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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百七話 勝利と休養


 ダル兄さんを見送って、ようやく一息ついたところで父上から呼び出しがかかった。


 ……なんだろう。


 ここ最近は真面目に大人しくしていたはずなんだが。少なくとも、父上に叱られるようなことはしていないと思う。毎日の見回りだってやっていたし、城の仕事にも余計な口を挟まなかった。たまに少しばかりサボったことはあるが、それくらいは大目に見てもらいたい。


 いや、そもそも俺が何かしたなら、もっと早く呼び出されているか。


 そんなことを考えながら廊下を歩く。ダル兄さんと話したことがまだ頭の片隅に残っていて、どうにも落ち着かない。昨夜は手紙に随分と時間を取られたから、なおさらだ。できれば今日は適当なところで休みたかったんだが、父上に呼ばれてしまっては仕方がない。


 会議室の扉の前で足を止め、軽く衣服を整えてから中へ入った。


 父上とザイン殿がいた。


 ……なんか、いつも二人でいるな。


 まあ、仕事上仕方がないんだろう。俺が知らないところで話し合わなければならないことも山ほどあるだろうし、今は戦の最中だ。むしろ、二人がこうして落ち着いて座っていることの方がありがたいのかもしれない。


「父上、なんでしょう?」


 声をかけると、父上だけでなくザイン殿もこちらを向いた。父上はいつも通りの顔だ。怒っているようにも、機嫌がいいようにも見えない。こういう顔をされると少し困るのだが、ザイン殿は笑っている。


 うん。少なくとも怒られる雰囲気じゃないな。


「ギルバート、留守中はよくやった」


「……はい」


 思いがけず褒められて、返事が一拍遅れた。


 よくやった、か。


 正直なところ、ほとんど何もしていない気分なんだよな。毎日城や橋の周囲を見て回り、何か報告があれば聞き、必要なことを頼まれたら片づける。それくらいだ。敵が攻めてきたわけでもないし、俺が派手に戦わなければならない場面もなかった。


 だが、父上がそう言ってくれるなら、わざわざ否定することもあるまい。褒められて困る理由はないからな。


「毎日の見回り、ご苦労様でした」


 ザイン殿までそう言ってくれた。


 ……うん、ちょっとサボった日もあったんだが、どうやらバレていないらしい。いや、もしかしたら知っていて何も言わないだけかもしれないが、ここは余計なことを口にしない方がいいだろう。


「はい、ありがとうございます」


 素直に頭を下げた。こういう時に変な話し始めると、自分から墓穴を掘ることになる。俺もそれくらいは学習しているのだ。


 父上はしばらく俺を見ていたが、やがて口を開いた。


「それでな、ギルバート。十日ほどマバール城に戻り、身体を休めよ」


 ……休み?


 しかも十日も?


 ありがたい話ではある。眠いし、身体だって休められるなら休めたい。マバール城にはレティシアたちもいる。久しぶりに顔を見たいし、できればゆっくり過ごしたい。だが、その気持ちのまま頷くには、どうにも引っ掛かるものがあった。


「しかし、今はいくさの最中です」


 口にしてから、自分でも少し意外だった。


 俺は別に働きたくて仕方がない人間じゃない。むしろ暇があれば休みたいし、面倒な仕事など誰かに任せられるならその方がいい。だが、皆が戦っている時に自分だけ城へ戻ってのんびりするというのは、どうなんだろう。


 戦場では命を懸けている連中がいる。それを考えると、なんだか俺だけ役立たずになった気がするじゃないか。


「今だからだ」


 父上は短くそう言った。


 ……今だから?


 俺が首を傾げると、ザイン殿が少し身を乗り出した。


「ギルバート殿が善良王を攫ってくれたおかげで、王国は結束して反撃することができません。本来なら国王軍を中心に王国軍を組織するところですが、国王不在では国王軍自体を動かすことができないのです」


 なるほど。


 王国の各地で戦っている貴族たちはいても、国王軍を中心にした大きな反撃はすぐにはできないわけか。善良王を攫った時には、もちろん相手が困るだろうとは思っていたが、こうして戦況の話と結びつけられると、なかなか効果があったらしい。


 ……いや、待てよ。


 反撃できないのなら、それこそ今が好機じゃないか?


「ですが、それならば今のうちに攻めるべきでは?」


 父上を見る。


 相手がまとまれないうちに攻めて、可能な限り叩いてしまえばいい。立て直す暇を与えなければ、それだけこちらが有利になるはずだ。勝てる時に勝っておく。実に分かりやすい話だと思うんだが。


 父上は俺の言葉を聞いても顔色を変えなかった。


「現在、ほぼ全ての戦場で勝敗が決した。我らの勝利だ」


「……ほぼ全て、ですか?」


 思わず聞き返した。


 俺がシルディア城にいる間にも、そんなに話が進んでいたのか。戦況の報告は受けていたつもりだったが、各地で勝敗が決したとまとめて聞くと、ずいぶん印象が違う。


「目的はほぼ達成されました。今回の作戦は大成功と言っていいでしょう」


 ザイン殿も頷いた。


 父上とザイン殿が揃ってそう言うなら、戦況は本当にこちらが有利なんだろう。二人とも、俺を休ませたいからといっていい加減なことを言うような人ではない。


 それでも、妙な感じだ。


 俺がここで見回りをしたり、何も起こらない日には退屈したりしている間に、別の戦場では大勢が動き、勝負をつけていたのだ。自分の目で見ていないだけで、いくさは確かに進んでいたらしい。


「このまま王国が敗北を受け入れるか、国王不在でも国王軍を動かし反撃に転ずるか。十日では決められまい」


 父上はわずかに笑っていた。


 ふむ。なるほどな。


 次に大きな戦いが起こるとすれば、王国が態勢を立て直してからか。そのためには国王軍をどうにか動かさなければならず、しかも王国側は敗北を受け入れるかどうかも決めなければならない。少なくとも、今すぐ皆で押し寄せてくるという話ではなさそうだ。


 それなら、十日くらいマバール城に戻ってもいいのかもしれない。必要になれば、こちらへ急いで戻ればいい。何も起きていないうちに身体を休めておくのも、悪いことではないだろう。


 ……とはいえ。


「王国は敗北を受け入れるでしょうか?」


 気になったので聞いてみた。


 もう十分にやられているのなら、そこで手を引くという考え方もあるはずだ。国王までこちらに攫われているのだから、少なくとも簡単な状況ではないだろう。


 父上は俺を見て笑った。


「無理だ。人が敗北を認めるのは、倒れた時のみよ」


 ……そういうものか。


 いや、考えてみれば分からなくもない。まだ兵も貴族も残っている。これだけやられたのに終わりにしろと言われて、素直に頷く連中ばかりではないだろう。まして国王を攫われているとなれば、なおさらだ。


「おそらくだが、国王救出のためとして国王軍を編成するだろう。今、大慌てでそのための条文を整えておるだろうよ」


 ……条文?


 俺は少し首を傾げた。


「法ではなくて条文なのですか?」


 どうせなら王国法として、きちんと明文化してしまえばいいんじゃないか。国王が攫われた場合にどうするのか、あらかじめ決まりがないというのも面倒な話だが、今からでも作ればいいような気がする。


「法を裁可する国王が不在だからな」


 父上が苦笑した。


 ……ああ、そうか。


 新しく法を作ろうにも、それを認める国王自身がいないのか。だから何とか条文を整えて、今いる連中だけで動ける形を探しているということだろうか。できるのかな、それ。条件を付ければどうにかなるのかもしれないが、俺にはさっぱり分からない。


 国境では敵が来れば戦うし、必要ならその場で動く。そんな俺たちの感覚からすると、いちいち形を整えなければ兵を動かせないというのは、ずいぶんのんびりしているようにも聞こえる。だが、王都のお偉いさんたちにとっては、形が整っていないことの方が大問題なんだろう。


 前世でもあったよな、こういうの。法的根拠がないから動けないとか、誰の決裁が必要だとか。事情は違うんだろうが、聞いているだけで面倒くさくなってくる。


「面倒くさいですね」


 思ったままを口にすると、父上が深く頷いた。


「まったくだ」


 ……父上もそう思っていたのか。


 なんだか少しおかしくなった。敵が動けない理由について話しているのに、二人して面倒だと頷き合っているのだから。


 まあ、俺が王国の条文を心配したところで仕方がない。誰がどう処理するのかなど、知ったところで俺の仕事が増えるだけだろう。それよりも、しばらく大きな戦いが起こりにくいということは理解できた。


 なら、お言葉に甘えるとしよう。


「セバスチャンたち、俺の騎士団も休ませて構いませんか?」


 自分だけ十日も休むのは気が引ける。あいつらもずっと働いていたのだから、休める時に休ませてやりたい。俺がマバール城へ戻るのなら、連れて帰る方が都合もいい。


「むろんだ。むしろ団長無しで動かすな」


 父上の返答は早かった。


 うん、そうだよな。俺の直属の騎士団なのだから、俺だけいなくなって連中に別の仕事をさせるのも妙な話だ。セバスチャンなら何かあっても勝手にどうにかしそうだが、それはそれで困る。


 これで安心して帰れるな、と思ったところで、父上が続けた。


「そろそろ騎士団の名前を考えたらどうだ? いつまでも俺の騎士団では記録に残せんぞ」


 ……名前?


 そういえば、考えたことがなかったな。


 俺にとっては俺の騎士団で十分だったし、セバスチャンたちもそれで通じていた。だが、言われてみれば誰の騎士団なのか分かりにくい。父上たちが書類に残す時まで「俺の騎士団」では困るだろう。誰の俺なんだ、それ。


 別に名前がなくても戦うことはできると思うが、正式に扱うなら呼び名くらいは必要なのかもしれない。


「考えておきます」


 俺が答えると、父上はそれ以上何も言わなかった。ザイン殿もいつもの穏やかな表情でこちらを見ている。


 休養の許可はもらった。騎士団も休ませていい。あとは名前か。


 ……うーむ。仕事が一つ増えた気もするが、まあ、帰る前にどうにかすればいいだろう。


 俺は父上とザイン殿に一礼し、会議室を後にした。

本日もよろしくお願いします。

本日の更新は、5時、12時、20時となります。

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