馬上で身体をひねって後ろを見た。


 そこには、俺たちが通ってきた道が続いている。


 馬の蹄の跡も、はっきり残っていた。


 なるほどなぁ。


 俺たちはそれなりの人数で移動しているし、全員が馬に乗っている。いちいち通った跡を隠しているわけでもなんでもない。


 地面には蹄の形がいくつも刻まれ、土の柔らかいところほど深く残っている。踏み荒らされた草だってある。


 これなら追いかけようと思えば追えるのか。


 少なくとも、どちらへ進んだのかを調べるのは、そこまで難しくなさそうだ。


「街道をもっと使った方がいいか?」


 俺はセバスチャンに尋ねた。


 街道なら、俺たち以外にも大勢の人間が通る。荷車だって走るし、馬に乗った旅人もいる。


 そういうところなら蹄の跡がいくらあっても、どれが俺たちのものなのか分からなくなるんじゃないだろうか。


 今みたいに、俺たちの通った跡がそのまま残っているよりは、ずっと追跡しにくそうだが。


 セバスチャンは一度、俺たちが通ってきた道へ目を向けた。


「まぁ、街道に戻っても、街道から外れたところから追われますからな。無意味ではありませんが、相手の執念次第でしょう」


「なるほど」


 確かにそうか。


 街道の途中でいくら蹄の跡を紛れさせても、街道から外れた場所を探せば、また俺たちの通った跡が見つかる可能性はある。


 そう考えると、道を変えれば絶対に追跡を振り切れるというわけでもないらしい。


 面倒なもんだなぁ。


 しかし、そうなると……。


「つまり、あいつらは執念深い連中か」


「そういうことでしょうな」


 セバスチャンが苦笑した。


 いやはや、わざわざご苦労なことだ。


 こちらがどこへ向かっているのかも知らんだろうに、こうして追いかけてくるとはねぇ。


 何か用事でもあるのか、それとも俺たちに恨みでもあるのか。


 まぁ、心当たりがないわけではない。


 というか、ありすぎて困る。


 何しろ、ここのところ敵対する貴族たちの領地をあちこち襲ってきたのだ。その中の誰かが追いかけてきたとしても、別に不思議ではない。


 さて、どうしたもんか。


 遠くの騎馬集団へ、もう一度目を向ける。


 感知魔法には魔力反応がある。


 ということは、あいつらは騎士たちだろう。


 人数はそれほど多くないし、こちらと比べても大した違いはないように見える。


 逃げようと思えば逃げられるかもしれないが、こうして追いかけられ続けるのも鬱陶しい。


 それに、今の道を選んだところで相手が諦めるとも限らない。


 ならば、さっさと相手を確かめてしまった方がいいか。


「止まるぞ」


 俺がそう告げると、セバスチャンが頷き、他の騎士たちも馬を止めた。


 蹄が地面を踏み締める音がいくつも重なり、ゆっくりと静まっていく。


 俺も馬を止め、遠くから近づいてくる騎馬集団を眺めた。


 向こうはまだ走っている。


 こちらが止まったことに気づいたのかどうかは分からんが、今のところ引き返す様子はない。


 どうやら、相当こちらに用事があるらしい。


「執念深い事は分かったが、さて敵か味方か?」


 そう口にすると、隣のセバスチャンがなんとも言えない顔でこちらを見た。


「味方を増やすような事しやしたか?」


 ……こいつ。


 なんてことを言いやがる。


 いや、まぁ、確かにしてないような気はするけどさ。


 俺たちがこれまで何をしてきたか考えれば、味方が増えるような行動ではなかったことくらい分かる。


 敵対する貴族の領地へ入り込み、好き放題に荒らして回ったんだからな。


 向こうからすれば、さぞかし腹立たしいことだろう。


 だが、それとこれとは別だ。


「そんなこと、分からんだろ」


「そうですなぁ」


 セバスチャンの口元には、まだ笑みが残っている。


 絶対に分かって言ってるだろ、このクソじじい。


 俺は返事をするのも面倒になり、近づいてくる騎馬集団へ視線を戻した。


 しばらく待つと、ようやく先頭の男の姿がはっきり見えるようになってきた。


 後ろにも騎士たちが続いている。


 向こうも俺たちが待ち構えていることには気づいているはずだが、速度を落として引き返そうとはしない。


 むしろ、そのままこちらへ近づいてくる。


 なんだか、ずいぶん威勢がいいなぁ。


 さらに距離が縮まったところで、先頭の男が声を張り上げた。


「レオザル家騎士である!」


 でかい声だ。


 わざわざそんなに怒鳴らなくても聞こえると思うんだが。


 しかし……。


「……レオザル家?」


 俺は思わず首を傾げた。


 どこだ、それ?


 聞き覚えがあるような、ないような。


 少なくとも、すぐには思い出せない。


 俺が考え込んでいると、隣からセバスチャンが小さな声で教えてくれた。


「こないだ焼き払った領地の貴族家ですぜ」


「ああ、うん。そうだったな」


 俺はとりあえず頷いておいた。


 ……どこだろ?


 そんなところがあったっけ?


 いや、そりゃあ焼き払った領地はある。俺たちはそのためにあちこち走り回っていたんだからな。


 でも、いちいち名前まで覚えていられん。


 ある程度でかい貴族家なら覚えているはずなんだが、レオザル家と言われても、どうにも思い当たらない。


 まぁ、セバスチャンが知っているならそれでいいか。


 俺がそんなことを考えている間にも、先頭の騎士は何やら怒っているようだった。


「ご当主様や騎士団不在の領地を襲うなど卑怯千万! 許す事は出来ぬ!」


 うん?


 ああ、そういうことか。


 なるほど、どうやら俺たちが領地を襲ったことに腹を立てて追いかけてきたらしい。


 いや、まぁ、そりゃそうだろうな。


 主力がいない間に領地を荒らされたら、怒るのも無理はない。


 だが、卑怯と言われてもねぇ。


 相手の主力が出払っているからこそ、留守になった領地を襲ったんだからなぁ。


 わざわざ敵の騎士団が勢揃いしているところへ突っ込んでいく必要なんかない。


 そんなことをしたら、せっかくの作戦が台無しじゃないか。


「いや、そう言われてもなぁ。そういう作戦だしなぁ」


 俺は頭を掻きながら答えた。


 こっちだって、何も考えずに襲ったわけじゃない。


 敵の領地を荒らして、これ以上戦争を続けるのは割に合わないと思わせる。そういうことをやっているんだから、守る連中が少ないところを狙うのは当たり前だ。


 もっとも、わざわざ相手に納得してもらう必要もないんだが。


 先頭の男を見る。


 どうやら俺の言葉を聞いている様子はない。


 いや、耳には入っているのかもしれんが、理解する気がなさそうだ。


 せっかく答えてやったのになぁ。


「問答無用!」


 男が突然そう叫んだ。


 そして、こちらへ向かって馬を走らせ始めた。


 ……は?


 ちょっと待て。


 問答無用って、お前から話しかけてきたんじゃないか?


 勝手に名乗って、勝手に怒鳴って、こっちが答えたら問答無用って。


 何がしたいんだ、こいつ。


 俺は迫ってくる騎士を眺めながら、思わず呆れてしまった。


 まったく、身勝手な奴だなぁ。

本日もよろしくお願いします。

本日は、5時、12時、20時の更新予定です。

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