第二百二十三話 散歩に許可はいらない
「分かっている。さすがにこれ以上は父上に許してもらえなくなるからな」
俺が苦笑しながら答えると、セバスチャンはまだ少し疑うような目を向けてきた。
「分かってるんなら構いませんがね」
なんだよ。
本当に行かないぞ。
王都まで行って善良王本人に聞けば色々分かりそうだとは思うが、さすがに今からそこまで足を伸ばす気はない。
今回だって、俺としてはちょっと散歩に出ただけなのだ。
それがどういうわけか、途中で変な連中に会ったり、シルフィアがついてきたり、ゲルディアのところへ行ったり、城を吹き飛ばしたりしただけである。
うん。
こうやって並べると、少し遠くまで来た気はするな。
「あのー」
横から遠慮がちな声がした。
見ると、シルフィアが俺とセバスチャンを交互に見ている。
「なんだ?」
「念の為なんですが……まさか、そんなことはないと思いますが、黙って来てるんじゃないですよね?」
何を言い出すかと思えば。
「あのなぁ、考えれば分かるだろ」
そう言うと、シルフィアの顔から少し力が抜けた。
「そ、そうですよね。黙って来てる訳ありませんよね」
安心したように笑う。
何をそんなに心配していたんだ?
「なんで散歩に行くのに、いちいち許可がいるんだ?」
「さ、散歩でこんなにいろんな騒ぎを起こして城まで吹き飛ばしたんですか!」
シルフィアの笑顔が固まった。
口元だけ笑った形のまま、目がまったく笑っていない。
なんか面白い顔になってるな。
「まぁ、あれはなんというか……ついで? 成り行き? 勢い? なんかそんな感じだ」
「そんな適当な理由で城を吹き飛ばさないでください!」
焚き火の向こうでシルフィアの声が響く。
そんなに怒ることか?
ちゃんと外に出る時間もやったし、シルフィアだって無事だった。
「お前も楽しかっただろ?」
「楽しくありません!」
即答された。
少しくらい考えてもいいだろうに。
城が吹き飛ぶ瞬間なんて、そう何度も見られるものじゃないぞ。
「まぁ、済んだことだ。気にするな」
「一生忘れられません!」
そこまでか。
叫ぶシルフィアを見ていると、なんだか笑えてきた。
俺が笑うほど、シルフィアの顔がますます不満そうになる。
その顔を眺めながら、ふとさっきまで考えていたことが頭へ戻ってきた。
ゲルディアは、オルフィアやシルフィアから見れば悪者だったんだろう。
少なくともシルフィアがあいつを好いていたようには見えなかったし、実際にあいつがやったことを聞けば、それも当然だと思う。
だが、あいつに仕えていた連中から見ればどうだったんだろうな。
城にいた男たちは、最後までゲルディアの側にいた。
俺が問い詰めれば怒ったし、俺が城を吹き飛ばすと言えば止めようとした。
あいつらから見れば、突然やって来て主を殺し、城まで吹き飛ばした俺の方がどう考えても悪党だ。
領民から見ればどうだったんだろう。
それは分からない。
俺はゲルディアの領地で暮らしていたわけじゃないし、あいつが普段どういう領主だったのかも知らない。
なら、オルフィアから見た俺はどうなんだ?
シルフィアから見た俺は?
ちらりと横を見る。
シルフィアはまだ納得していないらしく、焚き火を挟んで俺を睨んでいた。
少なくとも今は、城を吹き飛ばした馬鹿だと思われていそうだ。
まぁ、それはそれでいいか。
同じ奴でも、見る側が変われば全然違って見える。
誰かにとって悪党でも、別の誰かにとってはそうじゃない。
逆もある。
ゲルディアだって、自分では正しいことをしているつもりだったんだろうし。
俺にはまったく理解できなかったが、本人は本気だったんだろう。
なら、結局のところ、誰から見ても絶対に正しいことなんてそう簡単にはないのかもしれない。
善良王だってそうだ。
あいつの考えを素晴らしいと思う奴もいれば、俺みたいによく分からんと思う奴もいる。
だったら、最後は自分のやりたいようにやるしかないんだろうな。
俺は俺がやりたいようにやる。
その結果、誰かから悪党に見えるなら、それは仕方ない。
もちろん、わざわざ嫌われたいわけじゃないけどな。
焚き火の炎が少し低くなっている。
さっきまで勢いよく上がっていた火の粉も減り、夜の暗さが少し近づいてきたように見えた。
考え始めると面倒なことばかりだ。
善良王が何を考えているのかも分からない。
ゲルディアがどこまで正しいと思っていたのかも、もう本人に聞くことはできない。
俺が正しいかどうかなんて、もっと分からん。
まぁ、いいか。
分からないものを今ここで全部決める必要もない。
俺は残っていた熱を眺めながら身体の力を抜いた。
シルフィアはまだ何か言いたそうだったが、もう付き合う気はない。
今日は色々あった。
城まで吹き飛ばしたしな。
そんなことをぼんやり考えているうちに、少しずつ意識が沈んでいった。
次の更新は、20時となります。




