↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

257/323

第二百五十七話 変なおっさん


 開かれた扉の向こうには、大広間が広がっていた。


 さっきまでいた階段と違って、こちらには死体も血も転がっていない。当たり前だけど。


 扉一枚を挟んだだけなのに、妙に静かだ。


 背後にはまだ血の匂いが残っている。靴の裏もぬるぬるするし、俺たちの服にも返り血がついている。


 なのに、その奥。


 大きく豪華な椅子に、一人の中年の男が座っていた。


 椅子の左右と後ろにも何人か男が立っている。


 誰も逃げていない。


 俺たちが扉を開けても、椅子に座る男は立ち上がろうとすらしなかった。


 なんだろうな。


 他の奴らはどうでもいい。


 俺は座っている男を見る。


 あれかな。


 位置だけ考えれば、たぶん一番偉い奴だろう。


 感知魔法では、大広間にいる連中は貴族くらいの魔力反応だ。


 ただ、善良王の魔力を覚えていない以上、誰が本人なのかまでは分からん。


 なら聞けばいいか。


「善良王か?」


 俺の声が大広間に響いた。


 椅子の左右に立っていた男たちがすぐにこちらを睨む。


「無礼者!」


「下がれ!」


 うるさいな。


 俺はそいつらを無視して、椅子に座る男だけを見る。


 男は俺から目を逸らさなかった。


 立ち上がらない。


 こっちが血塗れなのも見えてるだろうに、慌てた様子もない。


「うむ、余がユーディリア・エルディアである」


 それだけだった。


 声も普通だ。


 大きくもないし、怒鳴ってもいない。


 ふむ。


 こいつが善良王か。


「本物か?」


 俺が聞くと、ユーディリアとかいうおっさんは少しも間を置かなかった。


「余は余以外の王を知らん」


 なんだその答え。


 まぁ、本物っぽいな。


 魔力反応も貴族だし。


 ただ……。


 俺は改めておっさんの魔力を見る。


 うーん。


 王っていうくらいだから、普通の貴族より強い魔力なのかと思ってたんだが。


 せいぜい並みの貴族だな。


 他の貴族より明らかに強いとか、そういう感じはしない。


 目の前に座っているだけなら、本当にただの中年のおっさんにしか見えない。


「本当に本物か?」


「無礼である」


 怒られた。


 それでも声はほとんど変わらなかった。


 本人がそう言うなら、まぁいいか。


 俺はもう一度おっさんを上から下まで眺める。


 父上に言われたのは、善良王を生かして連れて来ることだ。


 見つけた。


 なら、あとは連れて帰ればいい。


「よし、んじゃついて来い、おっさん」


「…………」


 返事がない。


 ん?


 聞こえなかったか?


 大広間はさっきの階段みたいに騒がしくない。


 普通に聞こえたと思うんだが。


 というか、こっちを見てる。


「おい! おっさん!」


 少し声を大きくした。


 それでも返事がない。


 無視してるのか?


 いや、こっちを見てはいる。


 何だこいつ。


 セバスチャンが横から口を挟んだ。


「おっさんでは自分だとは思わんのじゃないですかね?」


 は?


 俺はもう一度おっさんを見る。


 そういうこと?


 王だから、自分が「おっさん」なんて呼ばれると思ってないのか。


 めんどくさいおっさんだなぁ。


 俺は椅子に座った男へ指を向ける。


「おい! お前だ! おっさん!」


 今度は間違えようがない。


 そこまで言って、ようやくおっさんの口が開いた。


「なぜだ?」


 普通に答えた。


 やっぱり聞こえてなかったわけじゃないのか。


 本当に、自分が呼ばれてると分かってなかっただけか。


 王だからって、おっさんはおっさんだろ。


「ん? それは後で説明してやる。いいからついて来い!」


 俺が言うと、周りの連中がまた騒ぎ始めた。


 何かギャアギャア言っている。


 いちいち聞く気もない。


 善良王本人だけ連れて行けばいいんだから、他の奴らに用はない。


 だがおっさんは椅子から立とうとしなかった。


 俺がここまで来て、ついて来いと言ってるのにだ。


「余は王である。余の事は余のみが決める」


 何言ってんだこいつ。


 しかも、本気で言っているようにしか見えない。


 俺を睨みつけているわけでもない。


 怒鳴ってもいない。


 ただ、当然のことを口にしているみたいな言い方だった。


「おっさんを守る貴族や騎士は殺した。ついて来い」


 これなら分かるだろ。


 さっきの階段を思い出す。


 王都貴族とか言っていた連中も、騎士も、かなり殺した。


 逃げた奴もいたが、少なくとも俺たちの前に立っていた連中はもうほとんど残っていない。


 こいつを守っていた奴らだ。


 俺がそう言えば、少しくらいは何か反応するかと思った。


 ところがおっさんは、俺がそう言っても顔色を変えなかった。


 一度、俺を見る。


 それから口を開く。


「ふむ、王都貴族どもか。まぁ、代わりはいくらでもおる。少し数が増えすぎていたところだ。ご苦労」


 ん?


 俺は一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 王都貴族を殺した。


 そう教えた。


 なのに返ってきたのが、これだ。


 ご苦労?


 なんか褒められた?


「ふむ、褒美をやろう」


 なんでだよ。


 おかしいだろ。


 俺はこいつの城に勝手に入って、こいつを守っていた騎士や貴族を殺したんだぞ。


 それで褒美?


 なんかめんどくさくなってきた。


 俺は椅子へ向かって歩き始める。


「俺が礼儀正しく優しいからって調子に乗るなよ、おっさん」


 何度もちゃんとついて来いと言ってやった。


 それでも来ないんだから、もう十分だろう。


 俺がおっさんへ近づくと、左右に立っていた男たちが動いた。


 俺と椅子の間へ入る。


 ようやく動いたと思ったらこいつらか。


 邪魔だな。


「邪魔だ、どけ!」


 どかなかった。


 なら仕方ない。


 一人目の頭へ拳を叩き込む。


 あっさり潰れる。


 身体が崩れるより先に、隣にいたもう一人にも腕を振るった。


 同じように頭が潰れた。


 二人の身体が床へ倒れる。


 大広間に鈍い音が続けて響いた。


 また、手が汚れた。


 俺は指先についたものを少し振った。


 取れない。


 ばっちいなぁ。


 ふと椅子を見る。


 おっさんはまだ座っていた。


 目の前で、自分を守ろうとした二人が死んだ。


 かなり近い。


 血だって見えているはずだ。


 それでも顔色一つ変えていなかった。


 目を逸らした様子もない。


 椅子から立とうともしない。


 なんだ?


 こいつ。


 怖くないのか?


 いや、それは分からんな。


 顔に出てないだけかもしれない。


 でも少なくとも、俺には何も変わったように見えない。


 俺はそのまま椅子の前まで進む。


 近くで見ると、やっぱり普通の中年のおっさんに見える。


 魔力も普通。


 身体だって特別でかいわけじゃない。


 さっき殺した二人の方が、よほど俺を止めようとしていた。


「ついてこないなら脚をもぐ」


「ふむ、それは困るな」


 おっさんが呟いた。


 やっぱり声は変わらない。


 俺の言っている意味は理解してるよな?


 脚を斬るって言ってるんだぞ。


 なんだ? このおっさん。


 俺は足元に倒れている二人を見る。


 こいつら、善良王を守るために俺の前へ出てきたんだよな?


 それで死んだ。


 なのに本人はこれか。


「おい! おっさん、おっさんを守ろうとして二人死んだぞ」


 俺はわざわざ足元を示す。


 見えているだろうけど。


 おっさんも一度そちらへ目を向けた。


 死体を見る。


 それから、また俺を見る。


「ふむ、そうだな。だが王国の民が余の為に死ぬのは当然であろう」


 俺は黙っておっさんを見る。


 おっさんも俺を見ている。


 顔色は変わらない。


 声もさっきと大して変わらない。


 冗談を言っているようにも見えない。


 怒っているようにも見えない。


 何かを言い聞かせようとしている感じでもない。


 ただ、俺が当たり前のことを確認してきたから、当たり前のことを答えた。


 そんなふうに聞こえた。


 うーん。


 これはなんだろう。


 なんか不気味だ。


 自分を守って死んだ奴を見て、それが当然か。


 こいつらは王国の民だから。


 自分は王だから。


 それだけで終わってるのか?


「貴族でもか?」


 思わず聞いた。


 王国の民と言っても、今死んだ奴らが何者なのか俺は知らん。


 だが、さっき俺が殺した王都貴族の話もしていた。


 なら、それも同じなのか。


「当然だ」


 即答だった。


 本当に一瞬も迷わない。


 声も変わらない。


 さっきの「王国の民」と同じように、貴族でも当然だと言い切った。


 俺は少しだけおっさんの顔を見る。


 何も分からん。


 まぁ、殺したのは俺なんだがな。


 それはそれとして、このおっさんと話していると妙に疲れる。


 なんか妙に話が通じてない気がする。


 もういっか。


 俺は腰の短剣へ手を伸ばした。


 抜く。


 分厚い刃が手の中へ収まる。


 こいつなら脚くらい斬れるだろう。


 おっさんの視線が短剣へ落ちた。


 今度は反応した。


「やめよ」


 それだけ言った。


 やっぱり嫌なんじゃないか。


「脚が大事ならついて来い」


 俺は短剣を持ったまま待つ。


 これでも立たないなら、本当に斬ればいい。


 父上も多少欠けるくらいはいいと言っていた。


 おっさんは短剣を見る。


 次に俺を見る。


 しばらくそうしていたが、やがて豪華な椅子から立ち上がった。


 ようやくか。


「やむを得んな。余は全てに優先する」


 ……またそれか。


 俺は思わずおっさんを見る。


 脚を斬られるのが嫌だから立つ、じゃないらしい。


 いや、そうなのかもしれんが、口から出てくるのはそれだ。


 自分が全てに優先する。


 だから脚を残す。


 そう聞こえる。


 やれやれ。


 めんどくさいおっさんだ。


 とりあえず立ったなら、次だな。


 このまま魔法を使われても面倒だ。


 俺は短剣を戻し、そのままおっさんへ近づいた。


 頭を掴む。


 そこで初めて声が少し強くなった。


「何を――」


 俺の魔力を流し込む。


「やめよ!」


「知らん」


 止める理由がない。


 おっさんの体内へ魔力を送り込む。


 抵抗されるかとも思ったが、俺の魔力は問題なく中へ入っていく。


 そのまま押し込む。


 手加減はしない。


 魔力封印。


 これでいいだろう。


 俺はおっさんの頭から手を離した。


 かなり流し込んだ。


 これなら相当な期間持つだろう。


 おっさんはまだ立っている。


 自分の魔力を封じられたんだから、もう少し何か言うかと思ったが、俺が手を離した後は騒がなかった。


 またいつもの顔に戻っている。


「縛りやすか?」


 後ろからセバスチャンが聞いてきた。


 縄で縛るか。


 別にそれでもいいが……。


 俺はおっさんを見る。


「おい、おっさん。逃げたら脚をちょん切るぞ」


「愚か者め。王たる余が逃げる事などあり得ぬ」


 即答だった。


 まただ。


 脚を切られるから逃げない、ではない。


 王だから逃げない。


 俺にはそう聞こえる。


 俺はセバスチャンを見る。


「だとよ」


 それから、もう一度おっさんへ向き直る。


「ついて来い」


 今度はどうするかと思ったが、おっさんは大人しく歩き出した。


 ん?


 俺の横を通り、そのまま普通に歩いてくる。


 さっきまで椅子から動こうとしなかった奴がだ。


 逃げることはない。


 でも、俺たちについて来るのはいいらしい。


 捕まったから大人しく従う、という感じにも見えない。


 少なくとも、俺にはそういう顔には見えなかった。


 なんなんだかなぁ。


 変なおっさんだ。


「お前ら、おっさんが逃げようとしたら脚を切り落とせ!」


 本人にも聞こえるように声を張る。


 オルドたちにもこれで伝わっただろう。


 逃げたら俺がやってもいいが、近くにいる奴がさっさと切った方が早い。


 おっさんにも絶対聞こえた。


 それでも足を止めない。


 振り返りもしない。


 そのまま俺たちと一緒に歩いている。


「やれやれ、脚もいだ方が楽かもな」


 歩けなくして運んだ方が逃げる心配はなくなる。


 ただ、運ぶ奴が必要になるか。


 やっぱり歩くなら歩かせた方が楽だな。


 俺たちはおっさんを連れて大広間から出ようとした。


 その時だった。


「ま、待て!」


 後ろから声が飛んだ。


 俺は足を止めて振り返る。


 大広間にはまだ何人か残っている。


「あん? なんか用か?」


 さっきから面倒ばかり増える。


「俺は今機嫌が悪いんだが」


 残っていた連中がこちらを見る。


 こいつらの方が、善良王本人よりよほど慌てているように見えた。


「陛下をどこに連れて行く!」


「お前たちは何者だ!」


 あ。


 そういえば。


「ああ、忘れてた。俺はギルバート・マバールだ」


 名乗ってなかったな。


 俺が名前を口にした途端、連中の様子が変わった。


「マ、マバール……」


 声が震えている。


 何を知ってるのかは知らんが、名前くらいは知ってるらしい。


 ちらりとおっさんを見る。


 今のところ、こいつがどう思ったかは顔からは分からん。


 ちょうどいい。


 善良王を連れて行ったのが俺たちだと分からなきゃ意味がない。


「取り返したきゃいつでも来い。売られた喧嘩は喜んで買ってやる」


「喧嘩を売ってるのはこちらなんですがね」


 セバスチャンが横から余計なことを言ってきた。


「やかましい。細かい事は気にするな」


 どっちが先に売ったとか、そんなことはどうでもいい。


 来るなら相手をする。


 それだけだ。


 今度こそ大広間を出る。


 さっきまで戦っていた階段へ戻ると、死体も武器もそのままだった。


 血で汚れた石段に剣や槍が転がっている。


 俺はその中から適当な槍を一本見つけた。


 これでいいか。


「おい、マバールの旗出せ」


 持ってきた旗を出させる。


 槍へ取り付ける。


 よし。


 これなら分かりやすい。


 王城へ入るまでは目立たないようにしてきた。


 善良王を捕まえるまでは、俺たちが誰なのか分からない方が都合が良かった。


 もう隠す必要はない。


 むしろ、ここからは逆だ。


 マバールが善良王を連れて行った。


 そう分かる方がいい。


 旗を掲げる。


 その下を、魔力を封じられた善良王が自分の足で歩いている。


 階段に転がる騎士や貴族の死体を見ても、おっさんは足を止めなかった。


 さっきこいつ自身が言った通りなら、この中には自分のために死んだ王国の民がいる。


 それでも、少なくとも俺から見える範囲では歩き方は変わらない。


 俺たちに囲まれ、魔力を封じられ、逃げたら脚を切るとまで言われている。


 なのに妙に普通に歩いている。


 なんとも妙な光景だな。


 いや。


 妙なのは光景というより、このおっさんか。


 まぁいい。


 目的は果たした。


 あとは連れて帰るだけだ。


 俺たちはマバールの旗を掲げ、そのまま王城から去った。

次の更新は明日、5時となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
変わってると思ってたが中々おかしな王やな
そういえば王城を吹き飛ばしそこねたような
これはあれか、善良王さらったところで話しにならん奴じゃないか? 良くこれを神輿にして国が纏まっていたな、それともたまに聞く実権も権力も弱い王なのかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。