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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百六十四話 土と生きる民


 食料を手に入れた俺たちは、街道へ出ることなく、そのまま森の中へ戻った。


 わざわざ人の多い場所を進む必要はない。


 食料さえ確保できれば、街道を使う理由の大半はなくなる。道がない分だけ速度は落ちるが、善良王のおっさんを連れていることを考えれば、目立たない方がいい。変な奴らもいるみたいだしな。


 木々の間を縫うように馬を進めながら、俺は時折意識を周囲へ広げた。


 オルフィアから習った平民用の感知魔法だ。


 普通の感知魔法とは感覚がかなり違う。


 魔力を持っている相手なら、反応そのものを捉えればいい。強いか弱いか、近いか遠いか。慣れている俺なら、そちらは考えるまでもなく分かる。


 だが、こっちは逆だ。


 張り巡らせた感知魔法の中に出来る穴を見る。


 何もないところではなく、何かがあるから出来る穴。


 頭では分かっている。


 分かっているんだが。


「……あれは何だ?」


 少し離れたところに出来た穴へ意識を向ける。


 動いている。


 小さい。


 いや、小さいような気がする。


 平民ではない……と思う。


 たぶん。


 しばらくすると穴は木々の向こうへ消えた。


「うーむ」


 難しいな。


 不審な穴はない。


 と思う。


 正直なところ、まだ自信を持って言い切れない。


 穴があること自体は分かる。どちらへ動いているかも何となく分かる。


 だが、それが平民なのか、それとも他の生き物なのかとなると、一気に怪しくなる。


 ある程度、大きな生き物は穴になる。


 俺たちが連れている馬がそうなのだから、そこは間違いない。


 なら森にいる他の生き物も同じだろう。


 大きさや動き方で何となく違いはありそうなのだが、その何となくが困る。


 平民を探したいのに、森の中で穴を見つけるたびに、あれは人か? 違うか? と考えていたらきりがない。


 オルフィアはもう少し分かっていたような気がするんだよな。


 慣れの問題かもしれない。


 あるいは、まだ使い方を工夫できるのかもしれない。


 戻ったら相談してみよう。


 オルフィア自身が使っていたものを俺が真似しているだけだ。俺の魔力操作に合わせて少し変えれば、今より分かりやすくなる可能性もある。


 出来るかどうかは知らないけど。


 出来なければ出来ないで仕方ない。


 今のままでも、普通の感知魔法だけを使っていた時よりはましだ。


 少なくとも、森の中に妙な穴がまとまっていれば警戒する理由にはなる。


 前みたいな連中が隠れている可能性を考えられるだけでも十分だろう。


 そんなことを考えながら進んだが、それらしい穴には出会わなかった。


 何度か穴そのものは感じた。


 だが近づいてみれば何も起こらない。


 襲撃もない。


 待ち伏せもない。


 結局、それが何だったのか分からないまま通り過ぎたこともある。


 まあ、何も起きないならそれでいい。


 俺は研究のためにここへ来ているわけではないのだ。


 善良王のおっさんを連れて帰れれば、それで十分だ。


 森の中を進んでいる間、数度だけ集落も見つけた。


 最初に見つけた時は少し警戒した。


 王都からどれだけ情報が広がっているのか分からないし、こちらも騎士を何人も連れている。


 だが、実際に入ってみれば特に問題はなかった。


 食料を譲ってほしいと伝え、金を払う。


 それだけだ。


 塩漬けの肉や野菜、パン。


 持っていける分を選び、金を渡せば受け取る。


 前に街道で食料を買った時と同じだった。


 もちろん、俺たちを見て緊張しているように見える者はいた。


 だが、金を払うと分かれば話は早い。


 必要以上に騒ぐ者もいなかった。


 次の集落でも、その次でも似たようなものだった。


 おかげで食料が尽きる前に補充できる。


 食料を探すためだけに街道へ戻る必要もなくなり、その分かなり旅程を進めることができた。


 それにしても。


 集落へ立ち寄るたびに、少し気になることがあった。


 街道で見た者たちとは雰囲気が違う。


 あの時は荷物を背負い、荷車を引き、どこかへ向かう者が大勢いた。


 戦を避けているのか、別の理由なのかは分からない。


 だが少なくとも、その場から離れようとしていた。


 一方、森の中で見つけた集落の者たちは違った。


 俺たちが来ても、少し離れた場所ではいつも通り手を動かしている者がいる。


 土のついた手で荷を運び、食料を持ってきて、金を受け取ればまた自分たちの仕事へ戻っていく。


 王都から何が伝わっているのかは知らない。


 戦になるかもしれないと思っているのか、それすら考えていないのかも分からない。


 ただ、俺には街道の者たちほど戦乱の気配を気にしているようには見えなかった。


 だからといって、何も考えていないようにも見えない。


 何というか。


 戦乱になったら仕方ない、という諦めとも少し違う。


 戦乱になっても食ってはいける。


 今まで土から食い物を得てきたのだから、その時もどうにかする。


 そんな強かさというか、しぶとさみたいなものを感じる。


 もちろん、本当にそう考えているのかは知らない。


 俺が何度か集落を見て、勝手にそう感じただけだ。


 それでも少し感心した。


 貴族や騎士とは違う強さだ。


 魔力が強いわけでもない。


 剣が振るえるわけでもない。


 だが、腹を満たすものを自分たちで作り、そこに住み続けている。


 集落を離れたあと、木々の向こうへ遠ざかっていく畑を眺めながら、俺は口を開いた。


「土と生きる民はしぶといな」


 隣を進んでいたセバスチャンも、ちらりと後ろを見た。


「食料を持つ者は強いですからな」


「食料か」


 確かにな。


 どれだけ強くても、食わなければ死ぬ。


 俺だってそうだ。


 魔力が多かろうが、攻撃魔法が強かろうが、腹は減る。


 そこでふと考えた。


 もし魔法で食料を生み出せたら、どんな世界になっていただろう。


 攻撃魔法でもない。


 防御魔法でもない。


 今ある魔法でそんなことは出来ない。


 だからただの想像だ。


 だが、もし魔法を使えば食料がいくらでも手に入る世界だったら。


 農業はここまで必要とされなかったかもしれない。


 畑を耕し、作物を育て、収穫する。


 そんなことをしなくても魔力持ちだけで食料を用意できるなら、今とは全く違う社会になっていただろう。


 そうなった時、平民はどうなったんだろうな。


 今よりずっと命が軽かったかもしれない。


 いや。


 もっと酷いか。


 魔力持ちが自分たちで食料まで生み出せるなら、魔力を持たない平民は、その食料を食う。


 魔力持ちからすれば、自分たちが生み出した食料を勝手に減らしていく存在に見えた可能性すらある。


 害獣みたいなものか。


 そこまで考えて、少し笑いそうになった。


 うむ。


 下手すると全滅させてるだろうな。


 簡単に想像出来てしまうのが酷い。


 この世界の貴族や騎士と平民には、それくらい力の差がある。


 だが実際には、そうなっていない。


 魔法は強力だ。


 俺自身、それには何度も助けられている。


 だが決して万能ではない。


 腹が減れば食わなければならないし、その食料を作っているのは魔法ではない。


 そして平民は弱い。


 貴族や騎士と正面からぶつかれば、どうしようもないほど弱い。


 だが、決して無力ではない。


 あんな自爆兵までいたしな。


 ジノへ抱きつき、そのまま爆発した男を思い出す。


 普通の感知魔法では見つからなかった。


 魔力を持たない平民だった。


 それでも騎士を吹き飛ばした。


 何だかんだで、弱いなりに色々やる。


 魔法を持つ者も、持たない者も、それぞれ自分に出来ることを使って生きている。


「まったく楽しい世界だよな」


 思わず口元が緩む。


 魔法があっても全部解決するわけではない。


 平民が弱くても、ただ踏まれているだけでもない。


 何が出てくるか分からない。


 前世では考えもしなかったものが、この世界では平然と目の前に現れる。


 俺がそんなことを考えながらにやにやしていると、隣から声が飛んできた。


「気持ち悪いですぜ」


「失礼な奴だなぁ」


 俺はセバスチャンを睨んだ。


 こいつには人の思索というものが分からんらしい。


 まあ、何を考えていたのか説明する気もないけど。


 善良王のおっさんは、その間も相変わらず大人しく俺たちについて来ていた。


 集落へ入った時も同じだ。


 騒がない。


 逃げようともしない。


 住民たちへ何か声をかけることもなく、ただ静かに見ている。


 何を見て、何を考えているのかは分からない。


 王なのだから、ああいう集落の暮らしをどれくらい知っているのかも俺には分からなかった。


 基本的にはオルドとクレインが側についている。


 移動中も、休憩中も、食事の時もそうだ。


 必要なものを渡し、馬を止める時には近くにいる。


 だが、その二人と善良王が長く話しているところはほとんど見なかった。


 必要なことだけ。


 それで終わる。


 善良王の方から話しかけることもほとんどない。


 奇妙と言えば奇妙だ。


 だが、連れて行く側としては楽なので、わざわざ崩す理由もなかった。


 その日の野営でも同じだった。


 森の中の少し開けた場所で馬を止め、騎士たちがそれぞれ動き始める。


 火が起こされ、買っておいた食料が出される。


 善良王は少し離れたところに座り、近くにはオルドとクレインがいた。


 俺は何となくその姿を見ていた。


 別に分かり合いたいわけじゃない。


 仲良くなるつもりもない。


 ただ。


 見ているうちに、一つ思い出した。


 そういえば、こいつに少し聞いてみたいことがあった。


 俺は立ち上がり、善良王の方へ歩き出した。

本日の更新は、5時、12時、20時となります。

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