第二百二十話 掘り出すって言ったじゃないですか
やっぱり大丈夫だったな。
セバスチャンは瓦礫の上へ這い出ると、膝についた土を払いながら立ち上がった。鎧にも服にも白っぽい埃がびっしりついているが、見たところ怪我はなさそうだ。
「なぁ」
「なんです?」
「シルフィアが出てこないんだが?」
感知魔法では反応がある。
すぐそこにいるのに、さっきから瓦礫はぴくりとも動かない。
セバスチャンは自分の肩についた土埃を手で払い、それから俺を見た。
「若様、掘り出すとか言ってませんでしたか?」
「ん?」
言ったっけ?
そういえば城を吹き飛ばす前に、そんなようなことを言った気もする。
気のせいかもしれない。
「まあ、いいや。おい、俺が適当に瓦礫を吹き飛ばすから、お前掘れ」
「自分で吹き飛ばした城の瓦礫でしょうが。自分でなんとかしてくださいや」
「……面倒くさくないか?」
「知りやせんな」
冷たい奴だな。
俺はもう一度シルフィアの魔力反応へ意識を向ける。
ちゃんとそこにいるんだから、放っておいてもそのうち出てくるんじゃないか?
「……ほっといたら、そのうち出てくるだろ。たぶん」
「掘り出すと言ったでしょうが」
「……言ってないんじゃないか?」
「言いましたぜ、確かに」
「……うーむ」
そこまで言われると、なんとなく言った気がしてきた。
仕方ないなぁ。
「がんばってくだせえ。あっしは馬を探してきやすから」
「おい」
止める間もなく、セバスチャンは瓦礫の向こうへ歩き始めた。
崩れた石を踏み越え、まだ形の残っている城壁の向こうへ消えていく。
逃げたな。
「まったく……」
仕方なく、俺はシルフィアの反応へ向かって歩いた。
足元には大小の石が重なり、その間に折れた木材や砕けた床の欠片が挟まっている。さっきまで広間だったとは思えない有様だ。
適当に攻撃魔法で全部吹き飛ばせれば早いんだが。
シルフィアまで吹き飛ばしたら、さすがに少し可哀想だ。
俺は感知魔法で位置を確かめながら、反応から離れた場所だけ攻撃魔法で削る。
邪魔な瓦礫が吹き飛び、下からさらに石が出てきた。
「まだあるのかよ」
今度は肉体強化魔法を使い、大きな石へ手を掛ける。
持ち上げて横へ放る。
また一つ。
その下から木材を引き抜き、さらに石を退ける。
……面倒くさい。
城なんて吹き飛ばすんじゃなかった。
いや、吹き飛ばしたこと自体は面白かったからいいんだが、その後始末まで俺がやるのはなんか違う気がする。
「シルフィアー」
返事はない。
「おーい」
やっぱり返事がない。
反応はもう近い。
俺は目の前の大きな石を掴み、肉体強化魔法で持ち上げて横へ放った。
その下の細かい瓦礫を退ける。
すると、暗い隙間の奥に何かが見えた。
「いた」
瓦礫の間で、シルフィアが身体を丸めていた。
防御魔法はまだ張っているらしく、周囲の瓦礫が身体へ直接触れてはいない。
ちゃんと無事じゃないか。
「おい、出てこい!」
「……はい」
声を掛けると、シルフィアがようやく動いた。
腕を伸ばして近くの小さな石を押し退け、自分でも身体の周りの瓦礫をどかし始める。
少し待つと、開けた隙間から這い出てきた。
顔も髪も土埃まみれだ。
だが怪我はなさそうだ。
俺はその姿を見て、なんか腹が立ってきた。
「……お前、自分で出てこいよなぁ!」
シルフィアが顔を上げる。
「掘り出すって言ったじゃないですか!」
「言ってない!」
「言いました!」
「言ってたとしても自分で出てこいよ!」
「言われたから大人しく待ってたんですよ!」
「自分で考えて正しいと思ったら動けよ!」
「そんなこと知りませんよ!」
なんだこいつ。
俺がせっせと瓦礫を掘っている間、ずっと中で待ってたのか?
出られるなら出ろよ。
俺たちが言い合っているうちに、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。
振り向くと、セバスチャンが何頭かの馬を連れて戻ってくるところだった。
近くまで来たセバスチャンは馬を止めると、なぜかすぐには降りてこなかった。
瓦礫の上に腰を下ろし、俺とシルフィアをじっと見ている。
「なんだよ」
「別に」
なんか腹立つな。
だが、シルフィアと言い合うのにもそろそろ飽きた。
俺が黙ると、セバスチャンもようやく腰を上げた。
「そろそろ行きやしょうや」
「ああ」
そうだな。
なんだかんだで結構時間を使った。
腹も減った。
俺は馬の方へ向かう。
セバスチャンもその後をついてくる。
数歩歩いて、なんとなく後ろが静かなことに気づいた。
「ん?」
振り返る。
シルフィアがさっきの場所に立ったままだった。
「何してる。そろそろ行くぞ」
声を掛けても動かない。
まったく。
「どうした? 行くぞ。俺は腹が減った」
「あ、あの……」
シルフィアが俺を見た。
「これ以上、ついて行っていいんでしょうか?」
「ん?」
何を今さら。
そう思ったところで、ようやく気づいた。
「ああ、そういえばお前、ルディア家本家の騎士だもんなぁ」
その本家の当主は死んでいて、今いた城の主もさっき俺が消し飛ばした。
そう考えると、確かにこの後どうするかは決めてなかったな。
俺は少し考える。
「お前はどうしたい?」
「私、ですか?」
「ああ。ルディア家本家に戻りたいのか? それともオルフィアのところに行くか?」
別にどっちでもいい。
このままどこかへ行って、一人で好きに暮らすのだってありだろう。
シルフィアは黙った。
瓦礫の山の中で立ったまま、視線を落としてじっと考えている。
やがて顔を上げた。
「……オルフィア様のところに行きたいです」
「そうか」
なら話は簡単だ。
「それなら、連れて行って――」
そこまで言って、俺は口を止めた。
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