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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第二百一話 森が豊かな理由


 俺たちは街道を無視して駆けていた。


 道と呼べるものはない。馬の脚が踏むのは背の低い草だったり、乾いた土だったり、時には木々の間に溜まった落ち葉だったりする。真っ直ぐ進める場所ばかりでもないから、太い幹や張り出した枝を避けながら、進めるところを選んで馬を走らせていく。


 少し前を行くセバスチャンは、相変わらず迷いがない。


 俺の後ろを追うように、シルフィアも馬を走らせている。


 宿場を出る前にセバスチャンが選んだ馬だ。


 俺は何度か後ろを振り返ったが、シルフィアが大きく遅れる様子はなかった。街道ならともかく、こういう場所では馬の良し悪しだけでどうにかなるものでもない。地面の起伏を拾いながら手綱を扱い、木々の間を抜け、それでも速度を落としすぎない。


 なかなか上手い。


 もちろん、セバスチャンが選んだ馬が優秀なのもあるだろう。


 だが、それだけじゃない。


 シルフィア自身の乗馬の腕も悪くないし、馬と自分へ使っている肉体強化魔法もきちんと扱えているらしい。無理に速度だけを上げているようには見えず、こちらが進路を変えてもちゃんとついてくる。


 これなら問題なさそうだ。


 俺は前へ向き直り、少しだけ手綱を緩めた。


 馬の蹄が土を蹴るたび、周囲の景色が後ろへ流れていく。


 街道を外れてこうして走っていると、いつも少し不思議に思うことがある。


 森が豊かだ。


 左右を見ても木、木、木。


 もちろん畑も村もあるし、人が暮らしている場所では森が切り開かれている。だが、それでも少し街道から離れれば、これだけの木々が普通に残っている。


 前世では、人口が増えれば森は消えていった。


 たぶん、かなり昔からそうだったはずだ。


 理由は単純だ。


 人間は食わなければ生きていけない。


 そして、食うには煮炊きがいる。


 畑を広げて作物を増やせば、それで終わりじゃない。収穫したものを食事にするには火がいる。肉を焼くにも煮るにも火がいるし、寒ければ身体を暖めるためにも燃やす。


 夜の灯りだって同じだ。


 前世のずっと昔なら、その火を作る一番身近なものは木だったはずだ。


 薪だな。


 食料を増やす。


 人口が増える。


 そうすると、食うために使う薪も増える。


 暖まるための薪も増える。


 灯りに使う分まで増えていく。


 木は放っておけば育つが、当然、一日や二日で元の大きさに戻るわけじゃない。


 人間が増える速度に、森が育つ速度が追いつかなくなればどうなるか。


 そりゃ森が減る。


 当たり前だ。


 よく人口が増えるには食料の増産が必要だった、みたいな話を前世では聞いた気がする。


 それは間違ってないんだろう。


 だが、いくら畑から食い物が取れても、それを食える状態にするための燃料がなければ困る。


 なんだか変な話だ。


 人間は煮炊きするようになったから、食える物を増やせた。


 その煮炊きに使う燃料が、今度は増えた人間を支える邪魔になる。


 煮炊きによって進化した人間の人口増加を、煮炊きが阻んでいたわけだ。


 それが大きく変わったのは、薪以外のエネルギーを大量に使うようになってからだったと思う。


 石炭。


 石油。


 細かい順番なんかは覚えてないが、大雑把に言えばそんなところだろう。


 地表に生えている木を切って燃やしていたのが、地下にあるものを掘って燃やすようになった。


 要するに、エネルギーを取る場所が地表から地下へ移ったわけだ。


 それに食料の増産も重なった。


 食い物が増えて、燃やす物にも困りにくくなる。


 そうやって前世では社会に余裕が出来て、それが人口爆発を生む力の一つになったんじゃないだろうか。


 たぶん。


 そこまで詳しく勉強したわけでもないから、細かいところまでは知らんけどな。


 じゃあ、この世界はどうなんだ?


 木々の間を抜けながら、俺は周囲を見渡した。


 森は相変わらず続いている。


 少なくとも、前世で考えていたような燃料のために森を削り続けなければならない世界には見えない。


 理由はある。


 迷宮だ。


 この世界特有の、よく分からん不思議空間。


 中には魔物が生まれるし、場所によっては森みたいになっていたり、水場があったり、どうなってるんだと首を傾げたくなるものがいくらでもある。


 その中でも、俺がかなり変だと思っているものの一つが薪の木だ。


 正式に何という植物なのかは知らない。


 そもそも一種類なのかどうかも俺は知らん。


 要するに、とんでもなく回復力の強い木をまとめて薪の木と呼んでいる。


 朝に切る。


 翌朝には、また切れる。


 初めて知った時は意味が分からなかった。


 木ってそんな生き物だったか?


 少なくとも俺の知っている木は違う。


 だが迷宮の中では、それが普通にある。


 あまり小さな迷宮には生えていないみたいだが、それなりの迷宮なら大抵は薪の木がある。


 だからこの世界で薪といえば、たいていは迷宮から持ってくる薪の木だ。


 わざわざ地上の森へ入って木を探し、切って、次の木を探して回るより、同じところで何度も切れる方がずっと楽なのは考えるまでもない。


 まあ、迷宮だから危険ではあるけどな。


 何もいない森へ薪を拾いに行くのとは違う。


 それでも、翌日にはまた切れる木がある。


 俺は流れていく木々を眺めながら、その妙な違いを改めて考えていた。

本日の更新は、5時、12時、20時となります。

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