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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百八十六話 米がある


 森の中を進み続けていると、木々の間から差し込む光が少しずつ強くなってきた。


 前方の木が減っている。


 馬を進めて森を抜け、そのまま緩やかな斜面を上っていくと、視界が一気に開けた。


「ほう」


 思わず声が出る。


 高い場所まで来たらしい。


 馬を止め、少し先へ視線を向ける。


 遠くに城が見えた。


 あれがエラム城か。


 マバール城とは当然形も違うが、離れたここからでもそれなりの大きさがあることは分かる。


 だが、最初に目についたのは城ではなかった。


「本当に水だらけだな」


 上から見るとよく分かる。


 領地のあちこちを川が通っている。


 細いものもあれば、それなりに幅のあるものもある。その間には池らしき水面がいくつも見え、地面そのものも場所によって色が違って見えた。


 さっきセバスチャンが言っていた通りなら、低い場所ほど湿っているのだろう。


 森の中を通ってきた時にはそこまで実感がなかったが、こうして高いところから眺めると、確かに他の領地とは違う。


 というか。


「あのでかいのは湖か?」


 少し離れたところに、他の池とは明らかに大きさの違う水面が見える。


 ここからではどこまで広がっているのか分からない。


 川が広がっているだけなのか、本当に湖なのか。


 どちらにしても水が多いのは間違いない。


 俺はもう一度エラム城へ視線を戻した。


「その妙な迷宮ってどこにあるんだ?」


「あっしが聞いた話じゃ、エラム城の近くですぜ」


「ふーん」


 セバスチャンも見たことはないと言っていた。


 なら正確な場所までは分からないか。


 俺は目を細め、エラム城の周囲をじっくり見る。


 城の近くにも水がある。


 いや、近くというより。


「ふむ。確かに水堀というか、川に囲まれてるな」


 城の周りを水が通っているように見える。


 裏側まで全部がきれいに城を囲んでいるのかまでは、この距離では分からない。


 それでも、攻める側からしたら面倒そうなのは分かる。


 城壁へ近づくだけでも水をどうにかしなければならない場所がありそうだ。


 俺はその水面を眺めた。


 あれが全部迷宮から溢れた水なのかな。


 もしそうなら、どれだけ溢れてるんだよ。


 さっき森の中で聞いた時には、いまいち想像出来なかった。


 だが、この景色を見た後だと話が違う。


 水を吐き出し続ける迷宮。


 そのせいで領地の低いところが湿地みたいになっている。


 妙な迷宮。


 確かに妙だ。


「うーん」


 面白いな。


 俺は城の近くへ目を凝らしたまま考える。


 あれ、吹き飛ばすとどうなるんだろ。


 前に潰した迷宮は、そのまま崩れた。


 あれはまだ小さかったからどうにかなっただけかもしれない。


 だが、ここにある迷宮は水が溢れ続けているらしい。


 同じように壊したらどうなる。


 単純に崩れるだけなのか。


 水が止まるのか?それとも一気に溢れ出すのか?


 ……気になる。


「壊さんでくださいよ」


「ん?」


 隣から声が飛んできた。


 俺はゆっくりセバスチャンへ顔を向ける。


「なんの事だ?」


「迷宮を壊せるか考えとるでしょう」


「そんな事は一切考えてないな」


 即答した。


 セバスチャンが黙って俺を見る。


 なんだよ。


 その目は。


 本当に考えてないぞ。


 いや、ちょっとしか考えてない。


 実際に壊すとは言ってないんだから嘘ではない……気がする。


 セバスチャンは何も言わず前へ顔を戻した。


 信じてないな。


 まあいい。


 今は迷宮より先にやることがある。


「どれ、エディオン家の軍勢はどこかな?」


 俺も城から視線を外し、街道の方を見る。


 ここまで高い場所へ来たのだから、ある程度は遠くまで見渡せる。


 街道らしき線を目で追う。


 人影はない。


 馬も見えない。


 もちろん軍勢なんて影も形もない。


「うーん、遅れてるのか?」


「じき来ますよ」


 セバスチャンはあっさり言った。


 まあ、そうか。


 俺たちは少人数だ。


 森の中を通ってきたとはいえ、軍勢全部を動かすよりは速い。


 バカルカたちは兵をまとめたまま街道を進んでいる。


 俺たちが先に着かなければ困るのだから、むしろこれでいい。


 ただ、来ると思っていた相手が見えないと妙に落ち着かないな。


 俺はもう一度街道の先を眺めた。


 やっぱりいない。


「仕方ないな。今日はここで野営するか」


 このまま城へ近づく必要はない。


 下手に動いて見つかったら、先に来た意味がなくなる。


 俺は高台の反対側へ顔を向けた。


「見えないように、あっち側に少し降りよう」


 騎士たちが頷く。


 そのまま馬の向きを変え、俺たちは高台を少し下った。


 城側から直接見えなくなるところまで移動する。


 木もあり、馬を置いて休むには悪くない。


 騎士たちは慣れた様子で動き始めた。


 馬を休ませる者。


 周囲を確認する者。


 必要な荷を降ろす者。


 俺も馬から降り、固くなった腰を軽く伸ばした。


 それから何となく、高台の向こう側を振り返る。


 城はもう見えない。


 見えないが、さっき上から眺めた景色はまだ頭に残っていた。


 川。


 池。


 湿った土地。


 それと。


「…………」


 途中で見えた畑。


 さっきはセバスチャンの前だったから口には出さなかった。


 それに、城や迷宮の方へ意識が向いていて、そのまま通り過ぎた。


 だが。


 川沿いにあったあの畑。


 あれって田圃じゃないのかなぁ。


 普通の畑とは少し違って見えた。


 水気の多い土地。


 そこで育てている米。


 前世で知っている米も水田で作る。


 偶然か?


 いや。


 偶然の可能性はある。


 名前が米だからって、同じものとは限らない。


 湿った土地で育つからって、前世と同じ稲とは限らない。


 そもそも俺は遠くから見ただけだ。


 葉の形まで確認したわけじゃない。


 でも。


「……米か」


 小さく呟きかけて、途中で止める。


 近くに騎士たちがいる。


 別に米という言葉を知っていること自体はおかしくない。


 さっきセバスチャンから聞いたんだからな。


 だが、妙に嬉しそうにしていたら変だ。


 俺は何でもない顔を作って、適当な場所へ腰を下ろした。


 水田で米を栽培してるのか?


 もしそうなら。


 前世で食っていた米に近い種類なのかもしれない。


 もちろん味は分からない。


 セバスチャンは不味いらしいと言っていた。


 だが、それだって聞いた話だ。


 食べ方が悪いだけかもしれない。


 いや、これは期待しすぎか。


 種類そのものが全然違う可能性もある。


 硬いとか、妙な味がするとか。


 そもそも本当に米なのかも、まだ分からない。


 ……気になる。


 ものすごく気になる。


 敵を殲滅したら調べてみよう。


 今は敵地なんだから、勝手に畑へ行って作物を調べるわけにもいかない。


 だが、戦いが終われば話は別だ。


 実物を見れば、少なくとも俺の知っている米に近いかどうかくらいは分かるかもしれない。


 もし食えるなら食ってみたい。


 そして、本当に前世の米に近いなら。


 持って帰るのもありだな。


 マバール領で育てられるかは分からない。


 エラム領ほど水の多い土地ではないし、同じ育て方が出来るとも限らない。


 だったら無理に作らなくてもいい。


 ここで作っているものを持ってくればいいんだ。


 今回の戦いが終わって、この地をエディオン家が領地にするなら。


 交易して輸入する。


 エディオン家なら話も通しやすい。


 米を売ってくれと言うくらいなら、別に変な話でもないだろう。


 ここの奴らが不味いと思っているなら、むしろ喜んで売ってくれるかもしれない。


 そうなれば。


 白い飯。


 ……いや、白いかどうかはまだ分からん。


 でも米。


 肉と一緒に食ってもいい。


 煮込みと合わせてもいい。


 もし握れるくらいの種類なら……。


 俺はそこで一度考えるのを止めた。


 駄目だ。


 また期待しすぎてる。


 まだ実物すら見ていない。


 今はエディオン家を待って、エラム家を潰すのが先だ。


 先なんだが。


 戦いが終わった後の楽しみくらいあってもいいだろう。


 俺は誰にも聞こえないよう、小さく息を吐いた。


 うーむ。


 夢が広がるなぁ。

次の更新は、20時となります。

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