第二百四十八話 なんだよ
その夜は、オルフィアたちと一緒に食事をすることにした。
俺の向かいにはオルフィアが座り、その隣にはシルフィアとジルベッドがいる。セバスチャンも一緒だ。
明日の朝には王都へ向けて出発する。
オルフィアたちだって色々と知りたいだろうし、俺も確認しておきたいことがいくつかある。
食事を始めてしばらくすると、オルフィアが手を止めて俺を見た。
「王都まで行くの?」
「ああ、その予定だ」
そこまでは別に隠す必要もない。
どうせ明日の朝には騎士団を連れて出るのだ。行き先まで秘密にする意味はないだろう。
まぁ、善良王を攫うところまでは話さなくていい。
父上から直々に命じられたことだし、オルフィアが知ったところで何かするわけでもない。余計なことまで全部話す必要はないだろう。
オルフィアは何も言わず、じっと俺を見ていた。
なんだ?
「……そう」
それだけ言って、また手元へ目を落とした。
妙な奴だな。
何か言いたそうに見えた気もするが、何も言わないなら分からない。
「ん? なんか土産でも欲しいのか?」
王都まで行くなら、何か欲しい物でもあるのかもしれない。
そう思って聞いてみたが、オルフィアはすぐに首を横へ振った。
「別にいい」
「そうか」
ならいい。
無理に土産を探す必要もないだろう。
しばらく食事を続けていると、今度はオルフィアが口を開いた。
「戦ってどれくらい続くのかな?」
「うーん」
どうだろうな。
俺は手を止め、少し考える。
「そこまで長くないんじゃないかな? たぶんだが」
もちろん、俺にも先のことなんて分からない。
王国貴族がどこまで抵抗するのかも知らないし、実際に戦が始まってみなければ分からないことも多いだろう。
ただ、善良王を無事に攫うことが出来れば、かなり話は変わると思う。
王国の王がいなくなる。
しかも敵であるこちらに捕まる。
そうなれば、今でもまとまっているとは言い難い王国貴族たちが、そのまま一つになって抵抗を続けられるとは思えない。
少なくとも、今よりは結束が崩れるはずだ。
善良王本人も手元にいるのだから、降伏しろと要求することだって出来る。
もちろん、それで全員が素直に従うとは思っていない。
王が何を言おうが戦う奴はいるだろう。
そういう奴は滅ぼせばいい。
むしろ、ある程度は見せしめになるくらい徹底的に滅ぼした方が、その後の戦は早く終わるんじゃないだろうか。
一つの貴族家が最後まで抵抗して完全に潰された。
それを見てもなお同じことをする奴がどのくらいいるのかは知らないが、少なくとも何も見せないよりは効くだろう。
その方が最終的には犠牲も少なくなる気がする。
長々とあちこちで戦い続けるより、勝てないと分からせて早く終わらせた方がいい。
まぁ、俺がそう思っているだけで、本当にそうなるかは分からないけどな。
それに、今回の戦が終わったからといって、そのままずっと平和になるとも思えない。
王国がどうなるのか。
帝国がどう動くのか。
その先まで今の俺に分かるはずもない。
ただ、相手が弱くなって、こっちが強くなれば、今よりは争いにくくなるだろう。
少なくとも、簡単に手を出していい相手ではないと思わせることは出来る。
それなら、ある程度は平和になるんじゃないだろうか。
俺は食事へ戻りながら、ふと別のことを思い出した。
そうだ。
こっちも確認しておかないといけない。
「手紙は書いたか?」
シルフィアへ目を向ける。
聞かれたシルフィアはすぐに頷いた。
「はい、すでに書き終わりました」
「そうか」
なら、後は届けるだけか。
ルディア家やシルフィアの家にいる、オルフィアに従う奴らへ送る手紙だ。
せっかく書いたのなら、戦が本格的に始まる前に届けた方がいい。
俺がセバスチャンへ顔を向ける。
「適当な者に届けさせろ」
「へい、お任せください」
迷いなく返事が返ってきた。
誰を使うのかも、どうやって届けるのかも俺は知らない。
だが、別に知る必要もないだろう。
こういうことはセバスチャンに任せておけば大丈夫だ。
俺が一つずつ口を出すより、こいつが勝手にやった方が早い。
「本格的に戦が始まる前に頼む」
「分かっております」
セバスチャンが頷くと、シルフィアもそちらへ頭を下げた。
「お願いします」
これでいいだろう。
後は手紙を受け取った奴らがどうするかだ。
来るのか。
来ないのか。
それはそいつらが決めればいい。
「ごめんね、色々ありがとう」
オルフィアがこっちを見て言った。
「面白そうだから構わん」
本当にそう思っている。
オルフィアも面白い奴だし、シルフィアもなかなか面白い。
そんな二人と一緒にいた奴らなら、来る奴の中にも面白いのがいるかもしれない。
実はけっこう期待している。
どんな奴が来るのか少し楽しみだ。
まぁ、こいつらより面白い奴となると、そう簡単にはいないだろうがな。
俺はオルフィアとシルフィアを順番に見て、もう一つ思い出した。
「そういえば帝国への亡命はどうなってるんだ?」
今度はオルフィアへ聞く。
オルフィアは少し考えるように目を動かしてから答えた。
「うん、ガルシア様が色々手配してくださってくれたから、順調。正式な亡命はもう少し後になると思うけど」
「そうか」
順調なら問題ない。
父上が指示して動いているなら、俺が余計に口を出す必要もないだろう。
俺より父上の方が、その辺りはずっと詳しい。
ただ、オルフィア本人が嫌がっていることまで押しつけられているなら話は別だ。
「希望があるなら言っとけよ。言いにくいなら俺から父上に言ってもいいぞ」
「うん、ありがと。でも、大丈夫。色々ご配慮してもらってるから」
そう言うオルフィアの顔を見る。
別に変な硬さはない。
無理に笑っているようにも見えないし、何かを我慢しているようにも俺には見えなかった。
なら大丈夫なのだろう。
父上も案外オルフィアを評価してるのかもな。
魔法のこともあるし、こいつ自身もかなり変わっている。
父上が何を考えているのかまでは知らないが、少なくとも雑に扱われているようには見えない。
それなら俺から何か言う必要もなさそうだ。
「ギルも気をつけてよ」
「ん?」
突然、オルフィアに言われて顔を向ける。
オルフィアは真っ直ぐこっちを見ていた。
「すぐに調子に乗って変なことするんだから」
なんだそれ。
「バカな事を言うな。俺は理性的な常識人として有名なんだぞ」
ちゃんと考えて行動しているし、無駄なことだってそんなにしていない。
今回だって父上から命じられた仕事をしに行くだけだ。
どこに問題がある。
なのに、隣から妙な視線を感じた。
セバスチャンだ。
また何とも言えない顔で俺を見ている。
お前はさっきからなんなんだ。
そう思って反対側へ目を向けると、今度はシルフィアまで変な顔をしていた。
「なんだよ」
次回更新は明日、5時となります。




