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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第三百三話 俺の正妻問題


 そこで問題になるのが、俺の立場だ。


 俺は塔の頂上に寝転がったまま、しばらく空を眺めていた。


 風が気持ちいい。


 遠くで木々の葉が擦れ合う音がしている。


 こんな日は、何も考えずに昼寝をするのが一番だろう。


 そう思うのだが、どうにも頭の中に引っかかるものがある。


 マバール家は新しく帝国貴族になった。


 父上たちは既存の帝国貴族との関係を考え、少しでもこちらの立場を安定させようとしているはずだ。


 そのためには、帝国貴族家同士で協力することも必要になる。


 ……うん。


 そこまではいい。


 問題は、どうやってその関係を強くするかだ。


 貴族家同士が結びつく方法なんて、いろいろあるだろう。


 共通の敵がいれば協力もしやすいし、互いに利益があるなら手を組む理由にもなる。


 だが、もっと分かりやすい方法がある。


 婚姻だ。


 ……ああ。


 そういうことか。


 俺は自分でも嫌になるくらい、ゆっくりと息を吐いた。


 ダル兄さんには、すでに正妻がいる。


 アル兄さんも、エディオン家からザイン殿の娘を正妻に迎える予定だ。


 どちらも相手が決まっているわけだな。


 そして、俺はどうか。


 ……いない。


 正妻がいないのである。


 つまり、フリーだ。


 実に分かりやすい。


 マバール家の三兄弟のうち、正妻が決まっていないのは俺だけなのだ。


 いや、何も悪いことではないぞ?


 俺には俺の事情というものがある。


 そもそも、正妻なんてものは急いで決めればいいという話でもないだろう。


 相手の女性にも事情があるだろうし、何より家同士の関係も考えなければならない。


 だから、これまではあまり気にしていなかった。


 父上たちがそのうち考えるだろう。


 俺はそう思っていたのだ。


 ……だが、今は状況が違う。


 マバール家が帝国貴族となり、周囲の貴族家との関係を改めて築かなければならなくなった。


 そんな時に、ちょうど正妻のいない三男が一人いる。


 つまり、俺だ。


 ……これを父上が見逃すだろうか?


 いやぁ。


 無理だろうなぁ。


 ザイン殿だって、俺がまだフリーなのは知っている。


 というか、知らないはずがない。


 あの二人が、俺の婚姻を何かに利用できないかと考えないわけがないんじゃないだろうか。


 ……うーん。


 これは、少々面倒なことになったかもしれん。


 俺は片腕を額へ乗せ、目を細めた。


 別に、結婚するのが嫌なわけではない。


 むしろ、相手が好みの女性なら大歓迎だ。


 貴族男子にとって、子を成すことは大事な役割でもある。


 ただ結婚すればいいというものではなく、ちゃんと子供を作らなければならない。


 だからこそ、正妻選びには本人の意向もある程度反映されることが多い。


 いくら家同士に利益があるからといって、男がどうしても嫌がる女性を正妻にして、結局子供ができなかったら本末転倒だろう。


 抱く気にもなれない相手では、どうしようもないのだ。


 身も蓋もない言い方をすれば、勃起しない相手では子供なんて作れないからな。


 そこは、理屈だけでどうにかなるものでもない。


 しかも、貴族は平民と比べて子供ができにくい。


 もともと簡単ではないものを、さらに難しくしてどうするんだという話だ。


 だから、俺の意向だって無視はされないと思う。


 思うんだが……。


 俺の場合、そのあたりが少々怪しい。


 何せ、俺は女好きである。


 自分で言うのも何だが、これはもう隠しようがないだろう。


 幼い頃から綺麗な女性が好きだったし、今だってそうだ。


 周囲にも散々知られているはずである。


 しかも、この年ですでに一人身籠らせている。


 ……うん。


 こうして並べてみると、俺は実に健全な貴族男子だな。


 父上だって、そこは評価してくれているはずだ。


 いや、評価されているからこそ困るのか?


 嫌いな女性を正妻にしても子供ができないかもしれない。


 普通ならそういう心配をするのだろうが、俺の場合はどうだ。


 多少好みから外れていても、相手が女性なら何とかなると思われているんじゃないだろうか。


 ……ありそうだなぁ。


 実際、俺自身もかなり幅広く対応できる自信がある。


 美人は好きだ。


 胸が大きければ嬉しいし、綺麗な顔をしていればなお嬉しい。


 だが、別にそれだけで女性を選んでいるわけでもない。


 気立てがよくて、一緒にいて楽しい女性も好きだ。


 結局、好きな女性の幅はかなり広いのである。


 ……これは、父上たちからすれば便利な男だろうな。


 選べる相手が多いのだから。


 俺は何とも言えない気分になって、空へ向けて小さく息を吐いた。


 それにしても、少し妙なんだよなぁ。


 父上はマバール城へ向かう前、俺にシルディア城を守るよう命じた。


 絶対に攻めるな、とも言われている。


 もちろん、命令された時にはそれほど不思議には思わなかった。


 父上がいない間、誰かが城を守らなければならないのは当然だ。


 王国とはまだいくさの最中なのだから、何が起こるか分からない。


 だが、父上自身が言っていたではないか。


 シルディア城は、すでに最前線ではない。


 王国軍がいきなり押し寄せてきて、城を包囲するような可能性は低いのだ。


 それなら、経験豊かなザイン殿がいれば、十分に対処できるんじゃないだろうか。


 少なくとも、俺が毎日城内を歩き回り、仕事を探しているような状況なのだから、今すぐ俺でなければ困るという問題があるようには思えない。


 ……もちろん、万一に備えて俺を置いているというのは分かる。


 俺がいれば、何かあった時の対処もずっと楽になるだろう。


 それは間違いない。


 だが、それだけなのか?


 俺は額に乗せていた腕を下ろした。


 父上はマバール城へ向かった。


 そして、そこにはマバール家の男性貴族たちが集まっている。


 帝都から戻ってきたダル兄さんもいる。


 アル兄さんもいる。


 父上もいる。


 ……俺だけいない。


 いや、いないのは当然なんだが。


 俺はシルディア城を守れと命じられているからな。


 だが、そう考えると、何とも都合がいいような気がする。


 正妻の決まっていない三男だけが、離れた城で留守番をしている。


 その間に、父上たち全員がマバール城へ集まっている。


 ……うーん。


 これ、俺の正妻について話し合ってるんじゃないだろうか?


 何となく、そんな気がしてきた。


 そもそも、ザイン殿の態度だって少し妙だった。


 戻ってから、何となくよそよそしいというか、普段と違うような感じがしていたのだ。


 別に嫌われているような気はしない。


 何か失敗をして怒らせたという覚えもない。


 ただ、いつもと少し違う。


 何だろうと思っていたのだが、もし俺の婚姻について何か話が進んでいるのなら……。


 ……いやいや。


 決めつけるのはよくないな。


 ザイン殿にだって、いろいろ事情はあるだろう。


 別に、俺の結婚のことばかり考えているわけではあるまい。


 そもそも、本当にそんな話をしているのかどうかも分からない。


 だが、可能性としてはありそうだ。


 かなりありそうだ。


 ……何だかなぁ。


 俺は寝返りを打ち、横向きになった。


 石が少し硬い。


 もうちょっと柔らかい場所ならよかったのだが、わざわざ昼寝のために何か持ち込むわけにもいかない。


 まあ、少しくらい我慢しよう。


 それより、俺の正妻だ。


 仮に本当に話が進んでいたとして、個人的には別に構わない。


 現在、俺にはレティシア、ダリア、リエリエールの三人がいる。


 三人とも大事な女性だ。


 もちろん、今の関係を壊したいわけではない。


 だが、女性がもう一人増えること自体には、何の問題もないと思う。


 むしろ望むところだ。


 綺麗な女性が増える。


 うん。


 実に素晴らしいではないか。


 ……ただなぁ。


 どこから選ぶんだろう。


 俺はまた仰向けになり、空へ目を向けた。


 マバール家の立場を安定させるための政略結婚だとしたら、相手の家にもそれなりの意味があるはずだ。


 すでに仲のいい貴族家との関係を強めるのも悪くない。


 だが、今のマバール家が抱えている問題を考えると、反対している勢力との関係改善に使おうとする可能性もある。


 ……やっぱり、そっちかなぁ。


 反マバール家の貴族から娘を迎えれば、少なくとも家同士の関係は変わる。


 それで相手が完全に味方になってくれるかどうかは知らないが、何もないよりはましだろう。


 理屈は分かる。


 俺だって、必要ならそうするべきだと思う。


 だが。


 ……その娘は、俺のことをどう思っているんだ?


 そこが問題だ。


 父親がマバール家を嫌っているからといって、娘まで俺を嫌っているとは限らない。


 それは分かっている。


 分かっているんだが、もし嫌われていたらどうする?


 王国を裏切った家の三男。


 帝国へ来たばかりなのに、やたらと大きな力を持っている男。


 しかも、女好きで、すでに何人も女性を抱えている。


 ……うん。


 改めて考えると、俺の評判ってどうなんだろうな。


 自分ではなかなかいい男のつもりなんだが、相手の女性から見てもそうだとは限らない。


 それこそ、初めから嫌われている可能性だってある。


 別に、抱けと言われれば抱くことはできると思う。


 そこには自信がある。


 いや、まあ、実際に会ってみなければ分からないけどな。


 だが、俺が相手を抱けるからといって、それで結婚生活がうまくいくわけではないだろう。


 相手から嫌われていたら、どうするんだ?


 俺は基本的に、女性とは仲良くしたいのである。


 綺麗な女性を眺めるのも好きだし、触れるのも好きだ。


 抱き締めたり、甘えられたり、一緒に楽しく過ごしたり。


 そういうことがしたい。


 要するに、イチャイチャしたいのだ。


 ……いや、本当に。


 せっかく結婚するのに、顔を合わせるたびに嫌な顔をされるなんて、悲しすぎるだろう。


 俺が部屋へ入ったら相手の機嫌が悪くなる。


 話しかけても嫌そうに返事をされる。


 触れようとしたら避けられる。


 ……うわぁ。


 嫌だなぁ、それ。


 考えただけで気が重くなる。


 もちろん、そんな女性が来ると決まったわけではない。


 仲良くなれる可能性だって十分ある。


 だが、もし本当に俺を嫌っている女性が正妻になったら、どうしたらいいんだろう。


 ……断るか?


 いや、待て。


 それも難しい。


 単に俺が嫌だからという理由で断ってしまっていいものだろうか。


 もしその婚姻が、マバール家にとって非常に重要なものだったら?


 帝国内での立場を安定させるために必要な話だったら?


 父上から、マバール家のためだと言われたら?


 ……うーん。


 断りにくいなぁ。


 いや、俺が本気で嫌だと言えば、父上だって無理強いはしないような気がする。


 少なくとも、俺の意向をまったく聞いてくれないとは思わない。


 だが、それで話が終わるとは限らない。


 俺が断ったとしても、マバール家に必要な婚姻が不要になるわけではないからな。


 誰かが、その役目を引き受けなければならないかもしれない。


 ……誰が?


 ダル兄さんには、もう正妻がいる。


 アル兄さんも、ザイン殿の娘を迎える予定だ。


 そこで、俺が嫌だと言って断ったらどうなる?


 ……まさかな。


 いや、さすがにそこまではしないと思う。


 思うのだが、最悪の場合、ダル兄さんが離縁するなんてことにならないだろうか。


 あるいは、アル兄さんの婚約を解消するとか。


 ……それは嫌だぞ。


 自分の都合で兄さんたちの結婚に迷惑をかけるなんて、冗談じゃない。


 そもそも、兄さんたちにそんなことをさせるくらいなら、俺が引き受ければいいだけの話だ。


 何せ、正妻がいないのは俺だけなのだから。


 ……うん。


 そうだよな。


 もし本当にそういう話になったら、俺が受け入れるべきなんだろうな。


 俺は小さく息を吐いた。


 理屈としては、実に簡単だ。


 俺が結婚する。


 マバール家のためになる。


 兄さんたちも、今の婚姻関係を変えずに済む。


 誰も困らない。


 ……いや。


 俺が困るかもしれないんだが。


 そこが問題なんだよなぁ。


 俺は別に、マバール家のために何かするのが嫌なわけではない。


 父上にはいろいろ世話になっているし、兄さんたちのことだって大事に思っている。


 皆が困っている時に、自分だけ好き勝手をしていたいとは思わない。


 ……普段は好き勝手しているけどな。


 それとこれとは話が別だ。


 必要な時には、ちゃんと役に立ちたいのである。


 だが、それでも結婚となると、少々事情が違う。


 戦場へ出るなら、戦って終わりだ。


 仕事を任されたなら、片づければいい。


 面倒なことでも、いつかは終わる。


 だが、結婚はそうはいかない。


 何せ、この世界の貴族は寿命が長い。


 平民とは比べものにならないくらい長く生きるのだ。


 俺だって、これから先、どれほど生きることになるのか分からない。


 ……それなのに。


 もし正妻から嫌われたままだったら?


 何十年も、下手をすれば百年以上、そんな関係が続くかもしれない。


 ……うわぁ。


 きつい。


 それはかなりきついぞ。


 もちろん、側室や愛人を持つことはできる。


 俺にはすでに大事な女性たちがいるし、これから先も増えるかもしれない。


 それなら、正妻と仲が悪くても別に構わないじゃないか、と言う者もいるだろう。


 だが、そういう問題じゃないんだよなぁ。


 他に好きな女性がいるからといって、奥さんから嫌われていても平気というわけではない。


 むしろ、同じ家で暮らす相手なのだから、仲良くできるに越したことはないだろう。


 朝に顔を合わせたら挨拶をして、食事の時には他愛もない話をする。


 気が向いたら一緒に過ごして、時には抱き締めたりもしたい。


 ……うん。


 そういう普通のことがしたいんだよ、俺は。


 別に難しいことを望んでいるつもりはない。


 ただ、奥さんともイチャイチャしたい。


 それだけなのだ。


 ……それだけなんだがなぁ。


 父上たちが本当に俺の婚姻について話し合っているのなら、そんな希望をどこまで聞いてもらえるものだろうか。


 いや、そもそも話し合っているかどうかも分からないんだが。


 ここまで考えておいて、全部俺の勘違いだったら笑えるな。


 父上たちは真面目に軍や領地のことを話し合っているだけで、俺の正妻なんて誰も考えていない。


 なのに俺だけが勝手に悩んでいる。


 ……ありそうだ。


 実にありそうだ。


 そう考えると、少し馬鹿馬鹿しくなってきた。


 だが、完全に笑い飛ばせるかというと、そうでもない。


 何せ、いつかは考えなければならない問題だからな。


 たとえ今回の話し合いに俺の婚姻が関係していなかったとしても、正妻がいないという状況が変わるわけではない。


 いずれ父上から何か言われる可能性は十分にある。


 その時には、どう答えるべきなのだろう。


 ……うーん。


 俺は腕を伸ばして、ゆっくりと身体の力を抜いた。


 石の硬さにも、いつの間にか慣れてきている。


 風が気持ちいい。


 木々の葉が擦れる音も、何だか心地よく聞こえてきた。


 マバール家のためなら、俺が引き受けるべきなんだろうな。


 それは分かる。


 分かるんだが、やっぱり相手には好かれたい。


 どうせ結婚するなら、仲良くしたい。


 イチャイチャしたい。


 ……でもなぁ。


 家のためだと言われたら、断りにくいよなぁ。


 いや、相手が俺を嫌っていると決まったわけじゃないし。


 むしろ、実際に会ってみたら案外気が合うかもしれない。


 それなら何の問題もない。


 ……うん。


 そうだな。


 そういう可能性だってある。


 そもそも、まだ相手がいるかどうかも分からないのだから、今から悩んでも仕方がない。


 仕方がないんだが……。


 ……うーん。


 やっぱり気になるなぁ。


 父上たち、何を話してるんだろう。


 ……まあ、考えても分からんか。


 そう思って、ゆっくりと目を閉じた。


 風が頬を撫でる。


 どこかで鳥の声が聞こえたような気がした。


 木々の葉が揺れる音は、相変わらず穏やかだった。


 ……うーん。


 でも、マバール家のためだもんなぁ。


 ……いや、だけどなぁ。


 俺はそんなことを、いつまでもダラダラと考えていた。


 考えても考えても、答えは出ない。


 そもそも、答えを出すための情報が足りないのだ。


 ならば、今は考えても仕方がない。


 ……そうだな。


 こういう時こそ、休息が必要なんじゃないだろうか。


 うん。


 やっぱり昼寝は大事だ。


 健康で健全な身体を維持することは、立派な仕事なのだから。


 ……実に正しい。


 そう考えているうちに、いつの間にか頭の中の声も遠くなっていた。


 政治のことも、父上たちのことも、まだ顔も知らない正妻候補のことも。


 考えていたはずなのに、少しずつどうでもよくなっていく。


 結局、俺は本当に昼寝してしまっていた。

本日もありがとうございました。

次回更新は明日、5時となります。

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