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魔力が強いやつがモテる世界に生まれ変わったのでモテる為にがんばります  作者: 伊右衛門


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第百八十六話 大人しく待ってる


 街道の先に、宿場町の屋根が見え始めた。


 遠くからでも、人の出入りが多いのが分かる。街道を行き交う荷車の数も少しずつ増え、徒歩の旅人や、荷を背負った平民の姿もちらほらと目につくようになっていた。


 さすがに、このまま町まで入るのはまずいだろう。


 俺は手綱を引いて馬の速度を落とした。


「ほら、着いたぞ」


 前に乗せていたシルフィアの身体を支え、そのまま地面へ降ろしてやる。


 昨日から何度も嫌がられている気はするが、ここまで連れてきてやったんだから十分親切だろう。それに、このまま俺の前に抱えられた格好で宿場町に入るのは、さすがにシルフィアも恥ずかしいだろうからな。


 地面へ足をつけたシルフィアが、ほっとしたように俺から距離を取る。


 俺は鞍の上から胸を張った。


「どうだ、俺は優しくて常識人だろ」


 ちゃんと町の手前で降ろしてやった。


 我ながら素晴らしい気遣いだと思う。


 ところがシルフィアは俺を見ず、なぜか隣の馬に乗っているセバスチャンへ顔を向けた。


「本気なんでしょうか?」


「本人は真面目ですぜ、本人は」


「なるほど」


 シルフィアが大きく頷いた。


 なんでだ?


 俺に聞けばいいだろう。


 そもそも、何に納得したんだ。


 納得したわりには、シルフィアの顔が妙に疲れて見える。さっきまで馬上で騒いでいたからだろうか。


 シルフィアは外套の裾を引き、少し乱れていた服を手早く整えた。それから宿場町の方を一度見て、こちらへ向き直る。


「あの、他領の方にあまり軽々しく見せるわけにもいかないので、ここで大人しく、くれぐれも大人しく待っていてくれませんか?」


 念を押すように、二回も大人しくと言われた。


 なるほど。


 シルフィアはあの妙な連中を調べるために動いていたわけだし、今から会いに行く相手も、その関係なんだろう。他領の人間である俺たちに軽々しく見せたくないというのは分からなくもない。


 ある種の秘密行動だもんな。


 気持ちは分かる。


「ああ、いいぞ。適当に過ごしてる」


「いえ、適当ではなく大人しくしていてください」


「ん?」


 何が違うんだ。


 適当に時間を潰していれば、結果的に大人しく待つことになると思うんだが。


 だが、シルフィアは妙に真剣な顔をしている。


「ああ、分かった。大丈夫だ、安心しろ。大人しく待ってる」


 俺が頷くと、シルフィアはまだ何か言いたそうに口を開きかけた。


 しかし結局俺には言わず、またセバスチャンの方を向く。


「あの、くれぐれもよろしくお願いします」


 しかも頭まで下げた。


「まぁ、少しぐらいなら大丈夫でしょう。おそらくですがね」


 セバスチャンは笑っている。


 おそらくってなんだ。


 俺が何かするみたいじゃないか。


 シルフィアもそこを突っ込むかと思ったが、むしろ少し安心したように見えた。


「急いで済ませてきます」


 そう言い残すと、シルフィアは宿場町へ向かって歩き出した。


 いや、歩くというよりほとんど小走りだ。


「気をつけてなぁ」


 背中へ声をかける。


 だが、振り向きもしない。


 そのままどんどん離れていく。


 なぜだろう。


 なんか俺、嫌われるようなことしたっけ?


 ずっと優しくしてるんだが。


 遠ざかっていくシルフィアの背中を眺めているうちに、ふと別のことが頭に浮かんだ。


 そういえば、ちょうどいいんじゃないか?


 オルフィアから教えてもらった、感知されにくい感知魔法。


 覚えてから試してはいるが、こうして実際に離れていく相手を追う機会はそう多くない。しかもシルフィアは今から宿場町の中へ入っていく。


 実際に使ったら、どのくらい追えるんだろう。


 さすがにシルフィアの魔力反応までは覚えていない。


 だが、まだ姿は見えている。


 目で見えている今なら、あそこにある魔力反応がシルフィアのものだと分かる。


 なら、そのまま追えばいい。


 俺は鞍の上で姿勢を楽にしたまま、意識だけを内側へ向けた。


 まず、魔力を柔らかくする。


 力を抜くように、広がろうとする魔力を押さえつけるのではなく、柔らかく扱う。


 そこから細く、小さく。


 オルフィアに教わった時には、この感覚を掴むのに少し苦労した。だが、一度出来るようになってしまえば、同じ形を作ること自体はもう難しくない。


 細く。


 もっと細く。


 必要な分だけ残して、それを感知魔法として働かせる。


 そして、その細く小さくした魔力を、まだ見えているシルフィアへ結ぶように伸ばしてみた。


「若様?」


 隣から声がした。


 俺が急に黙ったからだろう。


「ちょっと待て。後でお前にも説明する」


「……へい」


 セバスチャンが静かになる。


 やはり、こいつも俺が何かしているとは思ったらしい。


 だが、感知魔法を使っていることそのものには気づいていないようだ。


 細くした魔力を、ゆっくりとシルフィアへ届かせる。


 急がない。


 そっと。


 触れた。


 その瞬間、シルフィアの動きが変わるかと思ったが、遠ざかる背中はそのままだった。足を止めることも、こちらを振り返ることもない。


 ふむ。


 本人も気づいてないみたいだな。


 俺はそのまま感知を維持する。


 視線を外しても、シルフィアの魔力反応がどの辺りにあるのかは分かる。少しずつ遠ざかっているのも、そのまま追えていた。


 まだ全方位にどれほど展開出来るかは試していない。


 だが、これはかなり使えるんじゃないか?


 少なくとも今のところ、シルフィアの動きはきちんと追えている。

少し長くなったので本日の更新は5時、12時、17時、20時の四回更新となります。

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