第二百十四話 勝つのが騎士だ
男たちの後ろについて馬を進めながら、俺は少しだけ胸を張った。
「うむ、狙い通りだな」
隣へ笑いかけると、シルフィアがじっと俺を見る。
「本当に狙ってました?」
「……もちろんだ、うん」
俺はそっと視線を前へ戻した。
まあ、結果的には案内してくれることになったんだから問題ない。
シルフィアも少し落ち着いたようだ。まだ顔は青いが、口調はいつもとほとんど変わらない。
良かった、良かった。
少なくとも今すぐ横で吐きそうな感じはしない。
「そういえば、お前ら城の騎士なのか?」
前を行く男たちへ聞いてみる。
先ほど落馬した男が振り返り、なんとも苦々しい顔をした。
「そうだ。代々仕えている」
「ふーん」
なんでそんな顔をするんだ。
俺は特に何もしてないのに。
まあ、大抵の騎士は代々同じ家に仕えているから、それ自体は珍しくもない。騎士が仕える主家を変えることの方が珍しいからな。
「その分家の当主とやらはどんな奴だ? 面白い奴か?」
「……面白くはない」
そこは即答だった。
男は少し前を向いてから続ける。
「真面目で誠実な方だ」
「ふむ。真面目で誠実か。俺と同じだな」
そう言った瞬間、セバスチャンとシルフィアが、ばっとこちらを見た。
「なんだ?」
二人とも妙に真面目な顔をして、何も言わずに視線を逸らした。
なんなんだ、こいつら。
「……お前は何者だ」
前から声が飛んできた。
先ほどの男がまたこっちを見ている。
「ん? 散歩中の通りすがりだ」
ちゃんと教えてやったのに、男の顔は納得したようには見えなかった。
まあいい。
「城はどうだ? そんなに大きくはないようだが」
まだ姿は見えていないが、シルフィアから大きな城ではないと聞いている。
男は今度は少し表情を緩めた。
「うむ。不相応な城など不用とおっしゃられてな。城は昔からのままだ」
なんだか嬉しそうだな。
それも当主の立派なところだと思っているのかもしれない。
「ふむ」
分からなくはない。
自分の領地に似合わないほど大きくて豪華な城を建てる必要はないだろう。そんなことに金を使うくらいなら、別のことに使った方がいい場合だってある。
ただ、それはどうなんだろうなぁ。
別に城は当主個人の持ち物ってわけじゃない。
……いや、正確に言えば当主個人の持ち物ではあるんだが。
それでも、ただ住むための家というのとは少し違う。
城は軍事施設だ。
それに領地を動かす場所でもある。
俺が城をそういうものとして見すぎているのかもしれない。
国境で生まれて、国境で育ったからな。
城や砦なんてものは、いざという時に敵を止めるためにあるという感覚が染みついている。
別にむやみやたらと飾り付けろとは言わん。
見栄を張って巨大にする必要もない。
けど、いざという時に役に立たなければ城とは呼べんぞ。
まあ、実物を見てみないと分からんか。
ただ話を聞いた限りだと――。
なんか吹き飛ばしてもつまらなそうな城みたいだなぁ。
そのまま男たちに先導され、しばらく街道を進む。
畑が少なくなり、道の先に建物の影が見え始めた。
「ふむ、あれか」
近づくにつれて、それが城だと分かる。
確かに小さい。
マバール城の半分どころか、三分の一くらいしかないんじゃないだろうか。
いや、単純な大きさだけじゃない。
なんというか、軽い。
薄いと言った方がいいのかもしれない。
もちろん、近づいただけで壁の厚さまで分かるわけじゃない。ただ、普段見慣れているマバール城と比べると、どうにも頼りなく感じる。
これも俺がマバール城を基準にしているせいかな?
王国の、それも国内貴族の分家の城なら、こんなものなのかもしれない。
俺が城を眺めていると、先導していた男が馬を止めた。
「城まで案内はしたぞ」
「ふむ」
確かに案内はしてくれた。
「当主はいるか?」
男の目つきが変わった。
「ご当主様に何の用だ」
「いや、せっかくだからちょっと話がしたくてな」
それだけ答えると、周囲の空気が変わった。
男たちの顔つきが険しくなり、中にはもう剣の柄を握っている奴までいる。
なんだよ。
話をしたいと言っただけだろ。
「別に無理矢理会ってもいいんだがな。案内の礼だ。聞いてこい」
「そのような事、出来ると思うか!」
「出来るか出来ないかで言えば出来るし、やる」
男の顔を見ながら答える。
「だから聞いてこい。聞かないんなら、このまま会うだけだ」
それでも誰も動かなかった。
剣を掴んでいる奴もいる。
だが、誰も抜かない。
「はぁ……」
なんでこんな簡単な話が通じないんだ。
「あのなぁ、お前らが命がけだろうがなんだろうが、俺は止められん。全員殺して会いに行くだけだ」
男たちの顔がさらに強張る。
「それは、ここまで案内したお前らに悪いかなと思ったから譲歩してるんだぞ。とっとと聞いてこい!」
「命がけでも止めるのが騎士だ」
男は俺を睨んだまま言った。
俺も男を見る。
「勝つのが騎士だ。負けた騎士は死体になるからな」
それでも男は動かなかった。
じっと俺を睨んでいる。
面倒くさい奴だなぁ。
「どうする? 死にたいんなら殺してやる。そうじゃないんなら聞いてこい!」
しばらく俺を睨んでいた男が、ようやく後ろへ顔を向けた。
「行け」
後ろにいた一人へ短く命じる。
「ご当主様に聞いてこい」
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