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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百九十三話 逃した家族


 細い橋の前で、俺たちは馬を止めた。


 正確には、俺は最初から歩いているので止める馬もない。セバスチャンが引いていた俺の馬と自分の馬、それにバカルカの馬をまとめてトールへ預ける。


「頼んだぞ」


「はっ」


 トールが手綱を受け取る。


 その後ろでは、エディオン家の騎士たちが壊れた城門の方へ動き始めていた。瓦礫を退かすにしても、あの量だ。石だけならまだしも、崩れた城壁や折れた木材まで混ざっている。


 しばらく掛かりそうだな。


 まぁ、壊したのは俺なんだが。


 俺は何も見なかったことにして、小さな橋へ足を向けた。


 橋幅は狭い。


 三人並んで歩けなくはないが、わざわざ窮屈になる必要もないので、バカルカを先頭に一列になる。


 水面はすぐ下だ。


 流れはそれほど速く見えない。夜でもないのに少し暗く見えるのは、水が濁っているからかもしれない。湿った風が頬に触れ、まだ身体に残っている泥の匂いまで鼻へ戻ってきた。


 うへぇ。


 早く洗いたい。


 橋を渡り、小さな入口を抜ける。


 白旗を掲げたとはいえ、一応警戒はする。


 俺は周囲へ意識を向けた。


 騎士らしい魔力反応はいくつもある。


 城内にまだ相当数残っているらしい。


 だが、入口を抜けても剣は飛んでこなかった。


 攻撃魔法もない。


 待ち伏せもない。


 少し進むと、石壁沿いに何人かの騎士が立っているのが見えた。


 鎧は着ている。


 だが、剣を持っていない。


 腰にもない。


 槍も見当たらない。


 こちらを見てはいるものの、近づいてくる様子もなかった。


 静かだな。


 もう少しくらい何かあると思っていた。


 家が降伏したからといって、全員が綺麗に納得するとは限らない。血気盛んな若い騎士が一人くらい、最後まで戦うとか叫んで飛び出してきてもおかしくないと思っていたんだが。


「まぁ、あれを見た後だと仕方ねえですな」


 隣を歩くセバスチャンが言った。


「ん? あれ?」


「若様の攻撃魔法です」


「ああ」


 さっきのか。


 セバスチャンが前方の騎士たちへ一度視線を向ける。


「おそらく同僚が目の前で骨も残さず溶けたんですから、とても抵抗する気にはならんでしょう」


「確かに特に何も残ってなかったな」


 地面ごと溶けてたしな。


 騎士どころか馬も何も残っていなかった。


 だが、大地が溶けるほどの攻撃魔法を喰らえば、ある意味当然だと思う。


 あれで普通に立っていたら、その方が気持ち悪い。


 やったのは俺なんだがな。


 こちらへ向けられる視線が妙に重い。


 気のせいではないだろう。


 俺が通ると騎士たちは僅かに身体を固くする。


 武器も持たず、何も言わず、ただ道を空けていく。


 うーむ。


 俺、そんな怖いか?


 今なんて泥だらけだぞ。


 むしろ威厳とか無い気がするんだが。


 少なくとも襲ってくる気はなさそうなので、そのまま城内を進む。


 正面の大きな城門から入っていないせいか、少し回り込む形になった。


 バカルカは何度か城内の者へ短く確認し、その案内に従って奥へ向かう。


 やがて通された部屋で、エラム家の現当主と対面した。


 バルボア。


 初対面だった。


 もっと年上を想像していたが、意外と若い。


 ギリギリ青年と呼んでもおかしくないくらいだろうか。


 椅子に座っている姿には、若さより先に疲れが出ていた。


 肩が落ちている。


 背も普段から曲がっているわけではなさそうなのに、今は力が抜けたように丸まって見える。


 顔色も良くない。


 俺たちが入っても立ち上がろうとはしなかった。


 いや、出来ないのかもしれない。


 別に怪我をしているようには見えないから、身体の問題ではないと思うが。


 あっさり負けたのが相当堪えたのだろうか。


 セバスチャンから聞いた話では、エラム家は国内貴族にしては武を誇る家だったらしい。


 剣術だの槍術だの、そういうものを大事にしている。


 自信もあったのだろう。


 それが城へ戻ることすら出来ず、軍勢をまとめて吹き飛ばされ、最後には白旗。


 そりゃ落ち込むか。


 俺は少し離れた場所からバルボアを眺めた。


 バカルカも黙ったまま見ている。


 その横顔は静かだった。


 しばらくして、バカルカがこちらへ少し身体を寄せる。


「ギルバート様」


「ん?」


「申し訳ありませんが、魔力封印をお願いできますか?」


 小声だった。


 俺はバルボアを見る。


 貴族だ。


 どれくらいの魔力があるのかは知らないが、騎士よりは魔力は強い。


「ああ」


 俺がやった方が確実だろう。


 ゆっくり近づく。


 バルボアは顔だけを上げた。


 目が合う。


 敵意は見えない。


 だからといって、油断する理由もない。


「魔力を封印する」


 先に告げてから、肩へ手を置く。


 バルボアの身体が僅かに固くなった。


 そのまま俺の魔力を流し込む。


 相手の内側にある魔力の動きへ、自分の魔力を押し込んで乱す。


 抵抗らしい抵抗は無かった。


 もう戦う気が無いのか、それとも抵抗しても無駄だと思っているのか。


 どちらでもいい。


 必要なだけ流し込み、手を離す。


 これで簡単には魔法を使えない。


「家族は?」


 何となく聞いた。


 バルボアの目が下がった。


 そのまま俯く。


 ……ん?


 返事がない。


 だが、その反応だけで嫌な予感がした。


「……逃したのか?」


 今度は少し声を落として聞く。


 バルボアはしばらく動かなかった。


 やがて、小さく頷いた。


 ああ。


 やっぱりか。


 馬鹿な奴だ。


 そう思う。


 同時に、当たり前かとも思った。


 俺にだって家族がいる。


 自分の家族が殺されるかもしれない状況で、逃がせるなら逃がしたいと思う。


 それは分かる。


 父親としてなら、何もおかしくない。


 むしろ当然なのかもしれない。


 だが。


 こいつはただの父親ではない。


 エラム家の当主だ。


 降伏したのはバルボア個人ではない。


 エラム家が降伏した。


 それなのに家族を逃がしている。


 逃げた家族がどこへ行ったのかは知らない。


 誰と一緒なのかも知らない。


 その先で何をするつもりなのかも分からない。


 だからこそ厄介だ。


 降伏した家の者を外へ逃がした。


 それだけで、叛意が残っていると判断されても仕方がない。


 ザイン殿がどうするか。


 俺には分からない。


 だが、父上なら。


 ……たぶん処断するな。


 家族を逃がしたことそのものより、降伏する当主として腹を決め切れていないことを問題にする気がする。


 少なくとも、何も無かったことにはしないだろう。


 バルボアはシルディア城へ送られることになるはずだ。


 ザイン殿も父上も、今はあちらにいる。


 そこで何を聞かれ、どう判断されるのか。


 俺は知らない。


 というか、そこまで俺が決めることでもない。


 今回はあくまで手伝いだ。


 エラム家の処遇まで俺が勝手に決め始めたら、本当に何しに来たのか分からなくなる。


「移送の準備が整うまで、居室にて待機していろ」


 バルボアが顔を上げる。


「念のために言っておくが、抵抗すれば殺す」


 しばらく沈黙があった。


 やがてバルボアは、力なく頷いた。


 今すぐ移送なんて出来ないだろう。


 城内の整理も終わっていない。


 正面の城門なんて俺が壊したせいで通れない。


 とりあえず、逃げたり暴れたりしないよう置いておけばいい。


 ……ある種の越権行為かもしれんけど。


 横を見る。


 バカルカは何も言わなかった。


 降伏したとはいえ、バルボアは貴族だ。


 騎士であるバカルカから直接命じるより、貴族である俺が言った方が話は早い。


 そのくらいはバカルカなら分かるだろう。


 やがてエディオン家の騎士たちが入ってきた。


 バルボアを立たせ、両脇へ付く。


 魔力封印は済ませた。


 抵抗する気配もない。


 そのまま部屋を出ていく背中を見送る。


「さて」


 俺は肩を軽く回した。


「どうする? エラム家の騎士たちの魔力封印はそっちでやるか?」


 バカルカを見る。


「なんなら俺がやってもいいが?」


「いえ」


 バカルカはすぐに首を振った。


「そこまで手を煩わす訳には」


「そうか?」


「騎士たちはこちらで対応いたします」


「ふむ」


 なら任せよう。


 全部俺がやる必要もない。


「なら俺たちは帰るか」


 仕事は終わった。


 敵を降伏させた。


 城も取った。


 当主の魔力も封印した。


 後はエディオン家が何とかするだろう。


 そう思ったのだが。


「申し訳ありません」


 バカルカが言った。


「可能なら、バルボアの移送に協力していただけると」


「ん?」


 帰ろうとしていた足を止める。


 バカルカの顔を見る。


 なるほど。


 魔力封印しているとはいえ、相手は貴族だ。


 騎士だけで運ぶより、俺が同行した方が確実ではある。


 途中で何かあっても押さえ込めるし、何より俺が封印した本人だ。


「構わんぞ」


 元々帰る先は同じだ。


「どうせ帰るし、ついでにやってやる」


「ありがとうございます」


 バカルカの肩から僅かに力が抜けた。


 明らかに安心したように見える。


 もちろん、その安心はバルボアを無事にシルディア城まで運べそうだからだ。


 俺が大人しく帰ると聞いて安心したわけではない。


 ……と思う。


 たぶん。


「すぐ移送するか?」


 さっき居室へ連れていったばかりだけど。


 バカルカが少し困ったような顔をした。


「いえ、その……まだ瓦礫が」


「瓦礫?」


 一瞬考える。


「ああ」


 そういえば。


「城門辺りが通れなくなってたな」


 俺が壊したから。


 忘れてた。


「おそらく数日中には撤去も完了するでしょう」


 バカルカが続ける。


「宜しければ、それまでこちらで骨休めを」


「ふむ」


 数日か。


 別に急ぐ必要もない。


 泥だらけだしな。


「分かった」


 こうして俺たちは、エラム城へ数日滞在することになった。


 部屋も与えられた。


 さすが貴族の城だけあって、寝る場所には困らない。


 俺は身体と髪を洗い、泥まみれの服を脱ぎ、替えの服がちゃんとあったことに心から安堵した。


 良かった。


 本当に良かった。


 危うく、数日間ずっと同じ泥臭い服で過ごすところだった。


 翌日から、城内は随分慌ただしくなった。


 エディオン家の騎士たちが出入りし、降伏したエラム家の騎士たちをまとめ、魔力封印を進める。


 外では瓦礫の撤去。


 城内では確認と整理。


 やることは多いらしい。


 俺?


 基本的に部屋でダラダラしていた。


 いや。


 これは配慮である。


 俺が手伝ってもいい。


 石くらいなら肉体強化魔法でいくらでも運べるし、邪魔な瓦礫なら攻撃魔法で――。


 ……いや、やめておこう。


 これ以上壊したらバカルカが泣くかもしれん。


 それに貴族である俺が城内をウロウロしていると、エディオン家の騎士たちも落ち着かないだろう。


 だから部屋で静かにしている。


 決して、ダラダラしたかったわけではない。


 断じて違う。


 セバスチャンたちは、なんか色々手伝っていたらしい。


 真面目だよな。


 顔に反して。


 もちろん俺も、本当に何もしていなかったわけではない。


 何度かバカルカと、あの泥だらけの死兵について話した。


 だが、話せば話すほど分からないことが増える。


 誰が作ったのか。


 誰が命じたのか。


 どこで育てたのか。


 いつから存在するのか。


 爆発する物は何なのか。


 結局、確かな答えは一つも出なかった。


 なら、注意して警戒する。


 今出来るのは、その程度だ。


 それでいいとも思えた。


 セバスチャンが言った、死兵の養育という話もある。


 仮にあのやり方で死兵を作っているなら、いくら平民の子どもでも無限には用意出来ない。


 攫う。


 食わせる。


 育てる。


 命令に従わせる。


 失敗する者も出る。


 それを何年も続けて、ようやく一人使えるのだとしたら、かなり面倒だ。


 もちろん本当にそうやって作っているのかは分からない。


 全部仮定だ。


 だからこそ、こちらも仮定だけで警戒を強めすぎるのは違う気がする。


 城へ入る平民を全部止める。


 街道を歩く者を全部調べる。


 近づく者を片っ端から疑う。


 そんなことをやっていたら、こっちの方が先に疲れる。


 危険はある。


 だが、もう少し見なければ分からない。


 そんな感じで数日が過ぎた。


 そして、ようやく正面の瓦礫もかなり片づいた。


 壊れた城門そのものが元に戻ったわけではないが、人も馬も通れるだけの道は出来たらしい。


 これならバルボアも普通に連れ出せる。


 明日はシルディア城へ戻れる。


 やれやれ。


 思ったより長くいたな。


 その前夜。


 部屋でのんびりしていると、バカルカから声が掛かった。


「形ばかりですが」


 そんな前置きをして、戦勝の宴を開くという。


 たぶん、戦ってくれてありがとうという意味だろう。


 それと、セバスチャンたちが瓦礫の撤去やら何やらを手伝ったらしいので、その礼も少し入っているのかもしれない。


 宴。


 その言葉を聞いた瞬間。


 俺の頭に浮かんだのは、勝利でも酒でもなかった。


 米。


 数日間。


 俺はずっと待っていた。


 エラム城へ来てから、一度も出ていない。


 だが。


 宴なら。


 この土地のものを出すかもしれない。


 明日は帰る。


 なら今夜こそ。


 ついに。


 俺は誰にも気づかれないよう、僅かに口元を緩めた。

次の更新は、20時となります。

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― 新着の感想 ―
あー その洗脳教育のために平和思想か 爆発の触媒が現実化してるなら、手榴弾の実装までは早そうだ そのつなぎに洗脳兵は便利だろう こうやって平民の活用の流れが加速するんだな
絶対、バカルガは若様に帰ってくれ!と願っていたはず。
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