第二百十六話 強い方が偉い
俺の言葉が落ちた途端、ゲルディア・ルディアの顔が目に見えて強張った。
その周囲を固めていた男たちも、一瞬遅れてざわめき始める。
「き、貴様!」
「なんということを!」
「無礼にも程があるぞ!」
あっちからもこっちからも声が飛んでくる。
なんか色々言ってるな。
だが、別にそいつらに聞いたわけじゃない。
俺は騒ぐ男たちを放っておき、ゲルディアだけをじっと見ていた。
ゲルディアも俺を睨み返している。
さっきまで赤みの差していた顔から色が引き、代わりに眉間の皺が深くなっていた。何か言い返してくるのかと思ったが、すぐには口を開かない。
周りだけがうるさい。
しばらくして、ようやくゲルディアが低い声を絞り出した。
「……そのようなことを、なぜ聞く?」
「ん?」
なぜ?
そういえば、なんでなんだっけ?
聞かれてみると、俺自身よく分からない。
オルフィアのためか?
いや、違うよなぁ。
あいつが追い出されて、色々面倒な目に遭っていることには多少同情する。だが、それだけで顔も知らない誰かの生死をわざわざ確かめるほど、俺は親切じゃない。
ならシルフィアのためか?
ちらりと隣を見る。
シルフィアは俺とゲルディアを交互に見ながら、さっきから妙に固い顔をしている。
こいつは面白い。
何をするか分からないし、見ていて飽きない。
だが、だからといって、こいつのために知らない貴族のおっさんの死を調べるほどでもないよなぁ。
そもそも、そのルディア家本家の当主とやらが生きていようが死んでいようが、俺には直接関係ない。
んー?
他に何かあったか?
知らなきゃならない理由。
何か大事なことを忘れてるとか。
…………無いなぁ。
少し考えたが、やっぱり思いつかなかった。
「まぁ、とりあえずは面白そうだからだな。たぶん」
ちゃんと考えたうえで、正直に答えてやる。
ところがゲルディアは、なぜかますます険しい顔になった。
周りの男たちもさっきまで騒いでいたくせに、今度は妙に静かになっている。揃って変な顔で俺を見ていた。
なんだ?
ちゃんと考えて真面目に答えただろ。
「……面白そうだから、だと?」
「ああ。それが一番の理由だなぁ」
口に出してから、なんとなくおかしくなった。
「うん。面白そうだからだ」
思わず笑いが込み上げる。
ひどい奴だなぁ、俺。
知らないおっさんが殺されたかもしれないって話を、面白そうだから聞いている。
まあ、今さらか。
俺が笑っていると、ゲルディアの頬がぴくりと引きつった。
「……なぜ、お前にそのようなことを答えねばならん」
「ん?」
そんなの決まってるだろ。
「俺の方が圧倒的に強いからだ」
事実を教えてやった。
別に威張ったつもりもない。
実際そうなんだから仕方ない。
だがゲルディアは、今度こそ顔を赤くした。さっきまで引いていた血が一気に戻ってきたみたいだ。
「強ければ何をしてもいいとでも思っているのか!」
「ああ、思ってる」
俺は素直に頷いた。
なんでそんな当たり前のことを大声で聞くんだ?
「強い方が偉いんだぞ。知らんのか?」
せっかくなので親切に教えてやる。
ゲルディアの目が見開かれた。
「そのようなケモノの理屈が通るとでも思っているのか!」
「だから思ってるって」
さっきから同じことを聞く奴だな。
俺は小さく首を傾げた。
「別に城主でも貴族でも王族でもいいが、それで強者が止まると思っているのか?」
ゲルディアの口が止まる。
肩書きを名乗れば、飛んできた攻撃魔法が止まるのか?
剣を振り下ろしている相手が、相手の身分を聞いただけで必ず手を止めるのか?
そんなわけないだろ。
こいつ、大丈夫かよ。
「城主だから攻撃するな、貴族だから殺すな、王族だから逆らうなって言えば、全員が従うと思ってるのか?」
「それは――」
「正しいとか間違ってるとかはどうでもいい」
そろそろ話を戻そう。
俺はゲルディアの言葉を待たず、その目を見た。
「とりあえず答えろ。ルディア本家の当主を殺したのか?」
広間の空気が、また重くなった。
ゲルディアは黙って俺を睨む。
さっきから睨んでばっかりだな。
いくら睨まれても痛くも痒くもないんだが。
睨むだけなら、あんまり意味ないぞ。
それでも待ってやると、ゲルディアは拳を強く握り締めた。
「……お前如きに、そのような大事を答える謂れは無い!」
「ふーん」
やっぱり答えないらしい。
なら仕方ないな。
俺はゲルディアから視線を外し、隣に立つシルフィアを見た。
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