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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百四十一話 たくましい商人


「あれは?」


 窓の外を指すと、セバスチャンもシルディア橋の方へ目を向けた。


 橋の周りには、少し前までなかった小屋や屋台がいくつも並び始めている。城の周囲に作られている臨時の陣地とは明らかに違う。


 人の動きも多い。


 兵や騎士が増えたから、それに合わせて何かしているのは分かるんだが。


「ああ、商人たちですよ」


「商人?」


「人が増えましたからな。酒や食い物、後は、まぁ、平民兵たちが女と遊ぶ為のもんです」


「ふーん」


 俺はもう一度、窓の向こうを眺めた。


 こんなところにも商売になるものがあるのか。


 いや、人が増えてるんだから当然か。


 何もしなくても大量の客が集まってきているようなものだ。


「たくましいもんだな」


 俺がそう言うと、セバスチャンが苦笑した。


「ありゃ戦場までついてきやすぜ。色々と稼げますからな」


「戦場まで?」


 橋の周りだけじゃないのか。


 戦が始まれば俺たちは当然移動する。


 商人たちまで、その後ろについてくるらしい。


 酒や食い物を売るなら、確かに客が移動すれば自分たちも移動した方がいいんだろう。


 だが、軍と一緒に動くなら、勝手についてこられても邪魔になりそうな気もする。


「なんか同行する許可とかしてるのか?」


「そんなもんありませんよ。勝手についてくるだけです」


「勝手に?」


「ええ。まぁ、追い返すのも面倒ですし、いればいたで役に立ちますからな」


「そういうもんか」


 俺たちが連れていくわけじゃない。


 向こうが勝手についてくる。


 それで軍も、わざわざ追い払ったりはしない。


 なんとも適当な関係だ。


 だが、セバスチャンが当たり前のように言っているところを見ると、別に珍しいことでもないんだろう。


 俺が窓の外を見ながら考えていると、セバスチャンが続けた。


「平民兵から略奪品を買い取って、酒、女で取り戻すんですよ」


「なるほどなぁ」


 そういう商売か。


 兵から物を買う。


 その代わりに金を渡す。


 そして、その金を今度は酒や女で使わせる。


 ぐるっと回って商人のところへ戻ってくるわけだ。


 上手いな。


 戦場に立てば緊張もするだろう。


 興奮だってする。


 特に平民兵たちは、普段とまったく違う場所で命を張って戦うことになる。


 戦が終わって手元に金まであれば、酒でも飲みたくなるだろうし、女と遊びたくなる奴もいるだろう。


 そこを相手に商売するわけか。


 俺は橋の近くに増え続けている小屋を眺めながら、少しだけ眉を寄せた。


「うーん、せっかくの儲けを使い切る奴も多そうだなぁ」


 一攫千金を狙って戦に出て、運良く生き残って、戦利品まで手に入れた。


 なのに帰る頃には全部使いました。


 そんな奴もいそうだ。


 まあ、自分で稼いだものを何に使うかは本人の勝手なんだろうけど。


 ただ、相手が興奮しているのをいいことに、やりすぎる商人まで出てきたら話は別だ。


「あまり酷ければ何人かは見せしめにしてもいいぞ」


 俺がそう言うと、セバスチャンは特に驚きもせず首を振った。


「大丈夫ですよ。商人たちもその辺はわきまえてますから」


「ならいいけどな」


「まぁ、たまに素人がやりすぎますんで、そいつらは適当に鞭打ちにでもしときます」


「そうか」


 ずいぶん軽く言うな。


 だが、俺が口を出すようなことでもないか。


 そもそも、どの程度からやりすぎになるのか俺には分からない。


 高く売ったら駄目なのか。


 安く買い叩いたら駄目なのか。


 それとも、平民兵があとで騒ぎ出すほどやったら駄目なのか。


 その辺りの加減を俺が今から考えても仕方がない。


 戦場について回る商人を何度も見てきたセバスチャンみたいな古参の騎士たちなら、俺よりよほど分かっているだろう。


 任せておけばいい。


 俺は窓から離れた。


 城の外では兵が増えている。


 橋の周りには、それを目当てに商人まで増えている。


 戦が始まるとは、まだ誰からも正式には聞いていない。


 それなのに周囲だけは、着々とその時に向けて形を変えていく。


 俺も武具を確かめ、馬を見て、騎士たちと相談する。


 だが、出発の命令は来ない。


 どこへ行くのかも分からない。


 忙しい。


 なのに、妙に落ち着いている。


 そんな奇妙な時間が、しばらく続いた。


 今日も何かあるわけではない。


 騎士たちの準備を確認して、セバスチャンと少し話をして、後は待つ。


 そう思っていたところで、部屋の扉が叩かれた。


「入れ」


 扉が開き、入ってきた男が俺の前で頭を下げる。


 父上からの使者だった。


 何か決まったか。


 俺が姿勢を直すと、使者は短く用件を告げた。


 明日、軍議に参加するように。


 それだけだった。


 どこへ攻めるのか。


 いつ出るのか。


 何人動かすのか。


 そういう話は何もない。


 だが、軍議か。


 俺は使者を下がらせ、閉じた扉を眺めた。


 城の周囲には兵が集まり、陣地が出来た。


 商人まで集まり始めている。


 そして、明日は軍議。


 ようやく待つだけの時間も終わるらしい。


 戦が本格的に始まりそうだな。

次の更新は、20時となります。

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