↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

294/299

第二百九十四話 米を食わせろ


 ずっと期待していた。


 エラム城へ滞在することになってから、今日まで何度も食事はした。


 朝。


 昼。


 夜。


 そのたびに俺は、さりげなく食卓を見ていた。


 肉。


 パン。


 野菜。


 また肉。


 美味い。


 別に不満はない。


 食事として考えれば十分だし、戦の最中に贅沢を言うつもりもなかった。


 だが。


 米が出ない。


 一度もだ。


 すぐ近くにあるはずなのに。


 この土地では米とかいう作物を育てていると、セバスチャンから聞いた。


 俺自身、城へ来る途中でそれらしい場所まで見ている。


 なのに出ない。


 こちらから要求してしまえば早い。


「米を食わせろ」


 たった一言だ。


 それだけで済む。


 だが、言えない。


 セバスチャンから初めて米の話を聞いた時、俺はすでに少し食いつきすぎた。


 不味いと言われている、聞いたこともない土地の作物。


 そんなものを俺だけが妙に欲しがったら、さすがに変だ。


 前世のことは隠している。


 今までずっと隠してきたのに、白飯が食いたいという理由で余計な疑問を持たれるのは馬鹿らしい。


 だから我慢した。


 いつか自然に出てくる。


 そう思って待った。


 そして今日。


 戦勝の宴。


 これだ。


 地元の城で開かれる宴だぞ。


 こういう時こそ、この土地ならではの食い物を並べるものじゃないのか?


 胸が高鳴る。


 いや、落ち着け。


 まだ米だと決まったわけじゃない。


 前にも期待しすぎるなと自分に言い聞かせたばかりだ。


 だが、今度こそ。


 俺は期待を表情へ出さないよう気をつけながら、宴の会場になっている広間へ入った。


「ギルバート様」


 すぐにバカルカが気づいた。


 大きな身体でこちらへ向き直り、いつものようにきっちりと頭を下げる。


「今回はご助力ありがとうございます」


「ああ」


 俺は適当に頷いた。


 それより料理だ。


「若様」


 今度は反対側からセバスチャンの声。


「服は大丈夫だったんですな」


「そうだな」


「なんでそんな適当なんです?」


 知らん。


 今はお前に用はない。


 俺は二人と話しているふりをしながら、さりげなく広間の中へ視線を滑らせる。


 並べられた料理。


 まず目に入ったのは、塩を振って焼いただけらしい肉だった。


 表面が少し焦げ、焼けた脂が照明を受けて光っている。


 うむ。


 美味そうだ。


 その隣には、何かのハーブを塗して焼いた塊肉。


 香りがこちらまで届いてくる。


 ほう。


 これも悪くない。


 さらに、簡単に塩茹でされたらしい骨付き肉。


 骨の周りから柔らかそうな肉が少し剥がれ、湯気と一緒に肉の匂いが立っている。


 なかなか良さそうだな。


 少し離れた場所には、薄く切った肉をただ焼いただけの料理もある。


 味付けは最低限らしい。


 こういうのも悪くない。


 肉そのものの味が分かる。


 ……うん。


 …………うん?


 俺はもう一度、端から端まで料理を見た。


 塩焼き。


 塊肉。


 骨付き肉。


 薄切り肉。


 酒。


 また肉。


 …………肉ばかりだな。


 なんか全部茶色くないか?


 白どころか、緑すら肉へ付いているハーブくらいしか見えないぞ。


 米は?


 俺の米は?


 いや。


 まだ分からない。


 後から出てくる可能性もある。


 宴は始まったばかりだ。


 最初は肉。


 途中で別の料理。


 そういう流れかもしれない。


 そう思って、俺は近くの肉を一つ取った。


 食べる。


 美味い。


 美味いんだけどなぁ。


 今はそうじゃない。


 しばらく待ってみた。


 人が動く。


 酒が注がれる。


 料理が減れば、使用人が新しい皿を運んでくる。


 肉。


 肉。


 また肉。


 おかしい。


 これはおかしいぞ。


 ちょうど近くを通りかかったエラム城の使用人へ声を掛ける。


「なぁ」


 呼び止められた使用人が、すぐに足を止めて頭を下げた。


 平民だ。


 エラム家が降伏した後も、こうして城で働いている。


 城主が変わったからといって、城そのものが消えるわけではない。


 こいつらにとっては、どこの家へ仕えているかというより、この城で働いていたという感覚の者も多いのかもしれない。


 少なくとも今のところ、普通に仕事を続けている。


 そんなことより。


「肉だけか?」


 本当は、


 米は無いのか?


 と聞きたい。


 喉まで出かかった。


 我慢する。


「はい」


 使用人が素直に頷いた。


「とにかく肉料理とお酒を頼むと命じられました」


 …………何?


「……誰に?」


「バカルカ様です」


 俺はゆっくり顔を上げた。


 視線の先。


 少し離れた場所で、バカルカが誰かと話している。


 …………余計な事を!


 あいつ!


 中身は脳筋か!


 なんで肉と酒だけなんだよ!


 いや。


 分かる。


 分かるぞ。


 戦勝の宴だ。


 兵や騎士が喜びそうなものを出そうと思ったんだろう。


 たっぷり肉を食わせる。


 酒も飲ませる。


 バカルカなりに気を使った。


 それは分かる。


 それに、セバスチャンから聞いた話では、ここの米は不味いらしい。


 不味いと言われている食い物を、わざわざ宴へ出そうとは思わない。


 それも分かる。


 分かるんだが。


 俺は米が食いたかったんだ!


 使用人へ文句を言うわけにもいかず、


「…そうか」


 とだけ答える。


「失礼いたします」


「ああ」


 使用人が去っていく。


 その背を見送りながら、俺は肉を噛んだ。


 美味い。


 腹立つな。


 俺が内心でバカルカへ文句を並べていると、その本人がこちらへ歩いてきた。


「どうです、お楽しみいただけていますか?」


 笑顔だった。


 こいつ。


 何も知らない顔をしやがって。


「ああ、そうだな」


 俺は肉を飲み込む。


「どれも美味い」


「それは良かった」


「だが」


 ここだ。


 察しろ。


「この土地ならではの料理も楽しみたかったな」


 どうだ。


 かなり分かりやすいだろう。


 この土地ならでは。


 エラム。


 湿地。


 米。


 繋がっただろ。


 頼むぞ、バカルカ。


 お前は有能な奴だと思っている。


 俺を失望させるな。


「ああ、それなら」


 バカルカの顔が明るくなった。


 来た!


「あのハーブは、この土地独特のものなのだそうです」


 …………。


「それに、あちらの薄く切った肉料理も」


 バカルカが料理を指す。


「確かに、あそこまで薄く切った肉は初めて食べました」


 笑顔。


 満足そうだ。


 …………ガッカリだよ。


 バカルカくん。


 きみは出来る奴だと思っていたのに。


「そうか」


「はい」


「そうかぁ……」


「お気に召しませんでしたか?」


「いや、美味いぞ」


 嘘ではない。


 美味い。


 美味いんだ。


 だから余計に腹が立つ。


 米を出せ。


 俺はそれ以上バカルカと話す気を失い、近くの肉を取った。


 食う。


 また取る。


 食う。


 酒も飲む。


 くそ。


 くそ。


 米!


 米!


 すぐそこにあるはずなのに!


 なんで俺は肉ばかり食っているんだ。


 いや、肉も好きだけど。


 そういう問題じゃない。


 しばらくすると、酒も回ってきた。


 別に足元がふらつくほどではない。


 だが、普段より気分が大きくなっている気はする。


 その頃には、バカルカとセバスチャンが少し離れた場所で何か話していた。


「あの空に放つ攻撃魔法は、今後も使えそうですね」


 バカルカの声が聞こえる。


「合図としちゃ使えそうだな」


 セバスチャンも楽しそうだ。


「いろいろ工夫すれば、伝える内容も増やせるだろうな」


 何を笑ってるんだよ。


 ガッカリなバカルカに、役立たずの筆頭騎士。


 俺に米を持ってこいよ。


 ほら。


『若様、これが話してた米ですぜ』


 とか言って。


 今ならまだ間に合うぞ。


 ほれ。


 ほれ。


「回数で色々伝えられそうですね」


「間隔を空けて使うのはどうでい?」


「おお、なるほど」


 …………。


 まだその話してんのか。


 空に攻撃魔法を撃ったやつだろ。


 あの花火もどき。


 そんなもの、米に比べたらどうでもいいだろ。


 まったく役立たずな奴らだ。


 俺は杯を片手に広間を見回した。


 ふと、外が目に入る。


 この広間には、外へ出られるかなり広いバルコニーがある。


 あれ、何に使うんだろうな。


 人を集めて訓示でもするのか?


 それとも朝なんかに外を眺めながら優雅に飯でも食うんだろうか。


 ……朝飯。


 その時には米が出るんだろうなぁ。


 朝なら、おかゆとかもありだ。


 いや。


 やっぱり朝食は白い米。


 玉子。


 魚。


 いいな。


 実にいい。


 そこへ味噌汁まであれば完璧だが、さすがに今は贅沢を言わん。


 とにかく米だ。


 米を持ってこい。


 なぁ。


 ぼんやりそんなことを考えながら外を見る。


 いつの間にか、すっかり暗くなっていた。


 広間の灯りが窓へ映り、その向こうには夜しか見えない。


 料理も随分減っている。


 宴の始まりには山ほどあった肉も、皿の底が見え始めていた。


 酒の器も空いたものが多い。


 そろそろ終わりか?


 最後に何か出てきたりしないのか?


 締めに米。


 あるだろ。


 そういうの。


 最後にさらっと米が出てきて、


『この土地ではこうして食べます』


 とか。


 ……無いな。


 この感じだと無い。


 ちくしょう。


 すぐそこにあるはずなのにー。


 なんとなく広間にいるのも嫌になって、俺は何も考えずバルコニーへ出た。


 夜気が頬へ当たる。


 酒を飲んだ後だからか、少し冷たくて気持ちいい。


 城の外は暗かった。


 昼間なら湿った土地や遠くの草地も見えただろうが、今はほとんど何も見えない。


 黒い。


 ただ、その暗闇の向こう。


 どこかにはある。


 米が。


「……米」


 小さく呟く。


 なんか、だんだん腹立ってきたな。


 俺は杯へ残っていた酒を揺らした。


 背後から足音が聞こえる。


 振り返ると、セバスチャンとバカルカまでバルコニーへ出てきた。


 なんだよ。


 俺が出たから追ってきたのか?


 追わなくていいから米を持ってこいよ。


 もちろん声には出せない。


 そんな俺の気持ちなど知らず、二人はまだ話を続けていた。


「高さも変えたらどうでしょう?」


 バカルカが夜空を見上げる。


「そいつは難しくねぇか?」


 セバスチャンが首を傾げた。


「見る者によってかなり変わりそうだ」


「なるほど」


 …………花火がそんなに大事か?


 回数。


 間隔。


 高さ。


 そんなに考えることか?


 それなら。


 俺は手にしていた杯を一気に煽った。


 酒を飲み干す。


 空になった杯を手すりの近くへ置いた。


 そして、静かに自分の内側へ意識を向ける。


 魔力。


 体内にあるそれを、ゆっくり動かす。


 集める。


 練る。


 もっと。


 どんどん。


 どんどん。


 さっきまでの苛立ちとは逆に、意識だけは妙に澄んでいく。


 包囲戦でエラム家の騎士たちをまとめて殲滅した時よりも、ずっと真剣に魔力を練る。


 あの時は敵を倒すためだった。


 広く。


 強く。


 必要なだけ。


 今回は違う。


 壊す必要はない。


 ただ。


 大きく。


 とにかく大きく。


「若様?」


 セバスチャンの声。


「ギルバート様?」


 バカルカもこちらを見る。


 二人とも変な顔をしていた。


 俺が魔力を練っていることに気づいたのだろう。


 そりゃ、こんな近くにいれば分かるか。


「それなら」


 俺は夜空へ両掌を向けた。


「こんなのもあるんじゃないか?」


 二人が何か言う前に、俺は練り上げた魔力を空へ放った。


 まっすぐ。


 天高く。


 暗闇へ吸い込まれていく。


 ほんの一瞬。


 何も起きない。


 次の瞬間。


 遥か上空で、魔力が一気に弾けた。


 夜が明るくなる。


 弾けた魔力が光となって広がり、頭上から遠くの空へ向かって一気に走っていく。


 広い。


 俺が思っていたよりずっと広い。


 城の上だけではない。


 遠くの暗闇まで、光が伸びていく。


 眩しいというより、夜空そのものが大きく色を変えたように見えた。


「…………」


 セバスチャンが黙っている。


 バカルカも何も言わない。


 俺は空を見上げたまま鼻を鳴らした。


「大きさでも内容は変えられるだろ」


 それだけ言って二人を見る。


「考えておけ。俺は寝る!」


「若様?」


 知らん。


 俺は踵を返した。


 広間へ戻る。


 何人かがこちらを見ていた気がするが、それも無視。


 米は出なかった。


 宴も終わりだ。


 もういい。


 寝る。


 俺はそのまま与えられた部屋へ戻り、寝台へ身体を投げ出した。


 ふて寝である。


 翌朝にはシルディア城へ帰る。


 米については、また今度考えればいい。


 そう思いながら目を閉じた。


 後日聞いた話だが。


 あの夜、俺が放った弾けるだけの攻撃魔法は、エラム城の周辺だけを照らしたわけではなかったらしい。


 王都でも見えた。


 帝国各地でも見えた。


 それどころか、帝都の上空まで光が覆い、何事かとちょっとした騒ぎになったそうだ。


 …………。


 王都。


 帝国各地。


 帝都。


 それって。


 ほとんど大陸全土だな。


 ………ちょっとだけやりすぎた、かな?

本日はここまでとなります。

次の更新は明日5時となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
花火ができちゃうのか… だったら当然、光花火を 小規模に打ち上げて モールス信号的にやり取りをする技術が発展して然るべき、となる。 大陸全土に届かなくとも、支配領域に素早く情報伝達 できる時点で十分強…
なぜ一言米を食いたいと言えんのだ! たぶん食べたときに茹でるより炊いた方がうまいみたいなテンプレをギルは考えていたはず
感覚的には第一次世界大戦くらいの世界線に戦略爆撃機で水爆搭載くらいの差かな。 普通に世界取れるレベルの人間が、米食いたいって言えなくて悶々としてるw 米すげえ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。