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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百六話 城を吹き飛ばそう


「だが、明日は城を吹き飛ばそう」


 俺がそう続けると、シルフィアの顔が引きつった。


「そ、それだけは!」


 ほとんど叫ぶような声だった。


 周りの客が何人かこちらを見たので、俺は少し声を落とす。


「なんだよ」


「なんだよ、じゃないですよ! どうして急に城を吹き飛ばすことになってるんですか!」


「急じゃないだろ。さっきから言ってる」


「言ってましたけど!」


 なら問題ないじゃないか。


 俺が首を傾げていると、横で酒を飲んでいたセバスチャンまで口を挟んできた。


「吹き飛ばすんですかい?」


「うん」


「話を聞くんじゃなかったんですかい?」


「もういいだろ」


 ここまで待った。


 昨日も待った。


 一昨日も待った。


 今日だって朝から待っている。


 それなのに、肝心の連中はいつまで経っても来ない。


「めんどくさいし吹き飛ばそう。その方が手っ取り早いだろ」


 俺がそう言うと、セバスチャンは杯を口元へ運びながら笑った。


「城には、あまり関係ないものもいるんじゃねえですかね?」


「ああ」


 それはそうか。


 分家の当主とやらが怪しいからといって、城にいる全員が怪しいわけではない。


 少し考える。


「そうだなぁ。うん、一度威嚇してからなら問題ないな」


「問題あります!」


 すぐにシルフィアが割り込んできた。


「ダメです、ダメです! 温厚なんですよね? 理性的な常識人なんですよね?」


「時と場合による」


「さっきまで温厚って言ってたじゃないですか!」


「温厚だから威嚇するんだろ。いきなり吹き飛ばさないんだぞ」


「そういう意味じゃありません!」


 難しいやつだな。


 俺は入口へ目を向ける。


 また知らない旅人が入ってきた。


 待っている連中ではない。


「なんかめんどくさいし」


 思わず小さく呟く。


「あっ、それが本音なんですね!」


 聞かれていた。


「違うぞ」


 俺は咳払いを一つする。


「俺はお前やオルフィアの為を思って行動している。うん」


「ちゃんとこっち見て言ってください!」


 うるさいなぁ。


 俺は入口から視線を戻さないまま続ける。


「大丈夫だ。ちゃんと加減はする」


「何をですか!」


「城を吹き飛ばす時の加減だよ」


「だから吹き飛ばさないでください!」


「城以外は吹き飛ばさん。約束してもいいぞ」


 だいぶ譲歩したつもりだった。


 城だけならいいだろう。


 城下町ごと消すとか、そんなことをするつもりはない。


 だが、シルフィアはなぜか納得しなかった。


「城も吹き飛ばさないで欲しいんです」


「……なんでだ?」


「なんでって……」


 シルフィアが一瞬言葉に詰まり、それから俺の方へ身体を向けた。


「まだ何も分かってないじゃないですか。とりあえず話をしてみましょうよ。ね、とりあえずでいいですから、ね」


「うーん」


 話か。


 別に嫌ではない。


 ただ、ここまで待っているうちに少し飽きた。


「なら吹き飛ばしてから話そう」


「違います」


「それでいいだろ。すっきりして話してくれるだろうし」


「何がすっきりするんですか!」


 シルフィアが頭を抱えそうな顔をしている。


 俺にはよく分からない。


 その横から、セバスチャンが杯を卓へ置いた。


「若様」


「なんだ?」


「城を吹き飛ばしたいんですかい?」


 聞かれて、少し考える。


 最初は、あいつらが来なかったら分家の城へ行けばいいと思っただけだった。


 城で話を聞く。


 話にならなかったら、ちょっと力尽くでなんとかする。


 その程度だった。


 でも。


「よく考えたら、こんな機会滅多にないからな」


「……はい?」


「やってみたい」


「目的変わってるじゃないですかぁ!」


 シルフィアの声が食堂に響いた。


 今度こそ何人もの客がこちらを見る。


 俺は何も聞こえなかったふりをした。


 セバスチャンは面白そうに肩を揺らしている。


「まぁまぁ」


 全然宥める気がなさそうな声で言ってから、セバスチャンは続けた。


「とりあえず見てからにしましょうや」


「見る?」


「ええ。あまり小さいと、吹き飛ばしてもつまらんでしょう」


 なるほど。


 俺は思わず頷いた。


「そうだな。どうせならデカい方が面白いな」


「その方法が!」


 シルフィアが突然声を上げた。


 俺が見ると、何か思いついたような顔をしている。


「そうですよ!」


「何が?」


「小さいですし! あの城はそこまで大きくありませんから、吹き飛ばしてもあまり面白くないと思いますよ!」


「ふむ」


「ね、ね。だから、まずは見て、ついでに話もしましょうよ」


 ついでになった。


 さっきまで話をするのが目的だったはずなのに、ずいぶん扱いが軽くなったな。


 だが、小さい城をわざわざ吹き飛ばしても仕方ないというのは分かる。


「ん、まぁ、それもそうかな」


 俺は少し考える。


「どっかデカい城を吹き飛ばしていいんなら別にいいか。そこじゃなくても」


「え、えっと……」


 さっきまで勢いよく頷いていたシルフィアが固まった。


「他にデカい城はどこだ?」


「えーっと……そんなのあったかなぁ?」


「ルディア領じゃなくてもいいぞ」


「え?」


「どうせどこでも王国貴族の城だし」


 俺は帝国貴族。


 セバスチャンは帝国騎士。


 ここは王国だ。


「吹き飛ばしても別に怒られんだろうし」


「ええ、いや、それはちょっと……」


 シルフィアが目を泳がせる。


 さっきは城が小さいから駄目だと言っていたのに、大きな城を探し始めたら困るらしい。


 なんなんだ。


 するとセバスチャンが酒を一口飲んでから、静かに口を開いた。


「それはやめときましょうや」


「なんでだ?」


「お館様も色々お考えでしょうし、もし何かあれば怒られやすぜ」


「ああ」


 それは困る。


 俺は少し真面目に考え直した。


 確かに父上なら、王国貴族に色々工作していてもおかしくない。


 俺には何も言わず、裏で誰かと話をつけているとか、そのくらい普通にやりそうだ。


 そんなところへ俺がふらっと現れて城を吹き飛ばしたら。


 ……怒るだろうなぁ。


「そうか。そうかもしれんなぁ」


 俺は腕を組んだ。


「確かに父上なら、王国貴族に色々工作してそうだしなぁ。そこをいきなり吹き飛ばすと怒るよなぁ」


「そういうことでさぁ」


 セバスチャンが頷く。


「うーむ」


 大きな城は諦めるしかないか。


 せっかくいいと思ったのに。


 しばらく考え、結論を出す。


「やっぱり、その分家の城で我慢するか」


「ああ、なんか戻ってきた」


 シルフィアが力なく呟いた。


「ん?」


「いえ……」


 なんだか分からないが、ひどく疲れた顔をしている。


「やはり初志貫徹ってことだな」


「違います」


 シルフィアが即座に顔を上げた。


「初志が変わりました。変わっているんです」


 そう言って、がっくりと肩を落とした。

次の更新は、20時となります。

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相手貴族の貰うはずだった猶予をシルフィアが消化する
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