第二百五十四話 扉の向こう
俺たちはそのまま城の上層を目指す。
血塗れになりながら。
俺の手はさっきの貴族の血で真っ赤になっているし、服にもかなり飛び散っていた。
靴の裏も相変わらず気持ち悪い。
セバスチャンたちも似たようなものだ。
王城へ入ってから何人倒したのかは数えていないが、剣を振るうたびに血が飛ぶのだから、綺麗なままでいられるはずもない。
俺たちが歩いた後には、赤い跡が点々と残っていた。
まぁ、帰る前にどうにかすればいいか。
今は善良王だ。
階段を上がり、その先の通路へ入る。
感知魔法は展開したままだ。
さっきより城内が騒がしくなっている。
声だけではない。
魔力反応も動いていた。
離れていた反応がこちらへ寄ってくる。
ようやく王城の中で何か起きていると広く伝わったらしい。
「来ますぜ」
「ああ」
セバスチャンの声へ答えた直後、前方の角から騎士が飛び出してきた。
一人ではない。
その後ろからも続いてくる。
「いたぞ!」
「殺せ!」
元気だな。
先頭の騎士が剣を振り上げた。
だが、俺まで届く前にセバスチャンが前へ出る。
二本の剣がぶつかり、直後には相手の胸から刃が生えていた。
セバスチャンが引き抜くより早く、横から別の騎士が槍を突き出す。
その穂先をクレインが剣で逸らした。
ジノが懐へ入り、脇腹へ刃を突き込む。
「ぐっ!」
槍を持った騎士が崩れた。
その横をオルドとトールが抜ける。
残った騎士たちへ、そのまま斬りかかっていった。
騎士なら、こいつらに任せておけばいい。
俺は感知魔法へ意識を向けたまま進む。
少し強い反応が近づいてきた。
貴族か。
「退け!」
怒鳴り声と一緒に、騎士たちの向こうから男が出てくる。
魔力の強さから見ても間違いない。
俺はそのままそちらへ向かった。
男が俺に気づき、剣を構える。
「貴様!」
振り下ろされた剣を防御魔法で受け止める。
刃が止まった。
男の目が大きく開く。
その顔へ拳を叩き込んだ。
鈍い音と一緒に身体が横へ飛ぶ。
壁へぶつかり、そのまま床へ崩れた。
これで一人。
別の強い反応がある。
俺はそちらを見る。
次の貴族が通路の奥からこちらへ向かってきていた。
面倒だな。
それからも似たようなことが続いた。
騎士が出てくればセバスチャンたちが相手をする。
貴族が出てくれば俺が前へ出る。
剣を持って突っ込んでくる奴。
怒鳴りながら槍を構える奴。
俺たちを見た瞬間に足を止める奴。
それでも武器を捨てて逃げる奴はほとんどいない。
俺たちが何者なのかも分かっていないだろうに、王城の中まで入ってきた敵なら止めるしかないということか。
通路のあちこちから怒号が聞こえる。
遠くでは何かが倒れる音もした。
王城の中は、かなり騒がしくなってきた。
「うーん、めんどくさい」
思わず声が漏れる。
感知魔法の中には、まだいくつも反応がある。
倒しても倒しても別の場所から寄ってくる。
吹き飛ばすか?
王城ごと大きく吹き飛ばせば早い。
壁も通路も関係ない。
邪魔なものをまとめて消してしまえば、わざわざ一人ずつ相手をする必要もなくなる。
……ダメだよなぁ。
善良王を見つけるまでは。
どこにいるか分からない状態で王城を吹き飛ばして、その中に善良王がいたら困る。
父上からは生かして連れて来いと言われている。
多少欠けるくらいならともかく、建物ごと潰して死なせたらさすがに駄目だろう。
我慢するか。
前から剣を持った騎士が走ってくる。
その横からは槍。
俺は少し身体をずらし、槍の穂先を防御魔法で受けた。
そのまま前へ進む。
槍を持った騎士が押し返そうとするが、俺の足は止まらない。
逆にそいつの方が後ろへ押されていく。
「な、なん――」
横からセバスチャンの剣が走った。
騎士が倒れる。
続いて、剣を構えた別の男へオルドが斬りかかった。
金属音が響く。
ふむ。
そういえば。
俺は周囲の戦いを見ながら首を傾げた。
案外、攻撃魔法を放つ敵が少ないな。
さっきの貴族みたいに使う奴もいるが、剣や槍で向かってくる奴の方が多い。
騎士ならともかく、貴族までそうだ。
自分たちの城を壊したくないんだろうか。
確かにここは王城だ。
壁も床も、そこらの建物とは違うのかもしれない。
だから攻撃魔法を使うのを嫌がる?
……そんなの気にする余裕あるのか?
目の前まで敵が来てるんだぞ。
俺なら城の壁より敵を倒す事を優先する。
まぁ、考えても分からんな。
俺は前方へ手を向ける。
攻撃魔法を放った。
もちろん充分に手加減する。
善良王がどこにいるか分からない以上、大きく壊すつもりはない。
それでも通路の先へ届いた攻撃魔法が、立ちはだかっていた敵をまとめて呑み込んだ。
「うわぁぁっ!」
いくつもの声が重なる。
熱気が通路を抜けた。
壁が黒くなる。
床も黒い。
天井にも焦げた跡が広がった。
ついでに敵も真っ黒になって倒れている。
ふむ。
これくらいなら問題ないな。
壁も床も残っている。
城には大して被害はない。
これならもう少し使っても大丈夫そうだ。
焦げた匂いの中を歩いていく。
倒れている男の横を越えたところで、少し離れた場所から声がした。
「若様、こちらです」
トールだ。
通路の先に立ち、こちらを見ている。
その手がさらに奥を指した。
「ん?」
俺はそちらへ向かう。
どうやら何か分かったらしい。
善良王の居場所か?
そういえば先ほど、戦っている最中にトールが端の方でなんかゴソゴソしていたな。
俺は騎士や貴族の相手をしていたから、何をしているのかまでは見ていなかった。
敵から聞き出していたのか。
ちゃんと仕事してるな。
「こっちか?」
「はい」
トールが頷く。
俺たちはそのまま、示された廊下を進んだ。
後ろからセバスチャンたちも続く。
進むほど、感知魔法の中にある反応が近くなってくる。
騎士。
貴族。
かなり集まっている。
廊下の先が広くなった。
その向こうに大きな階段が見える。
そして、階段のさらに先。
大きな扉があった。
見るからに他の扉より豪華で大きい。
だが、まず目に入ったのは扉そのものではない。
階段だ。
人がいる。
かなり多い。
騎士が何人も並び、その中には明らかに魔力の強い反応も混じっている。
貴族もいるな。
ここまで来る途中のように、ばらばらに出てくるわけではない。
階段の上と途中にまとまっている。
ようやく数を揃えたか。
俺は足を止め、感知魔法をさらに意識する。
目の前の連中だけじゃない。
その向こう。
大きな扉の先にも反応がある。
一つ。
二つ。
いや、もっとだ。
どれも騎士より強い。
貴族だろう。
ふむ。
トールが聞き出した場所がここなら。
あのどれかが善良王か。
誰が善良王なのかはまだ分からない。
だが、ようやくかなり近づいたらしい。
俺は大きな扉を見てから、その前を塞ぐ貴族と騎士たちへ視線を戻した。
さて。
「まずはこいつらを始末するか」
次回更新は明日、5時となります。




