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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百八十話 見栄えのいい型


 日が傾く頃、俺たちは進むのをやめた。


 エディオン家へ追いつくために急いではいるが、馬を潰すわけにはいかない。暗くなってから無理に速度を出して、馬や騎士を傷めても意味がない。


 騎士たちがそれぞれ馬を休ませ、野営の準備を始める。


 朝からずっと馬に揺られていた身体を伸ばすと、背中が少し軽くなった。


 今日はそれなりに進めたと思う。


 エディオン家がどこまで行っているのか正確には分からないが、こちらの方が身軽だ。このまま進めば追いつけるだろう。


 たぶん。


 そんなことを考えていると、少し離れたところにいたオルドと目が合った。


 あ。


 そうだった。


「オルド」


「はい」


「朝のやつ」


 一瞬だけ何の話か分からないような顔をしたが、すぐに思い出したらしい。


「ああ、型ですか」


「そうだ」


 約束したからな。


 俺はちゃんと覚えている。


 実戦で役に立つかはともかく、見栄えがいいなら覚えておいて損はない。


 俺の声が聞こえたのか、近くにいたセバスチャンまで寄ってきた。


 なんでお前まで来るんだ。


 別に見なくてもいいだろう。


 そう思ったが、口には出さなかった。


 少しして、オルドが槍を持って戻ってきた。


 俺とセバスチャンは並んで立つ。


 その前にオルド。


 なんだろう。


 朝に話をしていた時より、少しやりにくそうに見える。


 たぶん隣のくそジジイのせいだ。


 顔が怖いからな。


 ただ立って見ているだけなのに、誰かの訓練を採点しているように見える。


 俺なら嫌だ。


「では、簡単なものから」


「うむ」


 オルドは槍を両手で持った。


 足を開き、槍先を前へ向ける。


 さっきまで普通に話していた時とは少し雰囲気が変わった。


 背筋を伸ばし、槍を構える。


 そのまま一歩踏み込んだ。


 槍先が真っすぐ前へ伸びる。


 速い。


 突ききると、すぐ槍を引いた。


 身体も元の位置へ戻り、最初とほとんど同じ構えになる。


「こんな感じです」


「うん」


 分かりやすい。


 構える。


 突く。


 戻る。


 無駄が少ない。


 槍の基本としては、たぶん悪くないんだろう。


 だが。


「それほどカッコよくないな」


 オルドが少し黙った。


 隣からも視線を感じる。


 なんだ。


 俺は最初から見栄えのいいのを教えろと言ったぞ。


「次を頼む」


「……はい」


 オルドはまた槍を構えた。


 今度はさっきより槍先を少し横へ向ける。


 腰を落とす。


 そこから身体ごと大きく回し、槍を横へ薙いだ。


 長い柄が空気を切る。


 勢いのまま振り切るのかと思ったが、すぐ身体を戻し、また最初の構えへ戻った。


「おお」


 これはさっきよりいい。


 大きく振る分、見栄えもする。


「けっこうカッコいいな」


「そうですか」


 オルドの顔が少しだけ緩んだ。


 だがなぁ。


 悪くない。


 悪くはないんだが。


 もう少し何か欲しい。


 せっかく覚えてレティシアたちへ見せるのだ。


 普通に槍を振るだけでは、俺が普段やっているのと大して変わらない。


「もっと派手なのはないか?」


「派手、ですか」


「ああ」


 オルドは槍を持ったまま少し考えた。


 俺は待つ。


 隣のセバスチャンも黙っている。


 しばらくして、オルドがもう一度構えた。


「では」


 槍を持ち上げる。


 今度は前でも横でもない。


 頭の上。


 何をするんだ?


 そう思って見ていると、オルドが槍を回し始めた。


 ぐるり。


 さらに回る。


 長い槍が頭上で円を描く。


 さっきまでの突きや薙ぎ払いとは明らかに違う。


 速くなると、槍の穂先と石突きが交互に視界を横切り、どちらがどこにあるのか一瞬分からなくなる。


 おお。


 これはいい。


 かなり派手だ。


 オルドは何度か槍を回したあと、最後に身体を使って大きく振り抜いた。


 そしてそのまま動きを収め、最初の構えへ戻る。


 うん。


 これだな。


「それが一番カッコいいな」


「これですか?」


「ああ。それを教えてくれ」


 俺は即決した。


 レティシアたちへ見せるなら、絶対これだ。


 最初の突きなんか見せても、たぶん普通に槍を突いただけだと思われる。


 だが、頭の上でぐるぐる回してから大きく振れば、それっぽい。


 何かすごいことをやっているように見える。


 俺が満足していると、隣から低い声がした。


「なんで頭上で振り回すんだ?」


 セバスチャンだった。


 オルドを見る目が真面目だ。


「あんな高いところに敵なんぞおらんだろう」


 ……確かに。


 言われてみればそうだ。


 俺はカッコいいかどうかしか見ていなかった。


 頭の上に槍を振り回したところで、そこへ敵がいることなんて普通はない。


 何のための動きなんだ?


 オルドは槍を下ろすと、少し苦笑した。


「なんでも矢を防ぐために振り回すそうです」


「……矢?」


 思わず聞き返した。


 矢。


 弓矢の矢だよな。


 基本的に騎士は、ほとんど弓矢を使わない。


 平民兵が平民兵を狙うならともかく、魔力を持った騎士なら遠くを攻撃する時は攻撃魔法を使えばいい。


 弓を構えて、矢を番えて、引いて、狙って、放つ。


 そんなことをするより、攻撃魔法の方が速い。


 便利だ。


 威力もある。


 俺の周りの騎士たちが実戦で弓を使っているところなんて見たこともない。


 それなのに。


 矢を防ぐため?


 エラム流槍術って、騎士が学ぶものなんじゃないのか?


 俺はオルドの持つ槍を見た。


 頭上で回していた動きを思い返す。


 確かに、槍が高速で回っていれば飛んできた矢に当たることもあるのかもしれない。


 あるのか?


 分からん。


 そもそも防ぐなら防御魔法を使えばいい気もする。


 うーむ。


 意味はよく分からない。


 だが。


 頭上で槍を回し、最後に大きく振り抜く姿を思い出す。


 やっぱり一番カッコいい。


「まぁ、いい」


 俺は頷いた。


「意味は分からんがカッコいいからな。それを覚えたい」

次の更新は、20時となります。

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― 新着の感想 ―
どっかの筆頭家臣がやってた槍術大車輪だったけかな?
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