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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百十八話 金貨六万枚と水晶玉


 ダリアの部屋を出た俺は、手にした包みを持ち直して廊下を歩いていた。


 レティシアにもダリアにも土産を渡した。二人とも喜んでくれたようだし、我ながらなかなか良い買い物だったと思う。特に、これから生まれてくる子供たちのために用意した布は、多少無理をしてでも買いに行った甲斐があった。


 もっとも、昨夜からほとんど休まず馬を走らせたせいで、身体にはまだ少し疲れが残っている。魔法で肉体を強化していれば動くこと自体は苦にならないが、それと疲労を感じないことは別らしい。


 まあ、今はそんなことより大事な用事がある。


 最後になってしまったが、リエリエールのところへ行こう。


 彼女に渡す土産も、ちゃんと選んできたのだから。


 リエリエールの居室は、俺の部屋からそれほど遠くないものの、少し奥まったところにある。貴族の女性が暮らす部屋なのだから、あまり人の出入りが多いところでは落ち着かないだろう。


 城内の廊下を進みながら、手にした包みへちらりと目を落とす。


 喜んでくれるといいんだがなぁ。


 などと考えていると、後ろから慌ただしい足音が近づいてきた。


「ギルバート様!」


 振り返ると、文官の一人がこちらへ歩み寄ってくるところだった。


 何やら急いでいるようだが、そんなに慌てなくても逃げたりしないぞ。


「なんだ?」


「生産拠点よりの利益が、すでに金貨六万枚を超えております」


「ふーん、そうなのか」


 ……六万枚?


 いや、ちょっと待て。


 金貨六万枚って、どれくらいの金額なんだ?


 この世界に転生してから、金貨や銀貨自体にはすっかり慣れた。だが、大きな金額になると、いまだに前世の金銭感覚で考えてしまうことがある。


 大雑把に金貨一枚を一万円とすると、六万枚だから……六億円か。


 六億円。


 おお、すごい金額だな。


 前世なら、そんな金額を手にする機会など、まずなかっただろう。いや、そもそも俺のものなのかと言われると少し違う気もするが、生産拠点の利益なのだから、俺が使い道を考えてもいいんだろう。


 もっとも、円に換算したところで、こちらの世界の物価とは関係ない。


 ただ計算してみただけだ。


 それでも、六億という数字はなかなか景気がいい。


「順調そうで何よりだな」


「はい。ですが、その件で少々ご相談がございまして……」


「ああ、そういうことなら、いつも通りセバスチャンとレティシアに……」


 そこまで言いかけて、口を閉じた。


 レティシア。


 そうだった。


 あいつは妊娠しているんだよな。


 つい先ほど、嬉しそうに指輪を眺めていた姿が頭に浮かぶ。


 普段なら何でも任せてしまうし、実際、あいつは俺が頼んだ仕事を見事に片づけてくれる。生産拠点のことだって、俺よりよほど詳しいだろう。


 だが、今までと同じように働かせていいわけがない。


 身体に無理をさせるのは論外だし、余計な心労だってかけたくない。


 何しろ、俺の子供が腹の中にいるんだからな。


 そう考えると、いつもの癖でレティシアの名前を出しかけた自分に少し腹が立った。


「いや、セバスチャンに全部任す。あいつと相談しろ」


「はっ、承知いたしました」


 よし、これで解決だ。


 金のことなら、俺よりあいつの方がよほど頼りになる。経験も豊富だし、何より必要な時には遠慮なく文句を言ってくれる。


 クソじじいなどと呼んではいるが、あいつを信頼しているのは本当だ。


 面倒な仕事を押しつけられるのは、優秀な証拠でもある。


 うむ、素晴らしい。


 そう納得して歩き出したのだが、なぜか文官はまだ後ろについてくる。


 足音が一定の距離を保ったまま続いているので、さすがに気になって振り返った。


「なんだ?」


「あの、その……もう一点ございまして」


「まだ何かあるのか?」


「実は、財務庫を少々圧迫しておりまして……できましたら、少し減らしていただけないでしょうか?」


 ……は?


 金を減らせ?


 思わず文官の顔を見つめてしまった。


 いや、金が足りないと言われるなら分かる。設備を増やしたいとか、材料を買いたいとか、そういう話なら俺にも理解できる。


 だが、金が多すぎて困っているとは。


 贅沢な悩みだなぁ。


「減らせと言われてもな……」


 腕を組んで考えてみる。


 生産拠点の設備投資は、もうほとんど終わっているはずだ。必要なものはこれまでに買いそろえてきたし、職人たちもずいぶん仕事に慣れてきた。


 もちろん、これから新しいものを作ることになれば話は別だろうが、今のところ大規模な設備を増やす予定はない。


 それに、金を使うためだけに何かを買うというのも馬鹿馬鹿しい。


 いや、別に欲しいものがないわけではないぞ。


 世の中には面白そうなものがいくらでもある。


 だが、金貨を何万枚も使うような買い物となると、さすがに思いつかない。


 そもそも俺は、そんなに金を使う生活をしていないんだよな。


 城に住んでいるから食事にも困らないし、服だって用意してもらえる。馬や武具もある。たまに土産を買うくらいなら、セバスチャンに渡している今の手持ちで十分だ。


 ……うん、駄目だ。


 何も思いつかん。


「どうすればいい?」


 分からないことをいつまでも考えていても仕方がない。


 こういうことは、詳しい人間に聞くに限る。


 文官は少し驚いたように瞬きをしたが、すぐに姿勢を正した。


「でしたら、領内の商会などへ投資されてはいかがでしょうか?」


「商会?」


「はい。そうすれば手形や債券となりますので、財務庫の負担も減らせるかと存じます」


「なるほどな」


 それは悪くない。


 金貨を大量に積んでおくより、ずっと扱いやすそうだ。


 商会に金が渡れば、商売も活発になるだろう。今は戦争中だし、物資を仕入れたり運んだりするために金を必要としている商会もあるはずだ。


 もちろん、どこへ投資するのがいいかなど、俺にはさっぱり分からない。


 だが、そういうことを考えるために文官がいるんだろう。


「よし、任す」


「はっ」


「適当な商会に投資しろ。一万枚も残ればいい。あとは全部投資してしまえ」


「……は?」


 文官が妙な声を出した。


 なんだ、その顔は。


 そっちが減らしてくれと言ったんじゃないか。


「一万枚残すんだから、十分だろう?」


「い、いえ、その、ギルバート様……」


「詳しいことはセバスチャンと相談して決めろ。あいつなら必要なことは分かる」


「ですが、これほどの金額を一度に……」


「だから任せると言ってるんだ。必要なら分けて投資すればいいだろう」


 何も一日で全部使えと言っているわけじゃない。


 急いで無理なことをする必要もないし、ちゃんと考えて使えばいい。


 俺が知りたいのは、金貨が邪魔にならなくなったかどうかだけだ。


「では、頼んだぞ」


「あ、あの、ギルバート様! もう少々お話を……!」


 背後で何か言っているが、ひとまず用件は済んだ。


 あとはセバスチャンのところへ行けば、何とかしてくれるだろう。


 ……あいつ、また文句を言うかな。


 まあ、言われたら聞けばいい。


 今はそれよりも大事なことがある。


 リエリエールが待っているんだからな。


 いや、別に待ち合わせをしているわけではないが、俺としては早く会いたい。


 あれこれ考えているうちに、目的の部屋の前へ着いた。


 俺は包みを持ち直し、扉を軽く叩いた。


 すると、間を置かずに扉が開いた。


「ギルバート様」


 顔を出したのはノエルだった。


 いつものように丁寧に頭を下げて迎えてくれたが、その顔を見た途端、俺は昨日のことを思い出した。


 ……ああ、そうだった。


 昨日、こいつに怒鳴ってしまったんだよな。


 レティシアの妊娠を知って、いろいろと考えているうちに余裕がなくなっていた。


 だからといって、ノエルに八つ当たりしていい理由にはならない。


 あの時は本当にどうかしていた。


「ノエル、昨日はすまなかったな」


 そう言って頭を下げると、ノエルは一瞬目を丸くした。


 だが、すぐに柔らかな笑みを浮かべてくれた。


「いえ、お気持ちは分かりますから」


「そう言ってもらえると助かる」


「どうぞ、お入りくださいませ」


「ああ、ありがとう」


 ノエルが少し身体を引き、俺を通してくれる。


 良かった。


 許してもらえたようだ。


 もっとも、だからといって昨日のことがなかったことになるわけじゃない。今後は気をつけよう。


 特に、レティシアやダリアのこととなると、俺はどうにも冷静さを失いやすい。


 自覚はあるんだよなぁ。


 自覚しているだけでは、あまり意味がないかもしれないが。


 そんなことを考えながら室内へ足を踏み入れると、ソファに座っていたリエリエールがこちらへ顔を向けた。


 ……うん。


 相変わらず綺麗だな。


 白金色の髪が肩から流れ、ゆったりと腰を下ろした姿には、なんとも言えない落ち着きがある。


 別に特別なことをしているわけではない。


 ただソファに座っているだけだ。


 それなのに、背筋の伸ばし方や手の置き方、こちらを見る仕草の一つ一つから、自然と気品のようなものが感じられる。


 さすが貴族の女性だ。


 ……いや、俺も貴族なんだけどな。


 同じ貴族でも、どうしてこうも違うんだろう。


 俺が同じようにソファへ座ったところで、せいぜいくつろいでいるようにしか見えない気がする。


 リエリエールは俺を見ると、静かに立ち上がった。


「おかえりなさいませ」


 そう言って、柔らかく頭を下げてくれる。


 うーん。


 いいなぁ。


 いや、何がいいのかと聞かれると困るんだが、こう、なんというか、いい。


 大げさに喜んだり、慌てて近寄ってきたりするわけでもない。


 それなのに、その穏やかな声を聞いただけで、不思議と帰ってきた実感が湧いてくる。


「ああ、ありがとう。長く留守にしてすまなかったな」


「いえ、お役目ご苦労様です」


 リエリエールはそう答え、静かに微笑んだ。


 その顔を見ていると、肩に残っていた疲れまで少し軽くなったような気がする。


 不思議な女性だよなぁ。


 リエリエールとは、俺の周囲にいる女性たちの中で一番付き合いが短い。


 レティシアとは幼い頃から一緒だし、ダリアともそれなりに長い時間を過ごしてきた。


 だが、リエリエールとはまだ知り合ってそれほど経っていない。


 それなのに、妙な安定感がある。


 包容力と言えばいいんだろうか。


 彼女の前では、無理に格好をつけなくてもいいような気がする。


 ……まあ、そもそも俺は普段からそんなに格好をつけていないけどな。


「こちらへどうぞ」


「ああ」


 勧められるままソファへ腰を下ろす。


 リエリエールも隣に座り直した。


 近くで見ると、やはり美しい。


 顔立ちだけではない。こちらへ身体を向ける動きも、膝の上で手を重ねる仕草も、どこかゆったりとしている。


 慌てることがないんだよな。


 こういうところは、俺も見習った方がいいかもしれない。


 まあ、無理だろうけど。


「それでだ、リエリエール」


「はい」


「これは土産だ。気に入ってくれるとうれしいが」


 俺は持っていた包みを差し出した。


 リエリエールは少し驚いたように目を瞬かせ、それから両手で丁寧に受け取ってくれた。


「わたくしに、でございますか?」


「ああ。買い物に出たついでにな。似合うと思ったんだ」


「まあ……ありがとうございます」


 彼女は包みを膝の上に置き、こちらへ一度視線を向けた。


 俺が頷くと、ゆっくりと包みを開いていく。


 中から現れたのは、水晶玉だった。


「まあ……」


 リエリエールの目が大きく見開かれた。


 おお。


 なかなかいい反応だ。


 彼女は両手で水晶玉を持ち上げ、角度を変えながらじっくりと眺めている。


 窓から入る光が透明な球の中を通り、表面の細かく彫られた模様に沿って淡く揺れた。


 俺も買う時に何度か眺めたが、こうして見るとやっぱり綺麗だな。


 リエリエールに似合うと思って選んだものだが、どうやら間違いではなかったらしい。


「これは……高かったのではありませんか?」


 水晶玉から目を離さずに、リエリエールが尋ねてきた。


 彼女の指先が、表面に彫られた模様をそっとなぞる。


 おお、そこにも気づいてくれたか。


 ただ透明で綺麗なだけじゃない。


 この細かく彫られた模様が気に入ったんだよな。


 いくつか眺めた中でも、これが一番いいと思った。


 こういうところを見てもらえると、選んだ苦労が報われるというものだ。


「それほどではない。気にするな」


 まあ、それほどだったかもしれないけど。


 わざわざ値段を教える必要はないだろう。


 土産というのは、喜んでもらえればそれでいいんだ。


 金額を気にされても困る。


「本当によろしいのでしょうか?」


「もちろんだ。お前に渡したくて買ってきたんだからな」


 そう言うと、リエリエールはようやく水晶玉から目を離して俺を見た。


 その口元には、穏やかな笑みが浮かんでいる。


「ありがとうございます。大切にいたします」


「ああ、そうしてくれるとうれしい」


 良かった。


 どうやら本当に気に入ってくれたようだ。


 俺は心の中で小さく胸を撫で下ろした。


 考えてみれば、女性への贈り物というのはなかなか難しい。


 自分がいいと思ったものを渡せばいいというわけでもないし、かといって何が欲しいかを直接聞いてしまうのも味気ない。


 レティシアには指輪を、ダリアには髪飾りを選んだ。


 どちらも似合うと思ったからだが、リエリエールについては少し迷った。


 付き合いが短い分、まだ知らないことが多いんだよな。


 何が好きで、どんなものを好むのか。


 これから少しずつ知っていけばいいんだろう。


 そんなことを考えている間も、リエリエールは水晶玉を眺めていた。


 時折指先でゆっくりと回し、光の当たり方を確かめるように目を細めている。


 その姿を見ているだけで、なんだか俺まで嬉しくなってくる。


 うん、いい買い物をした。


 彼女が水晶玉を脇へ置いたところで、俺もソファの背に身体を預けた。


 しばらく、二人でゆったりと過ごす。


 窓から差し込む光はもう夕方に近い色になっていて、部屋の中は落ち着いた明るさに包まれていた。


 外ではまだ城内の仕事が続いているのだろうが、ここまでは騒がしい声もほとんど届かない。


 静かだなぁ。


 考えてみれば、こうして誰かと何もせずに過ごす時間も久しぶりだ。


 戦場では、休んでいるつもりでもどこか気が張っている。


 敵がいるかもしれないし、何が起こるか分からない。


 だが、今はそんな心配をしなくていい。


 何より、隣にはリエリエールがいる。


 彼女もゆったりとくつろいでいるように見えた。


 俺は隣に座るリエリエールへ視線を向ける。


 さて。


 土産も渡したし、そろそろ話しておかなければならないことがある。


 実は、ここへ来る前から少し考えていたんだよな。


 言わなければならないこともあるし、お願いしたいこともある。


 だが、いざ本人を前にすると、これがなかなか切り出しにくい。


 別に怒られるようなことではないと思うんだが。


 ……いや、どうだろう。


 少なくとも、俺としては結構大事な話だ。


 リエリエールがこちらを向いた。


 その穏やかな眼差しを見ていると、何となく大丈夫な気がしてくる。


 うむ。


 こういうことは、変に考えすぎない方がいい。


 俺は少し姿勢を正し、彼女へ向き直った。


「すまんが少し頼みがあるんだ」

本日もよろしくお願いします。

本日の更新は、5時、12時、20時となります。

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― 新着の感想 ―
主人公があまりにも適当すぎて流石に読むのがしんどくなった。 もう少し落ち着かせて自分の女(将来の予定含む)以外とも会話を成立させた方がいいと思います。 これからも頑張ってください。
お金が余ってるのであれば、少しは還元しなされ。
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