第二百二十四話 狙い通り
俺たちはそのまま旅を続けた。
正しくは散歩だが。
あの夜から何かが変わったわけでもない。セバスチャンはいつも通りだし、シルフィアも相変わらず俺たちについて来ている。
王都へ向かうこともなく、俺たちは来た道を戻っていった。
そうして進んでいるうちに、見覚えのある宿場町が前方に見えてきた。
ああ、ここか。
俺は馬上から町を眺める。
そう、あの宿場町だ。
「早く行きましょう」
隣からシルフィアが言った。
妙に先を急ぎたそうだ。
だが、俺は急ぐつもりなどない。
むしろ、ここには大事な目的がある。
正しくは、この宿場町そのものではなく、少し離れたところだが。
俺は進む先を眺めながら口を開いた。
「おい、あそこに行くぞ」
「え?」
シルフィアがこちらを見る。
すぐには分からなかったらしく、少し考えるように黙った。
そして何かに気づいた瞬間、その目が大きくなる。
「えっ! 本気ですか?」
「ああ」
「まぁ、いいでしょう」
俺より先にセバスチャンが頷いた。
うむ。
やはりこいつも同じ気持ちらしい。
俺たちが向かおうとしているのは、以前しばらく世話になったあの未完成の宿だ。
なんか崇高な目的とやらを掲げた変な集団のアジトだったような気もするが、そんなことは大した問題ではない。
大事なのは飯だ。
あそこの料理は、俺たちがいる間だけでもかなり上達していた。
最初の頃とは比べ物にならないほど良くなっていたし、俺たちが出てからも真面目にやっていたなら、さらに美味くなっている可能性がある。
あいつら、変なところで真面目だったからな。
サボってはいないと思う。
どの程度まで上達したのか、ちょっと気になる。
「あの、壁を破って逃げたんですよ! 行ってどうするんですか!」
シルフィアが馬を寄せながら声を上げた。
逃げたという言い方はどうなんだ。
確かに壁は吹き飛ばしたが。
「大丈夫だ、問題ない。あいつらはいい奴らだった」
「どこが大丈夫なんですか!」
なんでそんなに心配するんだろうな。
別に喧嘩別れしたわけでもない。
俺は少し考える。
出る時だって、ちゃんと言葉を残した。
「それに、出る時にはがんばれと言ったしな。あいつらも喜んでいた」
……たぶん。
最後のところだけは、少し自信がない。
だが、少なくとも俺は応援した。
なら問題ないだろう。
「大丈夫じゃないです。絶対に騒ぎになります。やめましょう、このまま進めばいいじゃないですか」
「せっかく近くまで来たんだぞ」
「だからって、わざわざ戻る必要ないでしょう!」
シルフィアはまだ何か言っている。
俺はその声を聞き流しながら進路を変えた。
セバスチャンも当然のようについてくる。
「あっ、ちょっと!」
後ろからシルフィアの声が飛んできた。
来たくないなら宿場町で待っていてもいいんだが、そうするつもりはないらしい。少し遅れて馬の音が追いついてきた。
しばらく進む。
以前にも通った道のはずだった。
だが、少し進んだところで俺は首を傾げた。
「なぁ」
「ふむ」
セバスチャンが低く返す。
シルフィアも周囲を見回した。
「これって……」
やっぱり二人も気づいたか。
あそこは元々、あの変な集団のアジトだった。
宿として作りかけていたとはいえ、人を集めるための場所ではなかったはずだ。
宿場町からも少し離れている。
そのうえ、前に来た時の道は細かった。
わざわざ知らない人間が入ってくるような場所でもなく、目立たないと言えばかなり目立たない場所だった。
そのはずなのに。
道が広くなっている。
前に通った時とは明らかに違った。
しかも、それだけじゃない。
人がいる。
多いというほどではないが、前方をちらほらと人が歩いていた。
誰も迷っている様子はなく、同じ方角へ進んでいる。
俺たちが向かっている方だ。
もしかして。
少し期待しながら、そのまま進む。
そして、やがて前方に建物が見えてきた。
俺は思わず目を細めた。
……おお。
全然違う。
以前あったのは、目立たない小屋みたいなものだった。
未完成だったこともあるが、わざわざ遠くから見に来るような建物じゃなかった。
それが今は、そこそこ立派な建物になっている。
少なくとも、以前の姿しか知らなければ同じ場所だとすぐには思わない。
そして、さっきから道を歩いていた人たちは、その建物の前まで来ると次々に中へ入っていった。
「……あの」
シルフィアが指を上げた。
「あれって……」
言いたいことは分かる。
セバスチャンも腕を組み、建物を眺めながら唸った。
「うーむ」
俺は二人とは違い、自然と口元が緩んだ。
やっぱりな。
「うむ、狙い通りだ」
次回更新は明日、5時となります。




