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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百四十九話 止める者はいない


 俺たちは、まだ夜も明け切らないうちにシルディア城を出発した。


 空は黒一色ではなくなっていたが、朝と呼ぶにはまだ暗い。遠くの空だけがわずかに薄くなり始め、街道の先は夜の中へ溶けるように伸びている。


 軍馬の蹄が固い地面を叩く音が、まだ静かな朝の空気へ続けて響いた。


 俺は馬上から前方を見ながら、隣を走るセバスチャンへ顔を向ける。


「どうする?」


 王都を目指すこと自体は決まっている。


 問題は、どうやってそこまで行くかだ。


 以前とは違い、今の俺たちは王国から見れば完全に敵側にいる。だからといって、最初から街道を避け続けるのも面倒だ。


 セバスチャンは前を見たまま答えた。


「街道筋を行きましょうや。何かありそうならその時決めればいいでしょう」


「そうするか」


 俺も特に反対する理由はない。


 今のところ、わざわざ面倒な道を選ぶ必要もないだろう。


 何かあれば、その時考える。


 俺たちはそのまま街道を駆けた。


 周囲には、軍馬に乗った俺の騎士団がいる。


 オルド、クレイン、ジノ、トール。


 他の奴らも含めて、これまで何度も一緒に動いてきた面子だ。


 山賊に扮して帝国内を走り回った時もこいつらだった。


 考えてみれば、ずいぶん色々やったな。


 マバール城に残っているレティシアを含めても、俺の直属騎士はわずか十名しかいない。


 数だけなら本当に少ない。


 父上の抱える騎士たちと比べるまでもないだろう。


 だが、不足しているとは思わない。


 こいつらは俺と一緒に何度も人を殺した。


 敵地へ入り、戦い、焼き払う必要があれば焼き払った。


 俺が急に何かを言い出しても、それに合わせて動くことにも慣れている。


 経験もある。


 実績もある。


 練度も充分だ。


 今回の仕事に大勢を連れていくより、俺としてはこいつらの方が動きやすい。


 馬の速度を保ったまま、俺はもう一度セバスチャンを見る。


「皆に目標は伝えたか?」


「いえ、王都を目指すとだけ言っとります」


「そうか」


 やっぱりまだ言ってないか。


 俺は少しだけ考える。


 善良王を攫う。


 父上から直接命じられた以上、やること自体は決まっている。


 だが、今から全員に教える必要があるかと言われると、別にない気がする。


 まだ王都までは遠い。


 どこから話が漏れるかも分からない以上、知る奴は少ない方がいいだろう。


 王都に近づいてから教えればいいか。


 どうせこいつらなら、突然善良王を攫うと言ったところでガタガタ騒ぎはしないだろう。


 少しくらい驚くかもしれないが、それだけだ。


 少なくとも、今さら俺が変なことを言い出した程度で動けなくなるような奴らではない。


 なら急ぐ必要はない。


「そのままでいい」


「へい」


 セバスチャンも理由を聞かなかった。


 それで話は終わる。


 空が少しずつ明るくなるにつれ、街道の形もはっきり見えるようになってきた。


 馬は速度を落とさない。


 前を行く騎士と後ろから続く騎士、そのどちらにも大きな乱れはない。


 俺も軍馬の動きに身体を合わせながら、そのまま王都のある方角へ進んだ。


 しばらくすると、街道の先に関所が見えてきた。


 遠目にも人がいるのは分かる。


 俺たちはそのまま近づいていく。


 蹄の音が重なり、距離が縮まる。


 さて、どうするかな。


 ここで止められれば、無理に騒ぎを起こす必要はない。だが、素直に全部話すわけにもいかない。


 何者だと聞かれるくらいならいい。


 問題は、どこへ行くのか、何をしに行くのかまで細かく聞かれた時だ。


 まだ善良王を攫うことを広めるつもりはない。


 騒がれるなら、その時考えるしかないか。


 前を見たまま、俺は関所との距離を測る。


 周囲の騎士たちも何も言わない。


 さっきまでと同じように馬を走らせている。


 だが、関所が近づくほど、向こうからこちらを見ている平民兵たちの姿もはっきりしてきた。


 当然、向こうも俺たちに気づいている。


 夜が明け始めたばかりの街道を、軍馬に乗った魔力持ちの集団がまとまってやって来るのだ。


 見逃せるような姿ではない。


 誰か出てくるか。


 止まれと言われるか。


 俺は前を見たまま進む。


 セバスチャンも何も言わない。


 そのまま距離が縮まり、もう無視出来るような距離ではなくなった。


 関所にいる平民兵たちの視線が、俺たちへ集まっている。


 それでも、前へ出てくる奴はいなかった。


 声もかからない。


 俺たちの進路を塞ぐ者もいない。


 そのまま行くのか?


 わずかにそう思いながら近づいても、何も変わらない。


 結局、俺たちは止まらなかった。


 関所のすぐ近くを軍馬で抜けていく。


 横を通り過ぎる瞬間まで、兵たちは俺たちを見ていた。


 視線だけは強く感じる。


 だが、それだけだった。


 誰一人、止まれとは言わない。


 背後へ関所が流れていく。


 俺は少しだけ振り返った。


 追ってくる者はいない。


「……止めないのか」


 思わず小さく呟いた。


 一つ目だからかもしれない。


 この関所だけがそうだった可能性もある。


 そう思っていた。


 だが、次も同じだった。


 遠くに関所が見えるたび、今度こそ止められるかもしれないと思う。


 相手もこちらを見る。


 俺たちも向こうを見る。


 近づくにつれて、何か言われるかと少しだけ身構える。


 それでも、誰も前へ出てこない。


 俺たちは速度を大きく変えることもなく、そのまま通り抜ける。


 その次も同じだった。


 関所を見つける。


 近づく。


 向こうはこちらに気づく。


 視線が集まる。


 だが、止める者はいない。


 いくつか関所を通り過ぎた頃には、さすがに俺も分かってきた。


 本当に誰も止める気がないらしい。


 そりゃそうか。


 軍馬に乗っているうえに、こっちは魔力持ちの集団だ。


 平民兵しかいない関所で無理に止めようとすれば、どうなるかくらい向こうだって分かるだろう。


 俺たちが何者なのか確認しようとして前へ出た結果、そのまま殺される可能性だってある。


 俺たちに殺すつもりがあるのかないのか、向こうからすればそんなことは分からない。


 むしろ、どこの誰かも分からない魔力持ちが軍馬でまとまって近づいてくるのだから、警戒しない方がおかしい。


 そう考えると、関所へ近づくたびに感じていた妙な空気にも納得出来る。


 止めるべきなのか。


 止めない方がいいのか。


 俺には兵たちが何を考えていたのかまでは分からないが、結局どの関所も俺たちの前には出てこなかった。


 自分の命をかけてまで止めろというのも難しいんだろう。


 だが。


「うーむ」


 少し考えてしまう。


 これは、ちょっと問題だなぁ。


 俺たちとしては楽だ。


 止められないのだから、そのまま進める。


 余計な争いも起きない。


 関所が見えるたびに少し警戒はしたが、結局一度も面倒は起こらなかった。


 だが、逆の立場で考えるとかなり困る。


 もしマバール領へ、どこの誰かも分からない魔力持ちの集団が軍馬で入ってきて、関所が緊張して見つめるだけで、そのまま通していたらどうする。


 俺なら嫌だ。


 かなり嫌だ。


 まぁ、関所の奴らも上へ報告くらいはしているんだろうが。


 しているよな?


 俺には確認しようがない。


 後ろを振り返っても、すでに通り過ぎた関所は遠ざかるだけだ。


 報告するために誰かが動いたのかまでは分からなかった。


 少なくとも、俺たちをその場で止める力がないことだけは確かだ。


 ある程度の領地を奪ったら、この辺りも変えた方がいいかもしれないな。


 マバール領みたいに、関所には騎士を置いた方がいい。


 平民兵だけでは、魔力持ちが来た時にほとんど意味がない。


 人数が何人いようが、相手が騎士や貴族なら話が違ってくる。


 もちろん、関所の役目が全部それというわけでもないんだろう。


 通る奴を見て、必要なものを確認して、税を取る。


 その程度なら平民兵だけでも充分なのかもしれない。


 実際、今までそれで困っていなかったのだろう。


 困っていなかったから、このままなんだ。


 だが戦になれば話は変わる。


 俺たちみたいなのが敵として動くことだってある。


 いや、今まさに動いている。


 その俺たちを、関所は一度も止めなかった。


 朝の光が少しずつ強くなっていく。


 街道の左右も、遠くまで見えるようになってきた。


 それでも前を塞ぐ者はいない。


 軍馬の蹄が鳴るたびに、街道だけが後ろへ流れていく。


 俺たちは誰にも止められないまま、その先へ進んでいった。

本日の更新は、5時、12時、20時となります。

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