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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百四十七話 勝った方の声が大きい


 結局、戦の準備が無駄になったな。


 城内を歩きながら、昨日まで戦へ向けて考えていたことを思い返す。


 騎士団を連れて戦場へ出るつもりだった。帝国側へ移ってから初めての大きな戦になるし、王国貴族たちがどんな動きをするのかも少し楽しみにしていた。


 いや、無駄じゃないか。


 別に戦そのものがなくなったわけじゃない。


 俺がそこへ参加する前に、別の仕事をすることになっただけだ。


 それでも、やっぱり少し残念ではある。


 俺も大きな戦に参加したかったんだがなぁ。


 まぁ、仕方ない。


 切り替えていこう。


 父上から、善良王を攫って来いと直々に命じられたのだ。


 正確には生かして連れて来いだが、やることは似たようなものだろう。


 それに、急いで王都まで行って善良王を連れて戻ってくれば、その後から戦に参加出来るかもしれない。


 善良王を攫って、さらに大きな戦にも参加する。


 うん。


 一挙両得だ。


 そう考えると、少し気分も良くなってきた。


 隣を歩いていたセバスチャンが、こちらへ顔を向ける。


「こんな事なら、以前王都に行った時に善良王を攫えば良かったですな」


「あの時攫ったらみんなに迷惑だろ。あんまり自分勝手な事はするなよ」


 すぐに注意してやる。


 前に王都へ行った時は、善良王を攫えなんて誰からも言われていなかった。


 そんな時に勝手に善良王なんかを持って帰ってきたら、父上だって困るだろうし、周りも色々と後始末が大変になるに決まっている。


 何でも好き勝手にすればいいというものではない。


 俺だってそのくらいは分かっている。


 なのにセバスチャンは、何とも言えない顔で俺を見た。


「本気で言っとりますか?」


 いや、なんでだよ。


 俺はそこまで他人に迷惑はかけてないぞ。


 少なくとも、わざわざ味方を困らせるようなことはしていない。


 敵には迷惑をかけているかもしれないが、それは敵だから仕方ないだろう。


 敵にしか迷惑はかけてない。


 はずだ。


 たぶん。


 少しだけ自信がなくなったので、それ以上は考えないことにする。


 それよりも、今回の善良王を攫う話だ。


 考えてみれば、以前やった山賊行為を、今度は父上の明確な許可のもとにやるようなものだな。


 いや、許可どころか直接命令されている。


 前みたいに後からどう説明するか悩む必要もないし、誰かに知られたらまずいと気にする必要もない。


 そう考えると、以前よりずっとやりやすい。


「セバス、準備が出来次第、出発するぞ」


「へい」


 隣のセバスチャンがすぐに返事をする。


 俺は歩きながら、この先のことを考えた。


 出来れば、本格的な戦で混乱する前に王都まで行きたい。


 戦が始まれば王国側だって動くだろうし、街道を行き来する奴も増えるかもしれない。どうなるか分からないなら、余計なことが起きる前に王都へ着いた方がいい。


「明日には行けるか?」


「へい、明日朝には出発出来ます」


 早いな。


 昨日の今日だというのに迷いがない。


 さすがだ。


 こういう時、細かいところまで俺が考えなくても動いてくれるのは助かる。


 俺が王都へ行くと決めれば、必要な準備はセバスチャンが整える。


 誰を連れていくかも、何を持っていくかも、細かいところまで俺が一つずつ口を出す必要はない。


 任せられる奴がいるなら、任せた方が早い。


 そのまま歩いていると、セバスチャンがふと思い出したように口を開いた。


「赤布はどうします?」


「赤布か」


 少し考える。


 以前の山賊行為では、顔や素性を隠すために赤い布で顔を覆って行動した。


 あの時は、マバール家が帝国内で好き勝手に動いていると知られるわけにはいかなかったからだ。


 今回は事情が違う。


 俺たちはもう王国側ではないし、善良王を連れて来ること自体も父上から命じられている。


 なら、最初から顔を隠す必要はないようにも思える。


 だが、わざわざ目立ちながら王都へ行く必要もない。


「持っていこう。ただし、今回はマバール家の旗も持って行く」


 セバスチャンが少しだけ眉を上げた。


 俺はそのまま考えを続ける。


 王都へ着くまで、わざわざマバール家だと大声で知らせながら進むつもりはない。


 善良王を攫う前に騒がれても面倒なだけだ。


 だが、善良王を攫った後は話が別だ。


 今回の目的は、善良王一人を手に入れて終わりではない。


 あいつを失えば、王国貴族たちの結束はかなり揺れるはずだ。


 なら、それをやったのが誰なのか分からないより、マバール家が善良王を攫ったと分かった方がいい。


 特に、本格的に戦が始まった後ならなおさらだ。


 王国の王が敵に攫われた。


 しかも、それをやったのが元王国貴族だったマバール家だと分かれば、王国側は嫌でも意識するだろう。


 逆に、こっちからすれば悪い話じゃない。


 味方だって、自分たちが攻め込んでいる相手の王がすでにこちらの手にあると知れば、勢いもつくだろう。


 少なくとも俺なら、敵の王を攫った奴が味方にいたら頼もしく思う。


「善良王を攫った後は、旗を出した方がいいでしょうな」


 セバスチャンが言った。


「ああ。戦が始まる前はともかく、本格的に始まったら積極的に見せた方がいいだろ」


 隠す理由がなくなれば、むしろ隠さない方がいい。


 せっかく善良王を攫っても、その事実を誰も知らなければ王国貴族たちの結束を崩す役には立ちにくい。


 どうせやるなら使えるものは全部使う。


 ただ、一つだけ少し気になることはある。


 敵とはいえ王を攫うというのは、どういう扱いになるんだろうな。


 戦で王を倒すのと、王城まで乗り込んでそのまま連れて帰るのでは、受け取られ方が違うかもしれない。


 そんなことをした奴が今までいたのかも知らない。


 もしかしたら卑怯だと言われるかもしれない。


 正面から戦え、とか言われたりするのだろうか。


 でもなぁ。


 善良王を攫えるなら、その方が早いんだから仕方ないだろ。


 わざわざ敵の望む方法で戦ってやる理由もない。


 そもそも戦なのだ。


 負けた側から卑怯だ何だと言われても、だから返しますとはならない。


 善良王を攫って、王国側の結束を崩して、そのまま勝つ。


 後から文句が出たら、その時に考えればいい。


 俺は廊下の先へ目を向けながら、小さく息を吐いた。


 まぁ、その辺りは勝ってから考えればいい。


 所詮、勝った方の声が大きいしな。

次の更新は、20時となります。

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