↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

225/296

第二百二十五話 こっちの方が楽しい


 シルフィアは建物を見上げたまま、どうにも落ち着かない様子だった。


 対して、俺とセバスチャンは特に迷うこともなく、そのまま馬から降りて入口へ向かう。馬は、まぁ、その辺に繋いでおけば大丈夫だろ。


「え、本当に入るんですか?」


「ここまで来て帰る理由がないだろ」


「ありますよ!」


 後ろからそんな声が飛んできたが、もう扉の前だ。


 俺が中へ入ると、まず人の声が耳に入った。


 思っていた以上に賑やかだ。


 以前のような、何をする場所なのか分からない薄暗い空間とはまるで違う。


 中はしっかり食堂になっていた。


 広い。


 前に見た時よりも明らかに広くなっているし、並べられた卓も多い。そのほとんどが人で埋まっていて、あちこちから話し声や笑い声が重なっている。


 料理の匂いも濃い。


 肉を焼いた匂いに、煮込んだものらしい匂いが混じっている。


 酒の匂いまで漂ってくる。


 おお。


 これは本当に宿屋っぽいな。


 俺が中を見回していると、近くにいた男がこちらを見た。


 目が合う。


 男の動きが止まった。


 その隣にいた男も俺を見る。


 さらにその奥にいた奴までこっちを見て、揃って妙な顔をした。


 驚いている。


 そんなに驚くことか?


「よう、なかなかがんばってるな」


 とりあえず気楽に声をかけてみる。


 すると、固まっていた男たちが一斉に動き出した。


「あっ、貴方達、来てくれたのか!」


「本当に来た!」


「おい、見ろ!」


 なんだ。


 歓迎されてるじゃないか。


 ほら見ろ、シルフィア。


 俺は何も間違ってない。


 振り返ると、シルフィアだけが入口近くで立ち止まっていた。


 なんとも言えない顔で俺たちを見ている。


 とりあえず放っておこう。


「ずいぶんと変わったな」


 俺は空いている席を見つけ、そのまま椅子へ腰を下ろした。


 セバスチャンも当然のように向かいへ座る。


 男たちはまだ少し興奮しているようだった。


 そんな連中へ、セバスチャンが顎を上げる。


「とりあえず肉と酒だ」


「ああ、すぐ持ってくる!」


 返事が早い。


 いいな。


 こういうのでいいんだよ。


 シルフィアもようやくこちらへ歩いてきたが、座ってもまだ落ち着かないらしい。


「あ、えっ、あの、えっ……」


 何を言ってるんだこいつ。


「俺たちも肉と酒を頼む」


「えっ?」


「何も頼まないからだ」


「いや、そうじゃなくてですね」


 何が違うのかは分からないが、男はもう厨房の方へ向かっている。


 これでいい。


 俺は改めて食堂を見回した。


 客はかなり入っていた。


 宿場町から少し離れた場所なのに、これだけ人が集まっている。


 偶然ではないだろう。


 わざわざここまで来て飯を食っている奴がいるということだ。


 前に俺たちがいた時だって料理はかなり良くなっていた。


 その後も続けていたなら、さらに上達していてもおかしくない。


 期待できそうだな。


 そんなことを考えていると、奥から見覚えのある男が出てきた。


 ああ、あのおっさんか。


 前にこの集団の中で話をしていた、リーダー格っぽいおっさんだ。


 おっさんは俺たちを見ると、一瞬だけ目を丸くした。


 それから、なんとも言えない顔で笑う。


「あんたたちとは、もう会えないと思っていたよ」


「なんでだ?」


 俺が聞くと、おっさんは少し困ったように頬を掻いた。


「いや、まぁ、なんというか色々あったし」


 色々?


 そんなにあったか?


 俺は記憶を探る。


 確かに最後は壁を吹き飛ばして出て行った。


 でも、それだけだ。


 誰かを傷つけたわけでもない。


 殺してもいない。


 それほど大事だったとは思えん。


「ずいぶんと繁盛してるな」


 俺が考えている間に、セバスチャンがおっさんへ声をかけた。


「ああ」


 おっさんの顔が少し緩む。


 照れたようにも見えた。


「あんたたちのおかげだよ。料理と酒にこだわれ、絶対に手を抜くな、てな」


 俺とセバスチャンは顔を見合わせた。


 やはりな。


 俺たちの言ったことをちゃんと守ったらしい。


 実にいい。


「うむ」


 俺は満足して頷いた。


 やればできるじゃないか。


 少しして肉と酒が運ばれてきた。


 まず肉を食う。


 ……美味い。


 前よりさらに良くなっている。


 焼き方も悪くないし、味もちゃんとしている。


 酒もセバスチャンが黙って飲んでいるところを見ると、気に入ったのだろう。


 シルフィアも最初こそ警戒していたが、結局は普通に食べ始めていた。


 ほらな。


 問題ないじゃないか。


 腹も落ち着いたところで、俺はふと思い出した。


「なぁ」


「なんだい?」


「前にやってた崇高な目的とやらはどうしたんだ? 辞めたのか?」


 俺が聞くと、おっさんは少しだけ視線を逸らした。


 完全に困った顔ではない。


 どちらかというと、どう説明するか迷っているように見える。


「まぁ、ぼちぼちだなぁ」


「ぼちぼち?」


「やり方が気に入らないって出て行った奴らもいるけど、ほとんどが残ってくれたよ」


 へぇ。


 辞めたわけではないのか。


 俺が続きを待っていると、おっさんは周りを少し見た。


 それから身体を寄せるようにして、小さな声で言った。


「まぁ、ほんとはこっちの方が楽しいよ」


 そう言って笑う。


 その顔を見る限り、本当にそう思っているらしい。


 いいじゃないか。


 楽しいなら。


 その後も俺たちは食った。


 肉だけではなく、次々と料理が運ばれてくる。


 酒も何度か追加された。


 男たちはやたらと張り切っていた。


 俺たちが来たことが嬉しいのか、前に言ったことを守ってここまでやったのを見せたいのか、その辺は分からない。


 だが、どれも悪くなかった。


 むしろ美味い。


 セバスチャンも遠慮なく飲んでいるし、シルフィアも途中からは食べる方に集中していた。


 結局、その日は充分すぎるほど歓待された。


 そして夜。


 俺たちは、そのまま宿に泊まることにした。

本日の更新は、5時、12時、20時となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。