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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百十七話 お腹の中の小さな命


 さて、次はダリアだな。


 俺は自室に戻って残りの土産を確かめ、髪飾りと布を手に取った。


 レティシアは随分喜んでくれたが、ダリアはどうだろう。あいつも俺が何か贈れば喜んでくれるとは思うが、何しろ相手は元々帝国の平民だ。貴族から贈り物をされること自体、あまり慣れていないかもしれない。


 まあ、今さらそんなことを気にする仲でもないんだけどな。


 それにしても、ダリアか。


 しばらく会っていない気がする。


 以前顔を見に行った時には、既にお腹が大きくなっていた。あれからどれくらい変わったんだろう。


 子供が順調に育っているなら、それが一番なんだが。


 俺は魔力を抑えていることを改めて確認し、ダリアのいる部屋へ向かった。


 彼女が今使っているのは、普段の私室というより妊娠中のために用意された特別な部屋だ。俺が好き勝手に出入りする場所でもないし、世話をする者もいる。


 何しろダリアのお腹にいるのは、俺の子供だからな。


 平民のダリアが魔力を持つ俺の子供を身籠っているというだけでも、随分珍しいことらしい。


 だからこそ、俺も慎重にならざるを得ない。


 ……しかし、会いたいものは会いたいんだよなあ。


 そんなことを考えながら部屋の前に立ち、扉を叩いた。


「ダリア、俺だ。入っていいか?」


 中から返事が聞こえたので、扉を開ける。


 そして、部屋の中にいるダリアを見た瞬間、思わず声が出てしまった。


「おおっ!」


「ギル様?」


 ダリアが驚いたようにこちらを見た。


 いや、驚いたのはこっちだぞ。


 すごいな。


 何がすごいって、お腹だ。


 あの細身のダリアのお腹が、以前とは比べものにならないくらい大きくなっている。


 もちろん、前に会った時もそれなりに膨らんではいた。だが、ここまでではなかったはずだ。


 もともと細い腰をしているだけに、お腹の丸みが一層目立つ。


 ……本当に、ここに俺の子供がいるんだよな。


 分かっていたことなのに、目の前にすると妙に感動する。


「どうかなさいましたか?」


 ダリアが不思議そうに尋ねてきた。


「ああ、いや。随分大きくなったなと思ってな」


 俺の視線がどこを向いているか気づいたのだろう。ダリアは自分のお腹へ目を落とし、そっと手を添えた。


 その仕草が、何とも自然だった。


 以前から綺麗な女だとは思っていたが、こうしていると、どこか雰囲気まで違って見える。


 ……母親になるんだなあ。


 俺も父親になるんだが、ダリアほど目に見える変化がないから、どうしても実感の湧き方が違う。


 ダリアの隣には、世話役の老婆がいた。


 騎士の出ではあるが、年齢のせいで魔力は随分衰えているはずだ。だからこそ、こうしてダリアの世話を任されているんだろう。


 俺が入ってきた時から、こちらの様子を静かに見守っている。


 それにしても、すごい腹だ。


 どんな感じなんだろう。


 見たところ、随分張っているようにも見えるが、触ったら柔らかいのかな?


 ……いや、待て。


 触っても大丈夫なのか?


 何しろ俺の魔力は規格外だ。


 可能な限り抑え込んではいるが、影響がないと断言できるわけではない。


 それに、下手に力を入れてしまうのも怖い。


 戦場で魔法を使う時とは、まるで違う緊張だな。


 俺がそんなことを考えながらお腹を眺めていると、ダリアが小さく笑った。


「触ってみますか?」


「……いいのか?」


「はい」


 ダリアはそう答えると、もう一度自分のお腹に手を添えた。


 うーむ。


 本人がいいと言ってくれているんだから、触ってみたいところだが。


 俺はちらりと老婆へ目を向けた。


 すると、老婆は俺とダリアを見比べ、穏やかに笑って頷いた。


 ……いいのか。


 まあ、少しだけなら大丈夫ということだろう。


 俺はゆっくりとダリアへ近づいた。


「痛かったらすぐに言えよ」


「はい、ギル様」


 ダリアが微笑みながら頷く。


 俺はその前に立ち、改めて大きくなったお腹を見つめた。


 ……さて。


 どうやって触ればいいんだ?


 別に難しいことをするわけじゃない。ただ手を置くだけなんだが、妙に緊張する。


 正直なところ、力加減が分からん。


 俺の手はそんなに大きくないし、普通に触る分には問題ないと思うんだが、それでも少し怖い。


 俺は指先を伸ばし、そっとダリアのお腹に触れた。


 おおっ。


 ……ん?


 なんか、思っていたのと違うな。


 もっとこう、ぷにょぷにょしているものだと思っていた。


 ところが、実際に触れてみると、意外なくらいしっかりしている。


 硬いというか、張り詰めているというか。


 もちろん石みたいに硬いわけではないが、俺が想像していた柔らかさとは随分違った。


 へえ。


 こういうものなのか。


 俺は力を入れないよう注意しながら、手のひらをわずかに動かした。


 丸く膨らんだ表面に、布越しでもはっきりした張りが感じられる。


 ……すごいな。


 この中に人がいるんだよな。


 しかも、俺の子供だ。


 そう考えると、何とも不思議な気分になった。


 人間って、こんなふうに生まれてくるんだな。


 当然、頭では知っている。


 知ってはいるが、実際に触れてみるのとは大違いだ。


 ダリアの身体の中で、俺の子供が少しずつ育っている。


 ……生きているんだよな。


 ふと、そんなことを思った。


 いや、もちろん生きているに決まっているんだが、こうして触れていると、どうしても確かめたくなる。


 俺はほんの一瞬だけ、極めて弱い感知魔法を使ってみた。


 ……うん。


 反応がある。


 以前にも感じた、あの小さな魔力反応だ。


 今も確かにそこにある。


 そう思ったところで、背後から小さな咳払いが聞こえた。


「……ん?」


 振り向くと、老婆がこちらを見ていた。


 表情は穏やかなままだが、どうにも妙な迫力がある。


 ……いらんことをするな、ということか?


 感知魔法を使ったのが分かったのか、それとも俺がいつまでもお腹に触っているのが気になったのか。


 どちらにせよ、あまり長居するなということだろう。


 俺は感知魔法をやめ、とっくに止めていた手をそっと離した。


 それから、改めてダリアの顔を見上げる。


 ……うーむ。


 お腹はあんなに大きくなっているのに、顔は相変わらずほっそりしたままなんだな。


 以前と比べても、あまり変わっていない気がする。


 もちろん、少し雰囲気は違う。


 でも、顔立ちそのものは相変わらず綺麗だ。


 いや、むしろ以前よりも美しく見えるような?


 ……なんだろう。


 以前は少し鋭かった美貌に柔らかさが加わったような。


 母親になると、こういうものなのか?


「あ、あの、ギル様?」


 ダリアの声で我に返った。


 おっと。


 どうやら、随分じっと見ていたらしい。


 ダリアの頬が赤くなっている。


 何だ、照れているのか?


「いや、相変わらず美しいな、と思ったら見惚れてた」


「……っ!」


 途端に、ダリアの顔がさらに赤くなった。


 おお、分かりやすいな。


 しかし、別に変なことは言っていないぞ。


 本当にそう思ったんだから仕方がない。


「本当のことだろう。照れるな」


「もう!」


 ダリアが困ったように眉を寄せた。


 ……あれ?


 怒られてしまった。


 いや、どう見ても本気で怒っているわけではないと思うんだが。


 それにしても、女というのは不思議だ。


 綺麗だと言われて嫌な気分になるわけでもないだろうに、なぜ怒るんだろう。


 ……まあ、いいか。


 そうだ、ちょうどいいものがある。


「土産だ」


 俺は持ってきた髪飾りと布をダリアへ見せた。


「まぁ……」


 ダリアの目が、二つの品に向けられる。


 そのまま髪飾りへ視線が留まった。


 おっ、気に入ったか?


 今回買ってきたのは赤い髪飾りだ。


 ダリアには、何となく赤が似合う気がしたんだよな。


 別に深い理由があるわけではないが、買い物をしていた時、これを見てダリアの顔が浮かんだ。


 だから選んだ。


 ……もっとも、支払いをしたのはセバスチャンだが。


 まあ、細かいことはいいだろう。


「こちらの布は?」


 ダリアがもう一つの品を手に取った。


「ああ、それは子を守るそうだ。気休めかもしれんが、一応な」


「子供を……」


 ダリアは布を広げ、しばらく眺めていた。


 綺麗な布ではある。


 それに、ああいうお守りみたいなものは、何となく持っているだけでも安心することがあるからな。


 本当に子供を守ってくれるかどうかは分からんが、気に入ってくれればそれでいい。


 俺はダリアが手にした布を受け取り、そっと彼女の肩へかけた。


「どうだ?」


「……ありがとうございます、ギル様」


 ダリアは肩にかかった布へ指先を添え、柔らかく微笑んだ。


 うむ。


 似合っているじゃないか。


 それにしても、こうして見ると、随分と大人びた雰囲気になったものだな。


 もともと俺より年上なんだが、それとはまた違う。


 ……いや、そんなことより髪飾りだ。


「後ろを向け。髪飾りも着けてやろう」


「はい」


 ダリアは素直に頷き、俺に背中を向けた。


 さらりと髪が揺れる。


 おお、相変わらず綺麗な髪だな。


 俺は手を伸ばし、ダリアの髪をゆったりとまとめ始めた。


 ……ん?


 思ったより難しいぞ、これ。


 普段は女たちが自分で髪を整えているし、レティシアに至っては俺の身支度まで全部やってくれる。


 だから、髪をまとめるという行為そのものを、あまり意識したことがなかった。


 こうして実際にやってみると、意外に扱いづらいものだな。


 手の中で髪がするりと滑る。


 細かい毛束が指の間から逃げていくので、落ちないように押さえ直した。


 ……おっと。


 うなじが見えた。


 何とも色っぽいな。


 普段は髪に隠れている部分が見えるだけで、こうも雰囲気が変わるものなのか。


 これはなかなか……。


 いや、いかん。


 今は髪飾りだ。


 俺はどうにか髪をまとめ、用意していた髪飾りで押さえた。


 うむ、これでよし。


 できたじゃないか。


 そう思って手を離した瞬間、まとめたはずの髪がさらさらと崩れ、元に戻ってしまった。


 ……ん?


 なんでだ?


 今、ちゃんと押さえたよな?


 髪飾りは手元に残っている。


 もう一度見てみるが、別に壊れているようには見えない。


 ……まさか不良品か、これ?


 せっかく買ってきたのに、それは困るぞ。


 俺が髪飾りを眺めていると、ダリアが小さく笑った。


「ギル様、こちらに」


「ああ」


 差し出された手へ髪飾りを渡す。


 ダリアは慣れた手つきで髪をまとめ、さっと髪飾りを着けた。


 ……おお?


 さっきまで俺の手の中で勝手に逃げ回っていた髪が、綺麗にまとまっている。


 しかも、手を離しても崩れない。


 なんだ、ちゃんと使えるじゃないか。


 不良品ではなかったらしい。


 ……ということは、俺のやり方が悪かったのか。


 うーむ。


 髪をまとめるだけだと思っていたんだが、意外と技術がいるんだな。


 それにしても、綺麗にまとまったじゃないか。


 ダリアがこちらを向くと、赤い髪飾りがよく見えた。


「うん、似合うぞ」


「ありがとうございます」


 ダリアが嬉しそうに微笑む。


 その笑顔を見ていると、さっきの失敗なんてどうでもよくなってくる。


 実際、似合っているんだからな。


 俺の選んだものが、こうしてダリアの身に着けられている。


 何とも嬉しいものだ。


 俺はそのままダリアの後ろへ回り、そっと腕を回した。


 もちろん、腹を圧迫しないように気をつけながらだ。


 前から抱きしめると、どうしてもあの大きなお腹が気になってしまう。


 なら、後ろからならいいだろう。


 ……まあ、これだって無理は禁物だが。


 俺は軽くダリアを抱きしめた。


 腕の中で、彼女がわずかに身体を預けてくる。


 ああ、いいなあ。


 久しぶりにこうして抱きしめた気がする。


 俺は目を細め、彼女の髪から漂う香りを感じた。


 ……ん?


 何となく、匂いが変わったような?


 以前よりも、少し甘くなった気がする。


 気のせいかな。


 それとも、妊娠の影響なんだろうか。


 よく分からん。


 だが、嫌な匂いではない。


 むしろ、いつまでもこうしていたくなる。


 ……いや、あまり長く抱きしめているわけにもいかないか。


 それでも、今だけはもう少し。


 俺はダリアを包む腕の力を緩めたまま、そっと囁いた。


「愛している」


 ダリアの肩がわずかに動いた。


 それから、落ち着いた声が返ってくる。


「もちろん、わたしも愛しております」


 ……うむ。


 いい返事だ。


 何とも満たされた気分になってくる。


 以前、帝国で出会った頃には、こんなふうになるとは思ってもいなかったな。


 あの時のダリアは、何かと俺に遠慮していたし、立場を意識している様子もあった。


 それが今では、俺の子供を身籠り、こうして愛していると答えてくれる。


 人生、何があるか分からんものだ。


 俺はもう一度軽く抱きしめてから、ゆっくり腕を解いた。


 すると、ダリアがこちらへ振り向いた。


 赤い髪飾りが小さく揺れる。


 ……うむ、やはり似合うな。


 しかし、そろそろ出た方がいいだろう。


 いつまでも側にいたいのは山々だが、俺の魔力が子供に影響するかもしれない以上、慎重でなくてはならない。


 俺は老婆へ目を向けた。


「頼むぞ」


 老婆は静かに頭を下げた。


 うむ。


 この人が側にいてくれるなら、少しは安心できる。


 だが、俺としては、もう一つ気になることがあるんだよな。


「ダリア」


「はい、ギル様」


「何かあれば、すぐに言うんだぞ。どんな小さなことでもだ」


 ダリアが俺を見つめる。


「はい。ありがとうございます」


 俺はその返事を聞きながらも、少しだけ気になっていた。


 ダリアは平民だ。


 しかも、帝国で生まれ育った女だ。


 今では随分と親しくなったし、俺に対しても遠慮なく話してくれることが増えた。


 だが、もともとの立場が違う。


 だからこそ、何か困ったことがあっても、変に気を使って黙ってしまうんじゃないか。


 それが少し不安なのだ。


 俺としては、別にそんな遠慮はいらない。


 まして、今は俺の子供を身籠っているんだからな。


 本人にとっては大したことがないと思っていても、俺にとってはそうではないかもしれない。


 何かあってからでは遅い。


 だから、どんな小さなことでも知らせてほしい。


 俺は改めてダリアの顔を見た。


「本当に、遠慮するなよ」


「はい、ギル様」


 ダリアは笑顔で頷いてくれた。


 その様子を見る限り、少なくとも今は大丈夫そうだな。


 まあ、心配しすぎても仕方がないか。


 俺があまり何度も同じことを言えば、かえって気を使わせてしまうかもしれん。


 ここは世話役の老婆にも任せておこう。


 俺はダリアへ軽く手を振り、部屋を出た。


 扉が閉まると、先ほどまでの甘い空気が少し遠ざかったような気がした。


 ふう。


 いやあ、いい時間だったな。


 あの大きなお腹に触れた感触が、まだ手のひらに残っているような気がする。


 あの中に、俺の子供がいる。


 それも、ちゃんと魔力反応があるんだよな。


 ……すごいなあ。


 何だか、また顔が緩んできた。


 父親になるというのは、こういうことなのかもしれん。


 ……いや、まだ産まれていないんだから、本当の意味での大変さはこれからなんだろうけどな。


 それでも、楽しみだ。


 俺は土産を渡し終えたダリアの笑顔を思い返しながら、廊下を歩き出した。


 さて。


 最後になってしまったが、次はリエリエールのところへ行こう。


 彼女には大事なお願いがあるからな。

本日の更新はここまでとなります。

次回は明日5時となります。

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