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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百五十話 始まらないと思いたい


 暗くなるまでは街道を進み、暗くなれば宿に泊まる。


 翌朝になれば、また馬に乗って街道へ出る。


 俺たちはそれを繰り返しながら、王都へ向かった。


 最初のうちは、関所を通るたびに今度こそ止められるかもしれないと思っていた。


 だが、何度通っても結果は変わらない。


 こちらを見る。


 警戒もされる。


 それでも、俺たちの前へ出て進路を塞ぐ奴はいなかった。


 そのうち俺も、関所が見えた程度ではいちいち気にしなくなった。


 止められたら、その時考えればいい。


 止められないなら、そのまま通ればいい。


 実際、それで何の問題もなく進めている。


 ただ、王都へ近づくにつれて、周囲の空気は少しずつ変わっていった。


 宿に入れば、普段とは違う騒めきを感じる。


 街道を進んでいても同じだった。


 何か一つ、これだと言えるものがあるわけではない。


 だが、以前この辺りを通った時とはどこか違う。


 落ち着かない空気というか、何かが起きるのを待っているような感じがする。


 王国側でも、戦の気配を感じている奴はいるんだろうな。


 マバール家が帝国側へ移った。


 俺たちだけではなく、他の元王国貴族もいる。


 それで何も起こらないと思う方が難しい。


 少なくとも、街道や宿にいる奴らまでまったく何も感じていないようには俺には見えなかった。


 なのに。


「何もないな」


 馬上で前を見ながら、小さく呟く。


 騒めきはある。


 何かを警戒しているような空気もある。


 それなのに、貴族たちが具体的に何かしている様子が見えない。


 街道が封鎖されているわけでもない。


 俺たちのような怪しい魔力持ちの集団を、厳しく調べている様子もない。


 軍馬に乗った騎士の集団が王都へ向かっているのに、それを止めようとする奴すらいない。


 王都から何も指示が出ていないのだろうか?


 いや、分からんな。


 俺が知らないだけで、何か出ている可能性はある。


 関所だって俺たちを通した後に、どこかへ知らせているかもしれない。


 ただ、その結果として俺たちの前に何かが現れたことは、今のところ一度もない。


 それとも、長く安全だった国内の貴族たちでは、こういう時にどう動けばいいのか分からないのだろうか。


 マバール家なら、敵が来るかもしれないとなれば備える。


 国境を守ってきたのだから、それが当たり前だった。


 だが、王国内部の貴族たちまで同じとは限らない。


 そもそも俺だって、そいつらが普段どんな備えをしているのか全部知っているわけではない。


 考えたところで答えは出なかった。


 そして、答えが出ないままでも馬は進む。


 特に妨害されることもなく、一日進むごとに王都との距離は縮まっていった。


 さすがに、このままずっと街道を堂々と走って王都まで行く気はない。


 王都まであと数日程度というところまで来たところで、俺たちは街道から外れた。


 軍馬の進む音が変わる。


 これまで真っ直ぐ続いていた街道から離れると、進む速度も自然と少し落ちた。


 ここまで来れば、王都はもう遠くない。


 今までと同じように何も考えず街道を進み続ける必要もないだろう。


 俺は馬上で周囲を見回す。


 ここまで、驚くほど何もなかった。


 関所では止められない。


 街道も塞がれていない。


 俺たちを探しているような連中にも出会っていない。


 王都まで残り数日。


 そこまで来ても、俺たちはほとんど邪魔されていなかった。


「ふむ、あまりに簡単過ぎるな。王国は戦が始まると思ってないのか?」


 誰に言うでもなく口から出た。


 ここまで来ると、楽で助かるというより不思議になってくる。


 戦が始まる可能性くらい分かっているはずだ。


 それなのに、この辺りまで来ても街道は普通に使えた。


 隣を進んでいたセバスチャンが、俺の独り言を聞いて口を開く。


「戦が始まると思いたくないのかも知れませんな」


「思いたくない?」


「へい」


 セバスチャンは前を見たままだ。


「戦など否応なく始まるだろうが」


 俺たちがこうして王都まで来ている時点で、もう何も起きないという話にはならないだろう。


 父上たちは領地を奪うつもりで動いている。


 他の帝国貴族だって同じだ。


 王国側が嫌だと言えば、それで終わる話ではない。


「案外始まらんと信じん者は多いですぜ」


「そういうもんか?」


 セバスチャンの言葉に少し考える。


 戦が起きそうだ。


 そう分かっていても、本当に自分のところまで来るとは思わない。


 そういうことだろうか。


「襲われてから備える者は多いですよ」


 後ろから声がした。


 俺は少しだけ顔を向ける。


 続けて別の声も聞こえた。


「自分が、とは思いにくいのかも知れませんね」


 オルドたちも同じようなことを言っている。


「ふむ」


 そんなものなのかもしれない。


 俺は再び前へ顔を戻した。


 前世でも戦争は何度もあった。


 俺自身が戦争を経験していたわけではないが、起きたことくらいは知っていた。


 あっちの世界は、今いるこの世界よりずっと情報が多かった。


 遠くで何か起きても、かなり早く知ることが出来た。


 それでも戦争は起きていた。


 考えてみれば、双方が揃って納得して、よし戦争を始めようと合意して始まったものなんて少なそうだよな。


 片方がやる。


 もう片方はやられたくない。


 それでも始まる時は始まる。


 そう考えると、戦争が起きそうだと分かっていても、まだ起きない、自分のところまでは来ないと思う奴がいるのも別に不思議ではないのかもしれない。


 今のこの世界より遥かに情報が多くて、それが伝わるのも早かった世界ですらそうだったのなら、これが案外普通なのかもな。


 そう思うと、ここまでの妙な静けさにも少し納得出来る。


 王国側が本当に何を考えているのかは知らない。


 王都から何か指示が出ているのかも知らない。


 国内の貴族たちが備えているのか、何もしていないのか、それだって俺が街道から見ただけですべて分かるわけではない。


 ただ一つ、確かなことはある。


 俺たちはここまで来られた。


 誰にも止められず、王都まであと数日のところまで来た。


 それで充分だ。


「ふむ、まぁ、いっか」


 考えても仕方ないことを考えるのはやめる。


 王国側が油断しているのか。


 戦が始まらないと思っているのか。


 それとも何か別の理由があるのか。


 今の俺には分からない。


 だが、俺たちを止めないのなら、その理由までわざわざ教えてもらう必要はない。


 俺は進む先へ目を向けた。


「こちらには好都合だ」

次の更新は、20時となります。

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― 新着の感想 ―
少なくとも王とその周辺が軍事に関して能天気で足りないことは実証されてますしね 一般的には省みて対策を講じようものだけど、むしろ先の籠城戦が成功体験になって 城に引きこもればなんとかなるとか勘違いしてる…
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