第百九十五話 裏切ってないんじゃないか?
「彼らは私と共にあの集団を探っていました。ほとんどが魔力を持たない平民ですが」
「待て」
俺はシルフィアの言葉を遮った。
「共にってどういう意味だ? 一緒にあいつらを探っていたのか?」
俺が連れ出したあの妙な連中のところに、こいつら全員で潜り込んでいたのかと思ったが、シルフィアは首を横に振った。
「いえ、あの集団はいくつかに分かれて行動しています。私はその一つを探っていました」
「ふむ」
なるほど。
俺たちが飯を食ったあの場所に全部が集まっていたわけじゃないらしい。
いくつかに分かれているうちの一つをシルフィアが探っていて、昨日追ってきた奴らも同じ目的で別に動いていた、と。
「つまり、お前と同じ目的であいつらを探っていた奴らがお前を裏切ったのか」
「はい」
「なんでだ? 嫌われてるのか、お前?」
「違います!」
いきなり声が大きくなった。
さっきまで二日酔いで死にそうな顔をしていたくせに、シルフィアは頬まで赤くして俺を見る。
「まぁ……たぶんですけど」
最後だけ急に声が小さくなった。
「なんだそれ」
「分かりませんよ!」
本人にも自信ないのか。
「じゃあ、なんでお前を裏切った? 仲間なんだろ?」
俺が聞くと、シルフィアの赤かった顔から少しずつ力が抜けた。
「分かりません。報告をしていたら、いきなり襲われて……」
「ふむ」
報告中に突然か。
「つまり、仲間に状況を伝えてたらいきなり襲われたと」
「そうです」
「なんか怒らせるようなこと言ったんじゃないのか?」
シルフィアが黙った。
少し俯いたかと思えば、今度はゆっくり顔を上げて俺を睨む。
「そうかもしれませんね」
「ん?」
「いきなり、訳もなく無理矢理連れ出されましたから」
……なんで俺を見る。
しばらく見つめ返していると、あの壁に穴を開けた時のことを思い出した。
ああ。
あれか。
でも、あれはちゃんと理由があったぞ。こいつを連れて帰ろうと思ったからだ。
本人に説明してなかった気もするが。
「ふむ、つまり原因は不明か」
「……はい」
「まぁ、ならそっちはとりあえず放置だな」
分からんものを考えても仕方ない。
何か材料が出てきたら、その時考えればいい。
それより先に確認することがある。
「んで、結局そいつらはなんなんだ? 全員ルディア領の人間なんだろ?」
「はい。ですが、全員がご当主様より命じられたのではないんです」
「ん? どういう意味だ?」
シルフィアは一度息を整えるようにしてから続けた。
「最初は私と数人が、ご当主様よりあの集団を調べるよう命じられました。ですが、しばらくすると分家の方から命じられた者たちと合流することになったんです」
「ふむ」
最初から一緒だったわけじゃないのか。
俺は昨日見た追手の姿を思い返す。
「その最初に命じられた者は、その裏切った奴らの中にいたか?」
シルフィアはすぐには答えなかった。
眉を寄せ、昨日の顔を一人ずつ思い出しているように少し黙る。
やがて、はっきり首を振った。
「いえ、いません」
「ふーん」
なら話は少し変わる。
「つまり、後から合流した分家の奴らに襲われたんだな」
「ですが」
シルフィアがすぐに言葉を返した。
「分家ではありますが、ルディア家に連なる方から命じられた者たちです。そう簡単に裏切るとは……」
「まぁ、そうだよな。分家とはいえ貴族は貴族だしなぁ」
「はい」
俺は椅子の背へ身体を預けた。
昨日までなら、襲ってきたなら裏切り者なんだろう、くらいで終わっていた。
だが、今聞いた話だと少し妙だ。
この世界で貴族を裏切るのは、命懸けなんて生易しいものじゃない。
平民と貴族では力が違いすぎる。
裏切った本人を殺して終わり、なんて優しい貴族ばかりなら楽なんだろうが、そんな話は聞いたことがない。族滅程度で済むならまだマシで、下手をすれば関わった村や町ごと潰される。
にっこり笑って許してくれる貴族なんて、少なくとも俺は知らん。
それを分かっていて、後から合流した平民たちが勝手に貴族を裏切るか?
しかも、自分たちを送り出した分家の人間まで巻き込むような真似を。
俺はしばらく考えてから、シルフィアを見る。
「ふむ」
「なんですか?」
「なら、裏切ってないんじゃないか?」
シルフィアがきょとんとした。
次回更新は、17時となります。




