第二百十七話 城を吹き飛ばす二択
「なぁ、答えさせてから城を吹き飛ばすか? 城を吹き飛ばしてから答えさせるか? どっちがいい? 選んでいいぞ」
「えっ」
シルフィアの目が丸くなる。
「えっ、えっ、あの、えっ?」
なんだ、いきなりだったから混乱したのか。
まあ少しぐらい考えさせてやろう。
こいつ、さっきは城を吹き飛ばして欲しそうにしてたからな。せっかくだし、好きな方を選ばせてやればいい。
「ちなみに俺のおすすめは、吹き飛ばしてから答えさせる方だな。たぶん、そっちの方が手っ取り早くなりそうだ」
ちゃんと助言までしてやる。
我ながら優しい。
ところがシルフィアは口を開けたまま固まってしまった。
「ふう……やれやれですなぁ」
隣からセバスチャンの呆れたような声が聞こえたが、今はこいつの相手をしている場合じゃない。
「なぁ、どっちにする?」
「い、いや、その……」
シルフィアが困ったように俺とゲルディアを見比べる。
決められないのか?
どっちでも城を吹き飛ばすこと自体は変わらないんだから、そんなに難しくないと思うんだが。
「どっちでもいいですが、いきなり吹き飛ばすと瓦礫に埋まりますぜ」
セバスチャンが口を挟んできた。
「ああ、それなら大丈夫だ」
そんなことか。
「防御魔法をガッチリかけとけばいい。後で掘り返してやる。どうだ、ちゃんと考えてるだろ」
俺は前にも、自分で吹き飛ばした迷宮に埋まったことがある。
あの時だって防御魔法のおかげで無傷だったし、上の岩を攻撃魔法で吹き飛ばせば普通に出られた。
城だって似たようなものだろ。
たぶん。
「き、貴様!」
なんか横から声が飛んできた。
「貴様!」
見ると、ゲルディアが俺を指差して震えていた。
「なんだ? なんか用か?」
「き、貴様……!」
「今話し合ってるから、できたら静かにしてほしいんだが」
こっちはシルフィアに大事な選択をさせてるんだぞ。
ちゃんと待てないのか。無礼な奴だな。
「貴様! き、貴様!」
……大丈夫か、このおっさん。
さっきから同じことしか言ってないぞ。
怒りすぎて頭がおかしくなったのかもしれない。
少しだけ心配になって見ていると、隣から遠慮がちな声がした。
「あ、あの」
「ん?」
シルフィアだった。
「ちなみに……後からだと、どうなるんですか? ちなみにですけど」
「後から?」
「はい。城を吹き飛ばした後に、その……答えさせる場合です」
「ああ」
なるほど。
そこが気になって決められなかったのか。
「うーん、とりあえず喋るまで殴るかなぁ?」
それが一番簡単だろう。
「まあ、治癒魔法を使いながら殴れば死なないだろ。たぶん。一応は貴族だし」
ゲルディアを見る。
それなりに魔力もある。
多少殴ったぐらいで簡単に死ぬことはないだろうし、怪我をしたら治癒魔法を使えばいい。
するとシルフィアの顔が、さっきより青くなった。
「そ、そうなんですね」
「ああ」
「あの、一応確認なんですけど……殴る以外の選択肢は?」
「ん?」
「例えば、説得するとか。あっ、あくまで一応ですから。一応」
「説得?」
俺は少し考えた。
ゲルディアはさっき、答える謂れは無いとか言っていた。
それを今から言葉で説得する?
「うーん、それは面倒くさくないか?」
「……はい?」
「さっき言わないって言ってたしなぁ」
話したくない奴を、話したくなるまで説得する。
何をどう言えばいいのか考えて、あれこれ言葉を選んで、それでも駄目ならまた別のことを言う。
面倒くさい。
「殴る以外だと……うーん」
他に何がある?
少し考える。
「そうだなぁ。手足をもぐ?」
「あっ、いいです。だいたい分かりました」
シルフィアがすぐに俺の言葉を止めた。
なんだ、もういいのか。
手足ぐらいもいでも、治癒魔法を使えば大丈夫だとは思う。
たぶん。
頑張れば生えてくるかもしれんし。
知らんけど。
ふと見ると、さっきまで「貴様、貴様」と騒いでいたゲルディアが静かになっていた。
「き……き……き……」
いや、静かではないか。
なんか別の変なことを言い始めた。
「ご、ご当主様、ここは……」
「ここは危険です」
「ひとまず、ひとまずは……」
周りの男たちもゲルディアへ寄りながら、落ち着かない様子で俺を見ている。
そうだ。
こいつらにも一応聞いておくか。
シルフィアの意見を優先するつもりだが、参考ぐらいにはなるだろう。
「おーい」
俺が声を掛けると、男たちの動きがぴたりと止まった。
「お前らはどっちがいい? 先に吹き飛ばすか? 後に吹き飛ばすか?」
男たちは黙った。
それから互いの顔を見る。
一人が何か言いかけて口を閉じ、別の男が俺を見る。誰もすぐには答えなかった。
なんだ?
聞こえなかったのか?
「あ、あの……」
ようやく一人が口を開いた。
「その……」
「うん」
「城を……」
「うん」
「吹き飛ばさない……という選択肢は?」
「無い!」
即答した。
「俺は吹き飛ばしたい」
せっかくここまで来たんだぞ。
城を吹き飛ばす機会なんて、そう何度もあるもんじゃない。
まったく。
参考に聞いただけなのに、勝手に選択肢を増やそうとするとは厚かましい奴らだ。
「ダ、ダメだ!」
「城内の者たちを避難させろ!」
「ご当主様を城から離せ!」
「なんでこんな狂人を城に入れた!」
「今言ってる場合か!」
突然、男たちが一斉に騒ぎ始めた。
うるさいなぁ。
ただちょっと城を吹き飛ばすだけだろ。
「ま、待て!」
その騒ぎを押し切るように、ゲルディアが声を張り上げた。
「待つんだ!」
男たちが振り返る。
ゲルディアは胸を大きく上下させながら俺を見た。
さっきまで怒りで赤かった顔が、今は少し青い。
「……全てを話せば」
「ん?」
「全てを話せば、城は吹き飛ばさないか?」
「うーむ」
それは困ったな。
全部話すなら、吹き飛ばす理由は少し減る。
でも、せっかくここまで来たしなぁ。
「それなら……いや、でもなぁ」
城を見る。
「いや、うーん」
ゲルディアを見る。
「やっぱり……うーん。どうしようかなぁ」
真剣に悩んでいると、横でセバスチャンが小さく息を吐いた。
「聞いてから決めりゃいいんじゃないですか?」
続きは、20時となります。




