↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

323/348

第三百二十三話 荒らされた領地

これも長めです。

日曜版という事でご容赦ください。


 さて、そんなわけで敵の後方へやってきた。


 いやあ、なかなか良い天気だな。


 空には薄い雲が広がっているものの、雨が降りそうな様子はない。風もそれほど強くなく、馬を走らせるにはちょうどいいくらいである。


 ……まあ、これからやることを考えると、少々似つかわしくない天気ではあるが。


 俺は馬上から前方の景色を眺めた。


 遠くには畑が広がり、その向こうにはいくつかの建物が見える。街道から少し離れたところには石造りの大きな建物もあり、その周囲を木の柵が囲んでいた。


 どうやら、あそこが今回の目標らしい。


「若様、あれですぜ」


 隣へ馬を寄せてきたセバスチャンが、前方へ顎を向けた。


「ああ、見えてる」


「どうしやす?」


「まずは様子を見るか」


 俺は手綱を緩め、馬の速度を落とした。


 後ろから続いていた騎士たちも、それに合わせて速度を落としていく。


 今回の同行者は、いつもの直属騎士たちである。


 セバスチャンを筆頭に、オルド、ジノ、クレイン、トールたちが揃っている。


 俺としては一人でも十分に荒らせると思うんだが、父上からは勝手な行動を控えるよう言われているし、何よりセバスチャンが許してくれなかった。


 ……まったく。


 俺も随分と信用されていないものだ。


「ジノ、周囲はどうだ?」


「今のところ、こちらへ向かってくる者は見当たりません」


「そうか」


 ジノは馬上から周囲へ目を配っていた。


 俺も感知魔法を拡げてみる。


 周辺にはいくつか魔力反応があり、前方の建物付近にも騎士と思われる反応が残っている。


 ……ふむ。


 思ったより少ないな。


 もちろん、反応の強さだけで相手の実力が全て分かるわけではないが、少なくとも俺が警戒するほどの相手はいなさそうだ。


「騎士らしい反応がいくつかあるな。だが、大した数じゃない」


「そりゃ結構ですな」


 セバスチャンが頷いた。


「主力は前線へ出ているんでしょう」


「そうだろうな」


 そもそも、だからこそ狙っているのだ。


 敵の強い騎士たちが前線へ出ている間に、その後ろを荒らす。


 簡単な話である。


 ……まあ、相手からすればたまったものではないだろうけどな。


「若様、あちらに荷車が見えます」


 クレインの声に顔を向けると、街道の脇を数台の荷車が進んでいた。


 荷台には大きな袋が積まれている。


 こちらからでは中身までは分からないが、畑の近くを走っていることを考えれば、穀物か何かだろうか。


「ほう」


 俺は少し考えた。


 ……あれも狙っていいんだよな。


 いや、いいも何も、まさに今回の目的に合っているじゃないか。


「セバスチャン、あの荷車はどう思う?」


「積み荷次第でしょうな」


「穀物じゃないのか?」


「そう見えますが、確かめなきゃ分かりませんぜ」


 ……それもそうか。


 俺はもう一度荷車を眺めた。


 荷台には布が掛けられているが、袋の形は見えている。


 何を運んでいるにせよ、あの建物へ向かっているようだ。


「なら、少し待つか」


「へい」


 俺たちは街道から離れた場所で、荷車が進んでいく様子を眺めることにした。


 やがて荷車は建物の近くへ到着し、そこで止まった。


 何人かの男たちが出てきて、荷台から袋を降ろし始める。


 ……なるほど。


 やっぱり、あそこへ運び込むものだったらしい。


 それなら、まとめて処理した方が手間が省ける。


「よし、行くか」


 俺が手綱を握り直すと、セバスチャンがこちらを向いた。


「もう少し様子を見なくてよろしいんで?」


「騎士の反応は少ないし、何かあっても対処できるだろ」


「まあ、そうでしょうがね」


「それに、あまり時間をかけても仕方ない」


 俺は建物へ目を向けた。


 周囲には畑が広がり、遠くには民家らしい建物も見える。


 このあたり一帯が、敵の貴族領ということになるんだろう。


 ……さて。


 何とも平和な景色だな。


 少なくとも、今のところは。


     ◇


 俺たちが近づくと、建物の前にいた男たちがこちらに気づいた。


 最初は何事か分からなかったらしい。


 しかし、こちらが騎士の一団だと分かると、慌てて建物の中へ駆け込んでいった。


 ……ふむ。


 まあ、当然の反応か。


 こんなところへ武装した騎士たちがやってきたら、普通は警戒するよな。


「若様、出てきやすぜ」


 セバスチャンの言葉に前方を見ると、建物の脇から武装した男たちが姿を現した。


 数はそれほど多くない。


 先頭の男は鎧を身につけており、その後ろにも何人か騎士らしい者がいる。


 感知魔法で拾っていた反応は、どうやらあいつらだったらしい。


「何者だ!」


 先頭の男が叫んだ。


 その声に、荷車の周囲で働いていた平民たちが動きを止める。


 何人かは慌てて逃げ始めた。


 ……おっと。


 そういえば、こいつらからすると俺たちは何者なんだろう。


 帝国軍と名乗ればいいのか?


 それともマバール家の名を出すべきか?


 いや、別に名乗る必要もないか。


「武器を捨てろ!」


 俺が声を張ると、男たちは一瞬動きを止めた。


 ……おや。


 素直に従うつもりなのかな?


 しかし、次の瞬間、先頭の騎士が剣を抜いた。


「敵襲だ! 迎え撃て!」


 ……ああ、そう。


 まあ、そうなるよな。


 俺は小さく息を吐いた。


「セバスチャン」


「へい」


「任せてもいいか?」


「もちろんですぜ」


 セバスチャンが馬を進めた。


 その動きに合わせるように、オルドとジノも前へ出る。


 敵の騎士たちは剣や槍を構え、こちらへ向かってきた。


 ……うーむ。


 なかなか勇敢な連中だ。


 いや、自分たちの守る場所へ敵が来たんだから、当然なのかもしれない。


 俺だって、マバール領へ敵が入ってきたら黙ってはいないだろう。


 もっとも、相手が悪かったな。


 最初に接触した騎士は、セバスチャンの剣を受け止めようとした。


 だが、次の瞬間には剣を弾かれ、身体を大きく崩していた。


 そこへセバスチャンの追撃が入る。


 男は地面へ倒れ、そのまま動かなくなった。


 ……うん。


 相変わらず容赦がないな。


 その横では、オルドが別の騎士と剣を交えていた。


 敵の剣が振り下ろされる。


 オルドはそれを受け流し、馬を進めながら相手の側面へ回り込んだ。


 敵の騎士もすぐに向きを変えようとしたが、間に合わなかったらしい。


 オルドの剣が相手の鎧を捉え、男が馬から転げ落ちた。


 ジノの方も問題なさそうだ。


 槍の間合いを保ちながら、敵を近づけさせていない。


 ……おお。


 なかなか見事なものじゃないか。


 こうして眺めていると、俺の直属騎士たちも随分と頼もしくなったものだと感じる。


 いや、もともと優秀な連中だったんだが。


 セバスチャンに鍛えられ続けた成果もあるんだろうな。


「若様!」


 クレインの声に顔を向けると、建物の奥から別の騎士が姿を現していた。


 どうやら、こちらへ回り込もうとしているらしい。


 ……ふむ。


 俺の相手をしてくれるのか?


 それなら、少しくらい遊んでやってもいいんだが。


 そんなことを考えていると、男が剣を構えたまま突っ込んできた。


 俺は馬上で軽く手綱を引く。


 そして、攻撃魔法を放った。


 男の身体が後方へ吹き飛び、建物の壁へ激突した。


 石壁に鈍い音が響く。


 そのまま男は崩れ落ち、二度と立ち上がることはなかった。


 ……うん。


 終わりだな。


 周囲を見回すと、残っていた敵の騎士たちもすでに倒されていた。


 平民たちはほとんど逃げ出している。


 建物の入口付近には、荷車だけが取り残されていた。


「若様、片づきやしたぜ」


 セバスチャンが馬を寄せてきた。


「ああ、ご苦労」


「さて、どうしやす?」


「中を確かめよう」


 俺たちは建物へ近づいた。


 中へ入ると、乾いた穀物の匂いが鼻に届いた。


 壁際には大きな袋がいくつも積み上げられており、その奥には木箱や樽も並んでいる。


 ……おお。


 なかなかの量だな。


「小麦ですね」


 クレインが袋の一つを確かめながら言った。


「それも、かなりの量が蓄えられているようです」


「そうか」


 俺は建物の中を見回した。


 これだけの量を集めるには、それなりの時間と人手が必要だっただろう。


 もちろん、全てが軍用というわけではないかもしれない。


 領内の住民へ配るものもあるだろうし、商人へ売るために保管している可能性もある。


 だが、いずれにせよ領地にとって重要な物資であることに変わりはない。


「これを失えば、かなり困るだろうな」


「間違いありませんな」


 セバスチャンが頷いた。


 俺は袋へ目を向けた。


 ……さて。


 もったいない気もするが、持って帰るわけにもいかない。


 これだけの量を運ぼうとすれば、荷車が何台必要になることやら。


 そんなものを引き連れていたら、せっかくの機動力が失われてしまう。


 それなら、処分するしかないだろう。


「外へ出るぞ」


 俺が言うと、騎士たちはすぐに動いた。


 全員が建物から離れたことを確かめ、俺は建物へ向き直った。


 ……うーむ。


 立派な建物だな。


 石造りで、壁も厚い。


 これを建てるのにも相当な時間と金がかかったんだろう。


 まあ、仕方ない。


 俺は攻撃魔法を放った。


 建物の壁が砕け、屋根が大きく崩れる。


 続けて内部へ攻撃魔法を撃ち込むと、積み上げられた袋が破れ、穀物が飛び散った。


 さらに焼き払うように魔力を動かす。


 乾いた袋や木材へ火が移り、建物の内側から炎が立ち上がった。


 ……おお。


 よく燃えるな。


 しばらく眺めていると、黒い煙が空へ昇り始めた。


 周囲へ視線を向ける。


 少し離れた場所では、逃げ出した平民たちがこちらを見ていた。


 何人かは膝をつき、頭を抱えているようにも見える。


 ……まあ、気持ちは分かる。


 自分たちが運び込んだものを、突然現れた騎士に焼き払われたんだからな。


 怒りもするだろうし、絶望もするだろう。


 しかし、ここは敵の領地だ。


 俺が気を使ってやる理由はない。


「若様、そろそろ」


 セバスチャンの声に頷いた。


「ああ、行こう」


 これ以上ここに留まる必要はない。


 煙を見れば、周囲の者たちも異変に気づくだろう。


 そうなれば、どこから敵の騎士が集まってくるか分からない。


 ……まあ、集まってきたところで負けるつもりはないんだが。


 わざわざ相手をしてやる必要もないからな。


 俺たちは馬を走らせ、その場を後にした。


 背後では建物が燃え続けている。


 振り返ると、黒い煙が青い空へ高く昇っていた。


 ……ふむ。


 なかなか派手なことになったな。


 これなら、領主もすぐに気づくだろう。


 さてさて。


 どんな顔をするのやら。


     ◇


 それからというもの、俺たちは敵の領地を次々と荒らして回った。


 もっとも、手当たり次第に攻撃しているわけではない。


 父上から伝えられた王国貴族軍の動向を確認し、敵対を続けている貴族の領地だけを対象にしている。


 セバスチャンたちも慣れたもので、俺が余計なことをしようとすると、すぐに止めに入ってくる。


 ……いや、余計なことってなんだよ。


 俺は真面目に仕事をしているんだぞ。


 ともあれ、そんなことを繰り返しているうちに、気づけば一月以上が経っていた。


 いやあ。


 随分と働いたものだ。


 我ながら感心してしまう。


 敵の領地へ入り、必要な場所を攻撃しては移動する。


 それを繰り返しているだけなのだが、これがなかなか忙しい。


 ……まあ、忙しいと言っても、俺がやることはそれほど多くないんだけどな。


 その日も、俺たちは王国貴族領の一角を進んでいた。


 前方には緩やかな丘があり、その向こうへ街道が続いている。


 街道沿いの草は風に揺れ、遠くには畑が広がっていた。


 季節が進んだせいか、日差しも少し変わってきたように感じる。


 俺は馬上で軽く肩を回した。


「……ふう」


 さすがに、少々疲れてきたな。


 戦闘そのものは大した負担ではない。


 敵の騎士が現れても、俺たちの相手になるような連中はほとんどいないからだ。


 むしろ面倒なのは移動である。


 何しろ、敵の後方を荒らしているのだ。


 当然ながら、まともな宿へ泊まれるわけでもないし、毎日ゆっくり風呂へ入れるわけでもない。


 ……ああ。


 風呂に入りたいなぁ。


 できれば、レティシアとダリアと一緒に。


 それで風呂から上がったらリエリエールに身体を拭いて欲しい。


 いや、今は二人とも懐妊しているから、あまり無茶はさせられないか。


 それでも、一緒に湯へ浸かるくらいなら問題ないだろう。


 うん。


 帰ったら、ゆっくり風呂に入ろう。


「若様、何をにやけてるんです?」


 隣から声がした。


 顔を向けると、セバスチャンがこちらを見ている。


「別ににやけてないぞ」


「そうですかい?」


「ああ」


 ……こいつ、余計なところだけ鋭いな。


 俺が何を考えていたのかまで分かったわけではないだろうが、どうも気に入らない。


「それより、今度の目標はどうなってる?」


 話題を変えると、セバスチャンが前方へ視線を戻した。


「クレインたちが確認しておりやす。もう少し進めば見えてくるはずですぜ」


「そうか」


 俺は頷いた。


 今回の目標も、王国貴族軍へ参加している貴族の領地である。


 すでに一月以上も荒らし続けているというのに、まだまだ攻撃対象が残っている。


 ……まったく。


 王国って広いんだな。


 いや、今さら言うことでもないか。


 もともと大陸の大部分を占めていた国なのだから、貴族領の数だって多い。


 それを全部荒らそうというわけではないが、敵対する貴族たちだけでも相当な数になる。


 ……うーむ。


 いつになったら終わるんだろう。


 そんなことを考えていると、前方を進んでいたクレインが馬を止めた。


 俺たちも速度を落とす。


「若様、見えてきました」


「どれどれ」


 丘の上へ馬を進めると、その向こうに小さな町が見えた。


 石造りの建物がいくつも並び、町の外れには大きな作業場らしい建物がある。


 その近くには荷車が並んでおり、何人かの男たちが荷物を運んでいるようだった。


 ……ほう。


 なかなか賑やかな場所じゃないか。


「鍛冶の作業場があるようです」


 クレインが言った。


「ほかにも物資を保管している建物があると思われます」


「なるほど」


 俺は町を眺めた。


 それなりの規模がある。


 これだけの町なら、騎士も残っているだろう。


 感知魔法を拡げると、予想通り複数の魔力反応があった。


 ……ふむ。


 今までより少し多いな。


「騎士が何人かいるな」


「強そうですかい?」


 セバスチャンが尋ねてきた。


「いや、そこまで強い反応じゃない。だが、数はそこそこいる」


「なら、少し面倒かもしれませんな」


「そうか?」


 俺としては、それほど問題になるとは思えない。


 何しろ、こちらには俺がいるのだ。


 ……うん。


 自分で言うのもなんだが、こういう時には非常に便利な存在だと思う。


 もっとも、あまり派手に暴れると、町ごと吹き飛ばしてしまいかねないから注意が必要だが。


「どうしやす?」


 セバスチャンが尋ねてきた。


 俺は少し考えてから答えた。


「まずは作業場を狙う。敵の騎士が出てきたら相手をすればいい」


「へい」


「ただし、町全体を壊す必要はないぞ」


 そう言うと、セバスチャンがこちらを向いた。


「おや、珍しいことを仰いますな」


「なんだよ」


「いや、若様なら全部吹き飛ばすと言い出すかと思いやして」


「お前、俺を何だと思ってるんだ?」


 まったく、失礼な奴だ。


 俺だって必要もないものまで壊そうとは思わない。


 今回の目的は敵の生産基盤を破壊することであって、町を跡形もなく消し去ることではないのだ。


 ……まあ、必要ならやるけどな。


 だが、それでは後で復興するのも大変になるだろう。


 敵対する貴族の力を削ることは重要だが、将来こちらの領地になるかもしれない場所を、完全に使い物にならなくしてしまうのも考えものだ。


 そのあたりのさじ加減は必要だと思う。


「若様、町の方でもこちらに気づいたようです」


 ジノの声に視線を向けると、町の入口付近で何人かの男たちが動き始めていた。


 ……おや。


 どうやら、騎士が集まっているらしい。


 まあ、当然か。


 何しろ、俺たちはこの一月以上、あちこちで好き勝手に暴れているのだ。


 そろそろ警戒されてもおかしくない。


「どうします?」


 オルドが尋ねてきた。


 俺は町の入口を眺めた。


 騎士たちは武器を構え、こちらの動きを警戒しているようだった。


 ……ふむ。


 あまり歓迎されていないらしい。


 いや、歓迎されるわけがないか。


「行こう」


 俺は馬を進めた。


 セバスチャンたちも続く。


 町へ近づくにつれ、敵の騎士たちの姿がはっきり見えるようになった。


 鎧を身につけた男たちが、入口付近に並んでいる。


 その後ろには武装した兵もいるようだ。


 ……おお。


 思ったより集めてきたな。


「止まれ!」


 先頭の騎士が叫んだ。


 俺は少し手前で馬を止めた。


「何者だ!」


 ……またそれか。


 この一月で何度聞いたことやら。


 まあ、相手にとっては初めて会う俺たちなんだから、仕方ないんだけどな。


「帝国軍だ」


 俺が答えると、男たちの顔が強張った。


 ……おや。


 やっぱり、帝国軍だと分かると反応が違うな。


「ここは王国領だ! 直ちに立ち去れ!」


「そう言われてもなぁ」


 俺は頭を掻いた。


 立ち去れと言われて素直に帰るくらいなら、最初からこんなところまで来ないだろう。


「降伏するつもりはないのか?」


 俺が尋ねると、先頭の騎士が剣を抜いた。


「ふざけるな!」


 ……ああ、そう。


 なら、仕方ないな。


「セバスチャン」


「へい」


「頼む」


「承知しやした」


 次の瞬間、セバスチャンが馬を進めた。


 敵の騎士たちも動き出す。


 剣が抜かれ、槍が構えられた。


 その様子を見ながら、俺は感知魔法で周囲を確認した。


 町の奥にも騎士の反応がいくつかある。


 どうやら、全員が入口へ集まっているわけではないらしい。


 ……なるほど。


 少しは考えているようだ。


 しかし、こちらの戦力を考えれば、それでどうにかなるとは思えない。


 俺は馬を進めながら、町の奥へ視線を向けた。


 作業場の煙突からは煙が上がっている。


 まだ作業を続けているんだろうか。


 ……いや、敵が来ているのに、さすがにそれはないか。


 そんなことを考えていると、前方で金属のぶつかる音が響いた。


 セバスチャンが敵の騎士と剣を交えている。


 いや、交えているというより、一方的に押していると言った方が正しいかもしれない。


 敵の剣を受け流し、すぐに反撃する。


 その動きには無駄がない。


 相手が姿勢を立て直そうとしたところへ、さらに剣を振るう。


 敵の騎士が倒れた。


 ……うむ。


 相変わらず見事なものだ。


 その横では、オルドとジノも敵を相手にしている。


 騎士たちの戦闘に関しては、俺が手を出す必要はなさそうだ。


 それなら、俺は本来の仕事をするとしよう。


「クレイン、作業場はあれでいいんだな?」


「はい。あの大きな建物です」


「分かった」


 俺は町の奥にある建物へ視線を向けた。


 周囲にはいくつか小さな建物もあるが、目標の作業場は離れた場所に建っている。


 ……ふむ。


 これなら、余計なものを巻き込まずに済みそうだ。


 俺は攻撃魔法を放った。


 轟音とともに作業場の壁が崩れ、屋根が大きく傾いた。


 続けて内部へ攻撃魔法を撃ち込む。


 建物の一部が吹き飛び、黒い煙が立ち上がった。


 ……おお。


 なかなか立派に壊れたな。


 これだけ壊しておけば、すぐに修理して使うことは難しいだろう。


 作業場で何を作っていたのかまでは詳しく分からないが、少なくとも当分の間は生産を続けられまい。


 そのとき、町の奥から悲鳴が聞こえた。


 何人かの平民が走って逃げている。


 ……まあ、そうなるよな。


 突然建物が吹き飛んだら、誰だって驚くだろう。


 俺は周囲へ目を向けた。


 他にも荷車が並んでいる。


 その近くには物資を保管しているらしい建物もあった。


 ……ふむ。


 あれも狙っておくか。


 俺は馬を進め、次の建物へ向かった。


 背後では、セバスチャンたちが敵の騎士を片づけている。


 やがて戦闘の音が小さくなった。


 どうやら、こちらも終わったらしい。


「若様!」


 セバスチャンが馬を寄せてきた。


「終わりやしたぜ」


「ご苦労」


「こちらも終わりですかい?」


「いや、もう少しだ」


 俺は前方の建物を指した。


「あれも物資の保管場所らしい。確認してから処分しよう」


「へい」


 セバスチャンが頷いた。


 俺たちは建物へ近づき、内部を確認した。


 中には穀物の袋や木箱が積まれている。


 ほかにも、金属製の道具や部材らしいものが置かれていた。


 ……なるほど。


 これもなかなかの量だな。


 俺は軽く頷いた。


「よし、処分するか」


 騎士たちが離れたことを確かめ、俺は攻撃魔法を放った。


 建物が大きく崩れ、積み上げられていた物資が瓦礫の下へ埋もれていく。


 さらに攻撃魔法を重ねると、木材や袋に火が移った。


 炎が立ち上がり、黒い煙が空へ昇る。


 ……うん。


 これでよし。


「若様、そろそろ引き上げやしょう」


「ああ」


 俺は町を見回した。


 入口付近には倒れた騎士たちが残されている。


 逃げ出した平民たちの姿も、遠くに見えた。


 その向こうでは、壊れた作業場から煙が上がっている。


 ……ふむ。


 なかなか派手に荒らしたものだ。


 これなら、領主も困るだろうな。


 俺は馬の向きを変えた。


 さて。


 次はどこへ行こうか。


 ……いや、その前に少し休むか。


 何しろ、もう一月以上もこんなことを続けているのだ。


 さすがに俺も、そろそろまともな寝床が恋しくなってきた。


「なあ、セバスチャン」


「へい?」


「そろそろ一度戻らないか?」


 セバスチャンがこちらを向いた。


「おや、珍しいですな」


「何がだ?」


「若様の方から戻ろうと言い出すとは思いやせんでしたぜ」


「失礼な奴だな」


 俺だって、いつまでも敵領で遊んでいたいわけではない。


 というか、そもそも遊んでいるわけじゃないんだぞ。


 れっきとした仕事である。


「一月以上も働いたんだから、少しくらい休んでもいいだろ」


「そりゃそうですな」


 セバスチャンが笑った。


「それに、父上へ報告もしないといけないしな」


「へい。そろそろ一度、状況を整理した方がいいでしょう」


 俺は頷いた。


 この一月で、かなりの領地を荒らしてきた。


 敵の生産基盤へどれほどの被害を与えられたのか、正確なところはまだ分からない。


 だが、少なくとも何も起こっていないということはないだろう。


 あれだけ建物を壊し、物資を焼き払い、領地を荒らしてきたのだ。


 被害を受けた貴族たちが、何とも思っていないはずがない。


 ……まあ、どんな反応をしているかは知らんけどな。


 領地へ戻ってきた者もいるかもしれないし、逆に怒り狂ってこちらへ向かってきている奴もいるかもしれない。


 それは父上たちが集めている情報を確認しなければ分からないだろう。


「よし、戻るか」


 俺が言うと、セバスチャンが頷いた。


「承知しやした」


 騎士たちも馬の向きを変える。


 俺は最後にもう一度、背後の町へ視線を向けた。


 黒い煙が、まだ空へ昇っている。


 ……うーむ。


 こうして見ると、なかなか酷いことをしているな。


 前世の俺なら、間違いなく極悪人扱いしただろう。


 いや、今だって十分に極悪人か。


 だが、不思議と後悔はない。


 もちろん、褒められるようなことをしているとは思っていない。


 それでも、俺は自分の家族や領地を守りたいし、できることなら戦争を早く終わらせたいのだ。


 敵の貴族たちが領地の復興に追われ、こちらへ敵対する余裕を失ってくれれば、それでいい。


 ……うん。


 そう考えると、なかなか良い仕事をしたんじゃないか?


「若様、行きやしょう」


「ああ」


 俺は前方へ視線を戻した。


 馬の腹を軽く蹴ると、馬がゆっくりと歩き始める。


 やがて速度を上げ、街道を進んでいった。


 さてさて。


 父上たちは、俺たちの戦果をどう評価するだろうか。


 それに、王国側の連合軍がどうなっているのかも気になる。


 一月以上も後方を荒らされ続けて、何の影響も出ていないとは思えないからな。


 ……まあ、あまり期待しすぎても仕方ないか。


 とりあえず、今は戻って報告するとしよう。


 何しろ、俺は十分に働いたのだ。


 そろそろ休暇くらいもらっても、罰は当たるまい。


 うむ。


 そういうことにしておこう。

次回更新は、明日5時となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんだろう、珍しく余計なことをしていないw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。