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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百九十八話 いくさは子どもの遊びではない


 さて、俺の次の仕事は決まったわけだが、まだ聞いておきたいことがある。


 シルディア城を護るという命令は理解した。攻めてはならんという念押しもされたし、父上がマバール城へ戻ることも分かった。


 ならば、次に気になるのは連れてきた捕虜のことだ。


「父上、バルボアは?」


 俺が尋ねると、父上は隣にいるザイン殿へちらりと視線を向けた。ザイン殿も静かに父上を見ているが、特に何かを言う様子はない。


 わずかな間を置いて、父上が口を開いた。


「善良王と共に処刑する。家族を逃したことは許しがたい」


「……そうですか」


 父上の声は厳しかった。


 まあ、そうなるか。


 バルボアはエラム城で降伏した。そのときには家族を逃がしていたわけだが、俺としては、捕虜にする以上は父上たちに判断を任せるつもりだった。


 それにしても、家族を逃したことまで父上は知っていたのか。


 ……いや、考えてみれば当然だよな。


 俺たちはエラム城にしばらく滞在していた。その間、バカルカは城の管理や報告を行っていたはずだ。エラム家当主を捕らえたことも、その家族が逃げたことも、父上たちへ伝えていて当たり前だろう。


 俺がのんびり米を探していた間に、必要な話は進んでいたというわけか。


 なるほど。


 父上がザイン殿へ目を向けたのも、すでに二人の間で話が済んでいたからなのだろう。


 それなら、俺が今さら何か言うこともない。


 そもそも、バルボアを庇う理由も必然もないからな。


 降伏を受け入れたのは、あの場で無駄に殺し合う必要がなかったからだ。わざわざ生かして連れてきたのだから、その後の処遇は父上たちが決めればいい。


 善良王と共に処刑する。


 そうか。


 父上は本当に処刑するつもりなのだな。


 エラム城からの帰り道でも考えていたことだが、こうして本人の口から聞くと、少し違った重みがある。


 もっとも、だからといって俺のやることが変わるわけでもない。


 父上はもう結論を出しているのだ。


 俺は黙って頷いた。


 そこで話を終えてもよかったのだが、もう一つ、以前から気になっていることがあった。


 あの妙な連中のことだ。


「父上、いくさ中に現れた平民の奇妙な兵のことは?」


 俺が尋ねると、父上は小さく頷いた。


「うむ、報告は受けている。面倒ではあるが、放置して構わん」


「放置、ですか?」


 思わず聞き返してしまった。


 いや、父上が知らないわけではないのか。


 それなら、報告を受けたうえでそう判断しているのだろう。


 だが、あの連中は普通の兵とは少々違う。


 少なくとも、俺が戦った相手はそうだった。


 魔力を持たない平民であること自体は珍しくもない。平民なのだから当然だ。


 しかし、戦場で騎士を相手に出来るとなれば話は別だ。


 騎士には魔力がある。


 肉体強化魔法も、防御魔法も使える。もちろん個人差はあるが、魔力を持たない平民とは戦闘能力に大きな差があるのだ。


 それなのに、あの連中は普通の平民兵とは違うやり方で戦っていた。


 しかも魔力を持っていないから、感知魔法では捕捉できない。


 それがかなり厄介だった。


 俺自身は対処できたが、ほかの騎士まで同じように対処できるとは限らない。


 父上はそれを分かったうえで、放置してよいと言っているのだろうか。


 うーむ。


 少し気になる。


「善良王の手駒なのでしょうか?」


 まずは、そこを確認しておこう。


 王国の兵なのだから、善良王の命令で動いている可能性もある。あの男がどこまで関わっているのかは分からないが、王都で何かを命じていたとしても不思議ではない。


 そう思って尋ねたのだが、父上の返事はあっさりしたものだった。


「それはない。あれにそこまでの覚悟はない。王都貴族の暗部だろう」


「暗部?」


 聞き慣れない言い方だな。


 いや、言葉の意味は何となく分かる。


 だが、王都貴族の暗部というのは、具体的にどういう連中なのだろう。


 俺が首を傾げると、父上は続けた。


「うむ。諜報、脅迫、誘拐、暗殺などの汚れ仕事を行う者たちだ」


「ああ、なるほど」


 そういうことか。


 それなら話は分かる。


 うちにも諜報の連中がいるからな。


 表立って騎士を動かすわけにはいかない仕事もあるだろうし、貴族同士の争いならなおさらだ。


 王都の貴族たちにも、そういった仕事を任せる者たちがいて当然だろう。


 ふむ。


 要するに、うちの諜報の連中の同類というわけか。


 もっとも、父上が実際にあの兵たちの所属を確かめたのかどうかは分からない。


 言い方からすると、王都貴族の暗部だと考えているようだが、どこの誰が動かしているのかまでは聞いていない。


 それにしても、善良王にはそこまでの覚悟がない、か。


 父上らしい判断だな。


 俺も善良王とは話したことがあるが、あの男が自分からああいう連中を動かすところは、どうにも想像しにくい。


 もちろん、だからといって絶対に違うとは言い切れない。


 だが、王都には善良王以外にも貴族がいる。そう考えれば、父上の言うことも理解できる。


 問題は、あの連中がこれからも現れる可能性があることだ。


 俺は父上の顔を見た。


「ですが、放置するのは少々危険ではありませんか?」


 少し迷ったが、やはり確認しておきたかった。


 父上がそう判断したのなら、何か理由があるのだろう。


 しかし、あの連中を放っておくことで味方の騎士が犠牲になるのなら、さすがに黙っているわけにもいかない。


 魔力を持つ相手なら、感知魔法である程度は警戒できる。だが、魔力を持たない相手にはそれが通用しない。


 普通の平民兵ならともかく、あのような連中が不意に現れた場合、油断している騎士は危ないかもしれない。


 怒られるかもしれんが、そこは聞いておかないとな。


 父上は俺の質問を聞いても、特に表情を変えなかった。


「他のいくさ場でも、数例だけだが現れておる」


「そうだったのですか」


 へぇ。


 ほかにもいたのか。


 まあ、考えてみれば当たり前かもしれない。


 あの連中が俺だけを狙っていたとは限らないし、ほかの戦場に現れたとしてもおかしくはない。


 そりゃそうだよな。


 いい子の俺だけが狙われるわけがない。


 ……いや、別に狙われたいわけじゃないけど。


 それよりも気になることがある。


「それで、犠牲は?」


 俺が尋ねると、父上は短く答えた。


「騎士、数名が戦死した」


「…………」


 やはりか。


 俺は思わず口を閉じた。


 数名。


 人数としては多くないのかもしれない。


 だが、実際に騎士が戦死している。


 あの連中のやり方で、魔力を持つ騎士が命を落としたということだ。


 やっぱり、いきなりだと防ぎきれんか。


 俺が戦ったときのことを思い返す。


 普通の騎士同士の戦いなら、相手の魔力を感じ取り、どのように動くか警戒することもできる。


 だが、あの連中は違う。


 魔力を持たないことが、逆に厄介なところもあった。


 もちろん、感知魔法に反応しないからといって、姿が消えるわけではない。目で見れば分かるし、気配を探ることもできる。


 しかし、騎士同士の戦いに慣れていればいるほど、意表を突かれることもあるだろう。


 俺が実際に見たわけではないから、戦死した騎士たちがどういう状況だったのかまでは分からない。


 だが、相手に魔力がないというだけで油断してしまった可能性はある。


 くそっ。


 悔しいな。


 数人とはいえ、味方の騎士が命を落としたのだ。


 やはり何らかの対処は必要なんじゃないだろうか。


 そう思って父上へ視線を戻したところで、その表情が変わった。


「だが、それだけだ」


 低い声だった。


「わずか数人に過ぎん。何人殺せば我らが止まる? 百人か? 五百人か? 千人か?」


「…………」


 俺は思わず背筋を伸ばした。


 父上は椅子に座ったままだ。


 怒鳴っているわけでもない。


 それなのに、先ほどまでとは明らかに違う迫力があった。


「それで我らが止まるか?」


「い、いえ、決して」


 反射的に答えてしまった。


 うわぁ。


 すごい迫力だな。


 思わず気圧されてしまったじゃないか。


 だが、父上の言っている意味は分かる。


 騎士が数人戦死したからといって、軍全体が止まるわけではない。


 百人ならどうか。


 五百人なら?


 千人なら?


 もちろん、そんな人数が戦死すれば大きな損害だろう。だが、それだけで戦争をやめるのかと言われれば、答えは違う。


 そんな簡単な話ではない。


 今は王国と帝国が戦っているのだ。


 マバール家だけの問題でもないし、目の前の戦場だけを見ていればよいわけでもない。


 俺たちが戦いをやめたところで、敵まで戦いをやめるとは限らない。


 そして、軍を止めればそれで済むというわけでもないのだろう。


 父上は俺の返事を聞き、力強く頷いた。


「そうだ。所詮は苦し紛れの児戯に過ぎん。いくさとは子どもの遊びではない!」


 父上が言い切った。


 うーむ。


 ど迫力。


 思わず姿勢を正してしまった。


 普段から父上が怖いわけではない。


 いや、怖くないと言ったら嘘になるかもしれんが、少なくとも普段はもっと話しやすい。


 さっきだって、俺が夜空を輝かせたことを笑っていたじゃないか。


 それが今はどうだ。


 同じ人物とは思えないほどの迫力である。


 もっとも、父上がここまで強く言うのには理由があるのだろう。


 俺は黙って父上を見つめた。


 少し間を置いて、父上はゆっくりと息を吐いた。


 先ほどまでの鋭い口調が収まり、声も落ち着いたものに戻る。


「戦死した騎士たちの名誉は守らねばならんが、所詮は机の上でいくさを考える者たちのやり方だ。放置して構わん」


「…………はい」


 そうか。


 父上は別に、戦死した騎士たちが愚かだと言っているわけじゃないんだな。


 あくまでも戦死だ。


 戦場で敵と戦い、命を落とした。


 その名誉は守らなければならない。


 父上はそこをはっきりと口にしている。


 一方で、敵のやり方についてはまったく評価していないらしい。


 机の上でいくさを考える者たち、か。


 なるほど。


 たしかに、普通なら騎士を殺せないはずの平民が、特殊なやり方で騎士を倒すことができれば、大きな成果を上げたように思えるかもしれない。


 だが、それで軍が止まるのか。


 城を守りきれるのか。


 戦争そのものを終わらせることができるのか。


 父上が言っているのは、そういうことなのだろう。


 俺も数人の騎士が戦死したと聞いて、思わず危険性ばかりを考えてしまった。


 もちろん危険なのは間違いない。


 実際に人が死んでいるのだから。


 だが、だからといって、その相手だけに目を向けてよいわけではない。


 俺が黙って考えていると、父上はもう一度口を開いた。


「調査して対応することは構わんが、あまり捕らわれるな。それが狙いだろう」


「……なるほど」


 ああ、そういうことか。


 少し分かった気がする。


 敵の奇妙な平民兵を警戒する。


 それ自体は悪いことではない。


 だが、その連中を見つけるために多くの騎士や兵を動かしたらどうなる?


 調査に人を割き、警戒のために戦力を分散し、あちこちへ部隊を向かわせる。


 それで本来のいくさに使える戦力が減ってしまうなら、相手にとっては好都合じゃないか。


 しかも、こちらがどれだけ警戒したところで、あの連中を完全に見つけられるとは限らない。


 魔力を持たない相手なのだから、感知魔法だけで探し出すこともできない。


 探しても見つからず、警戒を続けるために人を使い続ける。


 ……それこそ、相手の思う壺かもしれんな。


 なるほどなぁ。


 父上はそこまで考えて、放置して構わんと言ったのか。


 もちろん、相手が本当にそれを狙っているのかは分からない。


 だが、少なくとも、今はこちらがあの連中に振り回される必要はないということだ。


 むしろ、正面から踏み潰した方が相手の狙いを崩せるのかもしれない。


 敵の主力を倒し、城を攻略し、いくさそのものを進めてしまえば、少数の兵でいくら妨害しようと意味は薄くなる。


 そう考えると、少し気が楽になった。


 あの連中に対処する方法ばかり考えていたが、別にこちらから追いかけ回す必要はないのだ。


 必要なら調べればいい。


 現れたら対処すればいい。


 それ以上に重要なのは、軍全体の動きを止めないことなのだろう。


 ……まあ、俺の場合は父上からシルディア城を護れと命じられているんだけどな。


 ここで調子に乗って敵の城へ攻め込んだら、それはそれで怒られる。


 うむ。


 難しいものだ。


 俺が考え込んでいると、父上の声がした。


「まぁ、油断はするなよ」


「はい」


 顔を上げると、父上はもう先ほどの厳しい表情ではなかった。


 いつもの、俺が見慣れた父上の顔だ。


 どうやら、軍事的な話はひとまず終わったらしい。


 それにしても、油断するな、か。


 父上はあれほど敵のやり方を児戯だと切り捨てたのに、最後にはそう注意してくれる。


 そうだよな。


 馬鹿にしてよい相手と、油断してよい相手は違う。


 少なくとも、騎士を数人戦死させたという実績があるのだ。


 気をつけるに越したことはない。


 俺は父上へ頷き返した。


「父上もお気をつけて」


 これから父上はマバール城へ戻るのだ。


 ダル兄さんやアル兄さんとの話し合いもあるだろうし、移動しなくてはならない。


 戦争の最中なのだから、どこに危険があるか分からない。


 俺ばかり注意されるのも何だし、父上だって気をつけてほしい。


 そんな気持ちで言ったのだが、父上は一瞬俺の顔を見つめたあと、口元を緩めた。


「生意気だぞ」


「ええ?」


 いやいや。


 心配しただけじゃないか。


 父上だって油断するなと言ったんだから、俺が同じことを言ってもいいだろう。


 何が生意気なんだよ。


 そう思ったが、父上が笑っているので、俺もつられて笑ってしまった。


 先ほどまでの迫力はどこへやら。


 まったく、父上にはかなわんなぁ。


 ザイン殿も俺たちのやり取りを見て、穏やかな表情を浮かべている。


 そういえば、ザイン殿はずっと黙って話を聞いていたな。


 父上の言葉に口を挟むこともなく、俺が質問するのを止めることもなかった。


 まあ、ザイン殿も長くいくさに関わっている人物だ。


 俺とは違って、父上の言っていることも最初から理解していたのかもしれない。


 ……いや、分からんけど。


 少なくとも、俺としては色々と勉強になった。


 奇妙な平民兵への対処もそうだが、戦争というものをどう考えるべきなのか、少しばかり父上の考えを聞けた気がする。


 まあ、だからといって俺がすぐに父上のようになれるわけじゃない。


 そんなことは分かっている。


 俺は俺のやれることをやればいいさ。


 父上は俺の顔を見て、小さく頷いた。


「では、しばらく頼むぞ」


「はい、お任せください」


 俺はすぐに答えた。


 シルディア城の防衛だ。


 父上が戻って来るまで、しっかり護ればいい。


 敵が攻めてきたとしても、そう簡単に落とさせるつもりはない。


 それに、攻めるなとも命じられているのだから、余計なことはせずに城を護っていればよいのだ。


 うむ。


 任せておけ。


 父上も満足したらしく、頷いてくれた。


 俺は二人に一礼すると、会議室を出た。


 扉が閉まり、廊下へ出る。


 先ほどまで父上と話していたせいか、城内の空気が少し静かに感じられた。


 廊下を歩きながら、俺はこれからのことを考える。


 父上はマバール城へ戻る。


 ダル兄さんも帰って来る。


 アル兄さんもいる。


 久しぶりに兄弟で顔を合わせられるかと思ったのに、俺はシルディア城で留守番だ。


 ……はぁ。


 そうだった。


 すっかり忘れてた。


 いや、忘れていたわけじゃないんだけど。


 なんだか、さっきまで父上と真剣に話していたせいで、すっかり気持ちが切り替わってしまった気がする。


 最初はあれほどマバール城へ帰りたかったんだぞ。


 ダル兄さんに会いたいし、帝都の話も聞きたかった。


 それなのに、気づけば父上に向かって、


「はい、お任せください」


 なんて元気よく答えてしまった。


 ……ん?


 ちょっと待て。


 俺は足を緩めた。


 なんだろう。


 なんか、おかしくないか?


 父上からシルディア城を護れと命じられたときは、あんなに不満だったじゃないか。


 腹いせにどこかへ攻め込んでやろうかとまで考えたんだぞ。


 もちろん、実際にやるつもりだったかどうかは別として。


 それがどうだ。


 バルボアの処刑について聞き、奇妙な平民兵の話をし、父上からいくさについて教えられ、最後には互いに気をつけろなんて言い合って……。


 ……あれ?


 俺、いつの間にか父上に乗せられた?

本日もよろしくお願いします。

本日の更新は、5時、12時、20時となります。

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