第二百三十九話 一攫千金
奪えるもの。
そう考えると、いくらでも思いつく。
まずは食料。
戦をするなら、食えるものはいくらあっても困らない。こっちで食ってもいいし、持ち帰ってもいい。
金もそうだ。
金貨だろうが銀貨だろうが、持って帰れるなら持って帰ればいい。
それから、人。
使える職人なんかも立派なお宝だ。
腕のいい奴なら、それだけで価値がある。
後、美人も。
うん。
そこは大事だ。
別に戦に行ってまで女を探す必要があるのかと言われれば、ないのかもしれないが、いい女がいたら欲しくなるのは仕方がない。
それに、この世界では戦争になったからといって、暴行や略奪が明確に全部禁止されているわけじゃない。
もちろん、貴族や騎士が意味もなくそこら中を荒らして回るようなことは、あまりしない。
そんなことをしても得にならないからだ。
壊しただけなら何も残らない。
殺しただけなら使えない。
奪うなら、使える形で奪った方がいい。
だが、平民兵となると少し違う。
あいつらにとっては、戦場で手に入れたものがそのまま褒美みたいなものになる。
そりゃそうだ。
命を張って戦うんだからな。
何も持ち帰るな。
全部差し出せ。
そうやって厳しく縛りつけるのも可哀想だ。
実際、ある程度は黙認されている。
何でも好き勝手にしていいわけじゃないだろうが、自分で取ったものを自分のものにするくらいは珍しくない。
考えてみれば、分かりやすい話だ。
戦争捕虜だって立派なお宝になる。
殺してしまえばそこで終わりだが、生かして使えるなら、その方がいい。
大事に使えば死ぬまで使える。
そう考えれば、わざわざ全部殺す理由もない。
俺は椅子に座ったまま、机の上の報告書を指先で押さえた。
前世の感覚だと、戦争に連れて行かれる平民っていうと、どうしても可哀想な奴らみたいな印象があるんだよな。
偉い奴らが勝手に始めた戦争に巻き込まれて。
嫌なのに連れて行かれて。
死にたくないのに戦わされる。
そんな感じだ。
だが、この世界だと少し違う。
実際に兵を集めるとなれば、希望者が殺到することもある。
特に貧しい平民にとって、戦は危険ではあっても大きく稼げる機会でもある。
普段なら一生かかっても手に入らないような金や物を、一度の戦で持ち帰る奴もいる。
一攫千金だ。
もちろん、死ねば終わりだけどな。
だが、それでも行きたがる奴はいる。
というか、貧しければ貧しいほど、その賭けに乗りたくなるのかもしれない。
毎年同じように働いて、少し食って、少し残して、それでも大して豊かにはならない。
なら、一度命を張って大きく稼ぐ。
そう考える奴がいてもおかしくはない。
実際、一度の戦争で大金持ちになった平民もいるらしい。
うーん。
前世の感覚だけで考えると、やっぱり少し違和感があるな。
戦争なんて誰も望まないものだと思っていた。
だが、こっちではそうとも限らない。
貧しい領地だと、平民の方から領主に戦争を望むことさえあるらしい。
今年は収穫が少なかった。
食料も足りない。
金もない。
だったら、あそこの領地を襲って奪いましょう。
そんな話になることもあるという。
領主が平民を無理やり戦わせるんじゃない。
平民の方が、戦わせてくれと言ってくる。
なんともたくましい話だ。
というより、そこまでしないとどうにもならないくらい貧しいってことなんだろうな。
「うーん、貧しい領地は大変だよな」
誰に聞かせるでもなく呟いた。
幸い、マバール領は豊かだ。
それに強い。
食うために他領へ攻め込まなきゃならないようなこともないし、逆に簡単に襲われて奪われるような土地でもない。
そんなことをすれば、奪うより先に返り討ちになる。
そう考えると、随分と恵まれている。
まあ、それと戦争をするかどうかは別の話だ。
必要ならやる。
どうせやるなら勝つ。
勝つなら取れるものは取る。
それだけだ。
俺は報告書を重ね直し、椅子の背へ身体を預けた。
王国から人が抜け続ければ、時間が経つほど奪えるものも減っていく。
どうせ戦うなら、まだ価値が残っているうちの方がいい。
早い方が面白そうでもあるしな。
やるんなら早めにやって、出来るだけ楽しみたいもんだ。
次回更新は明日、5時となります。




