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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百五十六話 汚い城


「さて」


 セバスチャンから視線を外し、改めて階段を見る。


 さっきまで剣を構えていた騎士たちの様子が明らかに変わっていた。


「ひっ……」


 誰かが小さく息を漏らす。


 青い顔で俯いている奴もいれば、剣を握ったまま腕を震わせている奴もいる。中には身体ごとガタガタ震えている奴までいた。


 誰も動かない。


 広い階段なのに、人数が多いせいで妙に狭く感じる。


 途中に転がったバルジアの死体。その向こうに何列にも重なった騎士たち。さらに上には貴族たちが固まっている。


 上からこちらを押し潰すには都合の良さそうな形なのに、先頭に立っている連中が動こうとしない。


 なんだこいつら。


 戦うのが初めてじゃなかろうに。


 騎士が一人死んだだけだぞ。


 しかも、バルジアとかいう奴が勝手に一騎打ちを申し込んできて、勝手に負けただけだ。


 俺は階段に転がったバルジアの死体から、残っている連中へ視線を戻した。


「騎士は任せる。俺は貴族をやる。皆殺しにしろ」


「へい」


 セバスチャンが血のついた剣を持ったまま笑った。


 さっきまで王国最強と呼ばれていた奴を殺していたのと同じ顔だ。


 オルドたちもそれぞれ武器を構え直す。


 そして、俺たちは進み始めた。


 一歩。


 階段の下側に並ぶ騎士たちが僅かに身じろぎする。


 靴が石を擦る音が重なった。


 もう一歩。


 何人かが後ろを見る。


 だが、後ろにも騎士がいる。


 さらにその後ろには貴族たち。


 下がろうにも簡単には下がれないみたいだ。


 すると、階段の上から声が飛んだ。


「進め!」


「戦うのだ!」


「何をしている! 奴らを止めろ!」


 騎士たちをけしかけている。


 前へ行けと言われた騎士たちの剣が僅かに揺れた。


 それでも動かない。


 前には俺たち。


 後ろからは進めと言われる。


 うーん。


 あのバルジアって奴、本当に王国最強と思われてたのかなぁ?


 あの程度で?


 俺からすればセバスチャンに一方的にやられていただけだが、こいつらにとっては随分違うらしい。


 セバスチャンが一歩前へ出た。


 たったそれだけだった。


 正面の騎士がびくりと剣を持ち上げる。


 その横にいた奴も構える。


 後ろの騎士たちまで押されるように身体を固くした。


 次の瞬間。


 セバスチャンが消えたように前へ出た。


 剣が走る。


 騎士の首が裂けた。


 血が噴き、力を失った身体が崩れるより先に、セバスチャンはもう隣の騎士へ踏み込んでいた。


 遅れて落ちた頭が階段を跳ねる。


 一段。


 もう一段。


 階段の一番下まで転がり落ちた。


「う、うおおおっ!」


 一人が叫んだ。


 それを合図にしたように、止まっていた騎士たちがまとめて動いた。


 上から剣を振り下ろしながら押し寄せてくる。


 同時にオルドたちも飛び込んだ。


 剣がぶつかる。


 金属音が一度。


 二度。


 三度。


 階段の石壁に反響し、どこで誰が剣を合わせたのか分からなくなるほど音が重なった。


 騎士が叫ぶ。


 誰かが呻く。


 靴が石段を蹴り、倒れた身体が段差にぶつかる鈍い音まで混ざる。


 狭い。


 上から騎士が押してくる。


 下からオルドたちが押し返す。


 互いの間に逃げ場がない。


 クレインが正面の剣を受けた。


 金属音。


 身体を捻って逸らし、そのまま騎士の胸へ剣を突き込む。


 後ろにいた騎士が倒れかけた仲間を押し退けて前へ出た。


 そこへジノの剣が横から入る。


 腹が裂ける。


 男が両手で押さえながら膝をついたが、後ろから押されてそのまま前へ倒れた。


 トールも別の騎士と剣を合わせている。


 階段の上から次々に人が降りてくるせいで、倒れた奴がその場に留まれない。


 一人が倒れれば、その身体を避けるために後ろの奴の足が止まる。


 止まったところへ剣が来る。


 また一人倒れる。


 詰まる。


 その詰まりを後ろからさらに押してくる。


 ごちゃごちゃしてきたな。


 その中で、セバスチャンだけは妙に真っ直ぐ進んでいた。


 騎士が二人、ほとんど並ぶように前へ出る。


 一人の剣が振り下ろされた。


 セバスチャンは身体を半歩ずらす。


 剣が肩の横を抜けた。


 同時に自分の剣を振る。


 一人目が崩れる。


 もう一人が横から斬りかかった。


 セバスチャンの剣が戻る。


 ぶつかる。


 弾く。


 そのまま踏み込んで胸を突く。


 引き抜く。


 騎士が倒れる前に、さらに上へ一歩。


 止まらない。


 上から騎士が来る。


 倒す。


 一歩上がる。


 また来る。


 倒す。


 また上がる。


 人数がいるはずなのに、セバスチャンの前だけ階段が少しずつ空いていく。


 騎士たちは上から降りてきているのに、前線そのものは逆に上へ押し返されていた。


「進め! 進めと言っている!」


 上から貴族の声が飛ぶ。


「止めろ!」


「数はこちらの方が多いのだぞ!」


 まぁ、確かに数だけは相手の方が多いな。


 数えちゃいないが、たしかに目の前にはまだ結構いる。


 だが、先頭の騎士たちは進もうとしない。


 後ろから押されて仕方なく一歩出る。


 セバスチャンたちが一歩詰める。


 今度は二歩下がる。


 後ろの連中にぶつかる。


 そこへまた貴族の声。


 前からは俺たち。


 後ろからは進め進め。


 可哀想になってきたな。


 ほんの少しだけだが。


 セバスチャンの剣がまた動く。


 一人の騎士が受ける。


 その瞬間、横からオルドが斬り込んだ。


 騎士が倒れる。


 空いたところへクレインが踏み込む。


 もう一人が下がる。


 その背中が後ろの騎士へぶつかる。


 列が崩れた。


 一瞬だけ出来た隙間へ、セバスチャンたちがまとめて入る。


 押してるなぁ。


 完全に。


 俺はその横を抜けることにした。


 騎士は任せたんだから、俺が混ざる必要もない。


 階段を上がろうとしたところで、上から騎士が一人転がってきた。


「よっ」


 避ける。


 身体が俺の横を通り過ぎ、そのまま下へ落ちていく。


 すぐ後に別の奴が倒れてきた。


「ほい」


 跨ぐ。


 右ではオルドが剣を振っている。


 左ではクレインが騎士を押し返していた。


 俺の前にも騎士が一人いたが、そいつは俺よりセバスチャンたちの方を気にしている。


 俺が横を通り過ぎてもすぐには反応しなかった。


 少し遅れてこちらを見る。


 もう遅い。


 俺はそのまま上へ進んだ。


 後ろで剣の音がした。


 誰が殺したかは知らん。


 また死体が転がってくる。


 今度は飛び越えた。


 着地した瞬間、靴の裏がぬるっと滑った。


「おっと」


 片足が流れる。


 危ない危ない。


 俺はすぐ姿勢を戻し、何事もなかったように歩き続けた。


 今のは内緒だ。


 誰も見てないよな?


 見てたとしても黙ってろ。


 後ろから大きな金属音が響いた。


 続けて悲鳴。


 さらにその向こうから怒鳴り声。


 俺は振り返らず進む。


 騎士たちの壁を抜けるにつれて、今度は上に固まっていた貴族たちの顔がはっきり見えてきた。


 俺を見ている。


 いや。


 俺の後ろも見ているな。


 後ろでは騎士たちが次々に倒れている。


 自分たちと俺たちの間にいたはずの壁が、どんどん薄くなっているのが見えるんだろう。


「ま、待て!」


「我らは王都貴族だぞ!」


「止まれ! 無礼者!」


「我らを居らねば王国は立ち行かん!」


「待つのだ! これ命令だ!」


 一斉に喋るな。


 うるさい。


 さっきまで騎士たちに進めと怒鳴っていたのに、今度は俺に止まれと言っている。


 忙しい奴らだな。


 先頭にいた一人が手を上げ、俺を止めようとした。


「貴様、分かって――」


 頭へ拳を叩き込む。


 防御魔法を纏わせ、肉体強化魔法を乗せる。


 ぐしゃりと鈍い感触が手へ返った。


 男の言葉が途中で消える。


 身体がその場で崩れ、数段下へ落ちた。


 その先には騎士の死体がある。


 ぶつかって止まった。


 一瞬だけ周囲の声が消えた。


「ひっ……」


 すぐ近くで息を呑む音がした。


 俺は手を見る。


 ぬるっとしてる。


 貴族はしぶといから剣で殺すの面倒なんだよなぁ。


 こいつらの防御魔法くらいなら、俺の肉体強化魔法と防御魔法で十分押し切れる。


 攻撃魔法を使えばもっと早い。


 だが、目の前の階段を吹き飛ばして、その先にいるかもしれない善良王まで巻き込むのは困る。


 なら殴った方が確実だ。


「知らん。抵抗も反撃も好きにしろ。俺も好きにする」


 一歩進む。


 目の前の男が一歩下がった。


 俺がもう一歩。


 男も下がる。


 さらに後ろにいた奴へ背中がぶつかる。


 逃げ場がなくなった。


 俺は距離を潰して腕を振る。


 頭が潰れた。


 身体が崩れる。


 その後ろの男が慌てて横へ逃げようとした。


「降伏する!」


 別のところから声が飛ぶ。


 そちらを見る。


 両手を上げかけた男がいる。


 知らん。


 近づく。


「ま、待て! 降伏だ!」


 拳を叩き込む。


 一瞬、防御魔法の硬さが手へ伝わった。


 それだけだ。


 押し切る。


 男が倒れる。


 その向こうで何人かが一斉に後ろへ下がった。


 だが、階段の上も人が多い。


 下がった奴が別の奴へぶつかり、押された奴がさらにその後ろへぶつかる。


 さっき騎士たちが詰まっていたのと同じだな。


「ま、待て! 身代金を払う!」


 別の奴が叫んだ。


「金なら払う! 望むだけ――」


 俺が近づく。


 逃げようとしたが後ろへ下がれない。


 頭を叩き潰した。


 今は金を取りに来たんじゃない。


 善良王を連れて帰るだけだ。


「しゃ、爵位を与えてやろう!」


 今度は何を言い出した?


 声の方を見る。


 顔を引きつらせた男がこっちを見ていた。


 爵位ねぇ。


 いらん。


 俺が一歩進むと、男が一歩下がる。


 その時、横で魔力が動いた。


 攻撃魔法。


 俺はそちらを見るより先に防御魔法で受けた。


 目の前で力が弾ける。


 霧散する。


 男たちが一瞬黙った。


 俺も足を止める。


 撃ってきた奴を見る。


 青い顔をしていた。


 その目の前で俺はもう一歩進んだ。


「来るな!」


 また魔力が動く。


 二発目。


 正面から受ける。


 また消える。


 今度は足を止めない。


 一歩。


 男が下がる。


「来るな!」


 二歩。


 さらに下がる。


 後ろの奴へぶつかった。


 三歩目はいらない。


 間合いに入った。


 拳を振るう。


 倒れる。


 その途端、後ろから激しい金属音が鳴った。


 さっきまでより近い。


 振り返る。


 騎士の列がさらに上へ押し込まれていた。


 セバスチャンが騎士の剣を受け流す。


 騎士の身体が前へ流れた。


 空いた胸へ剣を突き込む。


 止まる。


 引き抜く。


 身体が崩れ始める。


 その向こうから別の騎士が斬りかかる。


 セバスチャンは半歩だけ横へ動いた。


 剣が目の前を通り過ぎる。


 すれ違いざまにセバスチャンの剣が走った。


 騎士が倒れる。


 まだ後ろにいる。


 だが、今度の騎士は出てこなかった。


 剣を構えたまま、足だけが一段上へ下がった。


 セバスチャンが一段上がる。


 騎士がもう一段下がる。


 その背中が後ろの騎士へ当たる。


 そこで止まる。


 セバスチャンは止まらない。


 間合いへ入る。


 騎士が仕方なく剣を振った。


 受け流される。


 斬られる。


 倒れる。


 また一段。


 下から階段を上ってきているはずなのに、完全に追い立てているな。


 オルドたちもその左右から前へ出ている。


 騎士たちは数だけならまだいる。


 でも前へ出られない。


 いや。


 前へ出た奴から死んでいく。


 だから後ろへ下がる。


 後ろには仲間がいる。


 逃げ場がなくなる。


 そこへ俺たちがまた進む。


 階段そのものが、少しずつこいつらを上へ押し潰しているみたいだ。


 うん。


 やっぱり強いな。


 任せておいて大丈夫だろう。


 俺は前へ向き直った。


 貴族たちの方も、もう最初のように固まってはいなかった。


 一人が走り出す。


 それにつられて二人。


 三人。


 後ろへ逃げていく。


 今度は誰も「進め」とは言わない。


 まぁいいか。


 追いかけるのめんどくさいし。


 善良王を見つけるのが目的だ。


 わざわざ追ってまで殺す必要はない。


 ただ、俺の横を抜けようとした一人は近かった。


 手を伸ばす。


 頭を掴む。


「ひっ!」


 握る。


 潰れる。


 身体がその場へ崩れた。


 すぐ横で誰かが転びそうになりながら後退する。


「来るな!」


 残っていた男が両手をこちらへ向けた。


 また魔力が動いた。


 攻撃魔法。


 飛んでくる。


 受ける。


 消える。


「だから効かんって」


 聞こえたかどうかは知らない。


 俺はそのまま歩く。


 男は後ずさる。


 一歩。


 二歩。


 靴が血を踏み、少し滑った。


 それでも必死に下がる。


 もう一度攻撃魔法を使おうとしている。


 間に合わない。


 丁度いいところに頭があったので、そのまま蹴り飛ばす。


 男の身体が横へ倒れた。


 それを見た後ろの連中が一斉に逃げた。


 今度は追わない。


 その直後、後ろで剣が激しくぶつかった。


 一度。


 もう一度。


 少し間が空く。


 最後に重い音が響いた。


 身体が階段へ落ちる音。


 それきりだった。


 さっきまで階段いっぱいに響いていた怒鳴り声も、剣のぶつかる音も消えていく。


 残ったのは、遠ざかっていく足音と、何人かの呻き声だけだった。


 急に静かになると、妙に耳が落ち着かない。


 俺は立ち止まった。


 手についたものを軽く振ってみる。


 落ちない。


 気持ち悪いな。


 後ろを振り返る。


 階段は酷い有様だった。


 上から下まで、死体が点々と転がっている。


 斬られた騎士。


 頭を潰された貴族。


 落とされた武器。


 階段の途中で引っ掛かった死体の下に、さらに別の死体が重なっているところまである。


 流れた血は段差を伝い、誰かに踏まれて広がり、石の表面をぬらぬらと光らせていた。


 さっきまで大勢が詰まっていた場所なのに、立っているのは俺たちばかりだ。


「うーん、汚い城だな」


「自分でやったんでしょうが」


 すぐ後ろからセバスチャンの声が返ってきた。


 振り返る。


 セバスチャンも血塗れだ。


 俺より酷い。


「俺はそれほど汚してない。お前らの方が汚してる」


 俺は頭を潰しただけだ。


 こいつらは剣で首を斬ったり、腹を裂いたり、胸を突いたりしている。


 どう考えても飛び散らせた量が違う。


 セバスチャンは何とも言えない顔をした。


 反論はしてこない。


 よし。


 俺の勝ちだな。


 階段を上がる。


 靴の裏が少しぬるぬるする。


 さっき滑ったので、今度は足元も見ながら進んだ。


 転がった武器を跨ぐ。


 死体を避ける。


 途中で血の溜まった段を踏みそうになり、少し横へずれる。


 ようやく一番上まで着いた。


 さっきまであれだけ人が塞いでいた先に、大きな扉がある。


 近くで見ると他の扉より大きく、豪華だ。


 感知魔法では、その向こうに複数の魔力反応が残っている。


 どれも貴族くらいの強さ。


 善良王がいるかもしれない。


 俺は自分の手を見る。


 ぬるぬるしている。


 まぁいいか。


 そのまま扉を叩いた。


 鈍い音が響く。


 今までの剣の音が消えた後だからか、妙に大きく聞こえた。


「何しとるんです?」


 セバスチャンが聞いてきた。


「いや、礼儀として一応な」


 そう答えると、なぜかため息を吐かれた。


「いや、礼儀は大事だろ」


 返事はない。


 セバスチャンは俺を無視して後ろを振り返った。


「おい!」


 呼ばれたオルドたちが前へ出る。


 そのまま大きな扉へ手をかけた。


「待ってれば開けてくれるんじゃないか?」


 俺の言葉は無視された。


 扉がゆっくりと押し開かれていく。


次の更新は、20時となります。

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― 新着の感想 ―
もう逃げ出してんじゃね? 善良王なら誇りとかなさそうだし
連邦の白い悪魔!たった一人で歴史を変えにきた。
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