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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百二十六話 褒められるのは嬉しい


 部屋に入ってからもしばらく、腹の中に料理の余韻が残っていた。


 食いすぎた気もする。


 だが、出されたものが美味ければ仕方ない。


 俺は椅子に座り、満たされた腹を撫でながら息を吐いた。


「また美味くなってたな」


 前にいた時も最後の方はかなり良かった。


 それでも、今日食ったものはさらに上だったと思う。


 向かいに座っていたセバスチャンも満足そうに頷いた。


「いい酒も揃えてましたぜ」


「だろ?」


 俺は酒の細かい違いまで分からないが、セバスチャンがそう言うなら良いものだったんだろう。


 それにしても、大したものだ。


 前は目立たない小屋を使った、何をしているのかよく分からない集団だった。


 それが今では、宿場町から少し離れているのに客が集まる宿屋になっている。


 道まで広くなっていた。


 あれだけ人が来ているなら、俺たちがいなくなってからも相当頑張ったんだろう。


「うーん……」


 妙な唸り声が聞こえた。


 シルフィアだ。


 さっきから一人だけ難しい顔をしている。


「なんだ?」


「いや……」


 シルフィアは少し迷ってから首を傾げた。


「いいのかなぁ? なんか間違ってるような?」


「何がだ?」


「何がって……」


 また唸る。


 俺にはよく分からん。


 繁盛している。


 料理も美味い。


 働いている連中も楽しそうだった。


 客も喜んでいた。


「いいじゃないか。あいつらも嬉しい、客も嬉しい、俺も嬉しい。なんの問題もないだろ」


「そうなんですけど……そうなんですけどねぇ……」


 シルフィアは納得しきれないらしく、まだ一人で首を傾げている。


 何がそんなに気になるんだ。


 元々の目的と違うからか?


 別にいいと思うけどなぁ。


 やってみて、別のことの方が楽しかった。


 しかも、それで上手くいっている。


 ならそっちをやればいい。


 人間、楽しくやるのが一番だ。


 どうせ嫌でも苦労はするからなぁ。


 楽に生きようとしても面倒事は勝手に寄ってくる。


 俺なんて散歩に出ただけで城まで吹き飛ばすことになったんだぞ。


 だったら、わざわざ自分から苦しい方を選ぶ必要もないだろう。


 そんなことを考えていると、部屋の扉が控えめに叩かれた。


 誰だ?


 セバスチャンが立ち上がり、扉へ向かう。


 開いた先にいたのは、昼間話したあのおっさんだった。


「ちょっといいかい?」


 そう言いながら、おっさんは手にしていたものを少し持ち上げた。


 酒と酒杯だ。


 まだ飲むのか。


 まぁ、いいけど。


 俺が何か言う前に、セバスチャンがおっさんを部屋へ招き入れた。


 こいつ、酒につられたな。


 さっきいい酒が揃っていると褒めたばかりだし、断る理由もないんだろう。


 おっさんは空いている場所へ腰を下ろし、持ってきた酒を酒杯へ注いだ。


 俺も一杯受け取る。


 食堂で飲んだものとは少し違うような気もするが、俺にはよく分からない。


 セバスチャンは口をつけてから、満足そうに小さく頷いていた。


 やっぱり良い酒らしい。


「それで、どうしたんだ?」


 わざわざ部屋まで酒を持ってきたんだ。


 ただ飲みに来たわけでもないだろう。


 おっさんは酒杯を手の中で少し揺らしてから、俺を見た。


「出て行った連中のことを知らせておこうと思ってな」


「別にどうでもいいけど、まぁ話したければ話せ」


「相変わらずだな、あんた」


 おっさんは苦笑した。


 だって本当にどうでもいい。


 俺はそいつらの顔もろくに覚えていないし、出て行ったと言われても困らない。


 ただ、おっさんが話したいなら聞くくらいは構わない。


 酒も持ってきてくれたしな。


 おっさんは一口飲んでから話し始めた。


「あんたたちが出て行った後、最初はみんな戸惑ってたんだよ」


「何にだ?」


「そりゃあ、あんたの言ってたことにさ」


 俺の言ってたこと?


 何かそんなに変なことを言ったっけ。


「崇高な目的の話を聞きに来た奴には、まず料理を食わせろって言っただろ?」


「ああ」


 そういえば言ったな。


 腹が減ってる奴より、腹いっぱいの奴の方が話を聞くだろ、みたいなことを。


「最初は、本当にそんなので変わるのかって話にもなったんだ。でもな」


 おっさんはそこで少し笑った。


「満腹の方が話を聞いてくれるってのは、本当だと思ったからな。とりあえずやってみることにした」


 そこは素直だったらしい。


 こいつら、変なところで真面目だからな。


「それで?」


「話を聞きに来た連中に料理を振る舞った」


 まぁ、そこまでは俺が言った通りだ。


 俺は酒を飲みながら続きを待つ。


「そうしたらな、話より先に料理のことばっかり言われたんだよ」


「料理?」


「ああ。こんな美味いものは初めてだとか、これなら金を払ってもいいとか」


 おっさんの口元が緩んだ。


 思い出しているだけで嬉しそうだ。


「ずいぶん褒められたんだな」


「嬉しかったよ。単純にな」


 おっさんは酒杯を置いた。


「がんばって作った料理を褒めてもらうのが、あんなに嬉しいとは思わなかった」


 その顔は昼間よりも柔らかかった。


 崇高な目的とやらを話していた頃のこいつが、どんな顔だったかは細かく覚えていない。


 だが、少なくとも今は本当に楽しそうに見える。


 料理を作った。


 食った奴が喜んだ。


 だから嬉しかった。


 単純だ。


 でも、そういうのは分かる気がする。


「それでな」


 おっさんは続けた。


「料理を褒めてもらって喜んでるうちに、あんたが言ってたことを思い出したんだよ」


「俺が?」


「ああ。ここを食事にこだわった宿屋にすればいいって」


 ああ。


 それも言ったな。


 せっかく宿の形をしているんだから、飯を美味くして酒も揃えれば客が来るんじゃないか、そんな感じのことを言った気がする。


「それで、みんなで相談した」


 おっさんはゆっくりと酒を飲んだ。


「もっと喜んでもらいたかったし、あれだけ褒めてもらえたなら、少しは上手くいく自信もあったしな」


 そう言って、おっさんは照れたように笑う。


「だから、やってみることにしたんだ」

次回更新は、20時となります。

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― 新着の感想 ―
あったけぇ。そうだ!この宿屋を守るためにここをマバール領にしよう!
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