第二百二十一話 後の俺が何とかする
「それなら、連れて行って――」
やる。
そう言いかけて、俺は口を止めた。
ん?
待てよ。
「行くのは構わんがお前の家は大丈夫なのか? 弟のジルベッドもオルフィアのところだが?」
「……はい」
シルフィアは少しだけ視線を逸らした。
「一応、父もまだ現役ですし」
「一応か」
なんか微妙な言い方だな。
弟が抜けて、今度はこいつまでオルフィアのところへ行く。
父親がまだいるなら家そのものがどうにかなるわけじゃないんだろうが、それで本当に大丈夫なのか?
まあ、俺が気にすることでもないか。
そう思いかけて、ふと気になった。
「なぁ、これはただの質問なんだが」
「はい?」
「お前の家やルディア家本家には、オルフィアに従う奴はどの程度いる?」
シルフィアが目を瞬く。
まさかジルベッドとシルフィアだけだったりして。
いや、いくらなんでもそれはないと思いたい。
オルフィアだって一応はルディア家の人間なんだから、何人かぐらいはついて行こうとする奴がいるだろ。
たぶん。
「……そうですねぇ」
シルフィアは瓦礫の向こうへ目をやりながら考え込んだ。
「私の家は、ほとんどの者がオルフィア様に従うと思います」
「ほう」
思っていたより多いな。
「本家の方はどうでしょうか? いないとは思いませんが……」
「分からんか」
「はい。私には何とも」
まあ、本家全部の考えなんて騎士一人に分かるわけないか。
でも、いないとは思わないらしい。
それなら――。
「父親に手紙でも書け」
「……はい?」
「オルフィアに従いたい奴は、マバール領まで来いって」
シルフィアの顔が固まった。
「えっ」
「聞こえなかったか?」
「い、いえ、聞こえましたけど」
「なら書け」
「いや、そんな無茶な」
「やかましい。いいから書け」
何が無茶なんだ。
来たくない奴は来なきゃいい。
来たい奴だけ来ればいいんだから簡単だろ。
「マバール領まで来れば、俺が何とかしてやる」
「何とかって……」
「何とかする」
そこから先は、来てから考えればいい。
帝国だって、オルフィア一人だけが亡命してくるより、従う奴が何人か一緒に来た方が嬉しいだろ。
今のところオルフィアとジルベッド、それにシルフィア。
貴族一人と騎士二人。
それより人数が増えた方が、なんか立派な亡命っぽい。
たぶん問題ない。
……問題。
そこで俺は、ようやく別の顔を思い浮かべた。
「…………」
父上。
そうだ。
これ、父上に何も言ってないな。
そもそもシルフィアを連れて帰る話だって勝手に進めてるのに、そのうえルディア家の奴らまでマバール領へ呼ぶ?
うーむ。
怒るかなぁ。
……怒るよなぁ。
さすがにここまで勝手に動いたら怒るか。
大激怒するかもしれん。
「……どうしようかなぁ」
思わず口から漏れた。
すると、少し離れたところで馬の手綱を持っていたセバスチャンが俺を見た。
「……いいんですかい?」
「何が?」
「お館様に怒られると思いますぜ」
「…………」
やっぱり?
俺一人の考えじゃなかったらしい。
「……お前は俺の筆頭騎士なんだから、怒られる時も一緒だよな」
セバスチャンが露骨に嫌そうな顔をした。
「あっしは無関係でしょうが」
「なんでだよ。お前も同意しただろ」
「しとらんでしょうが」
「しただろ」
「いつです?」
「同行してるんなら同意したってことだろうが」
「そんな無茶苦茶な話がありますかい」
「ある」
「ありやせんよ」
まったく。
自分だけ逃げようとするとは、とんでもない筆頭騎士だな。
俺が怒られる時ぐらい横に立ってろよ。
まあ、いいや。
その時になったら考えよう。
今ここで悩んだところで、もう城は吹き飛ばしたし、ゲルディアも消し飛ばした。
シルフィアにも手紙を書けと言った。
今さらなかったことにはならない。
俺は馬の手綱を受け取りながら、考えるのをやめた。
後のことは、後の俺が何とかするだろ。
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