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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百九話 今度はお前が吹き飛ばすのか


「言うなと……命じられました」


 シルフィアに詰め寄られた男は、身体を壁へ押しつけるようにしながら答えた。


「動揺させるだけなので、決して言うなと……」


「動揺……」


 シルフィアの手が男の服を掴みかけたまま止まる。


 俺からすると、お前から聞けば良かったんじゃないか、と思わないでもない。


 当主が死んだと聞いたなら、どこで死んだのかくらい聞いてもよさそうなものだ。


 だが、まぁ。


 あの時のシルフィアがどんな状態だったのかは俺には分からない。


 突然仕えていた当主が死んだと聞かされれば、多少は動揺もするだろう。


 それにこいつらは、聞かれても言うなと命じられていたみたいだし。


 なら、聞いたところで答えたかどうかも分からんな。


 俺はシルフィアの横から男たちを見る。


「念の為に聞くけど」


 何人かがびくりと身体を揺らした。


「お前らは当主の死に関わってないんだよな?」


 今度は曖昧な反応ではなかった。


 男たちは震えながらも、はっきりと頷く。


「はい!」


「我らは関わっておりません!」


「本当に何も……!」


「そうか」


 まぁ、こいつらの言葉をそのまま信じるかどうかは別として、平民に貴族が殺せるとはあまり思えない。


 貴族とは頑強で、しぶとい生き物だ。


 俺自身は見たことないが、半分になっても復活する、なんて言われるくらいである。


 どこまで本当か知らんけど。


 だが、貴族になら貴族は殺せる。


 俺だって、これまでに何人も殺している。


 分家の当主は平民腹だったはずだが、本家の当主の弟だ。


 それに、確か息子もいたよな。


 前にオルフィアから後継者の話を聞いた時、そんな話が出ていたはずだ。


 二人がかりならどうだ?


 真正面から殴り合えば分からんが、兄弟なら油断させることくらいは出来るかもしれない。


 寝込みを襲うとか。


 それでも無理なら、分家の城なんだから騎士くらいいるだろうしな。


 もちろん、全部想像だ。


 本家の当主が分家の城で死んだ。


 分家は、その場所をシルフィアたちへ知らせるなと命じた。


 今分かっているのはそこまでだ。


 ただ。


「ふーむ」


 俺は顎へ手を当てた。


 話し合いで問題を解決する、あの崇高な思想。


 前にも少し思ったが、あれは力不足の貴族には都合がいい考え方かもしれない。


 正面から殴り合わなくていい。


 相手より弱くても、話し合いで決めるのが正しいことになれば、力の差そのものは今より意味が薄くなる。


 だからといって分家の当主があの集団の仲間だとは限らない。


 首領とやらについてどこまで調べているのか気にしていたからといって、首領を知っているとも限らない。


 だが。


 怪しい。


 少なくとも、直接話を聞いてみる価値は出てきた。


「あの城、吹き飛ばしましょう」


「いやだ」


 考えていた俺は、反射的に答えた。


 ……ん?


 今、誰が言った?


 横を見る。


 シルフィアだった。


 さっきまで俺が城を吹き飛ばそうとするたびに必死で止めていた女が、真っ直ぐ俺を見ている。


「まずは話を聞きたい」


 俺がそう言うと、シルフィアの目が大きくなった。


「さっきまでは吹き飛ばすって言ってたじゃないですか!」


「さっきはさっきだろ」


「なんでですか!」


「なんか面白そうな話が聞けそうだから」


 今までなら、分家の当主を問い詰めて、面倒なら吹き飛ばせばいい程度だった。


 だが、本家の当主が分家の城で死んでいた。


 しかも、その場所を隠していた。


 あの変な集団の首領について、シルフィアたちがどこまで調べたかを探らせていた。


 これはちゃんと聞いた方が面白そうだ。


「だから、吹き飛ばすのはそれからだ」


「吹き飛ばすんですね」


「ん?」


「絶対に吹き飛ばすんですね!」


 シルフィアがずいっと近づいてくる。


 なんで今度はお前がそんなに吹き飛ばしたがってるんだ。


「うん、まぁ、たぶん」


 聞いてみないと分からん。


 もしかしたら、何か納得出来る事情があるかもしれない。


 ないかもしれない。


「たぶん?」


 シルフィアの眉がぴくりと動く。


「絶対に吹き飛ばしましょう! 絶対!」


「お、おう」


 怖いな。


「ああ、うん。そうだな。吹き飛ばそう」


 たぶん。


 心の中だけで付け加えておく。


「吹き飛ばしましょう。絶対ですからね」


「ああ、そうだな」


「絶対ですよ」


「うん」


「吹き飛ばしましょう」


「ああ、そうしようかな」


 適当に頷いていると、少し腹が減ってきた。


 そういえば、さっき飯を食おうとしていたところだった。


「腹が減った」


「え?」


「まずは飯にしよう」


 俺はまだ何か言いたそうなシルフィアを促して、部屋の外へ向かう。


 話を聞くにしても城を吹き飛ばすにしても、腹が減ったままやる必要はない。


 扉を出ようとしたところで、後ろからセバスチャンの声が飛んできた。


「若様」


「ん?」


「こいつらはどうしやす?」


 振り返る。


 そういえばいたな。


 壁際では、さっきから男たちが固まったままこちらを見ている。


 もう聞きたいことはだいたい聞いた。


 こいつらを連れて歩くのも面倒だ。


「お前ら」


「は、はい!」


「どっか行け」


 男たちが目を瞬かせた。


「城には戻るな。分家の奴らにも何も伝えるな。そのまま逃げるなら見逃してやる」


「……よろしいので?」


 男たちではなく、セバスチャンが聞いてきた。


「かまわん」


 俺は肩を竦める。


「今後見つけたら確実に殺すけど、今はめんどくさい」


 男たちの顔から血の気が引いた。


 分かりやすいな。


 セバスチャンは少しだけ俺を見た後、男たちへ向き直った。


「おい、聞こえたな」


 さっきまでより低い声になる。


「次は必ず殺すぞ。行け!」


 男たちは弾かれたように動いた。


 俺とシルフィアはもう部屋を出て、階段へ向かおうとしている。


 その後ろから、何人もの足音が一気に近づいてきた。


「おい、待て、ちょっと待て」


 俺は後ろを振り返る。


 セバスチャンへ言ったつもりだった。


「狭いだろ、落ち着いて行け」


 だが、男たちはほとんど聞いていないのか、俺たちと同じように下へ向かいながら一気に追いついてきた。


「お、おい」


 横へ避ける。


 シルフィアも慌てて身体を寄せる。


 男たちは俺たちを押しのけるような勢いで横を抜け、そのまま階段を駆け下りていった。


 危ないだろ。


 もう少しで押しのけられるところだったぞ。


 俺はゆっくり振り返った。


 部屋の前にはセバスチャンが立っている。


「おい!」


 俺が声を上げる。


 セバスチャンは、そっと顔を逸らした。


「おーい!」

次の更新は、17時となります。

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