第百八十八話 楽しい実験
うーむ。
今になって試してみたいことが次々と浮かんでくる。
まぁいい。
どうせそのうち戻ってくるだろうし、上手くいかなくても構わない。失敗するなら、それはそれで貴重な結果だ。
そう考えたところで、俺のすぐ近くに立っている馬が目に入った。
……こいつで試せないか?
俺は手綱を握ったまま、先ほどと同じように魔力を柔らかくする。
細く、小さく。
そのまま馬へ向けて伸ばし、シルフィアやセバスチャンへやった時と同じように繋げるイメージを作ってみる。
だが、手応えがない。
もう少し細く。
角度を変えるような感覚でもう一度。
それでも駄目だった。
「……ダメか」
馬が何事もなかったように鼻を鳴らす。
うーむ。
これで少し分かった気がする。
俺は相手の肉体そのものへ魔力を繋いでいるわけじゃないのかもしれない。
シルフィアには出来た。
セバスチャンにも出来た。
だが、馬には出来ない。
なら、繋げているのは肉体じゃなくて、相手の魔力なんじゃないか?
たぶんだが。
そう考えると、また別の疑問が浮かんできた。
もし魔力に繋げているのだとしたら、その相手が魔法を使った時はどうなる?
魔力の動きまで分かるのか。
それとも、今みたいに位置しか分からないのか。
魔法を使った瞬間だけ何か変わるのか。
それとも何も変わらないのか。
「うーん……面白いぞ、これ」
思ったより試したいことが多い。
城に戻ったらオルフィアにも教えてやろう。
元々このやり方を考えたのはあいつだし、俺がこうして使ってみて分かったことを話せば、嬉々として色々試すだろう。
問題は実験台だな。
……セバスチャンとジルベッドでいいか。
二人いた方が、同時に試したり違いを比べたり出来る。
オルフィアも喜ぶだろう。
たぶん二人は喜ばないだろうが、それは別にいい。
そんなことを考えながら、俺はシルフィアとセバスチャンへ繋いだ感知を維持し続けた。
気づけば、結構な時間が経っている。
シルフィアは先ほどから忙しなく動いていた。
進んだと思ったら曲がる。
しばらくすると止まり、また進む。
時々、来た方向へ少し戻っているようにも感じる。
うん。
ちゃんと分かるな。
「ふーん……」
警戒しているのかな?
秘密にしている相手に会いに来ているんだから、周囲を確認しながら動いていてもおかしくはない。
……まさか迷子になってるわけじゃないよなぁ。
あれだけ自信満々に宿場町へ向かったんだから、それはないと思いたい。
一方、セバスチャンの反応も少しずつシルフィアへ近づいていた。
もうそこそこ近いな。
そこでふと、二人へ伸ばしている感知へ意識を向ける。
近くにいても、別にこんがらがる感じはない。
俺の中では二人ともちゃんと別々に分かる。
「なんでだ?」
繋げている魔力が近づいたら、なんとなく干渉しそうな気もするんだが。
実際はそうでもないらしい。
これも試してみないといかんな。
もっと近づいたらどうなる。
二人がすれ違ったら。
複数の反応が重なるくらい近くなったら、それでも別々に追えるのか。
もし交差するような位置関係になっても干渉しないなら、この使い方はかなり便利だ。
「あっ」
シルフィアが止まった。
少し遅れて、セバスチャンも止まる。
しかも二人の反応はかなり近い。
「この地点になんかあるのかな」
だが、それは感知しているだけでは分からない。
人がいるのか。
建物があるのか。
シルフィアが誰かと会っているのか。
そこまでは見ないと無理だ。
ただ、とりあえずシルフィアは迷子ではなかったようだな。
そのまま二人の反応を追ってみる。
シルフィアは少しずつ位置が変わっている。
大きく移動しているわけではないが、同じ場所でちょこちょこと動いているのは分かる。
それに対して、セバスチャンはほとんど動かない。
「つまらんなぁ」
もっと動けよ。
実験にならんだろ。
せっかく俺がこうして追っているのに、ずっと同じ場所にいられたら分かるものも分からん。
「まったく、これだから年寄りは。動け、くそジジイ」
もちろん声は届かない。
しばらく待ってみても状況はほとんど変わらなかった。
シルフィアは相変わらず同じ辺りで少しずつ動き、セバスチャンはほぼそのまま。
うーん。
つまらん。
俺も行こうかなぁ。
二人の位置は分かっている。
少し離れたところから隠れて見れば、シルフィアにもバレないんじゃないか。
別に邪魔するわけじゃないしな。
そろそろ行ってみるか。
そう思った、その時だった。
シルフィアの反応が突然、大きく動いた。
「ん?」
止まっていたセバスチャンも、それに合わせるように動き始める。
二人とも速い。
さっきまでとは明らかに違う。
しかも、ほとんど真っ直ぐこっちへ近づいてきていた。
次回更新は、20時となります。




