↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

300/344

第三百話 俺を倒す方法


 食料がなければ、どんなに魔力を持っていたところで生きてはいけない。


 橋へ向かう道を歩きながら、俺は前を行く荷車を眺めた。人が押しているそれには荷物が積み上がり、車輪が土の窪みに入るたび、積荷が小さく揺れている。持って歩けないほどの荷を運ぶのは大変そうだが、捨てずに持っていきたいものが、それだけあるということなのだろう。


 荷物だけでなく、食べ物も要る。運ぶ間も、行き着いた先でも。


 そう考えたところで、妙なことが頭に浮かんだ。


 ……もし俺が俺を倒すなら、どうする?


 何だ、その考えは。


 自分で自分に突っ込みを入れたが、いったん思いついてしまうと気になる。俺が敵なら、俺をどうやって始末するだろう。もちろん、実際に俺が二人いるわけじゃないし、誰かに相談できる内容でもない。そんな話をしたら、余計な心配をかけるに決まっている。


 だが、散歩の途中で考えることくらいは自由だ。どうせ急ぎの仕事も見つからなかったしな。


 まずは、正面から戦わない。


 これは決まりだ。俺自身のことだからよく分かるが、真正面から攻撃魔法をぶつけ合うなんて、相手をする側にとっては割に合わない。防御魔法も使えるし、肉体強化魔法だってある。何より魔力の量が違う。まともにぶつかれば、俺が倒れるより先に周囲がひどいことになるだろう。


 ……敵だと思うと、嫌な奴だな。俺は。


 こっちは真面目に倒す方法を考えているのに、向こうはなかなか倒れてくれそうにない。しかも強いと自覚まである。まったく、性格まで面倒くさい。


 となれば、戦う以外の方法だ。


 俺なら周囲を完全に包囲して、日干しにする。


 そうだ。それが一番分かりやすい。


 食料を入れない。水も入れない。外と行き来できなくして、ひたすら待つ。どれほど魔力を使えたとしても、腹が減らなくなるわけじゃない。喉だって渇くし、眠らずにずっと動き続けられるわけでもない。生物である以上、いつかは限界が来る。


 自分の腹に意識を向けてみた。今はまだ空腹というほどでもないが、昼になれば腹も減るだろう。食べなくても平気な身体だったら、城の食事を楽しみにすることもなかったかもしれない。


 そう考えると、弱点というのは案外身近なところにあるものだ。


 俺を倒すなら、俺と戦わずに待てばいい。


 ……いや、待てよ。


 包囲された俺は、大人しく座っていてくれるのか?


 そんなわけがない。


 水も食べ物も入ってこないと分かった時点で、俺なら外へ出る方法を考えるだろう。そこで敵が取り囲んでいると知ったら、どうするか。答えは簡単だ。邪魔なところを破って出ていく。


 俺の攻撃魔法を受け止めながら、逃がさず囲い続ける。考えるだけなら簡単だが、実際にそれをやらされる兵たちはたまったものじゃない。人数を増やせば済む話でもないし、狭いところに集まってくれれば、むしろ俺の方がやりやすい。


 兵を散らして遠くから囲むか?


 それなら包囲は大きくなり、今度はどこかに抜け道ができそうだ。俺は馬で走るより自分で動いた方が早いことだってある。肉体強化魔法で動けば、包囲の一角を抜けるのも難しくない気がする。


 ……やっぱり駄目か。


 せっかく良い案だと思ったのに、倒される側の俺が勝手に逃げ出してしまう。


 目の前を歩いていた人々が少し脇へ寄ったので、俺も荷車の後ろを避けて歩いた。車輪の音が横へ流れ、今度は別の馬車の蹄の音が聞こえてくる。道の上では、誰かが進めば誰かが道を譲る。ぶつからないように動くだけでも、案外考えることがあるものだ。


 戦場なら、道を譲ってくれる相手ばかりじゃないだろうが。


 では、毒はどうだろう。


 考えはしたものの、すぐに首を捻った。貴族の身体は頑丈だ。普通の毒で俺をどうにかできるとは思えない。そうなると腐銀くらいしか思いつかないが、あれは即効性が低い。暗殺用としては有効でも、戦場で目の前の俺を止めるには向かないだろう。


 しかも、俺は腐銀のことを知っている。


 知らないうちに使われるのが怖いのであって、危ないと分かっているものに自分から近づくつもりはない。もちろん見ただけで何もかも見抜けるわけではないし、油断していい理由にもならないが、少なくとも正面から毒を持ち出して解決できるほど簡単ではなさそうだ。


 結局、食料と水を断つ案に戻ってしまう。


 だが包囲すれば逃げる。


 なら追いかけ続ける? そもそも、俺に追いついて囲み直せるのか? 無理をして追いついたところで、もう一度包囲を破られたら、それまでに払った犠牲は何だったんだという話になる。


 ふむ。こうして考えてみると、俺を倒すのはかなり大変だな。


 いや、別に自慢しているわけじゃないぞ。敵になったつもりで考えているんだから、むしろ困っているのだ。こんな奴が相手だったら、俺だって嫌になる。


 とはいえ、嫌だ嫌だと言っても倒せるわけじゃない。方法を変えるしかないだろう。


 ……なら、政治的に殺すか。


 剣も魔法も通じないなら、立場を利用して排除する。俺が敵にとって邪魔な存在だとして、戦わずに済ませられるなら、それに越したことはない。腕力で勝てない相手でも、周囲から見放されれば困るはずだ。


 そこで真っ先に浮かんだのは、父上の顔だった。


 ……これも難しいな。


 俺を政治的に追い詰めるなら、まず父上が俺を疑わなくては始まらない。何を言われたところで、父上が俺を信頼してくれている間は、そう簡単に話が進むとは思えない。


 そして、俺は基本的に良い子なのだ。


 ……うん。良い子だろう、俺は。


 父上の言いつけを守って、今だってシルディア城に残っている。攻めるなと言われたから、攻めてもいない。朝から自分にできる仕事を探し、城壁まで見廻ってきた。その結果、こうして散歩をしていることについては、まあ、少し横へ置いておこう。


 少なくとも父上を裏切るような真似はしないし、わざわざ疑われるようなことをするつもりもない。


 敵が俺の悪口を吹き込んできたとして、それだけで父上が俺を切り捨てるとは考えにくい。父上は甘いだけの人じゃないし、俺のこともよく見ている。怒られることはあるだろうが、怒られるのと見捨てられるのとでは、まったく違う。


 それに、父上が疑い始めるような何かを、敵が用意できるとも限らない。


 ……やはり、俺を政治的に殺すのは難しそうだ。


 だったら社会的に抹殺するか。


 俺の評判を落とし、信用を失わせ、誰にも相手にされないようにする。想像するだけで面倒くさいが、そういうやり方なら魔力の強さは関係ない、ように思える。


 ところが、それにも問題があった。


 社会的な信用を失ったところで、俺の魔力がなくなるわけじゃないのだ。


 何を言われようと、俺は俺である。噂が広がったからといって、攻撃魔法が急に使えなくなるわけでもない。無論、顔を合わせにくくなる相手はいるだろうし、好き勝手なことを言われれば腹も立つ。それでも極論すれば、気にしなければいいだけの話になる。


 ……いや、さすがに全部を気にしないのは難しいか。


 それでも、俺が生きていることには変わりない。


 ここまで考えて、なんだか妙な気分になってきた。


 最初は食べ物の話だったのに、いつの間にか自分を政治的に殺したり、世間から消したりしようとしている。こんなことばかり考えていたら、せっかくの良い天気がもったいない。


 もうやめようかと思ったところで、考えたくもない方法が浮かんでしまった。


 ……レティシアたちを人質にする。


 足が少し鈍った。


 周囲の話し声や荷車の音は相変わらず聞こえている。それなのに、さっきまで面白半分に考えていた方法とは違って、今度は妙に胸の奥が重くなった。


 俺自身を相手にして勝てないのなら、俺が大切にしている者を狙う。そうすれば、嫌でも俺は相手の言葉を聞かざるを得ない。


 ……うん。これは、ある意味有効だ。


 ただし、俺を激怒させるという方向でだが。


 レティシアたちが誰かに捕まって、俺を脅すために使われる。そんな光景を思い浮かべただけで、さっきまでの気楽な考え事が馬鹿馬鹿しくなった。俺に何かしたいなら俺に来ればいい。どうして関係のない彼女たちに手を出す必要がある。


 もちろん、敵から見れば関係があるからこそ狙うのだろう。分かっている。理屈としては分かる。


 だが、納得できるかどうかは別だ。


 俺なら何が何でも救い出す。相手が何を要求してきても、まず考えるのはレティシアたちを無事に取り戻す方法だろう。俺が大人しく従えば解決するなどとは、少しも思えない。相手の手の中にいる限り、次に何をされるか分からないのだから。


 そして救い出した後は、絶対に許さない。


 もし人質を取ったのが王国の者なら、王国全土を吹き飛ばしてもいい。


 連帯責任としては当然だろう。


 そこまで思ってから、俺は自分がずいぶん物騒な結論に辿り着いたことに気づいた。だが、不思議と考えを引っ込める気にはならなかった。俺にとって大切な者を使えば好きなように動かせるなどと、誰にも思わせたくない。


 そんな方法が通用すると一度でも考えられたら、また同じことをする奴が出てくるかもしれないじゃないか。


 だったら、二度とそんなことを考えられなくなるまで徹底的に思い知らせるしかない。


 ああ、なるほど。


 結局それは、俺を殺す方法というより、仕掛けた側の自殺方法にしかならないわけだ。


 橋へ続く道では、荷車が相変わらずゆっくり進んでいる。俺はその後ろ姿を見ながら、さっきまで考えていた包囲や毒のことを思い返した。どれも俺を倒すための案だったのに、人質の話だけは途中から俺をどう止めるかではなく、俺がどこまでやるかという話になってしまった。


 でも、それでいい。


 こういった時の報復は、絶対に手加減してはならないと思う。二度と考える事すら出来なくなるまで、徹底的に思い知らせねばならない。


 うん、もしそうなったら王国全土を吹き飛ばそう、決定。

本日もありがとうございました。

三百話に到達しました。

これからもよろしくお願いします。

次の更新は明日5時となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
独断専行癖は把握されてるだろうから政治的に殺す案自体は簡単だけどね。 一案として少数での行動時に味方を見捨てたと大多数に思わせる工作ができればそれだけでギルバートは盤面上は死ぬ。 まあ、その場合ギル…
父上かセバスチャンがいる時に考えてくれー!それならストップが入れられるのに!(止まるとは限らない)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。