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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百八十三話 狩りの形


 ……なぜだ?


 俺は別に、何か無茶をしに来たと言ったわけではない。


 父上からエディオン家を手伝えと命じられた。だから追いついてきただけだ。


 それなのに、バカルカは俺の顔を見たまま、ほんの少し困ったような表情を残している。


 まぁいい。


 俺が気にしても仕方ない。


「エラム家を攻め滅ぼすんだろ」


「攻め落としはしますが、攻め滅ぼすのはちょっと」


 バカルカが苦笑しながら答えた。


 似たようなものだろうに。


 城を攻めて、抵抗する奴を倒して、エラム家を負けさせる。


 俺からすると十分攻め滅ぼしている気がするのだが、バカルカにとっては違うらしい。


 細かい男だ。


「まぁいい。どうやって攻めるんだ?」


 俺が尋ねると、バカルカの顔から苦笑が薄れた。


 少しだけ視線を先へ向けてから、迷いなく答える。


「正攻法ですな。正面からぶつかり、そのまま押し込みます。犠牲は出るでしょうが、その方が勝ち負けがはっきりしますので」


「へぇ」


 ずいぶん自信があるな。


 言葉だけ聞けば単純だ。


 正面から行って、殴り合って、勝つ。


 だが、バカルカが言うと妙に頼もしく聞こえる。


 エディオン家は国境を守ってきた家だ。バカルカ自身も実戦経験が豊富なのだろう。


 俺みたいに面白そうだから敵の後ろへ回ろうとする奴とは、考え方が違うらしい。


 もちろん、正面から勝てるならそれが一番分かりやすい。


 変に回り込んで道に迷うこともないしな。


 ただ、せっかく俺たちが追いついたのだ。


 普通に混ざって正面から戦うだけでは、少しもったいない。


「エラム家って、なんか色々面白いことやってるんだろ」


「……面白いこと、ですか?」


 バカルカが一瞬だけ目を瞬いた。


 何を言われたのか分からなかったらしい。


 俺も自分で言っておいて、ちょっと雑だったなと思う。


 だがすぐに、バカルカは何かに気づいたように頷いた。


「ああ。さまざまな流派があるようですな」


「そう、それだ」


 ちゃんと伝わった。


 エラム流剣術だの、槍術だの。


 オルドが教わったという、頭の上で槍を回すやつもそうだ。


 実戦でどれほど役に立つのかは知らないが、少なくともエラム家はそういうものを大事にしている。


 なら。


「だから、エラム家は城に立て篭もるより打って出ると俺は思う。自信があるだろうからな」


 俺がそう言うと、バカルカは顎へ手をやるでもなく、ただ少し目を細めた。


「なるほど。それはそうかもしれませんな」


 頷いた。


 もちろん、そうなると決まったわけではない。


 実際にエラム家の奴らが何を考えているかなんて、俺には分からない。


 だが、剣や槍に自信があるなら、城の中で待っているより外へ出て戦いたくなるんじゃないだろうか。


 俺ならそうする。


 いや、俺の場合は流派とか関係なく、面白そうなら出るんだが。


 まぁいい。


「俺はそれを利用したい」


 そう言うと、バカルカが軽く首を傾げた。


「と、言いますと?」


「うむ」


 口だけで説明しても面倒だな。


 俺は馬から降りると、周囲を見回した。


 足元にちょうどいい木の棒が落ちていたので、それを拾う。


 地面は踏み固められていて少し描きにくいが、まぁ絵なんて分かればいい。


 棒の先で土を引っ掻く。


「これが奴らの城」


 適当に四角を描く。


 城が本当にこんな形かは知らない。


 絵だ。


 分かればいい。


「で、こっちがエディオン家の軍勢だ」


 少し離れたところにもう一つ線を引く。


 バカルカが隣へ来て、俺の描いたものを黙って見下ろした。


 セバスチャンもいつの間にか近くにいる。


 他の騎士たちは邪魔にならない程度の距離にいるが、俺は気にせず棒を動かした。


「エラム家が城から出て、エディオン家とぶつかる」


 二つの間に丸をいくつか描く。


 ちょっと多かった。


 まぁいい。


「俺たちはその間に後ろへ回る。城とエラム家の騎士団たちとの間に入るような形だな」


 丸の後ろ、城との間へ線を引く。


 これで挟める。


 俺は棒の先でエラム家のつもりで描いた丸を軽く叩いた。


「俺たちが後方から追い立てるから、それを叩いてほしい。まぁ、狩りみたいな感じだな」


「ふむ」


 バカルカが低く声を漏らした。


 俺はしゃがんだまま、地面の絵を見る。


 前からエディオン家。


 後ろから俺たち。


 逃げようとしたところを追い立てて、前へ押す。


 エディオン家はそこを叩く。


 単純だ。


 少なくとも俺の頭の中では。


「頼みたいのは、今回は軍勢をあまり分けないでほしい」


 そう言った瞬間、バカルカの顔が少し歪んだ。


 やっぱり嫌か。


 気持ちは分かる。


 この世界では、兵を一か所へ集めすぎるのは危ない。


 攻撃魔法があるからだ。


 固まれば固まるほど、まとめて吹き飛ばされる。


 だから戦いになれば、騎士を中心にした小さな部隊が散って動く。


 近づき、攻撃し、離れ、別の場所へ回る。


 俺がこれまで見てきた戦いも、大体そんな感じだった。


 軍勢をまとめて動かすのは、移動する時や、城を攻める時のような限られた場面が多い。


 少なくとも何もない野戦で、大勢が一か所に固まることはほとんどない。


 地形の都合で仕方なく狭いところへ集まるならともかく、好き好んで攻撃魔法の的になる必要はない。


 だが、今回は少し違う。


「少なくとも、包囲できるぐらいにしてほしい」


 俺は地面に描いた敵の丸の周りを、棒の先でなぞる。


「密集までする必要はないが、戦力が集中できるようにしてほしいんだ」


 あまり離れられると、敵がいくらでも間を抜けられる。


 せっかく後ろから追っても、左右へ好き勝手に逃げられたら狩りにならない。


 俺たちは人数が少ない。


 後ろから圧力をかけることはできても、何もない場所全部を塞ぐことはできない。


 だから前で受け止めるエディオン家には、普段より少し狭く戦ってもらう必要がある。


 もちろん、ぎゅうぎゅうに並べと言っているわけではない。


 それでは敵を倒す前に味方が吹き飛ぶ。


 俺の言葉を聞いたバカルカは、地面の絵へ視線を落としたまま黙った。


 すぐには答えない。


 俺も急かさず、その横顔を見る。


 実際にエディオン家の兵を動かすのはこいつだ。


 俺が面白そうだと思ったからといって、無理なら仕方ない。


 しばらくしてもバカルカは何も言わず、代わりに隣から声がした。


「若様」


「なんだ?」


 セバスチャンがいつの間にか俺の描いた絵をじっと見ていた。


「部隊と部隊の間は空けていいんですな?」


「ああ」


 俺はすぐに頷く。


「別に固まれとは言ってない。あくまでも連携できる距離だな」


「ふむ」


 セバスチャンが短く唸った。


 その言葉を聞いていたバカルカも顔を上げる。


「ならば、横一列に展開しますか?」


「横一列?」


 俺は地面を見た。


 頭の中で、エディオン家の部隊を横へ並べてみる。


 敵が真正面から来るなら、それでもいい。


 前からぶつかる分には、それぞれの部隊が自分の正面へ攻撃すれば済む。


 だが、敵が隙間を抜けようと横へ走ったらどうなる。


 追って攻撃魔法を撃つ。


 その先に、隣の味方がいる。


「いや」


 俺は棒の先で横線を描いてから、その線を消すように土を擦った。


「部隊との間に攻撃魔法を撃つこともあるだろうから、一列はまずいな」


 横へ抜けようとする敵を向けて撃ったら、向こう側の味方まで巻き込みかねない。


 そのたびに撃つのを止めていたら、敵を逃がす。


 うーん。


 どうする。


 俺が地面を見ながら考えていると、横からセバスチャンが低く声を出した。


「ふむ……」


 少し間を置いてから、俺の持っている棒へ目をやる。


「なら、半円状に展開させりゃいい」


 俺とバカルカが同時にセバスチャンを見る。


 セバスチャンは地面の絵を顎で示した。


「そうすりゃ、味方が射線に入ることはないでしょう」

次の更新は、20時となります。

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